302 都散策 ②
「うっぷ……姫様……これ以上は……」
「流石に甘味だけ食べ過ぎた……」
都を散策して和菓子風のお菓子や、東南アジア系のお菓子を買い占めていたら、騎士達がグロッキー状態になってしまった。
一応私が魔法で調べてから食べているので毒は無い。腹痛も魔法で問題ない。単に、甘い物を食べ過ぎたのだろう。
「だらしないなぁ……」
「普段小食過ぎるのに甘い物だけは際限なく食べれる姫様がおかしいのです」
「甘い物が主食と言う噂は事実であったか……」
普段から肉食生活の彼等には甘い物巡りは最初は珍しさから楽しめても長期は苦痛の様だ。
仕方ないので近くの屋台で焼き鳥が売っていたので、小休憩を取ると、貪るように食べていた。因みに護衛はしっかりとしている。半分は食べながらも動ける姿勢だし、残りは食べてる人が終わるまで護衛に努めている。
和の国の人達は護衛が護衛対象の前で食事を取るのがあり得ないと言う表情で見ていた。
でも、アーランドじゃ何時でも最高のパフォーマンスで動けるように食事はしっかりと取るのが風習なのだ。ぶっちゃけ国王の前でも食事中は食事を止めない。食べる時間は食べるのが仕事だと考えられているのだ。後はアーランド軍は質は求めないが、飢餓だけは耐えれない。
鍛え抜かれた肉体は相応の栄養を必要とするのだ。これを咎めると忠誠心に関わる程反発する。アーランド史上唯一の軍の暴動は食料の輸送が色々な理由で遅れに遅れた時だけだ。
その時は上層部の指令を聞かずに、周囲の魔物を見つけ次第に殺して食べていたらしい。日本人以上に食べる事に拘るのがアーランド人である。因みに遅れていただけで完全に食料が尽きた訳じゃないぞ。食料制限に耐え切れなかったんだ。
帰ったら補給部隊を拡充させようと考えながら、私は彼等が食べ終わるのを待った。因みにヘリオスは滞在している宿から出た時から、今に至るまでお肉を食べていると言う超無礼な行為を平然としている。
クート君に後で怒られるね。食べ過ぎだよ。ドラゴンだから本来のサイズ的にはオヤツを食べてる感覚なのだろうけどね。食費だけでアリシアさんの額に青筋が浮かぶレベルである。最も私の収入的には欠片も問題が無いので放置しているのだが、幾ら使っても資産が増える一方なので、後100匹くらい居ても困らないぞ。いざとなれば帝国に毎年税収の7割程献上でもさせれば良いさ。断ったら無制限爆撃を認めるまで続けると言えば笑顔で差し出してくるだろう。帝国もこれまで似たような恫喝を行っていたので文句も言えまい。
暫く休憩した私達は取り敢えず都の甘味を集める事が出来たので、今度は普通に市場を歩く事にした。
むふー。この国の甘味のレベルは高い。駄目駄目な店もそれなりに有るが、美味しい店も多かった。今日だけで甘味を2500個程宝物庫に収納した。帰ったら一部は孤児院に寄付しよう。美味しいお菓子は分かちあう物(分身は例外)だからね。
市場も活気がある。良い国だ。取り敢えずアーランドに無い果物を探そう。
「こ、これはバナナ? 」
直ぐに果物屋は見つかった。しかしこの店に売っているバナナだけが売れ残っていた。他は売り切れだった。まあ、時間的に仕方ないけどね。朝早くこればもっと多くの物があっただろう。他の果物は別の店をまわれば良い。今はバナナだ。
「おじさん、これ何で売れ残ってるの? 」
私の言葉に店主のおじさんが項垂れる。
「……いらっしゃい。これは気味が悪いって誰も買ってくれないんです」
「バナナだよね? 」
「ええ。でも、コイツは種が無いんです」
ほほう。ほうほう。種なしバナナですと……むふー。味によっては輸入も厭わないぞ。
でも何で種無しだと売れないんだろう。横のアリシアさんと拓斗を見るが、首を傾げている。騎士達は……果物なのか理解出来ていない様だ。後、甘い果物を探しているのを察しているのか、興味も無い。己の仕事を全うしているので味見は結構ですと言う雰囲気を発している。そんなに甘い物に飽きたのか。
「何で種が無いと売れないの? 食べやすくて良いじゃん」
「……バナナ自体は珍しくないんです。でも、種が多くて食べにくいから元々余り売れないので……それでも頑張って育ててる奴が居るんですが、偶然種の無い物が生まれたんですが、元々人気の無い果物が行き成り種が無くなるなんて怖くて食べれないって。
味は良いんですがね」
なんだ、未知への反発か。店主の言葉に和の国の人達も眉を顰めている。
「あの、アリスティア王女殿下。私もバナナは食した事がありますが、余りおススメできません。
それに店主の言う通り種の無いバナナは怪しげな物です」
外務大臣もおススメはしないそうだ。食べにくいせいで人気が無いと言うのも有るのだろう。果物としての価値が低いのかも知れない。
取り敢えず鑑定魔法で毒が無い事を確認して一本食べてみる。うん美味しい。地球のブラジル産バナナと変わらない。
「大臣、これを我が国に輸入したい」
「こ、これをですか? 」
「勿論。店主、取り敢えず手付金……お金足りないや。金で良い? 」
「勿論構いません! 」
売れずに山積みになっていたバナナが売れると分かって店主も嬉しそうだ。
「じゃあ取り敢えず金を1トン程手付金として」
「「!?」」
「あれ、足りない? じゃあ2トンくらい? 」
「いえ、足りてます。と言うかこれはそれ程高くありません」
「じゃあ残りは生産量の増加に使って。売れていないという事は生産量も少ないのでしょう? この金で生産量を増やして」
人気が無いという事は生産量が少ない筈だ。と言うか、この種無しの品種が出来たばかりなので、更に少ないだろう。アーランドの需要を満たせるとは到底思えない。
ならばここで投資するのも悪くは無いだろう。ポンポコさんも新しい貿易相手が見つかったって教えたら喜ぶだろうね。
ところでバナナが有るという事はアレも有るかもしれない。果実を扱ってる店主についでに聞いてみた。
「ああ、あれですか。今は店にありませんがありますよ」
「良し、それも輸入したい。大規模で」
何という事だ。この国にはカカオが有るらしい。しかもこっちもそれ程売れてる訳じゃない様だ。
私は拳を握りしめて、天高かく掲げる。
カカオが有ればチョコレートが作れる。素晴らしい発見だ。
この世界にもチョコレートは存在する。帝国の主要産業の一つだ。帝国南部でのみ生産されている独占品だ。そう独占品なのだ。
アーランドは第三国を経由して極少量だけ購入していたのだが、帝国如きがチョコレートを独占するのが気に入らなかった私は戦争時に帝国の南方地帯、主にカカオの生産とチョコレートの加工施設も空爆の対象にしていた為に、現在帝国ではチョコレートは碌に生産出来ていない状態だ。
更に運が悪い事に、その南部領主はチョコレート産業で金だけは持っていた。そして私は面倒だから爆撃だけで、南部地域は放置していたのだ。ぶっちゃけ帝国南部の領主は爆撃だけで私から略奪を受けてないし、賠償金は速攻で払ったので被害は主要産業が壊滅しただけだ。それはそれで大問題だが、金は多く残っている。
そのせいで、皇帝になりたい皇族は南部貴族を抱き込んだ結果、現在内乱の主戦場の一つになっている。つまりカカオは無いし、加工も出来ない状況で内乱の主戦場になった帝国からチョコレートは消え去ったのだ。内乱が終わった時にカカオと加工技術が残ってると良いね。
しかし、私は戦後に気がついた。私はどうやってチョコレートを手に入れれば良いのかと。
他にも甘味は有るからと現在まで諦めていた。どうせ年に1度くらいの頻度でしか食べれなかったのだ。
しかし、カカオが手に入るなら加工も出来る筈だ。
「?」
「チョコレート? 確か異国にそんな名前の菓子があると聞いたような……」
しかし和の国にはカカオは有れど、チョコレートに加工していなかった。店主はチョコレートの存在を知らず、大臣は聞いたことが有るかも知れいと言う程度の知識だ。カカオからチョコレートを作れる事も知らない様だ。
ぐふふ、これは買い漁ってアーランドで加工してしまおう。何なら和の国に技術支援して現地生産でも構わない。私の中で和の国はオストランドに次ぐ重要な同盟国に格上げされていた。どうせ遠方の国だ。アーランドの権益を害する相手じゃないのだ。日本の様な感じで発展させるのも悪くは無いだろう。
但し、ここで私は致命的な計画の欠陥に気がつく。
私はカカオがチョコレートの材料だと知っている。しかし、どうやってカカオがチョコレートになるのか分からない。
そして前世での話を思い出した。
アイリス「パパ、明日のバレンタインデーに拓斗にチョコレート渡すけど、カカオってどうやってチョコレートになるの? 」
カールス「Watts! 原料から作る気かい?」
アイリス「うんそうだけど」
カールス「…………………カカオをチョコレートに加工するには国家資格が無いと加工出来ないんだ。だから諦めないさい」
アイリス「資格? 工場で作ってるんでしょう? 」
カールス「そうさ! 工場でチョコレートおじさんがせっせと作ってるのさ! 」
アイリス「成程」
ふむ。
「異界門を作ってアメリカに攻め込まないと」
「!? どうしてそんな発想が! 」
拓斗が驚く。
「チョコレートおじさんが早急に必要だ。アメリカを脅してアーランドに派遣させるんだ」
古巣だけど、派遣しなければ容赦はしない。最悪また世界恐慌になるね。
「アレか、アレならおじさんのジョークだから! チョコレートなら作り方知ってるからね」
「なん……だと」
前世パパのジョークだったのはショックだ。気がつかずに今まで信じていたのもショックだ。
しかし拓斗がチョコレートの作り方を知っていると言う事に驚愕した。
思えば前世でも私の知らない事を拓斗は数多く知っていた物知りさんだ。良し、アメリカ侵攻は却下だ。
拓斗は純粋な知識量ではアイリスに全く勝てないので、現在興味を持っておらず、将来的に興味を持ちそうな雑学や知識を山を張って覚えています。そして、大体それが当たるのでアイリス&アリスティアの中では拓斗は博識な人物だと思われて居ます。
カールス「あっさり信じられたせいで、HAHAHAジョークだよとは言えなかったよ(´・ω・`)」
アリスティア「チョコレートおじさんを貸し出すか世界恐慌の震源地になるか選べ」
アメリカ「!?」