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転生王女の国家大改造 ~無敵な国を作りましょう~  作者: 窮鼠
ヤマタノオロチを出荷せよ
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305 海底探索 ②

 船首から2つのベルトコンベアを伸ばす。右が遺骨で左が財宝の収納を行う。遺骨は完全に骨だ。とっくに朽ち果てている。


「別に遺骨の回収は頼まれてなかったけど、持って帰った方が喜ぶよね? 」


「せめて地上の墓で眠りたいでしょうから死者も浮かばれるでしょう」


 遺骨は分別が出来ないので、一纏めにして渡そう。慰霊碑でも作られるだろう。

 問題は財宝の方だ。どうやらここは和の国の主要な航海ルート上で有り、難破船の数が和の国の申告より遥かに多い。恐らく和の国の依頼した金の輸送船以外も混ざっているのだろう。と言うか船の数的には金の輸送船は船体テトリスの極一部だ。

和の国って近海を海に捨てる文化が有るのだろうか? 水の精霊が金塊等を水を操作してベルトコンベアに置いて行くのだが、金塊が長蛇の列を組んでいる。


「終わるまで時間が掛かりそうだね。ちょっと冷えるし暖房でもつけるか」


「アリシアさん今日のオヤツは? 」


「姫様のリクエスト通りにアイスクリームですよ」


「暖房をつけて暖かい空間で食べるアイスは最高だ」


 無いと寒い深海だし、この船の動力は魔力で熱は殆ど出さないため、船内は寒い。

 アイスは寒い冬の季節に暖房の効いた部屋で食べると更に美味しく感じるよね。

 特にこのアイスクリームは同盟国からバニラを輸入して作った物だ。いずれは平民でも手に入るようにしてみせるよ。今は生産量の関係で値段が高いしね。輸出国に増産ハリーハリーって毎月手紙を出していたりする。

 それに平民が気軽に食べれるようになると言う事は、需要が増えると言う事だ。そして需要が増えれば競争が発生し、更に高品質のお菓子が作られるようになる。

 むふー。私は今のお菓子には満足していないのだ。更に研鑽させる為に環境を整えてみせる!

 私はアイスを食べながら財宝の収容を待つ。その間も水の精霊達は船外カメラの前に宝石とか色々と持って来てくれるのでそれらも収容する。


「予定よりも10倍以上の収穫だ。報酬ウマウマだね」


 予想より遥かに多い物資だが、周囲の水の精霊が水を操作して金銀財宝の行列を作っている。

 これはちょっと多すぎるね。収容用の収納箱の容量を軽くオーバーしている。

 しかし、収納箱は内部から交換出来るので、宝物庫内で更に収納箱を作らせて、それと入れ替える事で対処する。

 収納箱は空間収納と保存の魔法が掛かった収納袋の容量が多い輸送用に作った物だ。大きさ的には棺桶とそう変わらない。流石に平べったくないけどね。

 そして容量は10トンまで収納できる優れものだ。

 しかし、それが山積みになる程度には物資が多い。まあ、一国が金不足に成る程だから仕方ないか。更にそれが一部と言える量だし。


「これは精霊にもお礼しないとね」


「精霊にお礼ですか? 」


「魔力を分けると喜ぶよ」


 アリシアさんは首を傾げる。精霊は人間より遥かに魔力への順応性が高い。

 精霊には格が有る。まず生まれたばかりの小精霊。これは自我がほぼ無い純粋な存在だ。ただ漂っているだけである。

 そしてある程度の魔力を持つと低位精霊になる。これも小精霊に毛が生えた程度だが、微妙に自我が有る。好き嫌いが出る程度だ。

 そして中位精霊になると明確な自我が生まれる。この辺りから人間との契約とかに条件とか色々要望を持つので、中位精霊と契約出来る人間は下位に比べると物凄い少なくなってくる。

 そして大精霊と呼ばれる上位精霊だ。これはかなり強い。まず人間じゃ勝てない。お父様でもかなり苦戦するレベルだ。

 まあ、精霊は体が魔力で構成されてるから基本的に物理攻撃は効かない。魔力か、魔力の亜種である闘気でしか干渉出来ないが、闘気だと魔法程の効果が無いので、お父様の天敵とも言える存在だ。

 魔導士レベルの魔法使いが複数居れば戦えない事も無いと言う程度だ。最も不利になれば逃げるし、大精霊クラスの魔法は正に自然災害とも言えるので、喧嘩を売るのは愚か者と言うのが常識だ。いや、小精霊や下位精霊を虐めても上位精霊が報復する事も有るので、精霊に喧嘩を売った結果、大災害が起こったと言う事件は歴史上幾つも起こっている。

 精霊王代理はこの大精霊が更に力を持った存在だ。まあ分類上は上位精霊なので違いは無い。単なる役職である。

 では精霊が格を上げるには如何すればいいのかと言うと、保有魔力の量で格が変わる。

 人間より遥かに魔力に順応している精霊だが、自然の魔力の吸収力は、凡そ人間の5倍程度だ。しかし、存在の維持にも魔力を使っているし、精霊は環境の調整と言う使命が有るので、日々に増える魔力は極僅かだ。

 精霊と言えど自然の魔力を完璧に己の物には出来ないのだ。それを行えるのは精霊王だた一人の権能である。女神も悪魔王もそれは行えない。

 精霊も人間と同じく自然の魔力を自身の魔力と混ぜ合わせながら時間を掛けて魔力を取り込む必要がある。しかし、例外もある。

 精霊王の種族は勿論精霊だ。

 精霊王は自身の権能で強引に自分の魔力と同化させた自然の魔力を精霊に供給して格を上げると言う裏技が存在するのだ。本来は力ある精霊の数が減った時の為の力だけど、この世界の精霊は本来あるべき数の数百分の一程度と言う実にヤバい状況である。いや、数は居るが、ほぼ小精霊と下位精霊だ。中位精霊以上の精霊が少なすぎる。

 過去の邪神戦での損害と、その際に人間が自滅覚悟で戦略級魔法を連発した結果発生した魔力汚染等の魔力災害への後始末で生き残った精霊は自身の格を上げる程の余裕が生まれなかったのだろう。

 因みに魔物の領域と言うのは魔力の吹き溜まりで有る事が多い。異常に魔力濃度が高く、強力な魔物や魔獣が生まれやすい場所だが、本来ならこのような場所は龍穴などの極一部の場所でしか起こりえないのだ。

 しかし、星の魔力を管理する精霊が少ない上に、力ある大精霊はそれ以上にヤバい場所に掛かり切りであり、力の無い精霊にはどうしようも無いので放置されているのだ。


「な、成程……普通に暮らしてましたが、世界の状況は厳しいと言う事ですね」


「そうだよ。ぶっちゃけ私が今代の精霊王――精霊女王だから何とかしないといけないんだよね」


「歴代の力を受け継いだ者は一体何をしていたのでしょうか? 聞くと直ぐにでも動くべきだと思いますが」


「まず、私は転生の際に精霊王の力を魂に取り込む形で転生しているけど、これはあり得ない事だからね。普通に魂が力に耐えれない」


 更に言えば、歴代の精霊王の力を受け継いだ人間は聖教に捕まってモルモットにされる事が多かった。

 その実験の結果、精霊王の力にこびり付いていた邪神の力が本来時間と共に浄化されるはずだったのに暴走して所謂魔王になる事になったのだ。

 因みに世間で魔王と呼ばれているだけで、この世界の基準の魔王ではない。真の魔王とは精霊王や女神が選定した勇者と同じく、悪魔王の選定した者が名乗れるものである。別に悪人でもない。勇者に比べて能力が破壊に特化しているが、別に魔物を従える能力も無ければ無条件で魔族の王に成れる訳でもない。魔族は……多分別大陸で普通に暮らしてるだろうしね。

 話を戻すが、人間がアホな事を続けたせいで、力を受け継いでも知識等の継承なんて殆ど出来なかったのだろう。アーサーも便利な力程度の認識だったし。


「え゛………ひ、姫様! 」


「アリス! 」


 アリシアさんだけでなく、黙って置物ごっこをしていた拓斗まで詰め寄ってきた。


「普通の人間の魂なら力に耐え切れずに砕けるけど、私は割と平気だったから大丈夫だよ」


 実を言うと、後2.3個くらい同レベルの力を取り込んでも余裕である。どうなってるんだろうね。いや、だからこそテトのアホに選ばれたのか。

 最も耐えれるのは魂の方であり、肉体的には精霊王の力はかなり負担だけどね。使い勝手が悪いよ。

 そう言うと2人は大人しくなった。


――これで全部だよ! ――


――女王様終わったよ! ――


「お~手伝ってくれてありがとうね。お礼に魔力わけてあげる」


 私の言葉に精霊達が歓喜の声を上げて潜水艇に入ってきた。精霊は特殊な素材じゃ無ければ普通に物をすり抜けるからね。

 そして私は集まった精霊に魔力を注ぐ。


――あぁ!格が上がっちゃう! ――


――目指せ大精霊! ――


 そのまま大精霊を目指すが良い。現状だと数が少なすぎるからね。でも格が一つ上がる程度しか分けないよ。流石に大精霊クラスにするには魔力が足りないし、精霊王の知識によると、この手法で急成長させた大精霊はそれほど強くないそうだ。あくまで緊急時の人員確保手段なので、実力で成り上がった大精霊に及ばないのは仕方がないのだろう。

 精霊達の格を一つ上げると丁度私の魔力が危険域になったが足りない事は無かった。精霊王的には多少の魔力って認識だったけど、人間主観だと膨大な魔力が必要だったよ。これ以上は魔力切れで鬱になるから魔法は控えよう。一時間もすれば魔術師並の魔力まで回復するけど。


「じゃあ私は行くけど、この辺りの管理を引き続きお願いね」


――分かったよ! ――


――任せて女王様! ――


 私は精霊達に別れを告げる。彼等はこの辺りの海を管理している為、アーランドに連れて行くと和の国に問題が出る。特にここには龍穴がある。管理者が居なければ魔物が大量発生してしまうのだ。同盟国に被害を与える訳にはいかない。

 これからは力を増した精霊達が魔物を狩るので、魔物の被害が少しは減るだろう。

 こうして私達は彼等の海底探索は終わりを告げた……筈だった。


「ソナーに感あり。この魔力量は……クラーケンクラスだ。しかもただのクラーケンじゃない。速度30ノットでこっちに向かってるよ! 」


「メインタンクブロー。機関最大出力。緊急浮上! こんな所でボスクラスと戦えないよ」


「機関最大! 」


「がっちり狙われてるよ」


 後は帰るだけなのに、ここらのボス的魔物に見つかった。お前飛空船の方に行けよ! 何でこっちに来るのさ。

 私は紙に魚雷はここで使えるかと言う質問を書くと、宝物庫に仕舞う。数秒後に紙を取り出すと「深海用じゃねーよバーカ! 深度2500以下では動作は保証しない」と言う返答が書かれていた。ッチ役立たず。

 取り敢えず私と契約してる水の精霊に頼んで海流を操作し、こちらの船速を上げる。船体が悲鳴を上げているが、この程度で壊れる程軟じゃない。

 速度計は速度60ノットを記録していた。


「相手も速度上げてるんだけど」


「向こうも水を操作してるっぽい? 」


「どうにかならない? 」


――ここは私の領域じゃないから難しいかな? それに向こうは変異種っぽいし ――


「精霊達に水上まで同行して貰うべきだったか 」


 武装飛空船が爆雷漁で水棲の魔物を間引いてるから油断した。向こうに行ってよ!

 その後、クラーケンの変異種と楽しい鬼ごっこを楽しんだ。





「ふぅ……スリリングな航海だった」


 何気にヤバそうなクラーケン亜種を振り切った私はかいてもいない汗を拭う。


「ヤバかった。あそこで魚雷が当たらなかったら追いつかれてた」


「足止め程度でダメージ殆ど入ってなかったじゃん。再設計しないと」


「いや絶対特殊能力的な物使ってたじゃん。じゃなきゃ、あの魔力放出量はおかしい。

 恐らく防御力を向上させる事が出来ると推察する。あれじゃ爆雷でもそう簡単には仕留めきれないだろうね」


 分身達も若干焦り気味だった。追いつかれたら魚雷発射管から射出して迎撃させる予定だったしね。とは言え、水中での戦闘などごめんだ。向こうのフィールドで不利な勝負になるからね。如何に使い潰しても良心の痛まない分身でも無駄使いは良くないだろう。


 畜生、陸上や水上なら八つ裂きに出来るのに、水面が近くなった瞬間逃げられた。アレは戦いなれてる魔物だ。水上に出た瞬間八つ裂きにされるのを察知された。拓斗がやる気出してたのに。私? 魔力量がね。戦術魔法を使えるくらいは残してるけど、あのレベルの魔物を相手にするには魔力がキツイ。勝てるけど、確実に魔力欠乏で鬱になる。

 不利になると直ぐに逃げる魔物嫌い。しかも、そんな事をする魔物程高い値段で売れるか希少な素材になるから更にウザい。

 はぁ。多分ここら辺で船が多く沈んでるのはアレのせいだろうね。和の国に注意喚起しないと。通信技術が低いせいで魔物が居るのは気が付いているだろうけど、変異種のクラーケンとまでは分かっていないだろう。如何に和の国がこの世界で唯一まともな海軍を有していると言っても船のレベルはそれほど高くない。どっちかと言うと水兵が屈強なだけだ。

 これはある程度のテコ入れが必要だね。和の国は意外と侮れない国力持ち、貿易相手としても有益なのは今回の訪問で理解できた。

 まさか絹の生産を行っているとはアーランド勢も驚愕だったよ。大陸だと帝国の独占産業で、他の国が手を出すと即武力行使で潰しに来るから、アーランドでは殆ど絹は手に入らない超高級品だ。

 生産量が少ないが、投資でもして大量生産させよう。向こうも断るとは思えない。大正時代の日本より若干マシ程度の技術支援でもすれば良いや。後は綿花栽培は……バランス的にお兄様なら他の国にやらせるね。後で相談だ。

 どっちもアーランドでは行えないから他国に流すしかない技術だ。お金になるけど、既にアーランドは深刻な労働者不足だ。人口に限りがある以上は産業を選ぶしかない。

 ならば精々高く技術を他国に売りつけた上に、その利権を握るのが合理的だ。

 よし、和の国はかつての日本の様に極東の番犬に育てよう。お兄様なら狂犬になる様な間違いも侵さないだろうし、和の国は大陸領土に野心が無い。

 取る力は有るけど、維持できる国力が無い事をしっかりと理解している。そこらへんは日本と違うし、日本と違って大陸との繋がりが希薄で昔のアメリカの様にモンロー主義の様な世論だ。極力大陸とは関わりたくないらしい。具体的には帝国勢力が大嫌いな国家だ。そりゃ定期的に攻め込まれたり圧力外交受けたりすれば嫌うよね。私も大嫌いだ。

 そんな感じで深海から脱出した私は和の国から借りたリゾート島の入り江に到着した。この島は現在アーランド勢の貸し切りだ。海の魔物が増えた影響で一時的に使っていない状況なので普通に借りれた。

 現在ここにアーランド勢と和の国から出てる護衛の武士団と外交官が居る。

 入り江に入り、ボートを出して砂浜に向かう私達。


「楽しんでるみたいだね」


「誰も泳いでないけどね」


「アーランド人泳げないから」


 拓斗の言葉に私は首を振る。アーランドでは海で泳ぐと言う風習は無い。と言うか大陸にもほぼ無い。海は完全に魔物の領域で泳ぐなんて命を捨てる様な物だし、川も安全とは言い難い。魔物が跋扈する世界では水泳とは贅沢な趣味なのだ。

 連れてきたアーランドの騎士達は足に闘気を纏い水面を全力疾走してる者達と、砂浜を全力疾走する人達。つまり、何時も通り筋トレに励む勢と、砂で3m程のアーランド城を作ってる勢の2つに別れて居た。

 窓まで再現する当たり、騎士じゃなくて彫刻家としてもやっていけるんじゃないかと思う程に高精度なアーランド城である。

 パラソルの下のチェアに横たわり、南国ジュースを飲みながらバカンスを楽しんでるのはアーランドの外交官だけであった。

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