296 研究所①
不本意極まりない。私の初の人工衛星と和仁の撃ち上げが、和仁とヤマタノオロチの撃ち上げに変わってしまった。人工衛星積むスペース無いじゃん。
「良いじゃん。ロケットなんて20発くらい完成してるし」
「衛星も20機完成してるんだけど? 」
分身がくだらない事を言う。一機余るじゃん! 作るの大変なんだぞ(分身が)。
「まあまあアリス落ち着いて。詫びにケーキを買うからさ」
「まあ、一機くらい余っても問題ないよね。急ぎの仕事じゃないし」
(((チョロイ)))
まあ、私が食べた事の無いケーキが食べられるなら我慢もしよう。私は甘党なのだ。
こうしてヤマタノオロチの処遇が決定した。そう、惑星外追放だ。これならば帝国もヤマタノオロチを使う事など出来ないだろう。太陽までヤマタノオロチを回収する術を持っているとは思えないからね。私? 出来ない事は無い。本気を出せば単身太陽に突撃出来る(無事にとは言っていない)。
「ふっふっふ。帝国め。こんな隠し玉を持っていたとは思わなかったけど、もう使えないぞ」
むふー。悪い計画は廃棄しちゃおうね。
「帝国の隠し玉と決まった訳じゃないぞアリス」
「お兄様、こんな怪物を他国に隠すなんて意地の悪い事するのは帝国くらいだよ。仮に勝手に復活しても自国に被害が出ない様な悪辣さだから間違いない」
「そう言われると否定できない様な……」
何せ毎年のように国境沿いを荒らしてアーランドを疲弊させ続けた悪党だ。こんな事を考えていてもおかしくない。最悪制御する術が無くても自国に被害は無いからね。なんて卑劣な奴等なんだ。
私の義憤は高まり、ヤマタノオロチの惑星外追放は絶対に実行してみせる。ついでに和仁も大気圏突入だ!
因みにヤマタノオロチのコアは魔力がまだある筈なのに再生しない。どうやら再生されると採取される事を理解したのだろう。再生するだけ無駄なのだ。
私は封印効果のある包帯でコアをグルグル巻きにする。これだけで3年は保つだろう。後は分身に任せるだけだ。このコアの魔力を無理やり奪ってロケットの燃料にする装置に組み込むのだ。
「どの程度時間が掛かる? 」
「別に装置自体は完成してるから予定通り、1ヵ月後には打ち上げだね」
分身に尋ねるが、問題は無い様だ。
「会談中申し訳ありません」
「ん? 」
今後の予定を話していたら騎士の一人が入ってきた。
「ヤマタノオロチの解体が終わりました。解体済みの物は姫様の分身に預け、全て宝物庫へ収容が完了したのですが……」
「何か問題が起こったのか? 」
お兄様の問いに騎士が頷く。何か問題になる様な事が有ったっけ?
「戦車等の撤収中に崖の一部が崩れ、人工物と思われる壁が出現しました。恐らく現代の物ではないと思われます」
「古代の遺跡か……」
古代の遺跡か。時代によるが、古代魔法王朝の代物なら得られる物も多そうだ。
「アリスは……発掘する気満々か。仕方ない交渉して来るよ」
お兄様は「仕事が山の様になってそうだなぁ……」と呟きながら天幕の外へ出て行った。
その間に私は考える。
ヤマタノオロチの事だ。さっきは帝国の仕業と言ったが、可能性の一部だ。帝国が制御装置を持っている可能性程度の話だ。知らない可能性も有る。
そしてこの島の事だ。明らかに人工の島なのは精霊を通して分かっている。
(もしかして天空島かな? )
嘗て古代魔法王朝時代に存在した英知の結晶の一つだ。古代魔法王朝時代は手頃な土地は大体貴族に与えてしまって、功績を上げた者への恩賞が不足していた。その為、古代魔法王朝は天空島と言う魔導具を作った。空に島を浮かべたのだ。それだけの技術で作られた島を功績を上げた者へ渡したのだ。
最も天空島自体にそれ程の意味は無い。巨大な領地を持つ貴族に比べれば限られた土地だ。名誉的な褒美だったのだろう。実際古代魔法王朝時代でも数に限りがある最先端技術だったはずだ。
天空島の存在は精霊王の記憶に残っているが、この大陸の歴史では眉唾物と言う評価だ。現存している物は無いし、今の魔法技術でも作るどころか理論も不明扱いだ。
もし、この島が天空島だったら……その価値は……無いね。だって再現できる魔法使い居ないしね。と言うか理解出来ないだろう。猿人にスマホを作れと言って現物だけ渡すようなものだ。
「交渉が終わったよ」
暫く思考していると、お兄様があっさりと戻ってきた。
「早かったね」
「向こうもそれ程興味が無いそうだ。ただ、憶測になるが彼等は天空島を知っている可能性が高い。ちょっと油断できないね」
お兄様が交渉中に天空島の話題を出したらしい。お兄様も精霊と契約しているので、この島が自然物じゃない事に気がついた様だ。
しかし、天空島と言う言葉に和の国の外務大臣はこれと言った反応を示さなかった。普通ならあり得ない。そんな物は空想だと笑うか、歴史的発見だと反応する。でも無反応。
和の国か……この国は精霊王の記憶に無い国だ。と言うか精霊王の記憶とこの辺りの地形が合わない。でも精霊王の生きていた時代って数万年前で地形が変わっているのは当然だ。
更に言えば邪神戦争で古代魔法王朝が戦略級魔法を連発しまくって大陸中の地形が変わったので地図は当てにならないけどね。
ただ、どうにも怪しい。別にアーランドに害意を持っている訳ではないのが救いだけどね。有ったら潰すけど。
「何を考えているのかな? 」
「和の国が古代魔法王朝の末裔の可能性かな? 」
知ってるのは末裔だからと言う可能性も有る。
「ハッハッハ。それを言ったら大陸中の全ての国家が末裔じゃないか」
「それもそうだね」
何せ大陸を統一していた国家だからね。皆末裔か。
2人で笑うと天幕から出る。外には完全武装した王国騎士と同じく完全武装の拓斗とアリシアさん。
「何でやる気満々なの? 」
「古の施設。そこに眠る警備システムとの死闘……漲ります! 」
うん。王国騎士は警備ゴーレムと戦いたいらしい。ヤマタノオロチが出落ちしたせいで闘争本能を満たせなかったのだろう。その瞳は闘志に燃えていた。脳筋である。
その姿に和の国の人達はドン引きしているが、アーランド人は闘争本能で生きているからこれがデフォだ。戦わないと生き残れない環境だもんね。国民一人一人が島津さん家の武士みたいなものだよ。流石に味方を殺す様な訓練はしないけどね。あの家は絶対におかしいと思う。
「拓斗は? 」
「何があるか分からないからね」
うんそうだね。古代の遺跡だ。お父様は何度か攻略した事があるらしいけど、警備ゴーレムが尋常じゃなく強いらしい。ふん、【マナ・ロイド】の方が強いしカッコいいもん。
取り敢えず露出した壁に向かう。と言ってもヤマタノオロチのすぐそばだ。
「確かに人工物だね。アリス解析出来るかい? 」
私は壁に手を当て、【解析】を発動する。暫くして眉を顰めた。
「主な材質はコンクリートだと思うけど……ダークマター合金が混ざってるせいで解析が難しい。
施設の大よそな大きさは分かるけど、かなり大きめの施設だね」
そして隠蔽された施設だ。入口? 何処にあるのか見当もつかない。まあ、多分閉鎖されてるだろうね。
「施設は生きているか分かるかい? 」
「魔力量から換算すると動力部は確実に死んでる。でも【保存】の魔法の効果は残ってるから内部は無事だと思うよ。下手をすると警備システムも生きてる可能性が有る」
動力が魔導炉なのかは分からない。そう告げるとお兄様は眉を顰める。
警備システムが生きている可能性が有ると言う言葉に反応したのはお兄様だけじゃない。私達の後ろに居る騎士達が闘志で溢れている。指や首をポキポキ鳴らして戦闘準備をしている。
「入口の場所は分かるかい? 出来れば入口から入りたい」
「無理だね。何処に入口が有るか見当もつかない。ここから入るしかない」
ピラミッドを爆破した人もそんな感じだったのだろう。
「と言う訳でやるんだ拓斗」
「何で俺が……絶対に聖剣の使い方じゃないよ。やるけど」
私の言葉に拓斗が精神剣を構える。この一見コンクリートの壁は非常に頑丈だ。更にこの特殊コンクリートはダークマター合金を混ぜ込んでいるせいで内部への転移が出来ない。成程、こんな使い方も有ったのか。
まだまだあるよ。この施設全体に【保存】の魔法以外に【強化】の魔法も掛けられているのだ。そしてこの壁を解析した結果、かなりの厚さが有る。下手をすると核シェルター並だ。
正直この強度の壁を破壊するのは難易度が高すぎる。爆破も【強化】の魔法のせいで効果が無いだろう。
しかし拓斗の持つ聖の名を冠する武具の頂点である精神剣は【強化】毎壁を破壊出来るだろう。剣自体の強度も申し分ない。ちょっとツルハシに改造しても良いかな?
「フ―……はあああああ! 」
拓斗が剣を振るう。その度に壁が砕かれていく。やはり分厚い。何度も剣を叩きつけ、少しずつ破壊していく。
そして暫く剣を振るい続けた結果、壁が崩落する。
「ッツ! 」
壁が壊れた瞬間ゴーレムが拓斗に倒れてきた。拓斗はバックステップで躱す。その瞬間全員が剣を抜く。私も竜杖を抜くが……
「動かない? 」
お兄様が刀を抜いたまま警戒するように近づき、刀でゴーレムをつつく。
「機能が停止してるようだ。アリス」
「任せて」
騎士達がゴーレムに縄を掛けて引っ張り、安全圏へ移動させる。拓斗が開けた穴を騎士達が包囲して警戒する。
私は動かないゴーレムの検分だ。
成程、私と同じようにほぼロボットと言う見た目だ。錆などの腐食は無い。素材はケチってるな。格重要な部位こそダークマター合金を使用しているが、他はミスリル等だ。
使われている魔法も残っているから【解析】する。この程度しかダークマター合金を使っていなければ【解析】は可能だ。
「やっぱり古代魔法王朝期の物だね。魔導戦艦で手に入れた魔法の術式で類似する物が多い。他の時代の物じゃないね」
「何で機能停止してるか分かるかい? 」
「単に魔力が無いだけ」
ゴーレムは魔力さえ有れば動く状態だ。
「つまり施設のゴーレムは動かない可能性が有るのか」
「殿下、内部を調べた結果、警備ゴーレムの格納部屋の様です。数十体のゴーレムが並んでいますが、全て機能しておりません」
がっかりした顔で内部を軽く偵察した騎士が報告してきた。それ程戦いたかったのか。
「ふむ、ゴーレムが沈黙しているのはありがたいな」
「その代わり騎士達のやる気が無くなったけどね」
今にも死にそうな顔をしている。何処かで戦わせないと心が折れそうだ。
しかし闘争本能を満たすのは後だ。まずは私の知識欲を満たすのだ。私が一番先を歩いて新しい発見をするのだ!
「姫様は後ろにお下がりください」
「我々が安全確認しますので」
「どんな罠が有るか分かりませんから」
ぐぬぬ、私はお兄様に脇を掴まれ、そのまま後ろの方へ運ばれていった。
「先陣をきるのは王族の誉れ」
「うん、それは戦場での話だからね。ついでに先陣きるなって最近言われ始めてるから。ほら、王族の戦死数がもう無視できないレベルだから」
「笑止」
私は最前線に立つぞ。
「どうして君は脳筋なんだろうね……」
「お兄様とは裁判所で話し合う必要が有る」
私を脳筋だと言うのか! 失敬な兄だ。
フンフンと怒りながら前に出ようと試みるが、お兄様が手を放す事は無かった。そして私の前には私が前に出ない様にみっしりと騎士が詰まっている。いや襲撃されたら動くスペース無いじゃん! 肉壁反対!
施設内では転移が出来ないのにこの仕打ち。私は怒りに震えながら施設内部へと侵攻を開始した。
「あ、施設の地図を見つけました」
格納部屋の扉を騎士が蹴破って通路に出ると通路の壁に施設の地図が普通に張ってあった。
むふー。何かやる気なくなってきた。イージー過ぎるじゃん。凶悪なゴーレムが山の様に出て来たり、施設の自爆装置が作動して爆発と共に施設から脱出するような感じの探検を期待してたのに……




