290 軍勢のアリスティア ②
私の決闘宣言はあっさりと受理された。外務大臣が何か言いたそうにしたが、私が睨みつけて黙らせた。と言うか討伐するなら最低限の実力を見たいだろうと、お兄様が告げたのも原因だろう。
封印庁の札術士達は私の実力に疑念を持ってる。だからそれを改めさせる。
「良いかいアリス。絶対に無茶しちゃ駄目だよ。これから討伐が有るんだからね」
「勿論だよ。私は賢者だから勝つのは当然だもんね」
「また慢心してる……」
まあ、これからヤマタノオロチの出荷が待っているので私に過度な負担をかける訳にはいかない。主戦力だからね。
と言う訳で決闘は式神勝負と言われる決闘になった。和の国は式神の本場だ。アウェー過ぎるぜ。
まあ、私が負けるとはアーランド側は誰も思っていない。
私の使える式神は【ペーパーナイト】だけ。そして強さはオストランド兵にも苦戦する雑魚だ。
じゃあ何故負けると誰も思わないのか。アーランド側は私のやり方が理不尽極まりない事を理解しているからだ。
都の外の草原には多くの観衆が集まっていた。一般人じゃない。政府の高官達だ。私の実力に興味が有るのだろう……変装した帝が観衆に混ざっているのは指摘しない方が良いのかな? 腰軽すぎじゃない?
こちらは私一人。向こうは100人。何でこんなに戦力差が有るって? 向こうの最強の式神を出すのに、これだけの人数が必要だからだ。まあ、私がどうぞどうぞと言ったら封印庁の札術士達は眉を顰めていた。
因みに私が負けてもアリシアさんを渡す気は無い。方針を全力で封印する事に帰ると言う条件だ。そして私が勝ったら黙ってろと言う条件である。
「では改めてルールを説明します。術者への攻撃は一切を禁止。式神は所有する物に制限は無い。異論は有りませんか? 」
「有りません」
「……儂等も異論はない」
「では決闘開始! 」
私が【クイック・ドロー】で宝物庫から人型の紙を取り出し投げる。人型は直ぐに半透明の騎士に変わる。
それを見た封印庁の札術士達が眉を顰める。流石は札術の本場だ。【ペーパーナイト】の脆弱さが分かったのだろう。と言うか完全に実体化すら出来てないからね。正直札術だと私は3流程度の実力だ。
最も侮る気は無い様だ。向こうは長々と詠唱を行っている。こっちは投げただけで直ぐに実体化した。この速さは強みだ。最も術者を攻撃するのはルール違反なので待つけどね。
「「「白虎招来! 」」」
数分で詠唱は終わり導師のゲンロウが獣の形をした紙を投げる。
そしてそれは白い虎の姿に変わる。
「これぞ我が国の至高の式神の一柱じゃ! 」
出てきたのはでっかい白虎。
私は驚愕した。そしてヘリオスを見る。ヘリオスは涙目だった。
「……私のヘリオスより強い」
「うおおおおおおおおおおおおおおおん! 」
ヘリオスが泣きながら走り去った。
因みにクート君を見ると、『この程度か』と言う表情で鼻で笑っていた。
そして【ペーパーナイト】を見る。うん、普通なら勝ち目はない。
う、羨ましくないもん! ちょっとアレを解析して100万体くらい印刷して帝都をもう一度攻略したいとか考えてないし。
あ、今帝都は外壁無いんだった。私が制圧している間に全部爆破したからね。これでは甘寧ごっこが出来ないではないか!
良し、まずは帝都を陥落させる前にの外壁を再建して甘寧ごっこを行うのはどうだろうか? そして陥落させた後にまた爆破すれば良い。
うん完璧だ。作って壊す。それが宇宙の法則だって筋肉ムキムキの錬金術師も言ってるもんね。石材は帝国内で適当に略奪すれば調達できるだろう。
まあ、それは後々考えよう。何かお兄様から視線を感じるからね。私の思考を読まれたかもしれない。お兄様のシスコン力が高まっている気がする。ちょっと身の危険を感じるよ。
「やれ【ペーパーナイト】」
私の命令で走り出す【ペーパーナイト】。しかし、白虎が猫パンチをペシってすると盛大に地面を転がる。そして止まると同時に人型に戻った。
やだ、オストランド兵弱すぎ……間違えた。【ペーパーナイト】弱すぎ!
「……儂等の勝ち…ですぞ」
「勝負は手持ちの式神が無くなるまでですよ」
私は【クイック・ドロー】で10枚の紙を取り出し投げる。すると10体の【ペーパーナイト】が出現する。
「やれ」
走り出した【ペーパーナイト】達。4体が瞬殺され、残りが持っていた剣や槍を突き刺すがダメージは殆ど無い様だ。5分程で全滅する。
「また勝ち申した」
「まだまだ」
今度は100体出す。再び突撃を行う。今度は30分は耐えたが全滅する。白虎のダメージもそれ程ではない。
「何度やってもその程度の式神では白虎は倒せぬぞ! 」
「じゃあ次ね」
今度は1000体の【ペーパーナイト】を出す。導師を筆頭に札術士達が青褪める。
「これは皆の者! 」
「「「「はい」」」」
導師の掛け声に札術士達が詠唱を始める。すると白虎がオーラを纏いだした。成程、式神を強化したのか。私はそんな事出来ないぞ。
「全軍突撃せよ」
一糸乱れぬ動きで隊列を組んで突撃を始める【ペーパーナイト】。しかし白虎は素早い動きで蹂躙を始める。1時間も持たずに全滅してしまった。弱すぎじゃね?
「ふむ」
「何度やっても勝てぬ! 」
自信満々に告げる導師。勝利を確信したようだ。
でもこっちも解析は終わってるんだよね。
まずこの白虎は、自立型じゃない。動かすのは術者だ。しかも割と負荷が掛かってるようで、札術士の中には肩で息をしている人も居る。
「じゃあ次は1万体で挑もう」
「………」
その言葉に導師ゲンロウや札術士達は言葉も返さなかった。唯震えるだけだ。
その後一万体の【ペーパーナイト】は中々の勝負だった。しかし負けた。しかし白虎はかなりのダメージを受けている上に、強化も解けている。
「…ゲホ……ゴホ……これで」
導師ゲンロウ以外の札術士は全員気絶している。導師も物凄い疲れているようで、今にも倒れそうだ。気力を振り絞って意識を保っている。ちょっと負荷強過ぎない? もしかして式神のダメージの少しでもフィードバックしてる?
「じゃあ次は10万体ね」
「…………」
私の言葉に遂に膝を着く導師ゲンロウ。
私の両手からパラパラと人型の紙が零れ落ち、【ペーパーナイト】に変わっていく。
「やれ」
私の命令に【ペーパーナイト】は白虎に向けて走り出す。
対する白虎は術者が減り動きは最初の様な機敏さは失われている。
あっという間に【ペーパーナイト】の津波に飲み込まれる。直接制御が仇となったね。もう彼等に白虎を使役するだけの精神力が残っていない。
確かに白虎は強いと思うよ。うちのヘリオスにも勝てそうだ。でも直接制御しているなら術者を疲弊させれば簡単に勝利出来る。
【ペーパーナイト】の津波に飲み込まれた白虎は現在胴上げされながら槍で突かれてる。
ちょっと出しすぎたかな。外側に居る【ペーパーナイト】がやる事が無い。しかし、【ペーパーナイト】の欠点は使いまわし出来ない事だ。一度使えばそれでお終い。使い捨ての兵士だ。
立たせてるだけだと勿体ないのでこの世界にマイケルの偉大さを伝える為にお前達はス○ラーを踊るんだ。
こうして白虎を中心に蹂躙が行われ、外縁部の暇な【ペーパーナイト】がス○ラーを踊ると言うシュールな戦闘が発生した。まあ、ここから逆転されてもまだ10万以上の【ペーパーナイト】が残っているから問題ないんだよね。
【ペーパーナイト】は脆弱過ぎる欠点が有るので、ヤマタノオロチ出荷戦には参加させる予定が無いからここで使い潰しても何も問題ない。
まあ、印刷機で刷れば幾らでも作れる即席兵士だから。消耗分も1,2か月有れば元に戻るだろう。畑で兵士が取れるソ連もビックリするだろう。こっちの方が効率的だ。
「戦闘終了、勝者アリスティア殿下! 」
結局碌な抵抗も出来ずに蹂躙された白虎は消え去った。戦いを終えた【ペーパーナイト】は天高く指を掲げてポーズを取っている。
私はお兄様達の元に戻った。
「私の大勝利」
勝利のサムズアップをお兄様に向ける。
「今までも思ってたけど、君って本当に容赦無いね。
見なよ、和の国の人間が全員青褪めているぞ。脅し過ぎだ」
まあ、和の国が中央側に裏切らない様に私の戦力を見せると言う側面も有るからね。
重要なのは持ってる戦力の一端を見せる事だ。そう私の軍の主力がゴーレムだ。【ペーパーナイト】じゃない。それに私は札術の腕も良いとは言えないからね。一対一なら白虎にワンパンで【ペーパーナイト】がやられてたのを見れば分かるだろう。
問題なのは数だ。これだけの式神を使役出来る実力が有る事を見せた。
和の国もこれでアーランドを侮る事は無くなるだろう。チラリと帝を見れば、腕を組んで満足気に頷いている。彼からすればアーランド王国に懐疑的な貴族(和の国では貴族ではなく公家と呼ばれる)への圧力になると前向きに考えているのだろう。出なければこんな決闘は帝権限で止められる。
面倒事をさっさと終わらせたい私と、未だにアーランド王国と組む事に懐疑的な貴族への圧力をかけたい帝の共闘とも言える。これだけの戦力を最低限でも持っている事。そしてこの戦力が主力でも何でもない事を知った貴族も今後は騒ぎずらいだろう。つまり私の大勝利である。
「ぐ、軍勢……」
和の国の誰かがそんな事を呟いたが、誰が言ったのかまでは私は知らない。
さて、次はお前だヤマタノオロチ。
容赦なく心を折りに行くアリスティア。
因みに後に群勢とも呼ばれます。魔法で分身作れるので。