303 都散策 ③
お待たせしました。年末は忙しいのと若干スランプ気味で中々仕上がりませんでした。この章もそろそろ終わりですね。
カカオと言う戦略物資を安定的に確保出来るようになった私は上機嫌で市場を散策する。
途中、こんな簡単に貿易品を決めていいのか?と大臣が困惑気に尋ねられたので、お兄様から貰った委任状を見せた。
この委任状はある程度の外交権限を認めると言う物で、主に和の国から買える物を探すようにと言う物だ。
因みに値段等や関税の決定権は無く、暫定的な決定権である。買う物を定めた後は担当の外交官が派遣されて関税や値段等の交渉が行われると言うと納得された。
何でこんな物を持っているのかと言うと、アーランドは現在貿易黒字が深刻なレベルで多い。
アーランドには良い事だが、これは貿易を行っている同盟国から搾取していると言う事だ。因みに【生命の秘薬】を王国主導で大陸中央に密輸して富を搾取しているが、そっちは敵国の富なので何ら問題ない。
しかし同盟国からの搾取は問題だ。お兄様は同盟国を経済的属国にする気は無い。そんな事をすれば搾取された同盟国が獅子身中の虫になるのが分かりきっている。
その為、同盟国にはアーランドに輸出出来る物を探すように依頼しているのだ。例えば地下資源。これは私が膨大に使うので安定的にアーランドへ売られてくる。オストランドなんかは含有量の関係で閉山した鉄鉱山を再開する程度には売れてる。
しかし魔導具産業を牛耳っているアーランド側の貿易黒字はそれでも揺るぎない。これは私が魔導具の根幹部分だけは、絶対に同盟国であろうと渡さない様にしているせいだ。これだけは簡単に渡す訳にはいかない最重要技術の結晶だ。少なくともアーランドが大陸で覇権を握り、それを確固たるものにするまでは渡す訳にはいかないのだ。それ以降は流出しても力でどうとでも出来る。
その為、アーランド王国は同盟国から更なる輸入が必要なのだ。
じゃあ何で私にこんな権限を渡すのかと言うと、私も理解出来ない。
そもそも私は経済学者じゃない。株なら前世でも意図的に恐慌を引き起こして暴利を貪った経験は有るが、この世界の経済は専門外だ。
でもね、お兄様が「アリスは儲け話の方から出向いてくるからね」って言ってこの委任状を渡してきたのだ。何でだろうね。
「そう言えば君って金に困った事無いよね? 前世も含めて」
「まあね。発明品を売る以外にも政府を脅して裏金奪ってたし」
「……そんな事までしてたのか」
拓斗が呆れた表情をしていた。因みに前世の会話を再現するとこんな感じだ。
アイリス「次世代型の半導体作ったけど欲しい? 現行より性能3割増しで値段は2割程安くなるけど。
これが手に入ると、日本も半導体産業の覇権を取り戻せるね」
総理「何が目的だ? 」
アイリス「当然金は貰う。でも、最近私の周りに公安がうろついてるんだけど? 何が言いたいか分かるよね? 」
総理「じゃあ、インサイダー取引を辞めろ! 後、公安の隊員を外国の諜報組織を使って暗殺するな! 」
アイリス「成程、じゃあ隣の国に売るとしよう」
総理「分かったよクソッタレ! 手を引かせればいいんだろう! 」
アイリス「分かれば宜しい」
他にも有るぞ。
アイリス「無人戦闘機用のAI作ったけど欲しい? 」
大統領「引き渡せ」
アイリス「私の個人資産を凍結するとかふざけた動きをしているみたいだけど、これ東側に無償譲渡しちゃおうかな? 」
大統領「……そんなふざけたマネしてみろ。どうなるか分かってるのか? 」
アイリス「おや、国務長官が横領している証拠と、国防長官が東側に軍事情報を流出している証拠と、副大統領の不正の証拠が揃ってるね。これが一気に公になると政権はお終いだね」
大統領「クソッタレ! 」
アイリス「じゃあ入金待ってるね。
振り込んでくれたら今回分の証拠は前回同様に破棄してあげる。私はイギリス並に約束守るからね See you」
「大体こんな感じで日米両国は私の財布だった」
「思った以上に極悪人だった! と言うかよく暗殺されなかったね」
「私を暗殺するとモモニクⅡの報復プログラムが発動して世界恐慌を連発するからね。大国の経済吹き飛ぶから手出しは出来ないと……まあ、そのせいで色々な所から身元不明の人達が屋敷に忍び込もうとしてきたけど」
モモニクⅡが特定のコンピューターではなく、ソフトとして作られたのもそれ対策だ。屋敷のサーバーを破壊してもインターネットから逃走し、世界中のPCがモモニクⅡのサーバーとなる。屋敷のサーバーを破壊する価値は無いのだ。勿論屋敷周辺のネットを遮断しても問題ないように対策されている。
モモニクⅡか、今頃何してるんだろうね。私の遺産は複数の名義と国家に分けて分散しているから凍結はされていないだろう。と言うかモモニクⅡのせいで把握が出来ないだろう。
モモニクⅡが未だに管理して増やし続けている可能性も高いな。アレが私の遺産を他人に引き渡すとは思えない。暇つぶしに増やして遊んでそう。
そんな事を考えながらふと金属屋を通りかかった。恐らく鍛冶屋等に金属を売る卸売店だろう。チラリと値段を見る。
「鉄の値段がアーランドの3分の1の件について」
「それはアーランドで高騰し過ぎているだけです。更に言えば補助金が無ければ10分の1です」
アリシアさんが能面の様な無表情で告げる。若干責められてる様な視線を感じる。
「思うんだけど、高すぎじゃない? 」
私も最初は国内の金属は余剰分だけしか手を付けなかった。
国内や同盟国への貿易に中央への政府公認の密輸は大抵利権がらみの案件だ。
そこに手を出すと誰かが損をして、それが遠因となって王国の団結を揺るがす可能性が有るからだ。だって損するの支配層の人間だからね。結構な影響力を持っているのだ。
でも私の予想は外れ、意外と不満無く私の元にそういった利権がらみの金属が流れてきた。いや、流れ過ぎて国内の金属価格が天元突破する勢いで急騰した。まるで戦時中の日本並みの状況だ。お願いだから鍋まで売らないで。
慌てたのはお兄様や政府だ。私が国内の金属は余剰分で我慢するって言っていたせいで碌に対策も取っていなかった。お兄様も利権無視で金属が私の元に流れて来るのは予想外だったのだ。
いや、考えれば分かる筈だった事だ。私は現在艦隊を建造している。戦車や航空機に戦闘用のゴーレムやマナ・ロイドを戦時体制のまま生産している。
需要が供給を上回れば値段は上がる。つまり他国に流すより私に流す方が数倍儲かるのだ。そうだね普通に私に売るよね。道理で鉱山持ってる貴族の近くを通るとニコニコしている訳だよ。
しかし過剰な金属価格の高騰は国民への負担となって帰ってくる。生活に必要な金属製品も相応に値上がりするのだ。流石に10倍は拙い。暴動が起こる。
故に、お兄様は国が補助金を出す形で値段の統制を開始したのだ。
それでも3倍程度に上昇しているが、それは現在王国は好景気なので問題ないらしい。仕事も給料も増えている。そして失業者は減る一方だ。商会や工房の雇用担当の者が亡者の様に国中の失業者を探し回る程度には人手不足だ。
更に冒険者達も儲かっている。理由はアーランドは元々他国より魔物が強い。同じゴブリンでも、アーランドのゴブリンは他国のオーク並に強い。取れる魔玉も相応に大きいのだ。
そして、これまで運べる物の重量の問題から冒険者達は最も高く売れる部位を持ち帰ると言う形で魔物を狩っていた。しかし、重量の関係で捨てていた物も、価値が低いだけで売れるのだ。そして私は工業的な魔導具の生産技術を生みだした。
彼等は収納袋と言うこれまでは極めて希少で冒険者に流れて来る事は殆ど無かった魔導具を手に入れた。
これにより、倒した魔物の数は変わらなくても価値の有る物を多く持ち帰る事が出来るようになった。更に多くの希少な植物や鉱物を持ち帰れるようになった。
今じゃアーランドの冒険者は低ランクの冒険者でも収納袋は基本装備の一つだ。
更に収納袋に多くの物を入れられるので、複数の収納袋を使ってこれまで以上に遠征が行える事になった。
アーランドの冒険者達は現在ゴールドラッシュの如き好景気である。魔物も減って万々歳だね。
そして金の有る冒険者は更に良い装備を求める訳で、金属の値段がががが。
「……欲しい」
「申し訳ありませんが」
「分かってますよ」
大臣が申し訳なさそうに頭を下げる。分かってる。和の国から鉄は買えない。
和の国は鉄の産出量が国内を賄う程度しか無い。輸出すると国内で使う分に不足が出てしまう為に、鉄の輸出は出来ないと最初から断られているのだ。
もっと金属欲しいな。帝国に年間採掘量の9割を献上するように命令すれば持ってくるかな?
駄目だな。そんなことすればお兄様にお説教される気がする。そんな事を考えながら諦めきれないと言う視線を鉄に向けていた私だが、店の端に妙に見覚えのある鉱石が置かれていた。値段は捨て値! 安すぎる。
「こ、これは! 」
私の言葉に店主があ~っと言う表情になる。
「こちらは鉱石だと思われるのですが、加工法が解らない物となります」
「まだ諦めて居なかったのか」
「大臣様、間違いなく鉱石なのです! 加工法さえ解ればきっと価値を生みます! 」
「そう言って20年が経ったぞ。いい加減諦めよ」
ここは大店の店だ。大臣と店主は子供の頃からの友人らしい。
そして、この鉱石を加工するのは和の国じゃ不可能に近い。
だってこれは……
「ボーキサイト」
「知っているのですか! もしや加工法も! 」
「………知ってますけど、この国じゃ無理ですよ」
地球では1782年に、フランスの科学者A.L.ラボワジェが、明ばん石(ばん土、今日のアルミナ)は金属の酸化物である可能性が大きいという説を発表、これをアルミーヌ(Alumine)と命名したのが始まりである。
その後に、イギリスの電気化学者H.デービーが明ばん石を電気化学的な方法で分離を試み、金属アルミニウムの存 在を確認、アルミアム(Alumium)と命名した。
そうアルミニウムは金属の中でも新しい金属なのだ。
これはボーキサイトからアルミニウムを取り出すのが非常に難しいのが原因であり、過去には泥から生まれた銀などと揶揄される程の物だった。
しかし工業には非常に重要な金属であり、私が血眼で探している物でもある。
因みにアーランドでも僅かに産出しているが、これは私が全権力を用いて買い取っている(そもそもアーランドでも価値が無いので、誰も反対しなかったけどね)のだ。
アーランド王国は鉱物資源が非常に豊富なのだが、このボーキサイトだけは殆ど取れず、産出量を見る限り、採算が取れないレベルの鉱山しかない。
しかし、見つかっている唯一のボーキサイト鉱山なので全力稼働させている。
この産出量の少なさが、航空機生産が低調な主な理由だ。
「加工には電気が必要です」
「電気と言うと……雷の事ですな? 我が国にも手回し式発電機なる物がありますが」
説明を聞くと源内さんが作ったレベルの物だった。いや、凄いけど、作ったのは過去の異世界人らしく、和の国の倉庫の隅に置かれてるらしい。大臣曰く既に使えないのだとか。
「原理は同じですけど、人力じゃ賄えませんよ」
この世界で実用に足りる発電機を持っているのは私(数日前に宝物庫内の原発が稼働した)かアーランド王国の技術開発局くらいだ(私の論文から何時の間にか自力で実用レベルの物を作っていた。こっちは火力と水力)
ボーキサイトからアルミニウムを取り出すには膨大な電力が必要なので、この世界で活用できるのはアーランドだけなのだ。
無論【抽出】と言う錬金術でも取り出せるが、ボーキサイトの様に精錬が難しい金属は魔法でも難しいので、可能では有るが、採算が取れるかな?
アーランドの技術開発局の魔法使いもMAD揃いで実力もついてきたけど、彼等が全力で取り掛かって1日に300㎏程度だろう。但し彼等は研究者なので、抽出方法が確立したら飽きて他の研究を始めるので、単純作業には向かないのだ。
和の国は錬金術は盛んじゃない(何処の国も未発達)ので、難しいと思う。素直に私に売りさばくんだ。そう言うと店主は少し悔しそうな表情になると、チラチラ大臣を見る。大臣も側近を小声で話している。
「どの程度の量が必要でしょうか? 」
「あるだけ全部。そして幾らでも買いますよ」
「即答は出来かねますが、前向きに協議します」
良し勝ったな! ちょっと帝国空爆してくる。尚、私の帝国空爆要請はお兄様の妨害により却下された。
私はお兄様の予定通りに大規模の輸入案件を手に入れた。
私の見つけた物を売れば、和の国は今以上に栄えるだろう。未だに本格的な合意には至っていないが、全ての取引が却下される事は無いだろう。和の国はアーランドとの貿易には非常に前向きだ。
ニコニコしている外務大臣が和の国のプライベートビーチを貸してくれる程度には仲良くなった。
「拓斗よ、南国で海と言えば何だと思う? 」
「海水浴かな? 」
市場散策を終えた3日後、私達は砂浜に立っていた。常夏の島であり、島中の魔物が殲滅されている為に和の国の貴族・皇族用のプライベートビーチに私達アーランド勢は立っていた。
尚騎士達はブーメランタイプの水着を着ていて、全身の筋肉を見せびらかせていた……体感的に気温が5℃位上がるから止めて欲しいんだけど。
「………これはもはや下着なのでは? 」
アリシアさんは大胆にビキニタイプの青い水着を着ている(嫌がるアリシアさんに無理やり着せた)。また微妙に胸が大きくなってる。もしかして私はメイドに反逆されているのではないだろうか?
私の家臣ならば私に忖度して胸は控えめの大きさになるべきだろう。しかし数年後の私の姿だと理解している私は寛容だ。この程度の無礼は許そうではないか。
「だったら胸を握るのを辞めて頂けますか? 」
「私の握力は9キロも有る。これ以上大きくなるならば握り潰す事も可能だ」
「姫様……少しは運動しましょう。後、その程度じゃ潰れませんよ」
くそう。胸まで鍛えてるなんて卑怯だ。それは脂肪の塊の筈だぞ。
「因みに拓斗の答えは間違っている。答えは海底に沈んだ金塊を潜水艇で回収する事だ」
「えぇ……」
私は宝物庫から潜水艇を1隻程運び出させる。巨大な扉から数体の大型の岩製のゴーレムが海まで潜水艇を運んだ。
「私の作ったこの潜水艇は有人型潜水艇で有りながら、深度1万mまで潜航できる上に魚雷発射管を4門積んだ大型の潜水艇だ」
「潜水艦じゃないか! 何で魚雷積んでるんだよ! 」
「残念ながらこの世界の海は脅威で溢れている。深海には怒れるマダムが居るかも知れない」
私の見解によると、マダムなら深海も余裕で耐えれる可能性が有る。
何故ならば、魔法を使えば私も耐えれるからだ。
私に可能である以上、マダムに不可能な筈がない。お兄様からの毎分メールによると、既に和の国での予定を終えてるのに、戻ってこないのは再教育をサボりたいからだとマダムが荒ぶっているらしい。脅迫して私を帰国させようと目論むなんてお兄様は卑怯だ。漏らしそうになったじゃないか。
流石に私事で転移装置は使えないので陸路を使い、海底を歩いて私を捕縛しに向かってきている可能性も有るだろう。私なら飛翔魔法で空を飛んで移動するけどね。
更に言えば、水棲の魔物も居るからね。
だって探しに向かう沈没船はこの島の外だし。この島は金塊の輸送ルート上に存在し、少し前に魔物の襲撃で沈んだ輸送船が有るのだ。金塊は私の物だ!
「いくら積まれた! 」
「むふー。4割くれるって」
一度沈んだ船から金塊を回収する術を和の国は持っていない。しかし金塊は惜しい。特に和の国ではこの輸送船が沈んだ影響で金が高騰して困っている。
私の悪魔の囁きに少し前まで円満の微笑みだった外務大臣が脂汗を流しながら各方面と交渉した結果だ。
因みに武士達は近海でクラーケン狩りをする武装飛空船に乗って、アーランドの軍事力を見せつける予定だ。
和の国は自力で帝国からの侵略を退けていた事で、驕りと言う程ではないが、アーランドの軍事力を少し過小評価しているきらいがある(ヤマタノオロチ戦で既に改めてる)ので、我が国の飛空船が如何に優れているのか見せつけて反アーランド的な動きをさせない様に力の差を見せつけるのだ。
「さあ、行くぞ。集まれ水の精霊【精霊女王の号令】」
私の言葉に周囲の水の精霊が集まり出す。その数は両手で数えられる程度だ。本当に和の国は精霊居ないね。海なら水の精霊も居るだろうと思ったけど、予想よりも遥かに少なかった。
――わ~女王様だ~――
――女王様、何か用?――
「近くに沈んだ船がある筈だから案内して」
――良いよ! ――
――私達に任せて! ――
私達は潜水艇に乗り込んで海へと航海を開始した。因みに騎士達は乗り込めないので海岸で待機だ。ポージングをキメてるので暇はしないだろう。
「アレ……何で私水着を着せられたのですか? 」
アリシアさんは釈然としない表情で椅子に座っていた。似合うから良いじゃん。それに終わったら海水浴はするよ。三日後くらいにだけどね!
アイリスは善悪のどっちかと言うと極悪人です。自分の世界を犯す存在は大国でも一切容赦せずに牙を剥きます。
Q・帝国を許す事ないの?
A・死ぬまで許しません。
アリスティア「帝国戦で戦死した将兵を全て返してくれるのならば許してあげる。それ以外では絶対に許さない」
Q・4割も渡して良いの?
A・和の国「全部失うよりは………6割戻ってくるんだ。惜しくない……惜しくない(白目)」




