329 家族に会いに行く ②
ライトサイド派第3席だと。英雄クラスじゃないか!
私は木っ端だよ。精々小隊長程度のケモナーだ。格上過ぎる。
それを理解した瞬間、私のモフモフ力が急激に委縮する。
「どうしたんですか姫様。そんな借りてきた猫みたいに大人しくなってますよ」
「行き成り王族に遭遇する平民みたいな感じだよ。格が違い過ぎるよ」
強すぎる。私は野心溢れるダークサイド派のケモナーだ。しかし、格が違い過ぎる。私はこんな領域にたどり着く事が出来るのだろうか?
絶対に到達してみせると言う意思が思いがひび割れる。
「それ姫様が王都で何時もやってる事ですよね? 今じゃ普通に片手上げて挨拶されてるじゃないですか。逆ですよ逆」
「そんな事よりその潤いの秘密を教えるのじゃ娘よ。母に隠し事をする気かえ?」
「い、いえ母様。あのちょっと落ち着いて」
「落ち着いていられる物か! その増えた尻尾の事も今は如何でも良い。まずは潤いの事を話すのじゃ! 」
ガクガクとアリシアさんの肩を揺らすお母さん。アリシアさんが凄い困惑している。
「取り敢えず家の前で騒ぐのは止そうではないかクォン」
お母さんの名前はクォンと言うみたい……ん、クォン……
九尾の獣人でその名前ってもしかして……
「ほぉ、名前だけで気が付いたのかえ。妾の名など、とうの昔に歴史に埋没したかと思ってたのう。
国も守れず、多くの同胞に苦難の道を進ませる事になった愚か者よ」
「めっちゃ有名なんだけど」
未だに信望してる獣人居るし、獣人にとっては英雄だよ。
九尾の妖狐族のクォンって獣の園と言う獣人国家最後の女王の名前じゃん!
獣人唯一の国家の女王だよ。獣人族の誇りだよ。悲劇の女王だよ。
その昔、アーランド王国が建国される前、人魔大戦の後に滅んだ国。獣の園。
実態は獣人部族の連合国家であり、当時の獣人は国家に纏まってはいたが、各氏族・分族の隔たりが強く纏まりきれなかった国だ。
因みに獣人の分類だが。
獣人は獣の特性を持った人類。
氏族は、例えば犬族や猫族等の特徴的に別けた物。
分族は犬族に例えるなら丸犬族や狼族に牙狼族の様に、氏族から更に別けた物だ。
簡単に言うと獣人は国家を作る事は出来たが、纏まる事が出来なかったのだ。彼等は人魔大戦のその後に普人至上主義を掲げた国々に滅ぼされた。
割と感動物の話だ。最後の女王は幾度も敗北しながら戦い続け、獣人の為に戦った。国が纏まる事が出来ずに、やむなく自身の分族である妖狐族を率いての最後の決戦は敗北。
結果、獣人最強と呼ばれた妖狐族はこの世界から消えた。
妖狐族は獣人の中でも高い身体能力と魔法適正に長寿の一族だ。しかもエルフ程子供が生まれにくいという訳じゃ無い。殆どの種族の良い所取りの種族である。つまり最強種の一角であった。
但し、混血化すると、その特性の殆どが消失してしまう種族でもある。生き残った僅かな妖狐族では種族を維持出来なかったのだ。
「アリシアさんって妖狐族とエルフのハーフだったんだ」
「私も風変りな狐族だと思ってましたよ。母様の尻尾の事も知りませんでしたし」
「妾が妖狐族と言うのは何度か教えたのじゃがのう」
「普通信じませんよ。とっくの昔に滅んでる種族ですよ」
「妖狐族は尻尾の数で寿命が変わるからの。妾は純血ぞ。他の者はもう生きてはおらんじゃろうがな。
九尾の妖狐は歴史上妾ただ1人で寿命がどの程度なのかも分からんし。4尾は700年程生きたと聞く」
一本の尻尾で200年から250年くらいの寿命が有るらしい。
「まあ、昔話はしんみりするのでのう。そんな事は後でも良い。まずは潤いの話よ。早う、早う」
「説明も何も、姫様の作る魔法の櫛の効果ですよ」
「母を謀るでない。妾も、あの素晴らしき神具を使いに獣人領を何度か訪れたし、使ったのじゃぞ。しかし、ここまでの効果は無い」
ああ、だからか。獣人に解放したのは既に型落ち品だ。効果は安定してるし、満足の行く物だが、現在私の腰のホルスターに入ってる最新型には劣る。
因みに旧式の魔法の櫛は私より大きい魔晶石に接続されて、その中の魔力を用いて稼働しているが、最新型はそれだと魔力が足りない。と言うか、王都の魔導炉を全部動かしても起動出来ないくらいの大飯食らいだ。
なので、獣人達に渡してる奴以降のロットは渡しても動かせない。
公開してるのは精々5000番台の物だ。それ以降は7000までが都市レベルの魔導炉が必要で、それ以降は虚無機関が無いと無理。
魔法の櫛は日々進化しているのだ。伊達に一番の人員と資金を使っている訳じゃ無い。
え、無駄使いだって? 私のライフワークだよ。いずれ人類の恒久平和に使用される予定だ。早く全員ケモナーになってしまえ。無駄な抵抗だぞ。
「それは古い型式の物ですから。最新の物は動力の問題で姫様の占有品です。
私はそれの実験で使ってますので……」
「なん……じゃと……あの神具が型落ちじゃと!? 」
その瞬間、私にケモナー同士を繋ぐテレパシーが届いた。
――嬢ちゃん、ソイツを貰おうか――
私は返事を返す。相手はアリシアさんのお父さんのヨスケさんだ。
――HAHAHA寝言は寝て言う物だ。私が代わりにモフっても良いんだよ? ――
――抜かせ! ――
これは死んでも手放さないぞ。松永弾正の様に一緒に爆死する覚悟だ。
私とヨスケさんはバチバチと視線を合わせながら火花を鳴らす。如何に上位者だとしても、私は負けない!
暫く火花を散らしていると、ヨスケさんがクォンさんに頭を叩かれる。
「これ、子供相手に大人げないぞ」
「これは大人子供の話ではないのだぞ。ケモナーとしての誇りの話だ。我妻をモフって良いのは私だけだ」
「それを大人げないと言うのじゃ」
「いや待てよ。その櫛が同志の作品だと言うのならば……まさかアリシア、お前は……」
「毎日姫様にブラッシングされてますよ? 」
「なん……だと。ならば――」
何故かヨスケさんが私を見る。
暫く謎の視線を向けられる。
「婿よ。娘を頼む。同性同士では何かと苦労も有るだろうが、私は応援するぞ」
何故かがっしりと手を掴まれた。そしてアリシアさんが叩き落とす。
「何寝言言ってるんですか! 王国中が反対しますよ。いえ、私は姫様が求めるなら一向に構いませんけどね。
でも、それとこれは別の問題です。只でさえ王族が少ないのに2人しか居ない王女様が同性婚なんて認められる訳が無いじゃないですか! 」
「何だと! ではそういう関係ではないのか! まさか、まさか尻尾だけの関係だと言うのか?
許さん。流石にそれはお父さん許さんぞ! 」
? 何言ってんだこの人。と言うか、尻尾だけの関係とか如何いう意味なんだろう。
私の知らない言葉だ。
「姫様は知る必要はありません」
アリシアさんが言うならそうなのだろう。
少し離れた場所でアリシアさんとヨスケさんがゴニョゴニョと話している。目の前で秘密話は気になるぞ。
「コホン。どうやら早とちりしてしまった様だ。申し訳ない」
「別に構わないけど」
「そんな事より、父様って和の国出身ですよね? その件で話が有るんです」
「思い出したくも無い過去なのだが……
アリシアは知っているだろうが、私はとある一族の出身でな。逃げた身なのだ」
「その一族滅んだよ」
「……は? それは一体……」
苦虫を噛んだ様な表情から一転。何を言ってるのか分からないという表情に変わるヨスケさん。
私達はヨスケさんの一族が地震を原因とした津波で集落ごと壊滅した事を告げた。
「そうか……里は皆は滅んだのか。
あれ程憎んだのにな……何故だ、捨てた筈なのに……」
ヨスケさんは俯いて涙を流す。
捨て去ったとは言え、そこには家族や友人が居たのだ。その思いまで捨てきれなかったのだろう。
「お主……」
「すまない。お前と一緒に生きると捨て去った筈なのにな。何故か昔の思い出ばかりが浮かぶのだ。
そうか、お前がずっと感じていた孤独はこういう事だったのか……そうか、済まない。今まで理解できなかった」
「良いのじゃよ。妾はとうの昔に感じた思いじゃ。今更よ」
クォンさんがヨスケさんを抱きしめた。
暫く2人で泣きながら抱きしめあったが、漸く落ち着いた様だ。未だに目が真っ赤だが、取り敢えず落ち着いたので先に進もう。
「ヨスケさんはヤマタノオロチの封印の一族出身で間違いないんだよね? 」
「如何にも。我が銀エルフ族はヤマタノオロチを封じてきた一族だ。
そうか、一族が滅んだという事は私が必要になったという事か」
間違った決意をさせてしまった。慌てて否定する。アーランド王国は仲間を差し出す様な真似は絶対にしない。
「ヤマタノオロチなら私が出荷したから、一族の務めは必要ないよ」
「ハア! 出荷? 如何言う事だ」
「和の国がうちのアリシアさんを生贄にするから寄越せって言ってきたから原因を出荷した。だからもう生贄は必要ない」
「無様に出荷されてましたよ。一切の抵抗も姫様は許しませんでした。
いくら怪物でも、あの末路は憐れみを持ちます」
「では、ヤマタノオロチは滅びたと? 」
「いや、滅びてはいない。どうにもコアが破壊出来ない謎物質で出来てるからね。現在解放不可能の場所に封印しようと運んでる途中」
私の方でも改めて調査したんだけど、やはり解析不能だった。
但し、碌でもない技術が使われている気がする。
コアが汚染されていたのだ。既に幾多の時が流れ、残骸となっていたが、アレは間違いなく憎悪の呪いだ。
恐らくコアの生成に人の何かを大量に使われているのだろう。つまり、解析する価値も無い。そんな物騒な技術は不要だ。
「やはりアレは滅ぼせない怪物なのか……」
「いや、時間は掛かるけど、何時かは滅びるよ。森羅万象滅ぼせない物等存在しない」
神だって悪魔王だって殺せる。精霊王だって死んだのだ。永久不滅の存在など幻想に過ぎない。
実際女神か悪魔王が敵対する可能性から、私は神殺しの禁術を開発中だ。邪神にもある程度の効果が有るだろうしね。
ヤマタノオロチと、その技術を転用して改造された人間の不死性にも欠点が有るのが判明している。
破壊と再生を繰り返すと、細胞が崩壊する危険性が有るのだ。しかも、それらの回数は個体差が大きすぎて判別不能。
1回死ぬだけで再生できない可能性も有るし、100万回殺す必要が有る者も居るだろう。不安定な不老不死技術だ。それ以外にも多くの欠陥がある。これが古代魔法王朝でも研究停止を決定する訳だ。
因みに私は不老不死に近い事が可能だ。肉体の完璧なクローニングと、記憶と人格のデータ化とコピー。そして、それを肉体に転写する技術は前世で作ってる。
後は魂の捕縛と定着の魔法が有れば疑似転生による疑似的な不老不死が可能だろう。
最も魂の劣化の問題も有るので、完全な不老不死は不可能だ。精々3000年程度だろう。魂に負荷が掛かれば、掛かるだけ短くなるだろうけどね。
でも、その技術は王国に渡す気はないよ。
エイボンは蘇生させるが、それで終わりだ。エイボンには使い道が有るから、私の道理を曲げる。でも曲げるのは一度だけ。それ以上は歯止めが利かなくなる。
エイボンは一応この世界に残っているという点も考慮した結果なのだ。この世界の法則的には肉体的に死んでるだけで、一応存在が出来ている。
それに、奴は来たる大戦の戦力としても役に立つだろう。だから肉体の蘇生には協力する。そして大戦と邪神戦に協力させる。
大戦自体は如何でも良い。この世界のテクノロジー程度なら数がどれほど居ても脅威じゃない。でも邪神相手だと、私も若干不利なのだ。数が違い過ぎる。道理を捻じ曲げてでも戦力を確保しなければならないのだ。
話が逸れたね。
「ヤマタノオロチは太陽に封印する事が決定した。奴の能力じゃ太陽の重力から逃れるのは不可能だし、太陽の熱を防ぐ事も不可能。
肉体の破壊と再生を繰り返し、いずれは崩壊すると予想される。それに、太陽に封印したヤマタノオロチを人類が手を出す事は不可能。もう解放される事は無い」
封印の面倒な所は管理と維持だ。
どっちも行わないと、いずれ復活する。
更に面倒なのが将来だ。今封印できるのは良い。でも将来ヤマタノオロチを使役出来ると馬鹿な事を考える奴が出るかも知れない。それが可能ならば良い。でも唯の増長だったら? しかも、それを考えた奴が封印に干渉できる立場の人間だったら?
危険だ。だから私は奴をアーランド王国でも手の届かない所に封じ込める。これで終わりだ。
「そうか。一族を代表して貴女に感謝を。これまで失われてきた者達も喜ぶだろう」
「気にしなくても良いよ。邪魔だから排除しただけだし」
別に強力な封印を再度施すと言う選択肢も有った。でもアリシアさんを外交カードにする気はないし、させる気も無い。
私はヤマタノオロチに対して思う事は唯一つ。邪魔だ。それだけなのだ。
人のメイドを生贄になんかさせないよ。いや、王国民なら誰でも生贄にはさせない。
「湿っぽい話はこれで終わりだね。
私からは他にクォンさんの事が気になるんだけど」
既に亡国とは言え、王族がアーランドに居るのだ。知らないなら問題ないが、知ってしまった以上は問題だ。
どうしよう……私は内心頭を抱えているのだ。
と言うか、何でクォンさん和の国に居たのよ?
「うむ、妾の事か。
まあ、妾は獣の園が滅んだ後は流浪しての。ホラ、この美貌じゃろ? 多くの国の権力者を誘惑して妾の国を滅ぼした国々に嗾けようとしたのじゃが、どうにも上手くいかぬ。
妾を知る者も多かったからのう。中々思うようには行かず、当時から大陸との交流の薄い和の国に向かったのじゃ」
元々大陸国家と何かと争っていた和の国だ。だから上手く嗾ける事が可能だと思ったらしい。
実際時の帝の寵愛を得て、ある程度誘導出来そうな地位に昇り詰める事に成功した。
しかし、当時の権力者達はクォンさんの野望を見抜いた。
彼等はクォンさんを討伐しようと軍を出す。しかし殺せど殺せどクォンさんは蘇る。
妖狐族は尻尾の数だけ殺さなければ完全には死なないし、クォンさんは女王ではあるが、当時の獣人は武闘派だ。その女王であるクォンさんもそこそこの強さと狡猾さを持っていた。
8回までなら殺されても問題ない。だから、8回殺される前に逃げる。
蘇生すると、尻尾が力を失うが、一定時間で回復するので、回復を待って活動を再開するを繰り返した。
「妾の不死性の秘密を連中は気が付かぬ。そこで驕ってしまったのじゃろうな。あっさり罠にハメられてしもうた」
和の国の術者達は妖狐族の秘密を知らなかったし、気が付かなかった。
だが、彼等は不死の怪物を封じ込める秘術を持っていた。
殺せないなら封じ込めてしまえと、総力を挙げて封印された挙句に、封印場所が目立たない様に、上に岩まで置かれたそうだ。
クォンさんはそれなりに強いが、ヤマタノオロチ程の化け物じゃない。封印の維持も生贄を使う程じゃなかった。
しかし、この後、和の国が内政を原因に荒れてしまう。結果、クォンさんの封印も忘却の彼方へと消えた。いや、封印した事は知っていたが、何処に封印したのか分からなくなったのだ。
時は流れ、今から40年程前に、封印の岩を偶然ヨスケさんが破壊し、その破片が札も破壊して彼女は解放された。
その場で戦闘になったが、気が付いたら意気投合。クォンさんも今更復讐する気も無くなってしまい、その場で結婚する事になったそうだ。展開が早すぎる。何で殺し合いから愛し合ってるんだろう。私には理解出来ない世界だ。
しかし、問題はヨスケさんの方にも有った。彼は生贄に選ばれてしまったのだ。
元々生贄を行う自分の一族を嫌悪していたヨスケさんは逃亡を決断。クォンさんを連れて大陸へと逃走したのだ。
その後、大陸では普人以外の種族が行きるのは極めて難しいと理解し、種族差別の無いアーランドへ移住の為に移動中にアリシアさんが誕生。
しかし、一瞬の隙を突かれてアリシアさんは誘拐された。
出来る限りの手段で探したが、獣人とエルフと言う珍しいハーフ。しかも本来金髪なのに銀髪のアリシアさんは珍しく、他の場所に速攻で持ち去られてしまった。
同時期にクォンさんは娘を奪われたショックと旅の疲労で病に掛かる。これ以上は命に関わると、ヨスケさんはアーランドへ向かう事を決断したそうだ。
無事アーランドに移住し、生活も出来るようになるとクォンさんも病から立ち直り、さてまた娘を探しに行くかと準備を始めた。
そしたら成長したアリシアさんが王都を普通に歩いていてビックリ仰天したらしい。
「私もビックリしました」
アリシアさんも両親がアーランドに向かっていた事は知っていたので、もしかしたらと探していたらしい。
「私は心臓が止まるかと思ったぞ。離れた時は幼かったが、一目で自分達の娘だと分かった」
「所で何で岩を壊したの? 」
「若気の至りだな」
「コヤツ、自分より大きい岩を見ると奇声を上げて殴り砕くのじゃ。アレはもう病気じゃな」
「……昔、岩から落ちて大怪我をした事が有ってな。それ以降大岩を見ると砕きたくなるのだ」
クォンさんはヨスケさんの一族の集落の近くに封印されていたそうだ。本来なら管理も一族に任せるつもりだったのかは最早不明だ。
ヨスケさんは森の採集が上手くいかず、普段行かない奥まで来て大岩に遭遇してビックリして砕いたそうだ。
「成程、そんな事が有ったんだ。所でクォンさん。一つ聞きたいことが有るんだけど」
「何じゃ? 」
「妖狐族の尻尾って後天的に増えるの? 」
「無いの。尻尾の数は生まれた時に決まる事じゃ。妾は女王として妖狐族の歴史も網羅しておるが、過去にもその様な事例は無い。
寧ろ娘よ、何故尻尾が増えておるのじゃ? 」
「え、今更ですか? 」




