297 研究所②
暑いとやる気出ませんよねって言い訳を書いてみました。
遅れてすみません。熱さと多分スランプかな? 書く事は決めてても書く気が中々起きなくて遅れました。
施設内部は非常灯の様な赤いランプだけ着いていた。メインの照明は完全に消えている。魔力不足か、魔導具としての寿命かは分からないが、完全に施設が死んでいる訳では無い様だ。
但し、ドアなどは開かない。自動ドアの様だが、魔力が足りないせいで機能していないのだ。更に通路の各所には警備ゴーレムが倒れている。これも機能停止している。
「うーん。性能的には【ソルジャー・ゴーレム】よりは頭が良いかな? 中々の人工結晶を使っているね」
人口結晶はゴーレムの頭脳だ。これの性能でゴーレムの強さが変わる。現在この大陸で運用されるゴーレムはこれの性能が低すぎて自立的な行動が出来ないゴーレムが主流だ。つまり近くに術者が居て、命令を送らなければ役に立たないのだ。
しかしつまらない。この施設に侵攻してから私の頬は膨れたままだ。
「機嫌直そうよ」
「私ならここからボクシンググローブを飛ばして侵入者の股間に直撃させる罠を置く」
私は床をペㇱペシ叩く。しかし罠が無い。私の言葉を聞いた全員が股間を押さえて2,3歩下がる。
「それに、ここから絶対に取れないアフロを落して侵入者に強制装備させる」
天井を見るがやはり罠が無い。
「この施設は駄目だ。まるでお話にならない。何で罠が無いんだ! 」
「アリス落ち着いてくれ。普通の施設にそんな嫌がらせ目的の罠は無い。君の作る施設だけだ」
「何で罠を仕掛けないの? これじゃ侵入し放題じゃん」
「だから警備ゴーレムが居るんだろう。既に100体以上見つけたじゃないか。明らかに重要な施設だろ」
「違う。ゴーレムなんて所詮は足止めだよ。実際王国騎士なら余裕で倒せる」
「無論です」
「少し手間取るかもしれませんが、戦闘後に立っているのは我々です」
「壊してぇ……壊してぇよ……」
「フヒヒ。戦いが俺を呼んでいる。誰かそのゴーレムに魔力を注げよ」
「死闘だ! 死闘がしたいんだ! 」
一部は闘争本能を抑えきれずに暴走を開始している様だ。本当にこの人達どうすれば良いのだろう?
「良し、後で勇者と戦っていいから我慢しろ」
「っえ! 」
お兄様の言葉に拓斗が物凄い嫌そうな表情で振り返る。
「「「「うおおおおおおおおおおおおおおお」」」」
騎士達は物凄い嬉しそうだ。
「なに、貴様は勇者なのだろう? ちょっと我が国の精鋭と遊んでやれば良い……ついでに殺されてしまえ」
最後の方が聞き取れなかったが、確かに拓斗は女神の選定した勇者だ。その強さが気になる人は多いだろう。
拓斗が縋る様な眼でこちらを見る。私は無言でサムズアップした。大丈夫だ。私がフォローしてあげる。拓斗が安堵の表情を浮かべる。
「終わった後は私が一杯奢ろう」
「「「「うおおおおおおお! 」」」」
「……だよね……君はそういう娘だよね。ハハハ……」
諦めるんだ拓斗。こうなってはもう戦うしかないんだ。彼等の眼を見るんだ。戦う事しか考えていない。王国で騎士になる人間なんて皆こんな感じだ。闘争本能を研ぎ過ぎたせいで、それ以外を放棄しているのだ。戦う事しか考えていない。
「拓斗なら勝てると信じてる」
取り敢えず私は拓斗を応援する。勇者だし勝てるだろう。
「止めて! 皆物凄い表情でこっち見てるから! 」
剣を舐めてる騎士が居るけど、うちの騎士団っていつから世紀末モヒカンになったのだろうね。表情は微妙に見えないけど、全員拓斗を見ている。
「フヒヒ、事故……訓練中の死は事故だ……」
「コイツは危険だぜぇ……ここで抹殺しなければ」
「貴様は姫様に近づきすぎた」
なんかよく聞き取れない呟きがそこら彼処で木霊している。そのせいで誰が何を言っているのか分からない。唯、空気が変わった気がするけど、まあ良いか。取り敢えず壁に貼ってあった地図に名称の書かれていない区画が有ったのでそこに向かう。大抵そういう場所は重要区画だ。それに土の精霊王代理の気配が何故かこの施設からするんだよね。ヤマタノオロチを倒しても出てこないと思ってたらこんな場所に隠れていたのか。ただ、力が弱すぎるのと、施設の素材にダークマター合金が使われているせいで、この施設に居る事しか分からない。
そんな感じでつまらない探索を続け、30分程で厳重な扉を発見した。
これまで通り騎士が蹴破ろうと蹴りを入れる。
「ぬおおおおおお足がああああ」
「馬鹿だな。こういう時は剣で! 俺の剣がああああああああ」
「お前等役に立たねえな。俺の戦槌で! 折れたああああああああ」
何で脳筋ばかりなんだろうね。足を痛めた騎士は治療魔法で治して、武器を壊した騎士は涙目になっている。
と言うかこれでも壊れないって頑丈な扉だな。ダークマター合金製でも傷くらいはつくはずだけど……フム。
「オレイカルコスだね」
「知っているのかアリス」
「勿論だとも」
神の作りし至高の金属と呼ばれる物だ。ぶっちゃけこの世界じゃ手に入らない。
「そんな金属が存在したのか……アリスは何で知ってるの? 」
「魔導戦艦には技術書が積まれていたからね。その中にオレイカルコスの記述が有ったんだよ」
「しかし神の金属か。どうやって手に入れるんだ? 」
「簡単だよ。下級天使をぶっ殺せば良い。下級天使はオレイカルコス製だからね」
「え、下級天使ってゴーレムなのか! 大発見じゃないか」
下級天使って一見他の天使と変わらないからね。生物だと思われているんだ。
でも中位天使や上位天使は普通に喋るのに、下級天使は一切口を開かない。己の職務に忠実な神の尖兵だと言われている。
しかし実際はゴーレムなので喋る機能を持っていないだけである。因みに強さは中位天使を超え、上位天使に匹敵するらしい。中位天使が部隊長で上位天使が指揮官的な感じかな?
素晴らしい。機会が有れば女神から10万体程分捕ろう。
「まあ、そんな物だから下級天使を破壊すればオレイカルコスは手に入るよ。但し、下級天使は基本的に集団で動いてるし、戦闘を長引かせると仲間を呼ぶらしいから手に入れるのは大変だね」
「……駄目だからね? 」
お兄様が突然真剣な顔で私の肩を掴む。
「何が? 」
「天界に宣戦布告するのは止めてね」
「私からするつもりは無いよ。下級天使は資源だけど」
「いやいや、下級天使にも存在意義が有るだろう。君の場合は絶対に乱獲するじゃないか。世界の均衡が崩れて世界が滅びるとか御免だよ」
済まないお兄様。言ってないけど既に世界は危機を迎えているんだ。今は言う気無いけどね。こういう物は言うべきタイミングがある筈だ。「話は聞かせて貰った世界は滅亡する」って言えるタイミングを私は準備しながら待っているのだ。後は邪神が何時復活するのか私は知らない。まあ、異界門の封印が壊れれば邪神の端末達が攻め込んで来るから、いずれ悪魔王に会うべきだけどね。
後、邪神相手にゴーレムが役に立たないのは邪神大戦で証明されているので問題ない。精々端末を破壊できる程度だ。これは私のゴーレムも同じ。邪神本体は魔力を食うので魔導兵器の類は効果が薄いのだ(無い訳ではない)
因みに中位天使と上位天使なのに、下位天使ではなく、下級天使と呼ばれてる当たり、天使達も物扱いしているのだろう。自分達と同じ階位を与えていないのだ。
「まあ、それは今は関係ないけどね」
「そうだね。ところでこの部屋は何があるのかな? オレイカルコスを使う程の部屋なのか? 」
「うん。コントロールルームだね」
「……何で分かるんだい? 」
「だってここにコントロールルームって書いてあるじゃん。ついでに関係者以外立ち入り禁止とも書かれてる」
「………」
私の言葉に全員が唖然とした表情になる。
「もしかして古代言語読める? 」
「読めなかったら魔導戦艦に積まれてた魔導書読めないけど」
「そう言えばそうだったね。当たり前の様に言うからすっかり気にしてなかった。
そうか……読めちゃったか。何時から読めるんだい? 」
「3歳くらいの時には解読してたよ。城の図書室に古代語で書かれた物も置いてあったし」
「聞いてない。アレは父上が若い頃に遺跡で発見した物だ。誰も読めず貴重な資料として保管していた物だぞ」
「浮気の離婚裁判の出頭命令書なんだよなぁ……」
私の言葉に全員が項垂れる。そうだよね。何でそんな物を後世に残る様な保管をしていたのか理解出来ない。
他にも図書室の隠し部屋に古代語で書かれた書物有るけど、アレは禁術も載っているから内緒だ。リコリスの遺産だろう。厳重に封印されていた。まあ私だから余裕で解除したけどね。ちょっと精霊が助けてくれなかったら死んでる程度の難易度の呪いだっただけだし。なので王国には内緒だ。
見つけたのは赤ん坊時代だ。あの頃は私も若かった。一瞬の隙を突いて【飛翔】で部屋から脱出して好奇心の赴くままに城中を飛び回ったものだ。最も連続で飛べる時間は最初の頃だと5分程度だったので王女が廊下で力尽きてると言う事件が頻発した結果、私の教育係にマダムが抜擢されたのだ。
禁術も良くある隕石を召喚するだけの魔法だから興味ないしね。範囲広すぎるし、目の前に落としたら自分も巻き込まれるのは不可避な使い道が少ない魔法だったよ。がっかりだね。但し今の私が使うと大小数百の隕石が降り注いで下手をするとこの星が滅びるけどね。
「そして危険物はそこの棚に置かないと入れないらしい」
凄いよねディスプレイが有るじゃん。この世界だと近未来物だよ。魔導戦艦にもそんな物積んでるし、アーランドでも試作してるけど。
警備システムは生きてるね。コントロールルームに入る前に空港の金属探知機みたいなものが設置されている。
私は取り敢えずそこを通ろうとする。ビーと言う警告音が鳴り、画面に「危険物の持ち込みは認められない」と表示される。
「危険物持ってるのかい? 」
「多分銃でしょう」
基本的に両脇のホルスターに入れてるし。私はホルスター毎台に置いて再び検査を受ける。しかし再び警告音が鳴る。
「宝物庫に反応しているとか? 」
お兄様が首を傾げる。鎧は来てないから手持ちの危険物はもうない。竜杖もカリバーンも宝物庫に仕舞っている。
私も分からず首を傾げる。
「姫様、その魔法の櫛では? 」
アリシアさんが閃いたと言う表情で告げる。
「危険物じゃないし。平和の為の物だし」
いずれ人類全てがケモナーに至った時に恒久平和を実現させる為の魔導具を危険物と申すか!
「い、いえ。一応魔導具ですし……」
私がフンフンと鼻息荒く荒ぶると、お兄様が私を諫める。
「フン、これが危険物の筈がない。実証してあげる」
私は魔法の櫛を入れてるホルスターも台に置く。そして魔法によるチャックが入った瞬間、最大級の警報が鳴る。
横の画面には【一級危険物である可能性が高い為に封印を施します」と表示された。
「あ、コラ止めて。そんな事をしたら! 」
私が慌てて魔法の櫛を回収しようとしたが、台に結界が張られ、私の手が弾かれる。それと同時に検査台が煙を吹いた。
「あーあ。壊れちゃった」
一瞬で防御陣形を取り、私の前に騎士達が飛び出たが、魔導具は煙をあげるだけだ。
「何が起こった……」
「お兄様よ、私にそこら辺で手に入る隷属の首輪を付けたらどうなると思う? 」
「そりゃ君程の魔力だと市販の魔導具何て壊れるか弾け飛ぶが……そういう事か」
そういう事だ。内包するエネルギー量が封印魔法を破壊したのだ。魔導具が壊れたのはその負荷が強過ぎたんだ。
「危険物じゃないか! 」
「むふー。魔法の櫛は魔力でも稼働するけど、一回使うだけで私も2~3日は魔力の枯渇で意識不明になる程に燃費が悪いのだ」
これ程のエネルギーを別次元から好きなだけ取って来れる虚無機関が無ければ私も毎日アリシアさんに使えないのだ。
「まあ、使われてる術式が崩壊したら大変な事になるけど。制御出来てるし平気だよ多分」
虚無機関は何処からどうやって別次元からエネルギーを取り出しているのか不明だから確証はしないよ。
更に言えば魔法の櫛自体も使い方次第では兵器だ。臨界暴走させれば80キロトンレベルの原爆に匹敵する爆発を起こせるぞ。
もっとも、も っ と も、平和の為の魔導具だから大丈夫だ!
私は拳を握りしめて力説した……が、誰も賛同してくれなかった。
「とんでもない危険物を持ち歩いていたのか」
「まあ、勝手に使うと呪いが掛かるから大丈夫だよ」
万が一盗まれたり無断使用しようにも生体認証式だから私が居ないと魔法の櫛は動かないし、解析魔法を掛ければ術者は死ぬ。大丈夫だ問題ない。
その時、煙をあげる検査台から再び警報が発せられる。
私は画面を見た。
「テロと判断し、当施設を一時閉鎖。警備ゴーレムを召喚するだって」
「はぁ……頭が痛いよ」
「多分今までの警備ゴーレムとは違うスペシャルなゴーレムの筈だね」
どうにも鎮圧用のゴーレムじゃない気がする。私はッハ! っとして天井を見上げるが、アフロが降って来る事は無かった。どうやらこの研究所を作った人とは話が合わないらしい。
そして左右の通路に魔法陣が幾つか現れる。
「殿下と姫様を御守りしろ」
「ぶっ壊してやる」
騎士達が闘気を纏いながら武器を抜く。
これまで彼等に活躍の機会は無かった。闘争本能を満たせる機会は無かった。
だからだろう。彼等の眼は闘志で溢れていた。
魔法陣からゴーレムが現れ始める。騎士達が蛮声を上げながら先手必勝とばかりに突撃し、剣を振り下ろす。転移魔法じゃなくて召喚魔法か。なら出るまで隙だらけだもんね。合体ロボだって合体中に破壊するのが一番楽なのと同じだ。
一体のゴーレムが召喚と同時に真っ二つにされた。そして残りも破壊しようと動き出さなかった。
ゴーレム達は起動していなかった。お前もかよ!
この分だと多分ゴーレム関係は全滅なのだろう。
そして先ほどまで漸く活躍の、そして闘争本能を満たせる場だと確信していた騎士達がまるで置物の様に固まっている。
隣のお兄様も可哀想な物を見る目で彼等を見ている。
全員が錆びた人形の様にぎこちない動きで顔をこちらに向けた。
「「「「 (´・ω・`) 」」」」
そんな顔で私を見ないでよ。