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転生王女の国家大改造 ~無敵な国を作りましょう~  作者: 窮鼠
ヤマタノオロチを出荷せよ
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289 軍勢のアリスティア ①

遅れに遅れてすみません。GWに向けて深残とか繰り返した結果疲れ果ててました。

 暫くどうやってヤマタノオロチを出荷するか考えていたら、いつの間にか目の前に萎れた老人が居た。

 どうやら考える事に集中し過ぎていたようだ。

 目の前の老人が封印庁のトップである魔法使い。この国じゃ札術士のトップで。魔導師ではなく和の国では導師と呼ばれるらしい。名前はゲンロウ・カネサダだって。

 そしてこの老人。私の目の前で土下座してる。

 いや、出合い頭に土下座しながらアリシアさんの引き渡しを求めたからちょっと私が不機嫌になっただけだよ。まあ、一方的と言うより懇願だから実力行使で片足どころか全身棺桶に入れるような真似はしない。威圧するだけだ。


「アリシアの引き渡しは断ったはずだが? それとアリス、怖いから威圧するのは止めなさい。引き渡さないから! 」


 お兄様の言葉に私は威圧を止める。そして落ち着きながら周囲を見ると、全員青褪めていた。子供の威圧に怯えるとは情けない。


「しかし! アレの討伐など不可能なのじゃ! アレを呼び起こす様な真似は……」


「ゲンロウ殿、これは国家の決定ですぞ。その話は既に済んだ事です」


 外務大臣のヨシオキが歯を食いしばる様な顔で導師を叱責する。ああ、まだ怯えてるんだ。そう言えば外務大臣って文官だもんね。私もそれなりに実戦を積んだ魔法使いだし、魔法使いの威圧は魔力が籠っているので、精神にダイレクトに作用する。気絶しないだけ気概の有る人なのだろう。


「じゃが、生贄さえ与えれば数十年は時間が稼げるのだぞ! 」


「既に生贄の一族は滅んだのです。アリシア殿は我が国の民でも無ければ、この国の為に身を捧げる義務も無い。第一、一族が滅びた時点で復活は確実なのですぞ。

 ここで数十年時間を稼いでどうなるのですか! 我等は良いでしょう。国を救ったと自己満足しながら己の生を終えるでしょうな。しかし、次の世代に災いを押し付けるだけです」


「生贄の一族は滅びておらぬ。まだ2人居るではないか。復興は可能じゃ」


「我が国の中でならそれは可能でしょうな。しかし、同盟国の民になっている以上は不可能です。

 特にアーランド王国はその手の交渉には応じないと話したでしょう」


「それを何とかするのが貴様等の仕事であろうが! 」


「戦争になりますぞ! 」


「たった2人の為に戦争など起きるものか! 」


 この糞爺殺して良い?と言うか2人ってさらりとアリシアさんのお父さんの身柄も寄越せと言うのか。

 お母さんは確か封印の一族じゃないらしいから要らないと。


「あ、アリス落ち着くんだ」


「大丈夫戦後処理はお兄様に任せる」


「面倒事を全て私に押し付けるのは辞めるんだ! リリーと遊べないじゃないか」


「それは私が代わりにやっておく」


 もうこの国焦土にしても良いんじゃ無いかと思ってきた。

 私の家族に手を出す奴は全て滅ぼすぞ。

 戦争にならない? 確かにアーランドは現在他国に戦争する力は無い。まずは帝国戦での損害の回復と、帝国に圧迫されていた時の経済的ダメージの回復が最優先だ。

 それに私がちょっと頑張った結果、経済界は構造改革を強いられている。

 しかしそれが何だと言うのだ? 私は何時でも戦争できる状態なのだ。私はまだアーランドが安全になったとは思っていない。だから戦時体制を止めていない。宝物庫内の工場群では相変わらず兵器製造が最優先だ。

 そろそろ武装飛空船もまた完成するし、10隻体制になるね。北方にでも送って中央の眼にとまらないようにしよう。


「で す か ら! 国の決定です! それ以上は反逆罪に問いますぞ! 」


「……」


 外務大臣頑張ってるな。ちょっと冷静になった。

 まあ、アリシアさんを引き渡すと言う大罪は置いておいて、よく考えてみる。

 一度状況を確認しよう。

 和の国は過去に一度ヤマタノオロチが復活した事が有ったそうだ。と言うか、その時初めてヤマタノオロチが存在する事を知ったらしい。

 その時は、完全に復活した訳ではないが、とんでもない被害が出たそうだ。その時に和の国の総力を結集し、多大な犠牲を出しながら封印を強化して再封印を施した。

 んー。それっておかしくないかな?

 一度壊れかけた封印を強化しても壊れている事に変化はない。封印を施した技術が残っていれば話は別だが、和の国はヤマタノオロチの存在を復活しかけるまで知らなかった。

 という事は、最初に施した封印の技術は途絶えている可能性が高い。全く違う封印術を施して、果たして封印は正常に働くだろうか。無理だと思う。

 これは一度話を聞くべきだろう。


「質問、生贄の間隔が短くなっているとかは有りませんか? 」


「「!」」


 当たりか。


「……何故それを。我が国の最重要機密じゃぞ。まさか貴様! 」


「いえ、言ってませんよ! 」


 まあ、封印の確認で解る事だからね。


「じゃあ再封印は出来ても長続きしない。確実に封印は壊れますね」


「何故解るのじゃ! 」


「生贄の間隔が短くなるはずがないんですよ。そうなるのならば、封印されたヤマタノオロチが封印を施されながらも力を蓄えているか……封印その物に欠陥があるのか。

 封印時の詳しい話を聞かせてください」


 最悪の状況だと、何時蘇ってもおかしくない。

 そして詳細を聞いた私は最悪の状況であると理解した。


「つまり封印を強化した札術士は封印後直ぐに死亡したと? 」


「はい、封印の際の負担が原因で直ぐに亡くなりました」


「何か言い残していませんでしたか? 」


「必ず蘇ると」


 術者は封印の破綻を理解してたなこりゃ。唯、それが生贄を与え続けないと蘇ると受け取られたのだろう。

 しかし違うのだ。2つの封印が干渉している可能性を危惧したのだと思う。


(ここって土の精霊王代理が居るよね)


 私は念話で精霊に問いかける。この国に来て直ぐに分かった。この国に土の精霊王代理が居る。


――居るぞ。こっちに呼ぶか? ……アレ、来れないって ――


 だろうね! これで分かった。封印を施した術者は精霊使いだ。そして土の精霊を統べる精霊王代理の協力を得てヤマタノオロチを封印したのだろう。と言うかそれ以外に2つの全く系統の違う封印魔法を使って怪物を封じるのは無理だ。一時的な封印なら兎も角、恒久的な封印には至らない。


(どの程度力が残っているか聞いて)


――良いぞ………もう無理らしいな。限界だそうだ――


 精霊の『もう』はどの程度の余裕が有るのかか分からないんだよなぁ。基本的に寿命が無いせいで時間の感覚が人間と違い過ぎる。


(私の見解が正しいのか確認取れる?)


――この距離なら話できるから大丈夫だ。

概ね間違いはない。現在は土の大精霊が抑え込んでいる状況だ。ここまで破綻すると生贄等役にもたたんそうだ――


 土の精霊が答えた。

 やっぱり私の想像通りか。これって洒落にならないぞ。

 私は立ち上がる。


「アリス? 」


「今この瞬間にも復活する可能性が有る」


「何故それが解るのじゃ! 儂等の見解では数年は余裕が有るのじゃぞ」


「封印に精霊が関わってる。なら精霊を通せば話が着きますので。

 と言うかこの国にに精霊と契約している者は居ないのですか? 」


 私の問いに外務大臣が答える。


「我が国には現在精霊が居りません」


(何で?)


――怪物に食べられちゃうから近寄らないんだよ。後は誰も見えないから移動したんじゃない?――


――そもそも、こんな『場所』に来る精霊何て滅多に居ない――


 私の問いに答えたのは光と闇の精霊だ。

 まあ精霊が気まぐれなのは何時もの事だ。いつの間にか居るし、相手にされないと判断したら何時の間にか居なくなってる。実際領主や王の頭痛の種だ。

 精霊は居るだけで人間に様々な恩恵を与える。しかし刹那的な一面を持っている。まあ気ままに生きてる種族なのだ。

 この種族特性のせいで破綻した貴族も居るらしい。まあ、アーランド王国の人間が信じるのは己の肉体と仲間との絆と言う超脳筋思考なので、アーランドは余り精霊を重視していない。

 尊重はしてるけど。アーランド人信仰心少ないから仕方ないね。下手すると女神より筋肉信仰してる可能性も否定できないし。お陰で正教の力は殆どない。現代日本並みに生活に根ざしてるだけだ。

 闇の精霊は何か言いたそうだけど、特に何も言わない。と言うか私と契約している精霊だけじゃなく、お兄様と契約してる精霊も居心地が悪そうだ。


(やっぱり怪物ってアレ?)


――そうだ。何で人間が俺達を滅ぼす為に作った物を俺達が処理しなければならないのだ――


 土の精霊の言葉で私の予想通りだという事が証明された。

 ヤマタノオロチの正体は古代魔法王朝が精霊王を滅ぼす為に作り上げた生体兵器だ。名前は知らない。だって精霊王が知らなかったしね。

 精霊王も脅威だと思っていなかったのが原因だろう。ぶっちゃけ人間が精霊王を殺すなんて、星の核である『スターコア』に干渉する以外に方法は無い。アレは星の命であり、精霊王の力の根源だ。そして、『スターコア』に干渉する事は出来ても、人間じゃ制御出来ない。暴走させて天変地異を引き起こす程度だろう。古代魔法王朝以前の文明も何度か『スターコア』に干渉しようとして精霊王に滅ぼされてる。この世界の文明は地球よりも歴史が有るが、何度も滅びているのだ。

 しかし、アレか……念の為に拓斗も呼んだ方が良いかな。拓斗は勇者の力で転移出来るからね。お願いすれば来てくれると思う。


「アリス? 」


 お兄様が考え込んでる私の顔を見る。


「何? 」


「……勝てるかい? 」


 そうだね。


「まあ勝てると思うよ。駄目なら帝国へプレゼントするだけだし」


 きっと活躍できる機会をくれたと喜んでくれるだろう。帝国に名声をあげる気は無いので最終手段だけどね。

 しかしあの怪物が封印されてた島か……古代の遺跡的な物が有りそうだな。出荷した後に探検するのも悪くないかもしれない。

 もしかしたら……使える施設が残っている可能性もあるかも知れないしね。

 特にあの怪物を生みだすのに使った施設が有れば嬉しいね。作った施設毎封印された可能性が有る。アレは制御装置が失敗作だったらしいからね。最も制御装置が何なのかは精霊王も知らないっぽいけど失敗作だった事は知っている様だ。

 怪物自体も微妙な出来だ。周囲の魔力を支配下に置くのは精霊王と同じだが、精霊王に比べると支配力が低く、精霊王に敵対した場合はその能力に価値が無い。そして無限に等しいと呼ばれる再生能力も魔力依存で、精霊王に自然の魔力を掌握されればどこまで耐えれるかも不明。と言うか本当に不死なのかも分からない。取り敢えず再生しまくるらしい。

 これ自体は問題ない。私だけじゃなく、私と契約している精霊全員で魔力掌握をかければヤマタノオロチの周辺程度なら魔力を掌握出来る筈だ。限定範囲なら大丈夫だろうと精霊達も同意してくれた。無制限に掌握すると私が潰れるからね。それやったら気絶させるって精霊達に脅されたよ。

 後は…アイツ障壁持ちなんだよなぁ……どうしようか。

 と言うかさぁ。うちのヘリオスは古竜なのに何で障壁持ってないんだろうね。調べたら大抵の古竜は障壁持ちじゃん。突っ込み入れたら泣きそうだからしないけど。

 障壁持ちとは一部の高位の魔獣・聖獣や竜や魔物が持つ結界だ。無意識的に張っているバリアの様な物だ。因みにクート君は障壁持ちだけど、体毛と同化している。あの素晴らしいモフモフは装甲板の如き強度である。私の好みに合わせているようだ。流石は私の自慢のペットだ。モフモフの重要さを理解しているらしい(こっちの方が遥かに高位の障壁なだけ)。

 まあ強制転移と言うカードを持っている時点でこちらに敗北は無い。少なくとも和の国に被害は出ないだろう。封印されてるのは現在無人島になってるしね。

 問題は、目の前で未だに封印強化を諦めない札術士達だ。完全に心が折れてる。自分達じゃどうしようも無いから生贄捧げて何とかなるだろうと言う固定観念に憑りつかれた連中だ。

 救いようがないな。変化を受け入れない魔法使いなんて死人も同然だよ。魔法使いは真理を探究する者だ。一番変化に柔軟でなければならない。魔法使いの基本だ。

 コイツ等も一緒に出荷しちゃ駄目かな? お兄様を見ると笑顔で「駄目」って言われた。私にその腹黒い笑顔を向けるんじゃない。怖いじゃないか。

 仕方ない。実力行使でどっちが上か魂に刻み付けるか。


「外務大臣、話はまだ終わらないのですか? 」


「も、もう暫くお待ちを」


「何を言うか! 生贄を捧げれば済むと言う簡単な話ではないか」


「それは無理だと何度も言っているでしょう。貴方には謹慎を命じます。今すぐ封印に関する資料を持ってきなさい」


 外務大臣がゲンロウの横に居た封印庁の部下に命じると、命じられた部下は慌てて外に走って行った。


「それは儂等封印庁の管轄じゃぞ! 」


「貴方は現時刻を持って封印庁の長を解任します。今後は国が主導します」


「儂が居なければ封印が解けるぞ! 」


「その封印が永遠に続くとは思えないのです! 」


「この分からず屋が! 」


「貴方がそれを言いますか! 」


 と言うかこの手の話は私達が来る前に終わらせてほしかった。いや、一度は説得したらしいけど、多分私を見て出来るとは思えなくなったのだろう。

 そう言えば普段から魔力押さえてるからね。ぱっと見だと賢者には見えないと思う。でもね、私が魔力解放すると割と周囲に影響が出過ぎるのだ。

 何か説得しやすい方法は……ちょっと待て。

 何で私が説得する必要があるのかな? だってこれって和の国がさっさと説得すれば済む話じゃん。

 ぬう……閃いた! ここで勝利する事にしよう。

 最近私には勝利が足りなかったんだ。帝国に勝利したのに、その後はマダムに惨敗を繰り返してて私のプライドはボロボロだ。

 ここで和の国の導師に勝利して格付けを行いつつ傷ついた私のプライドも回復する。そして導師を潰せば反対勢力も居ないつまりは――


「決闘だ! 」


 面倒事は実力行使で解決するのがアーランド流だよ。


「やだ、私の妹が勇ましい」


 お兄様が頭を抱えたのだった。

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