29 蹂躙する決闘 2
私は杖に魔力を流し投影を発動させる。杖に登録された投影は詠唱も必要なく私の周りに魔法陣を出現させる。
「っな‼」
「行け。【フレイムランス】」
魔法陣から長さ1メートルくらいの火の槍が出てくるとそのままAに向かって射出される。しかし…
「この程度の魔法で図に乗るな‼」
持っていた剣で【フレイムランス】を切り裂く。っちょ‼人間の動きじゃないんですけど‼恐らく魔法剣術特有の【身体強化】なのでしょうね。私が使ってもここまで超人的な動きは出来ませんし出来ても骨が砕けるでしょう。
しかし魔法を切るですか…剣に魔力を流して魔法自体に干渉してるのでしょう。出なければ剣が折れますから。確かにこれは厄介ですね。怪我をするほどの威力は無いですけど魔法を切られる…しかもかなり余裕のある表情をしていますね。
私は【フレイムランス】の射出を止めずこちらに来れないよう弾幕を張ってますが突破されるのも時間の問題です。しかし彼を観察しその力を私にフィードバック出来れば私はさらに先に行けます。実戦は一番の訓練ですからね。
「面白いね。君の実力はこの程度?もっと見たい、もっと知りたい。貴方は私に無い物を持ってるんだからそれを見せて」
「図に乗るな―――‼」
【フレイムランス】を避けながら最小限の動きでこちらに近づいて来るAに私は魔法陣を【フレイムランス】から【アースランス】に変える。すると私を中心に土の槍が所狭しと出現しAの接近を防ぐ。Aは【アースランス】の出現数にこのままの突撃は出来ないとバックステップで回避する。そしてまた【フレイムランス】の弾幕に捕まった。
「これじゃ面白く無い。君の実力を見せてよ。集え形作れ【錬金】」
私は普通に詠唱すると【錬金】を発動する。今回錬金するのは周りの砂から砂鉄を集め30センチ程の短剣…形状は日本の小太刀に近い物を作り出す。を二本作り杖を腰に戻す。
「【マリオネット】【フルブースト】【知覚拡張】」
そして補助魔法を掛けるとAに向けて突進する。勿論私に武術の嗜みはありません。最初の一撃は軽く避けられましたがAが剣を振り上げた時に限界を超えた脚力でギリギリ後ろに下がる。そして目の前を剣が過ぎたら前進し二本の小太刀で突く。
「くそ‼技術も無いくせに‼」
確かに技術は無い。だけど【マリオネット】は私の想い通りに体を動かす…本来は人形を動かす魔法です。のと【知覚拡張】で反射神経も上がり【フルブースト】で肉体の限界を超えた力が出せますから技術の無さを肉体性能で補う。
当然普段の私ならこんな事はしません。魔法だけで十分倒せますしこのコンボは体を壊すので使いたくも無い。でも治癒魔法で体は治せますからAの下らないプライドを砕く為に剣を使っただけです。尚、アルバートさんやアリシアさんクラスの人なら軽くあしらえる子供騙しですが動きはアルバートさんの動きを覚えてるのでマネしてるだけです。
「弱すぎる‼」
小太刀をクロスさせAの剣を受け止めると私はバックステップし小太刀を投げる。
Aが剣でそれを捌いた瞬間にAは後ろに吹き飛ばされる。私は小太刀を投げた瞬間杖を掴み【ウィンドバーン】圧縮した風を一気に解放する魔法をAの目の前で発動したのだ。当然私も巻き込まれるが私の基本戦術は【プロテクト】を用いた道ずれ戦法です。
有り余る魔力で強化した防御力で自分を巻き込んでもダメージが無いから不意打ちには丁度いいですね。でもオーガキング等の【プロテクト】を貫通できる攻撃力を持ってる者が相手なら流石に出来ない、格下故に使える戦法でもあります。
「がああああああああああ」
「よっと」
Aは地面をゴロゴロ転がってますが私は何とか着地成功…右足が痛い。
しかし私も成長しました。いくら身の安全が確かでも剣で切られても余り動じませんでしたしちゃんと人に魔法もぶつけれる。殺すのはまだ無理でしょうけど戦う事なら出来るようになったのでしょう。だが私に剣は無理ですね。魔法のアシストを入れてもアーランドの下級騎士とどっこいです。初めて剣を持ってそれなら満足だと言われそうだけど使ってみてこれ以上の伸びしろが感じれない。多分才能が無いんでしょうね。無理をして尚そのレベルなら今後は魔法重視で行こうかな。
私は油断なくAに杖を向ける。
目の前は巻き上げられた砂が舞っていて視界が悪い。反撃してくるには絶好の機会だろう。油断は出来ない。まだ何か隠してるし【身体強化】ももう少し見ないと覚えれない。
だからだろうか一瞬の出来事に腕だけでも反応出来たのは。
「っな‼」
いちお【知覚拡張】の補助で認識は出来ました。でも【フルブースト】を掛けた身体能力でも反応しきれず腕だけでで何とかガードしましたが私は10メートル以上飛ばされました。
「何…これ?」
「ふふあはははははははタカが魔法使いがこの距離で僕に勝てる訳が無いだろう」
目の前にはAが居た。しかし見た目が変わっている。
最初は高そうな皮鎧だったのに今はそれに金属製と思われるブーツを履いている。最初は革製のブーツだった筈…しかも魔力を持ったブーツです。履き替えた?いえこれほどの魔力なら持ってるだけで気が付く筈…それに私は自分の腕を見て驚きを隠せない。
【プロテクト】を張っていた私の左手は切られていた。傷は深く無い。でも【プロテクト】ごと切られた経験は無かったので少し驚いたのですよ。痛み?オーガキングとの戦いに比べればマシです。後で傷も残さずに治せますしね。後ろから尋常じゃ無い怒気と殺気を感じますが今は無視します。
兎に角、Aのあれは私の防御を超えてるのは理解しました。しかもブーツだけでなくどんどん体を金属製の鎧で覆っていく。何かの魔法でしょうか?
「これが魔装だ」
魔装?知らない物ですねこれも解析しましょうか。兎に角さっきのようにいかないのは理解出来ました。試しにフレイムランスを打ち込みましたが鎧に弾かれました。展開の早い魔法は威力もお察しなので元々大した期待は無いのですがあの魔装とか言う鎧は私と相性が良くないのでしょう。流石に訓練場ごと消失させれば勝てそうですが流石に人殺しは無理なのでどう戦いますか…先ほどの衝撃で【フルブースト】以外が解けたので先ほどのような攻撃は出来ませんし通用しないでしょう。
「面白い…面白すぎる。知らない魔法。知らない戦法…全部見せて」
「何?」
私の知識欲が満たされる。留学は失敗じゃ無かった。誰も私に魔法を教えてくれないし誰も私に何かを教えてくれない。王族としての教育だけで誰も私の望む物を見せてくれなかった。アリシアさんは好きだ。だけどアリシアさんは私がする事なす事全てノーとしか答えない。これはとても窮屈だ、人を傷つけれる力を持ったが故の措置なのでしょうが私は我慢しか出来なかった。騎士の人達は自分を鍛えれる。お兄様も訓練できる。でも私は駄目、何故こうも違うのかと悩んだりもした…だからお母様の魔道書も勝手に読んだ。自分にも出来る事があるのでは?と思った。だから私は私の道を行く、きっと何か出来る。私は異世界の知識を持ってるからそれを活かせるはずだと。でも何も分からないし誰も教えてくれない…なら私は自分で学習する。誰にも頼らないし他人の知識を技術を自分の力に変えてみせる。
「その魔法…自分の魔力を纏ってるね…能力の強化だけじゃ無く魔法への耐性や防御魔法への干渉…欠点は魔力の消費が激しい。それじゃ魔力の垂れ流しで数分で魔力が無くなる」
私の解析結果を聞くとAがピクリと眉を動かす…フルフェイスの兜で見えにくいけど。
「ほお、初見で良く分かったな、だが数分有ればお前は負ける。ご自慢の防御魔法すら切り裂いたからな。絶対に俺の前に跪かせてやる‼」
ふむ【プロテクト】を破られたのは驚きですがそれだけで勝ったと思われるのは心外ですね。あれは防御魔法の中でも初歩の初歩ですよ…まあ初歩にして奥義とも言えますし私はあれしか防御魔法が無いのですが。
しかし攻撃魔法も最大火力で行くと精霊魔法の使い手だとバレますしここいら一帯を焦土にしかねません。クート君との戦い同様周りの被害も最小限にしないと。
「魔力切れを狙うか叩きのめすか…取りあえず【獄炎球】」
詠唱なしの魔法陣から展開された【獄炎球】はAを吹き飛ばす。流石にこれは効いてるようです。どうやら強度にも限界があるのでしょうね。しかも【フレイムランス】も直接効く訳では無いですが防御するだけで魔力が消費されるので火力押しすれば数分も持たないと…しかし【フレイムランス】程度じゃのけ反りもしないから攻撃力に優れた魔法で定期的に吹き飛ばさないとこっちが切られます。
「無駄だああああ!」
「【突風】」
再度突撃してきたので【突風】で私を後ろに飛ばしAも反対側に飛ばす。
やはり距離さえ取れれば負けは無い。唯、魔法を剣で切り裂き血走った眼でこちらに突撃してくるのは心臓に悪いので辞めてもらいたい。
「馬鹿の一つ覚えみたいに闇雲に突撃しても私には勝てない。戦術を一から学び直すのをお勧めします」
「貴様、貴様、貴様‼」
どうにも単純だと思ったら頭に血が上ってるからなのでしょうね。私は割と冷静です。お蔭で切られた腕が痛くて仕方ないので魔法の解析が終われば早々に決闘も終わらせたいですね。
その後も私は突撃してくるAを吹き飛ばし距離が離れると魔法を撃ちこみ続ける。詠唱なしの魔法陣なので高速展開出来るのが強みです。唯、魔法陣を投影するには魔力を使いますし正確に魔法陣をイメージしないといけないのでコストパフォーマンスが悪いのが欠点です。後、魔法の使い過ぎで体の負荷がヤバめなのも心配ですね…まあ【フルブースト】を使ってるので決闘後は地獄の苦しみが待ってるでしょうから最低限の魔力も残さないと…だったらもう良いでしょうか?
「そろそろ終わり。眠り、それは安らぎ、そして悪夢の始まり【悪夢】」
さあつかの間の幸せをどうぞ…




