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転生王女の国家大改造 ~無敵な国を作りましょう~  作者: 窮鼠
ヤマタノオロチを出荷せよ
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317 いともたやすく行われる八つ当たり




 遂に帰国の日がやってきた。やってきてしまった。

 武装飛空船の通信機は帰国要請通信で通信手がノイローゼに成りかけている。連絡し過ぎじゃない?

 流石に長居し過ぎてしまった様だ。王国ではこのまま放置すると、私が和の国に移住してしまうと言う声すら出ているらしい。

 安心するが良い。和の国の夏は日本同様湿度が高く地獄の様相だ。定住はしない。私は一定以上の暑さと寒さでは生きていけないのだ。この肉体の脆弱性を甘く見てはいけない。


「貴族や騎士達へのお土産は買ったし、準備は完了だね」


「和の国の外交官の顔が引き攣ってましたが」


 アリシアさんが呟く。なんだよ、ちょっと都中の酒の卸屋の在庫を半分買い占めただけじゃないか。

 取り敢えず全種類のお酒を半分売っておくれと言っただけだよ。割と良い金額だったが、私に払えないレベルじゃない。と言うかお小遣い程度の金額だ。キャッシュで余裕である。

 後は適当に工芸品を買い占めただけである。

 和の国は割と良い物を作るのだが、外交経験が乏しく、営業能力に難が有る。同胞同士、自分達の価値観の通じる相手には取引が上手いが、常識の違う外国人との取引はまだまだだ。だから私が代わりにアーランド貴族に営業してあげよう。

 この国は育てる価値が有る。私の中では同盟国で二番目に重要な国になった。

 ボーキサイトの産出国であり、国家は反中央国家連盟を掲げている。これはアーランド王国と同盟を結ぶ遥か昔からだ。この国は反骨精神の塊でもある。

 だからこそ、気難しい。でも仲よくなれば信用できる国でもある。

 そしてこの国の立地。中央国家連盟は王国同盟に挟まれる事になるのだ。和の国が攻勢に出る必要はない。敵国に挟まれていると言う重圧が有効なのだ。

 オストランドは他の同盟国へのパイプ役なので一番だが、この国はアーランド王国の繁栄に役立つ。多少の手入れはしてあげるよ。


「楽しい外遊でしたよ」


「何よりです」


「貿易の件よろしくお願いします」


「是非とも! 」


 私は和の国の外務大臣のヨシオキさんと握手する。滞在中に大よその貿易交渉は終えていた。

 和の国とアーランド王国双方が得する満足できる成果である。

 ヨシオキ大臣が微笑みを浮かべるのも仕方ないだろう。この交渉だけでアーランド王国と和の国の貿易量は100倍以上に増えるのだ。巨額の金が動く大案件である。そしてこれを呼び水に取引量はトントン拍子に上がっていくだろう。

 お兄様もこの交渉には賛成だったので、王国側も問題ないそうだ。特にボーキサイトとカカオは絶対に手に入れるように私が要請したのも大きい。

 お兄様は私がボーキサイトを血眼で探してる事を知っている。アーランドでは質の低いボーキサイトが少量しか取れないのだ。純度が和の国とは違い過ぎる。

 そしてカカオ。駄目なら王太子殿下と呼ぶと言って脅迫した。チョコレートは甘味の王様なのだ。絶対に手に入れたい。でも王国の気候では育てるのにコストが掛かり過ぎる。帝国が利権を握ってるのが気に入らないので爆撃したら、更に手に入らなくなった物だ。

 まあ、チョコはこれで手に入るから問題ない。

 和の国もヤマタノオロチを出荷したら物凄い友好的になった。但し、ここはアーランドから物凄い離れた遠国だ。常識が通じない事が多い。

 これも将来問題になるだろう。

 私は和の国の閣僚と握手すると、武装飛空船に乗り帰国する。何で武装飛空船を使うって? そりゃ、まだする事が有るからだよ。


「航路は帝国領を横断コースで宜しいですか? 」


 挨拶を済ませ、艦橋に入った私に艦長が問いかける。


「ん、問題ない」


「一応他国の領空ですが? 」


「帝国が文句を言って来たら宣戦布告すると言ってやれば大人しくするでしょ? 大人しくならないなら空爆して更地にするだけ」


 帝国風情が私の行動を制限する権利を持っている訳が無い。と言うかあの国は何をされても文句は言えまい。それだけの事をしてきた。

 お兄様も軽いお説教程度しかしないだろう。アーランド王国は帝国と和解する気が無いのだ。向こうが顔を真っ赤にしても知らん顔するだろうね。

 戦争に完全勝利したのに、未だに帝国死すべし! と言う国民へのガス抜きでもある。

 まあ、気持ちは分かる。私も帝国を許す気はない。関係を改善して貿易で儲けると言う手も有るが、そんな事をすれば長期的に敵対国を育てる事になりかねない。

 王国と帝国の人口・国土・資源の差は未だに圧倒的だ。育てるより、ここでトドメを刺す方が将来的に正しいだろう。

 まあ、私が居れば30年で国土差は無くすけどね。軍の再編が終わり次第、私は北進する予定だ。

 北方生存権構想。これを私と国土大臣で練っている。

 アーランド王国の経済は絶好調だ。そして、その好景気と帝国と言う蛮族の脅威から解放された今、王国では盛大なベビーラッシュが起こっている。

 将来的に王国の国土と資源では国民を養えなくなる。だからこそ北進するのだ。

 北進は王国の悲願だ。最果ての砦は元々北進の為の前線基地として作られた。しかし、安全保障の問題や、国内の魔物の被害などから北から雪崩れ込む魔物への防波堤と言う役目に変わってしまった。

 実に楽しみだ。魔物共め、今度はゴーレムの軍勢を雪崩れ込ませてやる。一方的に攻め込まれる恐怖をDNAの隅まで刻み込むのだ!

 

 話が逸れた。取り敢えず帰国ルートは大陸横断だ。ついでに航空写真を撮りまくって大陸の地図も作ろう。まあ、帝国から分捕った地図が有るけど、どうにも信用できない部分も多い。帝国の属国共が色々隠していると思える怪しい土地とか写真に収めたい。


 そして現在、私は武装飛空船5番艦ナイール号の艦長室に居る。艦長が使っていいよって貸してくれたのだ。流石に王女を一般の船室に居れるのは無理らしい。

 艦長の名前はヨセフ・ゴルーア。ゴルーア家は騎士の家系だが、この人は飛空船が大好きで、私が空軍に手を入れる前から所属している人だ。年齢は40台半ばかな?

 人格・能力申し分なしで、向上心も有る。お礼に今度建造される魔導戦艦の艦長に任命してあげよう。候補者リストに名前乗ってるし、問題ない。

 魔導戦艦も既に完成間際だ。プリンス・オブギルバートが後1か月程で就航するし、キング・オブ・ドラコニアは2週間後に就航する。

 この二隻の魔導戦艦の船員や要職は取り合いになるだろうね。何せ空軍の根幹メンバーは飛空船狂いと言われるほどのジャンキーだ。長年不遇だった事もあり、艦長への渇望が強い。まあ、武装飛空船は100隻建造するので、彼等に回すポストは十分だ。

 私は艦長室で丸太を抱きながらそんな事を考えていた。


「気に入りましたか? 」


 アリシアさんが何故かあきれ顔で私に問いかける。私は艦長室でずっとこの丸太を抱きしめていた。

 和の国の都を散策していた時に材木店で出会った木材だ。アーランド王国には無い木材であり、これを見た瞬間買う事を決定した。

 丸太と言っても大きくは無い。皮は無く、ただの丸太だ。


「いい感触。これは良い爪とぎになる」


「順調に猫になってますね。涙が止まりません」


「ニャムラス大統領の分も買った。きっと喜んでくれる」


 この木材は良い爪とぎになるだろう。一流のネコとして私も爪と牙は鋭く研ぎ澄ますのが猫界のマナーだ。

 何故かアリシアさんはシクシク泣いていた。


「他にもちゃんとお土産は買ってるよ? 」


 お兄様は和の国関係の書物を買った。和の国に関する文化や歴史系の書物はアーランドには無い。和の国は鎖国に近い政策を取っていたせいだ。なので良い感じの物を見繕った。

 お父様は貴族達と同じくお酒で良いだろう。本とか仕事以外じゃ絶対に読みたくないだろうし。

 お母様は装飾品を幾つか買った。気に入れば和の国から取り寄せるだろう。

 リリーはしゃもじとダルマだ。しゃもじは兎も角、ダルマは良い面構えだった。和の国のダルマは厄払いみたいな扱いで最初から目が入っている。

 一応髪飾りも買ってあるけど、リリーの性格上、装飾品は多分早い。今は玩具の方が良いだろう。私の類稀なセンスにアリシアさんの表情も消えていた程である。

 後は師匠だけど、まあお酒大好きで作業場の倉庫に勝手にお酒の樽を置いてるからお父様達と同じくお酒だ。

 まあ、お酒の中にドワーフ領に建てた最新式の製鉄所の権利書が混ざってるけどね!

 建てたは良いけど、ポンポコさんが「絶対無理です! 人手が足りませんよ。何勝手に作ってるんですか! 」って泣きだしたから師匠に押し付けよう。これでドワーフ領の人口流出も止まるだろう。

 そう、私は分かってて作ったのだ! 副王商会連合で運営出来れば良いな程度であり、実際はドワーフ領に押し付ける気満々である。

 ぶっちゃけ王国の製鉄技術は大陸基準でも高い。でも、私からすれば駄目駄目だ。地球の先進国基準でようやく頷けるレベルだ。なので魔力式高炉を用いた地球でも先進国が欲しがるレベルの物を建設した。後はドワーフ達が運用してくれるだろう。王国の製鉄技術が数百年レベルで向上するよ。後は押し付けられる事に激怒する師匠から逃げ切れば良いな……うん頑張ろう。


「ん?若干傾いた。また進路変更かな? 」


「航行技術が足りないせいですね」


 私は作る側で運用する技術はそれ程ではないからね。無論作る方針として運用については最低限の知識は有るが、地球で船の航行なんて航路は決まってるし衛星から情報来るしで、船の運用なんて殆ど知らない。

 なので、手探りの部分も多いのだ。恐らく進路がずれて修正したのだろう。早く衛星を打ち上げて世界地図を作らないと。それに武装飛空船はGPSを積んでるが、衛星が無いので現在機能していない。

 帰り次第、獅子堂領からロケットを打ち上げる方針だ。もう分身達が施設を完成させてる。帰国はその為だ。

 ロケットは公式上24基打ち上げる。実際は27基だけどね。3基多いって? 月に行くのは内緒だよ。ちょっと月のスターコアの欠片と資源が欲しくなったから、お兄様に内緒で分身を派遣するだけだ。

 そんな事を考えながら船旅を続け、和の国を出て3日後、大陸に到着。足の速い武装飛空船だからこそ短期間で到着したのだ。後は大陸を横断して帰国するだけである。

 生意気な帝国の元属国が迎撃の飛空船を出してきたが、戦闘は行わずに快速を持って振り切る。旧式の飛空船など恐れるに値しない。速度が違うのだよ速度が。あっと言う間に見えなくなった。

 そして帝国領に入ってからは迎撃の船すら上がってこない。多分出せないんだろうね。

 アーランド空戦で帝国が失った飛空船の数は膨大だ。まともに運用出来る人員も残っていないだろう。指揮官クラスは王国侵犯罪で処刑したしね。船と船員が有っても艦長クラスが全然足りないのだ。まあ、船も船員も余裕なんてないだろうけど。

 そして帝都に近づいた時にアーランド方面から爆撃機が飛んできた。武装飛空船の上空をクルリと旋回する。


「何でルドルフが操縦してるんだろう」


 通信の結果、操縦士がルドルフだった。お前は攻撃機乗りじゃん。


『暇なので交代してもらいました。俺が一番腕が良いので』


 通信機からはルドルフの楽し気な返答が流れる。

 まあね。確かにルドルフの操縦技術は卓越してる。地球でも通用するんじゃないって程だ。

 実際教導部隊へ移籍させようと空軍上層部が動いた事も有るほどである。但し、本人が超現場主義な為、却下された。帝国戦で手に入れた勲章を返すとまで言われたら諦めるしかない。

 まあ、腹立たしいのかパッシュ大将が「ならば現場で人を育てろ」って新人を大量にルドルフの部下として送り込んでるけどね。

 お陰でルドルフは地上攻撃機以外にも爆撃機と戦闘機を贈られた。本人は楽しそうなので問題ないだろう。部下は超スパルタ教育で目が死んでるけど。


「荷物はちゃんと持ってきた? 」


『はい。しかし面白い事をしますね。基地の仲間達が爆笑してましたよ。

 これほど爽快な事は無いとね』


 まあそうだろうね。基本的にアーランド人は帝国大嫌いだし。融和政策なんてとったら即暴動が起こるだろう。しないけど。


「じゃあ、超低空飛行からばら撒いて。精々帝国民を怯えさせるが良い」


『了解です』


 私と暇な船員が双眼鏡片手に甲板から帝都を眺める。

 爆撃機は超低空で帝都に侵入し、爆弾倉からビラをばら撒く。

 帝国戦で帝都を空爆された帝国民は再び爆撃かと混乱している様だ。しかし、ばら撒くのはビラである。

 内容は帝国の惨状を嘲笑しつつ、帝国臣民って無能だよねって書いてある。そして最後に「や~いグランスール帝国のば~か byeアリスティア」とデフォルメされた私が舌を出した絵が描かれている。さぞ屈辱だろう。

 むふー実に良い気味だ。ビラを受け取った船員も爆笑してる。


「殿下に怒られますよ? 」


 アリシアさんは呆れた様な表情をしていた。


「何で? 」


「何でって……そもそも何でこんな事をするのですか? 」


「私は非常に怒っているからだよ」


 そう、私は怒っているのだ。何に怒ってるって? そりゃ和の国の一件だ。勝手にアリシアさんを生贄にするなど許さん!

 でも和の国は同盟国だし、向こうも私を怒らせないように配慮していたから振り上げた拳をぶつける事が出来なかった。

 そして私は考え、閃いた。アーランドの隣に丁度良いサンドバックが有るじゃないかと。

 と言う訳で和の国での一件で感じたストレスは帝国で発散する事にしたのだ。文句は言わせん。国境警備隊に帝国から使者が来たら「文句が有るなら宣戦布告する」と告げるように依頼を出してある。基本的に帝国の使者は入国拒否なので、国境警備隊に連絡するだけだ。話し合うような事は無い!

 ルドルフはビラをばら撒くと、再び低空飛行で帝都の上空を飛んで帝国民を煽ると、そのまま帰還していった。

 ついでに整備兵の練度不足で航空機の稼働率がかなり下がってるって文句を残していったけどね。それは時間が掛かるので我慢するように。

 そしてのんびり帝国領を通過して遂にアーランド領に入った。

 結局帝国は迎撃してこなかった。いや、何度か飛空船やグリフォンに乗った騎士と遭遇したのだが、武装飛空船に掲げられた王国旗を見ると即座にUターンして逃げた。私の副王旗も掲げてるしね。

 そして未だ建設途中の王都の空港に到着。飛空船用の港と航空機用の滑走路を完備した王都空港だ。まだ滑走路が1本だけだし、飛空船用の港も半分しか出来ていないけど、取り敢えずは着陸出来る。

 そして空港には騎士達が待っていた。待ち構えていた。300人位居るだろう。

 お兄様の絶対に逃がさないと言う考えが透けて見えるくらいだ。流石に休暇が長すぎたのだろう。

 でも、私子供だし、子供は遊ぶのが仕事だ。私は悪くないもん!

 と言う訳で変身薬で猫になり、隙をついてアリシアさんから逃走。錨の鎖を伝って地面に下りる。船内では私を探す声が聞こえるが無視だ。

 私の休暇はこれからだ!


「ほう。何処に行こうとしているのかな? 」


 む、お兄様の邪悪な声が聞こえる。私の体を影が覆う。やっぱり聞き間違えじゃない。お兄様の邪悪な気配も感じた。

 私は猫の柔軟な筋肉を駆使して後ろに跳ねる。その瞬間私が先ほどまで居た場所を両手が空を切る。私は背後から掴み上げようとしたお兄様の股を潜り抜けて背後に跳んだのだ!


「君が猫に姿を変えるのは周知の事実だ逃がさないぞ」


 流石はお兄様。私の高度な変身を見破るとは。しかし、私は成長するのだ。


「ニ゛ア゛ア゛ア゛ア゛! 」


 見よ、この子猫に反する野太い鳴き声を。

 私の鳴き声を聞いたお兄様が狼狽する。


「あ、あれ……もしかして猫違いか? 」


 私の変身は完ぺきである。

アリスティア「ニ゛ア゛ア゛ア゛ア゛!(若本ボイス) 」

ギルバート「……私の妹がこんなに野太い声の筈が無い」


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