29 蹂躙する決闘 3
まだ回線復旧してませんが何とか更新できました。
ダスク・オルトワーズ視点
俺の名前はダスク・オルトワーズだ。オルトワーズ家は帝国の子爵家で400年の歴史を持つ名家だ。俺はそこの次男に生まれた。
オルトワーズは武と魔法の名門として帝国に数ある子爵家の中でも頭一つ出ている家で帝国内に幾つもの道場を持ち資金力も高い。だがオルトワーズ家ではここ二代魔法使いが生まれず兄や俺が魔法の素質を持って生まれた時は一族総出で祝ったらしい。だが俺には魔法の素質はあっても放出系の魔法は使えなかった。精々武器や体に魔力を流して強化する事が出来るくらいだが、兄はそれすらまともに出来ない程魔力が少ない。
兎に角、俺が魔法使いと呼べるだけの資質が無いと分かると家族は皆俺に対する関心を失った。俺は一人剣を振り魔法剣術で皆を見返し俺の存在を認めさせようとしたんだが俺は魔法剣術の才能が高すぎた。同世代で俺に勝てる者は無く、道場で俺と鍛錬する同世代は居なかった。
だからだろうか、俺は家族に邪魔者扱いされた。俺は家の継承権に支障を出すと陰で言われ始めたんだ。当然、兄より優れた俺が次ぐべきだろう。何故なら兄はそれほど体が強くないし魔法も辛うじて使える程度で魔力も今の俺の半分程度しか持っていない。そんな兄に家を継がせてどうするのか俺には理解出来ないし医者にも兄は長生き出来ないと言われているんだから大人しく俺に継がせるべきだろう。
だが、家族はそれでも俺を認めなかった。道場も魔法使いである兄が継げば維持は師範がするから何も問題ない。お前は留学しろ。それが家族の判断だ、俺は邪魔者としてこんな学園に送られた。
だが俺は諦めない。俺は天才だ。この歳で魔法剣術の師範に劣らない剣術と魔装と呼ばれる魔法すら体得したんだ。
魔装は自分の魔力で武装する高等技術で放出系に分類されるのに俺のような体質でも使える数少ない魔法でこれを使えば【身体強化】より高度な身体能力の強化に魔法に対する耐性の強化等が掛かるんだが魔力の消費が激しく、全力で5分程度しか持たない。
俺は両親に逆らわなかった。どうせ俺より弱い連中だ、俺は留学しそこで人脈を作り親や兄を蹴落として子爵家の当主になれば良い。今はひたすら耐えて、実力と人脈の成熟に努めればいいだけだ。
そして俺はギーシュ・フルールと出会った。奴の身た目は伯爵家の嫡男と言うより王子風の奴だが剣の実力だけで入学早々に特進クラスに入った。
特進クラスは成績優秀で将来性の高い生徒により高度な教育を施すクラスでここに選ばれるだけで将来はそれなりの地位につけるとまで言われている。当然俺も選ばれるだろうが原則3年以上在籍した生徒が専攻対象なので入学1年目の俺はまだ選ばれていないが、奴はそれを覆した。俺でさえ選ばれてないのにギーシュみたいな田舎者が選ばれる等、何かの間違いだと俺はギーシュに決闘を仕掛けた。
決闘は何でも賭けれる。地位・名誉・女等、何処の国でも共通のルールだ。だが奴は何も要求せず、俺を返り討ちにした。俺は同年代に負けたことが無い。所詮は井の中の蛙で調子に乗ってるのだろうと思ったが、奴は衣服に傷を付ける処か汗すら掻かずに俺を圧倒した。当然魔装も使ったが奴は魔力すら使ってなかった。俺は…奴に完敗したのだ。
それ以降、俺は多くを失った。帝国は実力主義だ。負けた俺は苦労して親交を深めた帝国貴族の子弟達に見下された。
奴が憎い、俺は負けたのは何かの間違いの筈だが残ったコネを使い奴を徹底的に調べたが家柄は普通…と言うかアーランド内ではそこまで有名な家では無いらしく情報は少ない。だが妹が居る事は分かった。
ギーシュは妹を大事にしているのは直ぐに分かった。普段は無表情な事が多い奴だが妹の事を話してる時だけ笑ってるからだ。
曰く妹は学問に置いて自分を上回る。
曰く妹は魔法に関して天才的で魔道具作りも天才的である。
曰く無欲で爵位や金に執着しない。
一体何処の聖職者だ?…いや聖職者はそこまで清い性格をしていない。奴らはもっと傲慢だからな。
話が逸れたが変わった奴だと言うのが分かった。そして俺がそいつを奪い取ればギーシュは一体どんな顔をするんだろうな…ギーシュの妹を奪い、奴を俺の前に跪かせてみせる。想像するだけで最高だな。
だがアイツの妹は俺の想像を遥かに上回った。見たことも無い馬車を自作しそれに乗ってこの国に来た。
貴族なら、馬車に乗る人間なら誰もが辟易する乗り心地の悪さも馬車を浮遊させれば何も問題は無い。だがそれをどれだけ多くの人間が考えたと思うのだろうか、多くの人間がそれを望みながらも完成しなかった物だ。余り魔道具には詳しくないが浮遊だけなら難しくは無い、だがそれを安定させるのは遥かに難しい、かつ魔晶石は魔玉を加工すれば出来るが魔晶石には魔力を生み出せず、魔玉はその制御の難しさから魔道具化は難しい。つまり魔玉を使った浮遊馬車は多くの人間の夢見た魔道具でもあるわけだ。当然帝国には存在しない。
そんな物を生み出せるのはアーランドの聖女くらいかと思ったが聖女を気取る王女は滅多に表に出ず魔法が優れている位しか伝わって無い。後王女なら目を見れば刻印が有るので誰でも気が付くしあれは魔法で消せないらしいから別人だろう。
また話が逸れたがアイツの妹は結果として国王の要請を蹴った。あれは誰だって欲しがるだろう。うちの実家も何処で聞きつけたか知らんがソニックバードで手紙を送って来た。兎に角、国王が所望した物を渡せないと言うだけでも不敬に当たるし渡せないなら他国に持って来る事もない筈だ、つまりアイツの妹は見せびらかしに来たのだろう。自分の実力を技術を。
許せない。俺はアイツの妹に決闘を仕掛けた。田舎の蛮族の癖にアイツの妹は世界を馬鹿にしてる。取るに足らない相手だと見下してるに違いない。
結果は俺の勝ち。
確かに変わった奴だった。魔法陣を出すと無詠唱で魔法を使ったり、俺の魔法をマネして魔法使いの分際で魔法剣士の俺に至近戦を挑んで来た。だが技術が体力が力が足りない。所詮魔法使い等その程度なのだ。確かに距離を取られれば俺も分が悪いが決闘するのにそこまで距離は取れない。なので純粋な力で俺が勝った。
「ふははは‼所詮魔法使いなんぞこの程度だ‼」
俺は倒れたまま動かないアイツの妹に近づくと髪を掴み持ち上げる…恐ろしい程軽いな、俺でも片手で持ち上がる。
病弱とまではいかないが細すぎないか?
「貴様は今日から俺の奴隷だ」
俺は最初からこうするつもりだった。アイツの妹を奴隷に落としアイツに見せつける。貴族の子女とは言え蛮族の国の貴族を奴隷にしようが帝国は何も言わないからアーランドから何か言ってきても何も問題ない。俺はアイツの上に立てればいい。
するとアイツの妹は笑った。その目を見た時に何か感じたが俺はそれが何か分からなかった。
「短いけど幸せな夢はここまで」
そして世界が弾けた。
アリスティア視点
何やらキモイ妄想をしてそうなので予定を早めて起こしました。
現在Aは首から下が地面に埋まってます。魔装?とか言うのは案の定魔力が尽きて霧散しました…面白そうな魔法なので対アリシアさん用に覚えよう。おっとまずは現状確認。
周囲に敵影無し、と言うか取り巻きの人は唾を吐きながら去っていきました。何かAに対して扱いが雑ですが彼等には彼等の関係があるのでしょう。私は魔力が全然減ってません。何というか使っても使っても使いきれない感じですね。でも後で念入りに【ヒール】を掛けないと【フルブースト】が切れた瞬間、私の体の骨が何本か逝くのでさっさとAに土下座させて帰りたいのです。
「起きないのかな…」
何かボ~として反応が無いので落ちてた木の枝で軽くつついてみます…反応が無い。そして誰もつついてる事に対して突っ込みも無い。
「お嬢様?」
「っひ‼」
突如後ろから伸びてきた腕が私の頭を鷲掴みにすると強引に掴んだ人の方に向けられた。立ってたのは当然アリシアさん。多分、今日私は死ぬだろう…
「何か言う事はありますか?」
「私はやはり最強を継ぐ資格を持っている」
冗談を言ってみると私の後頭部がミシミシいってきた。ちょ!持ち上げないで‼
「ふざけてるのですか?やっぱ育て方を間違えましたね。一人前のレディーは決闘もしなければ返り討ちにした上、相手を生き埋めにはしませんよ?貴女は何処までフリーダムなんですか?少しは落ち着き……いえ局部的な短気を治してください」
「アリシアさんを侮辱したのがアーランドの貴族なら貴族籍剥奪まで追い詰めるけど?それに比べたら決闘で負かしても何も問題ないでしょう。どうせ子爵家の次男だし下手したら将来平民でしょ?」
アリシアさんは笑ってる…でも目は笑って無い。寧ろ目が逝ってる。私は【フルブースト】中なので有り余る身体能力でアリシアさんを振りほどくと、フンス‼を胸を張る。ここで引けば私のプライドが傷つく。勝手に私のメイドを侮辱するような人など私が許さない。(アリシアさんに非がある場合はアリシアさんを怒るけど)しかし、ふと気になる事があります。
「何で動けるの?」
「お嬢様が私の事を忘れたので魔法の束縛が緩んだんです。少しでも隙が出来れば自力で脱出できますしお嬢様を放置すれば何が起こるか分かりませんからね。当然決闘も終わりです…まあお嬢様の勝ちですけど」
アリシアさんはしゃがみこんで私に目線を合わせてる。私は胸を張る態勢は変えないけど心なしか体が震えてきます。
このままでは戦意を削がれてしまうので己の闘志?を奮い立たせて気合いを入れますが如何せん箱入りを自覚する軟弱者な私は勝てなかった。
「……謝らないもん…」
「ほほう、自覚はあるが反省はしないと?ご自分が如何に危険な事をしたのか理解してるのですか?一歩間違えば奴隷街道まっしぐらですよ。お嬢様は少し自制や協調等を学んでくださいね?」
ニコニコと良い笑顔で笑ってますがアリシアさんの背後霊はきっとドラゴンでしょう。本格的に体の震えが止まりません。
私は震えてますが、まだ心は折れていない。まだやれます…一週間くらいなら延期しても良いかも知れませんね。
「この子に土下座させるまで絶対に辞めない」
「まだ言いますか。私なら慣れてるので気にしませんよ」
「私は許さない」
ここは変えない拘りだ。と言うか言い争いは後にします。
「さて、大人しく敗北を認めてアリシアさんに土下座しなさい。しないで逃げると言うのも止めませんが最初にご自分が決闘を申し込んだ事を考慮してくださいね。逃げれば馬鹿にされても文句は言えませんから」
今回の決闘は私が挑んだ事になりますがきっかけは彼の方なのは明確なので、ここで逃げれる貴族はそう居ません。決闘を受けた以上約束は守らないといけないのです。実際は法的束縛能力が無いので逃げようと思えば逃げれますが家名に泥を塗る程度じゃすまない程馬鹿にされます。負ける気がすれば受けなきゃ良いだけですからね。
「……俺に何をした?」
どうやら自分の状況を理解出来ていないようでした。確か【ナイトメア】は解除後に混乱や茫然となる事があるのです。
「幻覚を見せただけ。掛かった時点で無防備になるから私の勝ち。それとももっと深く埋まりますか?」
軽く首を傾げる私。
「…そうか、俺はまた負けたのか…すまなかった」
土下座はしませんでしたが謝罪したので良しとしますか。早速魔法を解除し、Aを出す。そろそろ【ヒール】しないと洒落にならない事態が発生します…と言うか既に立ってるだけで動けません。これはアリシアさんに助けを…いけませんね無視したので怒り心頭です。このまま衆人観衆の前でのたうち回るのは本気で回避したい…クート君は…駄目です。動かなくなったサラマンダーの首を銜えて建物の陰に運んでます。本能的になってるので今は私の言葉が通じないでしょう。
「アリシアさんヘルプ。もう限界…やはり体を使うのは適正が無いみたい」
汗が止まりません。体中が痛み出してきました。流石に私の体調がヤバいのが分かったのかアリシアさんも黙って私を抱き上げる……だからお姫様抱っこは嫌いです。やるなら猫掴みの方がまだマシです。
(我慢してください。どうしてここまでなるほど放置したのですか?Mなんですか?)
(治癒魔法は人前じゃ使えないから早く終わらせたかったのにアリシアさんが邪魔したの)
(人のせいにしないでください。魔力は大丈夫ですか?魔法薬なら何個か持ってきてるので最悪はそっちを使います)
(魔力はほぼ全快。何故か全然減らなかった)
謎体質のお蔭か魔力は大丈夫だけど、魔法が使えるか?と聞かれると微妙なのでせっせと作った札で補助してギリギリ使えそうです。
Aは何かワナワナと震えてる。何か目がヤバめですね。と思ったら剣(埋める段階で折ったので刀身の殆どが無い)を持ってこっちに走って来た。
「貴様なんかに!」
嗚呼避けれませんね。しかしアリシアさんが盾になるように背中を向けたので何とかしないと…意識が朦朧とします。私は切られる軌道上にに腕を出してせめてアリシアさんの受ける傷を減らせるようにと試みたのですが剣が私に届く事はありませんでした。
「可愛い妹を余り苛めないで欲しいね」
Aの剣をボロボロに刃こぼれした剣で受け止めた兄様が私の視界に移ったのです。そして私は意識を手放した。
「っちょ‼お嬢⁉しっかりしてください」




