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転生王女の国家大改造 ~無敵な国を作りましょう~  作者: 窮鼠
ヤマタノオロチを出荷せよ
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310 護国会議 ②

「さ、さて、では会議を始めよう。まずは王国の経済状況の報告からだ」


 取り敢えず会議は再開される。スパイの未来何て考えたくない。自分達は何も聞いていないし、関係ないと呟く者が続出しているが、会議は再開された。

 最初は王国の経済状況の報告だ。

 内容は開墾や今年の作付け状況の報告から商業や生産等の殆どである。

 但し、今年からは所謂GDPと言う物を導入した。

 アーランド王国は資本主義国家ではない。株式市場も存在しない。なのでアリスティアから得られた複数の算出法を元にギルバートが王国に当てはまるように改良したものをアーランドではGDPと呼ぶ。地球の物とは別物と言えるだろう。

 これは非常に優れた物だった。数字で王国がどれほど発展できたか客観的に見れるのは素晴らしいとギルバートが歓喜する程である。

 但し、実際に集計した官僚たちは過労で真っ白に燃え尽きた上に毎年行われると言う事実に恐怖で震えていたが。


「昨年ですが、凡そ34%の成長率を達成しました。今年は25%程になると予想されます。

 成長率が下がるのは去年はこれまで生活が危ういスラム民が仕事を安定的に得られた事が要因であり、今年はスラムがほぼ無くなった事が原因です。

 えっと………これは高いのでしょうか? 」


 全員がアリスティア分身を見る。この算出法のモデルを提供したのはアリスティアであり、異世界の知識である事も説明されている。

 1年で34%も国が成長すると言う尋常じゃない事が起こったが、彼等はそれを評価出来る基準を持っていなかった。何せ測定したのも初めての物だからだ。

 これだけの急成長が可能だったのはスラムの存在だ。

 彼等はその日を辛うじて暮らせるか、暮らせず飢え死にする生活だ。

 しかしアリスティア・パーレドは彼等に安定的な仕事を与え、貧困層から一気に中流層まで押し上げた。

 その為、彼等は多くの物を買える余裕が生まれたのだ。停滞感が漂い、国が末端から崩壊しかけていたアーランド王国の経済はアリスティアから供与された莫大な資金と技術を持って力技で復活を遂げていた。


「いや、駄目駄目だね。もっと商人に稼がせて豊かにしないと。目指せ年間成長率60%」


 その言葉に誰も答えなかった。これ以上どうしろと? と言う雰囲気が流れる。


「あの、姫様。我々もかなり頑張っているのでご容赦をお願いします」


 議会の隅で流れる汗をひたすらハンカチで拭っているのはポンポコである。

 彼は今年から護国会議の議員に選ばれていた。

 選ばれた理由は副王商会連合の事実上のトップだからだ。アリスティアは経営の実務には基本的に関わらないのでポンポコが代理として副王商会連合を纏めている。その為彼も議員に選ばれた。

 商人が護国会議の議員になる事は極めて少ない。基本的に商人は利益を求める者だ。その為、秘密を絶対に守れると議員達が断言出来る商人は極めて少ない上に、議員にする程有能な商人となると更に少ないのだ。如何に信用できる商人でも零細商会の商人を議員にする訳にはいかない。

 その点ポンポコは信用できる。副王家の財務と副王商会連合の会長代理。つまりポンポコは副王家のNO,2と言えるだろう。

 但し本人は基本的に小市民だ。ポンポコがかつて経営していた商会は砂糖などの専売もあり王国でも有数の大きさの商会だった。

 しかし、貴族との繋がりは希薄な商会だ。ポンポコ商会は平民を相手に商売を行い大きくなった商会なのだ。無論大貴族と会う事も珍しくは無かった。それだけ成功はしていた。

 しかし護国会議の議員になり、メンバー全員と会う機会はまずありえなかったのだ。彼が極度の緊張状態に陥るのは仕方のない事である。


「大丈夫まだイケル」


「無理です」


「本当に無理なら泣き言は言えない。宰相ボルケンさんの部下は全員死んだ目をして無言で働いてる」


「シクシクシク………」


 ポンポコは静かに涙を流す。


「コ、コホン。そうですな。次は労働力の問題を話し合いましょう」


 余りに哀れなので議長が強引に話題を変える。従者が資料を配る。


「現在アーランド王国では深刻な労働力不足に陥っています」


「農地の統廃合で農民の数を減らしている筈だが、一向に解消されないな」


「農地の統廃合も反発が強いと思っていたが、碌に反発も無かったな」


 農地の統廃合により大規模農業をスタンダードにするのは王国の方針だ。それにより農民の収入を増やしつつ、余った労働力を工業やインフラ整備の人員に回す。

 それは上手くいった。農地を手放す農民が反発するのでは? と言う意見は無論出た。実際反発する農民も出た。しかし予想より遥かに少なかった。

 多くの農民は農地を手放しても生活を破綻させられる訳じゃない事を理解していたのだ。正確に言えば王家への信頼である。

 更に言えば、農地接収は命令では有るが、代価はしっかりと支払われるし、次の仕事も商人達が直ぐに群がってくる。農業を辞めても生活が貧しくならないなら彼等は王国の方針に従うと決めたのだ。

 農地の統廃合で今まで数百人で維持してきた畑を僅か10人程度で維持する事になる。普通なら不可能だろう。しかしアリスティアが地球の農業機械を魔導具で再現し、副王商会連合で生産が始まった農業機械や軽作業用の小型ゴーレム等で十分維持できる。

 余った農民は全部工業やインフラ整備の仕事が有り余っているので露頭に迷う事も無い。

 本来なら農地の集約と手産業から機械工業への移行つまり産業革命は多くの失業者を発生させる危険な手段だが、アリスティアは莫大な公共事業を王国に行わせる事で労働者が余る処か足りない状況を生み出していた。

 因みに公共事業の財源はアリスティアから齎された資金なので、王国も貴族もニッコニコである。誰も損はしない。

 唯一不満があるとすれば、商人や工房主だが、彼等の不満は膨大な仕事の増加であり、それは彼等の利益の増大を意味するので、涙目になるだけでアリスティアに不満を言う事が出来ない。言っても「じゃあこれまでの方が良いのか? 」と言われるだけだ。

 毎日王国が末端から崩壊していく姿を恐々と眺めるよりは仕事で謀殺される方がマシだ。少なくとも明日はもっと良くなると言う希望が持てる。


「移民の方はどうだ? 」


「例年よりは増加傾向だ。今後も増え続けるだろうし、彼等を受け入れられる余裕も有る。

 悔しい事だが、アーランド王国はいずれ帝国に膝を屈すると言うのが中央の認識だったが、帝国との戦争での勝利で、アーランド王国は決して屈せずと言う評価が得られた。

 お陰でアーランドに移住する事を躊躇っていた他種族がアーランドに向かっているらしい」


「帝国は内乱が激しくなる一方だ。帝国臣民は死んでもアーランドに来ることは無いが、他種族の移動を止める余力はあるまい。邪魔されることも無い」


「他の中央の国は帝国臣民が難民となって雪崩れ込んでいる様だがな」


「ハッハッハ笑えるな。こっちに来れば可愛がってやるものを」


「普人主義者など、糞の役にも立たん。中央が混乱するなら今こそ好機! 連中が混乱している間に我等は更に繁栄しよう」


「「「王国万歳! 」」」


 貴族達が楽し気に会議を行う。少し前の会議の様な張りつめた、追い詰められた空気は払しょくされていた。

 明日へ希望を持てる。人が生きるのに重要な要素だ。希望が有れば苦難を乗り越える活力になる。別に死にそうなくらい忙しい現実から目を背けている訳じゃない。多分。

 しかし問題は解決していない。


「それは良いのですが、労働力の不足は問題です」


 ポンポコが小さくなりながら手を上げて発言する。


(私がこの場に出るのは分不相応のは分かっている。でも何とかしなければ! )


 自分は小市民だと言う確信を持っているポンポコだが、客観的に見れば彼ほど成り上がった商人は居ないだろう。王国経済を片手で持ち上げる福王商会連合の事実上のトップなのだから。


「しかしなぁ……人は簡単には増やせんぞ? 一部人口の増加が激しい種族も居るようだが」


「毛並みが良くなると、出生率が上がる不思議な種族が居たな」


「「「我々獣人の事を言っているのか? 」」」


 一部の獣人貴族が立ち上がる。その毛並みは素晴らしかった。

 獣人領の人口増加は王国随一だった。無論他の領地と言うか王国全体が未曽有の好景気もあり、人口増加に拍車がかかっている。既にベビーラッシュの兆候が起こっているが、獣人領だけは既にベビーラッシュに突入していた。

 理由は好景気とアリスティアが公開した魔法の櫛だ。これを使えば誰でも素晴らしい毛並みが得られる魔法の櫛であり、毛並みが極めて重要な要素の獣人達に好影響を与えていた。

 獣人にとって毛並みはそれ程に重要な要素だ。それこそどれだけ醜悪な顔つきや体形でも毛並みが良い。ただそれだけでモテる種族である。

 それを簡単に得られると言う環境を与えた事で、結婚ラッシュからベビーラッシュへと繋がったのだ。


「まあ、今生まれても労働力として使えるのはずっと先だ。獣人は放っておこう」


「簡単に思いつくなら移民だが……」


「如何したものか……」


 流石に今すぐに労働力を確保する術を思いつくのは難しい。


「いっその事、ゴーレムを更に活用するとか? 」


 一人の貴族の発言に今まで美猫ごっこをして寝ころんでいたアリスティア分身2匹が毛を逆立てて立ち上がる。


「それをやったら一気に労働力が飽和して失業者で溢れるけど? 普通に考えて人を雇うよりゴーレムを使う方が安い」


「………商人に余計な知恵を持たせるべきではないか。浅慮でした」


「将来的に移行するのは反対しないけど、100年単位で考える事だよ」


 急速な技術の発展は労働を効率化させるが、同時に人から職を奪う。アリスティアはゴーレム技術の生産活動への導入は時期尚早と断じていた。農作業や鉱山用に一部解禁はしているが、他への転用は行っていない。

 因みに地下ドッグでは普通に使われているので、やろうと思えば簡単だ。その後の混乱を無視すればの話だが。


「移民を増やす……いっその事、こちらから迎えに行くとか? 」


「中央にどう思われようとも痛くも痒くも無いが……確実に邪魔をしてくるだろう」


 ギルバートが腕を組みながら答える。


「現地の組織を使うのはどうだろうか? 」


「我々は中央では嫌われているのです。一体誰が手を貸すのですか? 」


 その言葉にギルバートも考え込んだ。


「全国ケモナー連合が居るではありませんか。彼等なら我らに手を貸してくれる可能性も高いかと」


 一人の貴族の言葉に会議場が静かになる。アリスティア分身(猫)がゴロゴロと喉を鳴らしながら右に左にゴロゴロと転がる。


「ケモナーに偏見は無いが……アレはテロリストでは? 」


 大陸中央のケモナーはテロリストに分類される。奴隷解放を掲げ、奴隷商へ襲撃を掛けたり、奴隷の輸送部隊を攻撃したり、奴隷解放を掲げて扇動を行ったりしている。故に一部の国ではケモナーと言うだけで反逆罪に等しい処罰を行う国もある。


「確かにテロリストだが、連中が攻撃的なのは中央の行き過ぎた普人至上主義への反発だろう。

 実際、我が国にも支部が存在するらしいが、彼等が動いたと言う事件を聞いた事が無い」


「確かに妙に大人しいな」


「寧ろ本当に我が国に支部があるのか? 全く話を聞かないが」


「彼等はその主義主張から秘匿主義だからな。しかし! 確実に会員と言える人物が居るではないか? 」


 その言葉に全員の視線が左右にゴロゴロと転がっている2匹の猫に向かう。


「「何かね? 」」


「姫様はケモナーなのでは? 」


「確かに本体も分身もケモナーである事は否定しない」


「アーランド支部に加盟しているとの噂の真偽は如何に? 」


「………」


 2匹の猫は置物の様に動かない。返答する気はない様だ。

 ギルバートはため息を吐くと、腰の収納袋からプリンを取り出す。


「アリス、これが見えないかい? 」


「「む、プリン! 」」


「そうだプリンだ。これは獅子堂製菓のプリンだ。君の本体がこれだけは分身に渡さない事は既に調べがついている。

 私のオヤツだが、正直に話してくれれば君たちに特別に2つずつ分けてあげよう」


「「ぐぬぬ………」」


「本体に忠義を果たしても見返りは無いぞ? 」


 酷い話である。どれだけ仕えても極上の甘味は本体が独占するのだ。


「「仕方ない。別に禁止事項じゃないし。確かに私は全国ケモナー連合アーランド王国支部に在籍している。

 会員番号7024番、ダークサイド派第125席だよ」」


(((会員滅茶苦茶多いな! と言うかダークサイド派? )))


 この場の全員が予想外に大きい支部と聞いた事のないダークサイド派と言う言葉等に驚愕する。


「結構下っ端なのか」


「この業界、上には上が居るのだと常々実感する。私は所詮ルーキー」


 業が深いと言うべきか、奥深いと言うべきか。アリスティアより高位のケモナー等いくらでもいるのだ。

 魔法の櫛の開発により実力より高い地位に居るが、本来ならアリスティアのモフモフ力では更に下の方だろう。アーランド支部では下の上程度の実力だ。

 最も、業界では期待の新人であり将来を嘱望されている超大型ルーキーである事をアリスティアは知らない。

 身の丈に合わない地位も期待感の表れと言う意味も有った。


「奥が深いのだな。所でダークサイド派とは一体? 」


「それを話すにはライトサイドとダークサイドを説明する必要がある」


 ケモナーのライトサイドとは禁欲や自らを厳しい環境に置く事による修行によってモフモフ力の向上を目的とした派閥だ。

 反してダークサイド派は自ら欲望に忠実に生きる事、そして闇の中から光を渇望する事によってモフモフ力を高める派閥だ。別に2つの派閥は対立はしていない。ただ物の見方や考え方が違うだけで同じケモナーである。

 アリスティアは欲望に忠実に生きているのでダークサイド派に属している。


「成程分からん。君たちは分かるか? 」


 ギルバートは議員達に問いかける。

 しかし問いかけられた議員達も困る。


「分かる様な分からない様な」


「何となくなら。私はケモナーではありませんし」


「姫様! 貴女様はライトサイドに来るべき御方ですぞ! 闇に堕ちるのは早すぎです! 」


「「笑止。私は己の欲望に忠実に生きる! 」」


 一人ライトサイド派のケモナーが議員に混ざっていた様だ。アリスティア分身(猫)に一蹴されていた。


「己の欲望に忠実に生きた結果がその御姿ですか! 」


「如何にも私は己がモフモフになる事で更なる力を手に入れるだろう」


「狡いですぞ! 」


「むふー。君もダークサイドに堕ちるが良い」


 アリスティア分身(猫)はライトサイド派のケモナーを闇に引きずり込もうと画策していた。因みに敵対していないので両派閥を行き来するケモナーも普通に居る。昨日のライトサイドは今日のダークサイドである。逆もまた然り。


「派閥争いは如何でも良い。いや、良くないかも知れないが、そう言うのは他所でやりなさい。

 私が聞きたいのは全国ケモナー連合の力を借りれないか? と言う事だ。君の力で本部に手を貸してくれるように要請出来ないか? 」


「不可能」


「無理でしょうな」


 アリスティア分身とライトサイド派の議員が答えた。


「何故だ? 」


「全国ケモナー連合総本部は34年前に皇国に滅ぼされた。現在、全国ケモナー連合は本部が存在しない」

ギルバートの新しい尋問方法は次の章で出す予定です。

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