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転生王女の国家大改造 ~無敵な国を作りましょう~  作者: 窮鼠
ヤマタノオロチを出荷せよ
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306 釣り

令和元年おめでとうございます。

 1年に2度も正月を迎えた気分でお得な感じがしますね。

「海に来たのに誰も泳がないんだね」


 拓斗がアーランドマッスル勢を見ながら呟く。楽しんでるけど、城作ってる人達以外は筋トレしてるだけだよね。後、お城作りは漂着した木の枝などを砂に埋めて土台にしている上に高精度だ。


「まあ、アーランド人は基本的に泳げないしね。多分この世界で泳げる人は少数派だと思うよ。

 拓斗なら分かると思うけど、海は魔物の楽園で、悠長に泳いでいると魔物に襲われるし、川にだって魔物は居るからね。そしてプールなんてお金のかかる物を持ってる貴族は聞いた事がない」


 週刊クラーケン上陸を経験している獅子堂領の領主だ。海の危険性は理解できてるだろう。毎回損害無しで撃破してるらしい。良い収入源なんだって。

 この世界は危険で溢れている。如何に屈強かつ勇敢さが売りのアーランド人でも水の中では動きが鈍り、魔物の餌になるだろう。だから泳ぐと言う選択肢が無い。だからと言って水面を走ればいいと言う答えを出すのは驚きだけどね。

 後はうちの貴族は貧乏なので維持費のかかる上に生産性の無い施設なんて作らないし、作っても維持できない。最近は懐に余裕も有るだろうけど、借金の返済や領地への投資に使われるから作ってないと思う。だからプールなんて設備を作ろうと言う発想すら持っていないだろう。そんな物を作るくらいなら自分や兵士を強化する為のトレーニング施設を作るだろう。実際トレーニング施設は割と充実してるアーランド王国である。


「姫様! 」


 私達が砂浜にたどり着き、ボートから降りると、海を全力疾走していた騎士達が走ってくる。良い汗をかいたとばかりに爽やかな顔をしているが、筋肉ムキムキの大男達がブメーランタイプの海パン姿で駆け寄ってくるのは辞めて欲しい。気温が上がる気がする。


「どうしたの? 」


「はい。我々は王国でまことしやかに囁かれる噂が間違いである事を証明しました」


「行き成り何を言ってるんだろう? 」


 アレか。お兄様はシスコンのふりをして周囲を欺いてるって噂の事? 普通にシスコンだよ。私と結婚しようと画策するほどのガチのシスコンだよ。いい加減社交界のお姉さま達に食べられちゃえば良いのに。


「知らないのですか? 最近人間は水に浮くなどと妄言を広める輩が居るのです!

 しかし、我々が海で検証した結果、人間は水に沈む事が確認されました! 我等一同例外なく海に沈みます。

 これは人間が水に浮く事は無いと言う証明です! 」


 ドヤ顔で力説する騎士達。


「それは筋肉のつけ過ぎなだけだよ。マッチョ過ぎると水に沈むんだ。だから人間が水に浮くのは間違いではないよ。無論状況次第では沈むけどね」


 私の言葉に愕然とする騎士達。


「で、では……我々は浮かぶ事は出来ないと……なんという事だ」


「筋肉を落とせばチャンスが? 」


「馬鹿者! そんな事をするくらいなら死んだ方がマシだ! 」


「そうだ! これだけ鍛えるのに一体どれだけの時間を費やしたと思っているんだ! 」


 どうしても泳ぎたい騎士の提案に殆どの騎士が反論する。うん弱くなると王国も困るしね。


「そんな皆にプレゼントをあげる」


 私は浮輪を渡す。素晴らしい発明品だ。これが有れば溺れる可能性はぐっと下がる。

 私は前世から流れのある場所では泳げないのだ。流れるプールですら溺れる。私が泳げるのは一切流れの無い場所で犬かきが精いっぱいだ。特にこの体は前世より体力が無いので浮輪を用意してきたのだ。

 無論アーランド人が泳げないのも知っているので、十分な数を用意した。

 私から浮輪を受け取った騎士達は使い方が分からず首を傾げていたが、説明すると笑顔で装備し、海に突撃していった。


 入り江に浮輪を装備した騎士達が楽し気に浮かぶと言うシュールな光景を眺めるが、私も暇になってしまった。

 浮輪の登場で砂浜でアーランド城を作ってた騎士達も今や水面に浮かんでいる。城作りより水に浮かぶ方を選んだようだ。誰一人残っていない。

 大人でレディーな私は砂遊びに興じる程子供じゃないので、砂遊びは却下だ。自由の女神を作りたいと思ったが、子供と思われるのは心外だしね。

 と言う訳で私は拓斗と2人で釣りをする事にした。

 アリシアさんが背後で拓斗を睨んでいるが、邪魔をしない限り放置だ。転移魔法陣を隠して設置したので無用な接近は出来ない。元の場所に戻されるだけだ。

 偶に接近しては転移で戻され、暫くするとまた接近して戻されるを繰り返している。その魔法陣は私から直接魔力を供給されてるから諦めるんだ。

 お兄様もアリシアさんも私が異性と居るのに極端に反応するからね。お父様だったら……うん暴れるね。魚が逃げてしまう。

 私は釣りの経験は無いけど、多分達人なので問題無い。気持ち悪い生き物を拓斗に針に刺して貰って海に投げ、拓斗の隣に座る。

 30分程海を眺める。拓斗は5匹も釣り上げていたが、私はまだだ。


「ふ、勝負は焦った方が負ける」


「アレ、これ勝負だった? 」


「拓斗には負けないよ」


 実力的には拮抗している筈だ。大丈夫まだ焦る段階じゃない。前世の時にニュースとかバラエティー番組で釣りを何度か見た私に不可能は無い(興味が無かったので数秒でチャンネルを変えていた)。

 その後もヒョイヒョイと拓斗は釣り上げるが、私の釣り竿は一向に反応なし。


「皇族用の島だから魚が擦れて無くて良い漁場だな。魚も無警戒だ」


「その余裕が命取りになるだろう」


「君は転生しても負けず嫌いだね」


 拓斗は私より後に生まれた。つまり私は拓斗の姉的ポジションに居るのだ。負ける訳にはいかない。威厳と言う物が有るのだよ。

 その時、私の釣り竿に反応が有る。私は慌てて釣り竿を握り、【身体強化】を発動し、一気に釣り上げる。

 水面からナニカが勢いよく飛び出すが、空中で糸が外れる。だが問題ない。そのコースなら私の手元に落ちて来る。私はそのままキャッチした。


「なんだ、ダイヤの原石か」


 釣れたのは魚では無く大人の拳より一回り大きいダイヤの原石だった。思わず舌打ちしそうになる。お前に用は無い。


「何でダイヤの原石を釣り上げてるんですかねぇ……と言うか針の刺さる所が無いぞ。何処に引っかかって釣り上げたんだ? 」


「魚じゃ無ければカウント数には入らない。ハズレだね」


 海に投げ捨ててリリースしようと思ったけど、お土産に持って帰れば良いかと宝物庫に仕舞った。

 その後も拓斗は魚を釣り上げるが、私が釣り上げたのは碌でもない物だった。

 一覧はこれだ。


 窮極の門を開けそうな銀の鍵(海にリリース)

 スターリンの胸像(焼却)

 小さい自由の女神像(宝物庫入り)

 謎の化石(宝物庫入り)

 ショゴス(襲い掛かってきたが拓斗が瞬殺した。魔物じゃなかった)

 海老(釣り上げたら、煽った後に糸を切って逃走)

 魔物の骨(宝物庫入り)

 私分身(海にリリース)

 オリハルコンの原石(GETだぜ)

 謎の魔導具(宝物庫で解析)

 聖盾(微妙な効果&私に反抗したので海にリリース)

 水精霊(魔力を分けてリリース)

 水属性の妖精族(謝ってリリース)

 下半身が魚の猫(魔物じゃなったけど、地上で呼吸出来ない様なので海にリリース)


 酷い成果だよ。魚が一匹も釣れない。


「ぐぬぬ……」


「いや、普通に凄いと思うよ。ここまで魚が釣れないのも含めてだけど」


「武装飛空船ですらクラーケンとか水竜を釣ってるのに」


 武装飛空船が爆雷で仕留めたクラーケンや水竜の死体が海に沈む前にロケットアンカーを打ち込んで持ち帰っている。そのまま放置すると他の魔物の餌になるし、水竜もクラーケンも素材として悪くは無い。寧ろ希少性も有って結構な値段で売れるのだ。お肉も美味しいしね。

 和の国の武士団は観戦武官として武装飛空船に乗っている。これはアーランド王国の技術力を示す為だ。

 和の国は大陸から離れている。それは国土と言う事だけじゃない。アーランド王国と同じく、他国と関わりたくないと言う国民感情が有るのだ。

 最もアーランド王国は割と柔軟だ。元々が移民によって生まれた国なので、利益が有るなら文句は無い。同盟国になるなら国交を結んでも良いと言うくらい柔軟だ。

 だけど、和の国はそうでもないみたいだ。アーランドと違い和の国は別に他種族を保護しては居ない。国内に住んでる他種族の権利は保証しているが、アーランドの様に移民を受け入れる程ではないのだ。

 それを悪とは思わない。だけど、その独自の閉鎖性と、これまで帝国から自力で国土を守ってきたと言う自負が武士団には根強いのだ。だからヤマタノオロチを出荷する時にもアーランドの軍事力を見せつけた。

 自分たちが倒すことも出来ず、封印するしかなかった怪物を相手に完全勝利したのだ。今回はその追い打ちだ。これでアーランドとは敵対しない方が良いと言うのを心に刻み込むのだ。

 既に同盟を結び、通商条約すら結んでる以上、反対派に勢いは無いだろう。しかし、今回の訪問で更に力を落とさせる。この国は利用価値が有る。だから利益を与える。でも裏切る事は許さない。友好的であれば恩恵を与え、敵に成ればどうなるか理解させるのだ。

 既に100を超えるクラーケンや水竜が爆雷の餌食になり、私達の居る入り江とは違う場所に山積みになっている。今頃武士団は青褪めているだろうね。


「楽しそうだね」


「楽しいよ。この国との繋がりが強まれば中央国家連盟も穏やかじゃ居られないだろうね。いい気味だよ」


 実際に動く必要は無い。ただ王国同盟に挟まれたと言う事実は重いのだ。嫌がらせは楽しまなくちゃね。

 悪い顔をしている私を拓斗は楽し気に見ている。なんだよ?


「いや、なんでも無いよ。

 それはそうと、滞在して結構時間が経ってるけど、大丈夫なの? 凄い忙しいんじゃない? 」


「確かに官僚が通路で力尽きて寝落ちしてるのが日常な程に忙しい様だね。

 でも実は、空軍と技術開発局は既に組織改革を終えてるので割と余裕があるよ」


「他が尋常じゃなく忙しいと言う事か? 」


「それは空軍と技術開発局と違って組織構造の問題とか色々あるからね。

 お兄様は新しい政策を考えたり実行したり、貴族達を掌握するのは得意だけど、既存組織の合理化はそれほど得意じゃないんだよ。

 だって今まではそれほど困らなかったからね」


 組織構造が悪く、不便が有っても苦労するのは現場の人間だ。お兄様がその苦労を分かる訳が無い。私だって農民の苦労を知れと言われても困惑する。

 だからお兄様は組織構造の改革はそれ程得意じゃない。

 無論それ以外にも理由がある。

 それは、お兄様が革新派だからだ。まあ、アーランド王国の主流は革新派だ。だけど保守派も当然居る。

 特に貴族議会と言う何をしても文句の言う税金の無駄使い達は基本的にお兄様の敵だった。私を女王に擁立しようと考えたのもお兄様がこのまま王位を継ぐと自分達が日の目を見る事は無いと考えたからだ。

 残念だけど、私でもお前等に容赦はしない。と言うか戦時を利用して強権を持って連中を拘束・議会解散を行った。お兄様は容赦なく追い込むが、救いの手も差し伸べる。努力し、相応の結果を出すなら議会に収容せずに役職だって領地だって任せるだろう。しかし私は邪魔者は直接的な武力を持っての制圧だ。どっちがマシなんだろうね?

 それは兎も角、王国の組織構造は私から見ても酷い物だ。

 まず紙だ。書類毎に植物紙や羊皮紙に別れていう上に、書式だけでも30近く存在する。当然こんな物は無駄と言う他ない。しかし、これにも利権が存在する。

 多くの書式を管理する貴族が居るのだ。書式の統一はその貴族達の利権であり、それを無くせば彼等は利権を失う。

 今までは問題なかった。書類の絶対量も対処しきれない程ではなかった。現場が「面倒だ」と呟く程度の問題だ。

 しかし、新事業に次ぐ新事業。国土を作り変える勢いで行われるインフラ整備が許容量を限界突破した。その結果が現在のアーランド王国だ。

 過労で倒れる度に【元気でハッピーになれる薬】をキメて働き、通路で力尽きて寝てる官僚や貴族達の山。

 お兄様が余計な敵を作らない様に後回しにしてきた問題が噴出したのだ。


「で、君はそれを無視して組織改革を行ったと? 」


「酷い言われようだ。別に無視してないよ。単に私の場合は文句を言う部下が居なかっただけだよ」


 今の空軍は新設されたと言っても過言じゃない程に昔は極小組織だった。書類仕事も現場を引退した武官が一人で処理しても困らない程度の書類仕事しかない。

 そりゃ殆ど予算を出してなかった組織だもんね。こっちの方が楽だと教えれば誰もが「そうですか」と文句を言わずに受け入れた。特に私は彼等からすれば日陰者だった自分達に日の目を見せてくれた恩人だ。この程度なら文句を言う事じゃない。寧ろ感謝された程だ。

 技術開発局は開発陣が複雑な書類仕事に辟易していた。彼等からすれば書類仕事に時間を費やすより研究したいと言う欲求が強かった。こちらは毎年山の様に改善要求を出してたので問題にならなかった。彼等の要求が通っただけである。

 私の場合は複雑な利権で縛られた組織じゃなかっただけだ。お兄様とは違うのだ。


「それって助けなくても良いの? 」


「助けると恨まれるから泣きつくのを待ってるんだよ」


 今頃担当の貴族やお兄様に山の様な苦情が行っているだろう。

 そして担当の貴族もこれ以上意地を張れる問題じゃないと理解するはずだ。お兄様も今回ばかりは庇わないだろう。

 担当の貴族は役職を返上して王国が変わりの役職を用意する。多分こうなる筈だ。

 そろそろお兄様が私が長期間王国を離れても空軍や技術開発局が平常運行している事に不信感を持つだろう。何故問題ないのかもお兄様なら直ぐに理解する。

 お兄様なら私の組織を参考に効率的な組織や運用が必要だって解る筈だ。手を貸すのはその時だね。


「適切な権限の譲渡と組織の効率化により、私の部下は定時退勤出来る程度には余裕が有る」


「知ったら血の涙を流しそうな話だ」


「問題は予想よりお兄様が感づくのに時間が掛かっていると言う事だけど……」


「忙しすぎて君の部下の方に目を向けれていないだけじゃ? 」


「…………」


「…………」


「暫く様子見だね」


 この話は終了だ。そして釣りも終わり。武装飛空船が漁を終えたようだ。

 私は無詠唱で【サンダ―】を手のひらから放つ。

 私から放たれた電撃は海面に当たり、周囲に居た魚が感電死して浮かんでくる。

 私は【念動】で浮かび上がった魚を籠に入れる。


「ふ、私の勝利だね」


「狡いなぁ~」


「ルール無用。勝てば官軍と言う奴だよ」


 さて、お兄様は何時気が付くかなぁ?私は入り江に戻ってきた武装飛空船の方に向かうのだった。

 騎士達は相変わらず海に浮いていた。飽きないのね。

因みにアリスティアの組織構築は後年まで天才的と呼ばれ、教科書に載るレベルで合理的です。

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