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転生王女の国家大改造 ~無敵な国を作りましょう~  作者: 窮鼠
ヤマタノオロチを出荷せよ
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311 護国会議 ③

「34年も前に滅ぼされだと! そんな話は聞いた事が無いぞ」


 ギルバートはいや、議員達は驚愕した。驚愕してばかりである。

 しかし驚くのは仕方のない。中央に多くの暗部を派遣し破壊工作だけでなく、情報収集を行っているアーランド王国の諜報力は大陸でも上位に位置する。

 そのアーランド王国が全国ケモナー連合総本部の陥落を掴めなかったのだ。しかも34年もの間。

 当然中央国家連盟も総本部が陥落した事に気が付いていないだろう。もし気が付いていたら大々的に報じている筈だ。


「当然の話。総本部の場所や人員などは最高機密だからね。詳しい場所は私の地位じゃ教えてもらえないけど、総本部が皇国に滅ぼされたのは間違いない」


「だったら何故皇国はこの事を公表しないんだ? 」


「本部を落としたと言う認識が無いから」


「すまない。もう少し解り易く言って欲しい」


「それにはまず全国ケモナー連合の創成から話す必要がある」


 ケモナーはテロリストである。これは大陸中央では常識とされる。

 多くの国でケモナーは迫害され弾圧を受けている。国によってはケモナーであると言うだけで逮捕され裁判を受ける権利すらなく処刑される。

 何故そうなってしまったのか。それは500年前まで遡る必要がある。

 全国ケモナー連合は当初は多種族融和派であった。

 500年前の普人と魔族の大戦--所謂人魔大戦から始まり、魔王戦の後から彼等の活動は始まった。

 当時魔族の国であった常夜の国は崩壊し、魔族はこの大陸から姿を消した。常夜の国と同盟を組み、国家レベルで多種族融和を唱えていたアバロン王国も普人の裏切り者として袋叩きに会い崩壊。そしてアバロン王国のナイトオブナイト。騎士王と呼ばれたアーサーは憎悪から精霊王の力を汚染していた邪神の力が暴走し、所謂魔王に堕ちる。そして数多の魔物を従え人類の殲滅を宣言した。

 しかし娘のリコリスは従者の献身により生存していた上に、彼女は女神の選定により女神の勇者として覚醒。父親を倒し、その魂を自身の血に封印した。

 問題はその後だ。アバロン王国最後の王は死に際に国民を当時未開だった大陸の北へ逃がすように生き残っていた円卓に集いし者達に命じた。

 円卓に集いし者達は魔王の誕生で混乱する大陸中央の状況を利用して多種族連邦を建国。魔王化したアーサーはアバロンの者だけには手を出さなかった為に被害は殆ど無かった。

 そしてリコリスは多種族連邦の更に北にアーランド王国を建国する。当時の融和派の多くは多種族連邦かアーランド王国に助力した。しかし、全ての融和派が北に逃れた訳じゃない。

 現在聖教を名乗る宗教は本来種族差別を容認していない。現在の普人至上主義を掲げた現教皇一派が乗っ取ったのだ。それを良しとしない神官達は奪われた宗教を取り戻さんと多くの融和派と共に戦ったが、敗北。

 散り散りになった融和派は中央の各国に逃れ、仲間を集め出す。これが現在の支部と呼ばれる組織の前身である。そう全国ケモナー連合は本部から支部が生まれた訳じゃないのだ。

 各国で生まれた組織は当時支部とも名乗っていない。各々の自由な名前を使い、融和活動を始めた。

 しかし、既に大陸中央は普人至上主義が蔓延していた。彼等は徹底的に弾圧された。

 それが彼等を狂わせた。仲間を奪われた融和派は憎悪を胸に更に闇に隠れだし先鋭化していく。

 ――言葉で言っても駄目なら、我らを力で弾圧するのならば、我等は立ち上がろう――

 彼等は己の信念と仲間を守るために武装勢力へと変わった。その後、彼等は組織の拡大と比例するように酷い弾圧を受けながら大陸全土に志を同じくする組織が生まれた。

 同じ目的を持った組織が複数存在すれば自然とリーダー的組織が生まれる。彼等は協議の末に当時最も過激に動いていた皇国の組織を本部と定め、それに賛同した複数の組織は支部を名乗り出す。これが全国ケモナー連合の始まりである。当時は別の名前を使っていたらしいけど。

 但し、全国ケモナー連合はその設立時から各支部が高い独立性を持っていた。彼等は弾圧されていたのだ。他の支部や本部に依存した組織は芋ずる式に組織が崩壊する危険性がある。故に各支部は完全に独立し、支部だけで存在出来るようになった。

 その為本部が無くても組織運営だけは問題が無いのだ。精々他の支部と連携出来なくなる程度だ。元々独立性が高い支部はそれでも問題なかった。


「待て、それでも本部が落ちれば分からない筈が無いだろう。本部だぞ。重要な書類や機密などが見つかった筈だ」


「見つからないよ。アーランド支部もそうだけど、私達は書類を使わない。全ては口頭で伝えられる。組織の施設や資金に人員全部紙に残さない。

 残せば支部が崩壊した際に後援者や潜伏している仲間が捕まる危険があるからね。だから不便でも一切の書類は使わない。だから皇国は支部の一施設を討伐したと言う認識なんだよ。でも落とされたの本部なんだよね」


 不運な事に、本部は何らかのミスかあり得ないが裏切り等で……いや、裏切りは無いな。ケモナーは仲間を裏切らないし、裏切っていれば本部だと皇国は理解していた筈だ。恐らくミスで居場所がバレたのだろう。そして襲撃された。

 本部に居た同士は全員殺されたのだ。


「因みに全国ケモナー連合を名乗り出したのは凡そ150年前からだよ。預言者サトゥが何処からか現れケモナーの教えを説いたらしい」


 いずれ人はケモナーへ至り人類は普遍的平和を成し遂げると言う予言を行ったそうだ。

 更に預言者サトゥは組織運営にも長けていた。長い弾圧で滅びに瀕していた融和派をまとめ上げ、融和派と呼ばれた組織を全国ケモナー連合へ昇華させた男である。


「うん分からない」


「同士達との間でも見解が別れる人だし」


 出生から不明だし、異世界人説も有る。

 更に言えば、この世界のケモナーはモフモフ好きと言うだけじゃない。エルフが好きドワーフが好き翼人族がハーフリングがと、普人以外が好きな人の総称だ。

 理由は弾圧が酷すぎて格流派が独立なんて出来なくて、一つの組織に纏まってしまったのだ。

 ケモナーを名乗っているのは多くの種族の内、獣人が普人の次に多いからだ。その為獣人好きな人間の数が最も多い。

 最大勢力がケモナーだから全国ケモナー連合を名乗っていると言う事情もあった。

 なのでエルフ好きでもこの世界ではケモナーである。ケモ要素が無いぞ! と異世界人も怒るであろう所業であった。


「まあ、名称の話はこれで終わり。で、本部は既に無くなっているから協力要請は出来ないの」


「他の支部に頼むとかは如何だ? 」


「それも無理。アーランド王国支部は去年会員数が2万人を突破した大陸最大勢力だけど、他国と繋がりがない」


「滅茶苦茶会員多いな。もう本部を名乗れるじゃないか。何故繋がりが無いんだ? 」


 お兄様の言葉に私とライトサイド派の貴族の顔が歪む。


「恥ずかしい事だけど、アーランド王国支部は確かに会員数だけなら大陸随一なんだけど、組織は死んでると言っても過言じゃない」


 アーランド王国支部は確かに大きい。しかし、この支部には致命的問題が2つ存在していた。

 まず最初の問題が支部の中核組織が存在しない。支部と言う器は有るが、会員達は組織に属している訳じゃない一匹狼のケモナーが2万人くらい居るだけだ。

 まとめ役が居なければ他の支部と連絡も取れない。そもそも組織の方針すら決められない。議長すら前議長が老死して30年経つが、誰も立候補しないし、殴り合いで押し付け合いが始まる始末だ。

 そして2つめが、アーランド支部は他の支部と違って全体主義的な思想が存在しない。寧ろ、個人主義の極みだと言う事だ。

 何故こうなったのか。簡単だ。アーランド支部には目的が無かった。

 ケモナーがテロリストになるのは普人至上主義への反発と自分達を弾圧する普人主義者への反発だ。

 アーランド王国だとどうだろうか? 普人至上主義者は大陸中央と違い、彼等が迫害される側だ。王国は種族による差別は認めない。

 区別はすれど、差別はしない。これがアーランド王国の方針だ。

 だから支部は存在意義が存在しない。だから中核組織も必要とされなかったし、誰も作らなかった。利権も何もない上に、自分勝手の極みの会員を纏めると言う苦行を行う者も居ない。


「図体は大きいけど、組織が死んでるんだよ。去年だって大ケモナー協議を開催しても70人しか集まらなかったらしいし」


「姫様もすっぽかした一人ですよ? 私は出ましたが」


「近所の赤トラの猫と遊んでた」


 会員達も基本的にアリスティアと同じだ。必要だと感じた時には集まるが、それは組織が必要とした時ではない。自分が必要としたときなのだ。


「私も含めて王国支部の人間は修行僧みたいな感じだよね」


「己を鍛えるのが第一で、支部に所属してるのは一応所属していると言う程度ですな」


「これでどうやって他の支部と連絡を取るの? 」


「……本部が崩壊して次の本部を決めてくれれば良かったのに」


「決まりそうではあったんだけどね。シャハール王国支部が次の総本部だと言われた」


「シャハール王国……」


 数人の貴族が忌々し気に呟く。

 シャハール王国は国土の半分が砂漠の国家だ。そしてアーランド人がある意味帝国より憎んでいる国家である。別名奴隷国。大陸中央の奴隷供給国だ。輸出されるのは他種族の奴隷である。

 この国はアーランドと国境を接していない。しかし過去にはアーランドに人さらいの組織を派遣する等、アーランドへ敵対行為を行っている。無論反撃したが。

 グランスール帝国はアーランド王国の宿敵だ。度々アーランド王国を滅ぼさんと兵を送ってきた。

 しかし、アーランドにはこういう言葉がある「帝国が難ければ軍に入り国境に行け。好きなだけ殺せるぞ」

 そう、帝国への憎しみは晴らす機会も多いのだ。

 しかし、シャハール王国に恨みを晴らす機会は無い。更にシャハール王国から脱走した元奴隷のアーランド国民も多いのだ。彼等はシャハール王国を憎んでいる。

 故にアーランド王国で下手にシャハール王国の名前を出すと不機嫌になる人は多い。


「そこは駄目なのか? 」


「4年前に現国王の罠によって中核組織が崩壊した。一時は8000人のケモナー兵を有する大陸屈指の武闘派だったのに……今はどれだけ生き残ってるか。詳しくは分からない」


「8000人? 灼熱の太陽がそれだけの勢力を築いていたな」


 貴族の一人が懐かしそうに呟く。

 灼熱の太陽とはシャハール王国で猛威を振るった義賊団の名前である。


「確か首領の義賊アフマドが処刑されたのも4年前だったような……」


「知ってるんだ。彼も同士だよ」


「マジか……彼を英雄視する国民が多いのはそれが理由だったか」


 義賊アマフドは多くの奴隷を解放したシャハール王国の英雄だ。彼に救われ、アーランドへ逃れた他種族は多い。王都には彼の死を嘆いた者達が築いた慰霊碑すら立っている。

 シャハール王国大嫌いのアーランド人も、彼の悪口は絶対に言わないレベルの英雄である。しかし、彼がシャハール王国支部のトップである事を知る者は少ない。

 一時はシャハール王国が総本部になるかもしれないと言う予想が出ていた。総本部は反普人主義活動が最も活発な支部こそ相応しいと言う考えが有るからだ。皇国の総本部が陥落した以上、シャハール王国支部が総本部となり、各支部をまとめ上げると言われていたのだ。


「他の支部もかなり劣勢で、一部は陥落しているって噂の支部も多い。助けてくれるか分からないよ」


 全国ケモナー連合も長い間の迫害ですっかり力を失っていた。特に聖教からの弾圧が酷い。一時は預言者サトゥの出現で盛り直したが、下火になってしまった。


「難しいか……まあ、他に方法が無いか私の方でも考えてみよう。

 次は何かあるのか? 」


「次は農業問題があります。

 現在王国は豊作が続き、食料は輸出出来るレベルで潤沢です。しかし、このレベルの人口増加が続けば100年で食料不足になります」


 王国の問題は山積みである。

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