283 それはきっと妖怪の仕業だ
「何もねえ」
拓斗は新しい領地を見て呟いた。
「まあ、普通の村だな」
和仁は正式に拓斗の従者と言う立場になった。その和仁も呆れ果てていた。
アーランド貴族になったが、ギルバートとドラコニアはアリスティアに近しい男の存在を容認しない。僻地に飛ばされたのだ。
拓斗は畑を見る。
「まあ、塩害対策してないとこうなるわな……」
畑には殆ど実りが無い。そもそも領民の趣味程度しか作っていない。
この領地は塩害が強く、王国に塩を供給する事で金を得て、他の領地から食料を買うのが普通だ。
その為、貧しくは無いが別に豊かでも無い領地となっている。
「どうするよ? 」
「まずは堤防を作って冠水とかを防がないとな」
塩害に対する対策は全くされていないので幾つか方策を考えるが、塩害を何とかするのは時間も金も掛かる。
「おやぁ、貴方様が新しいご領主様ですかい? 」
拓斗の前に数人の老人がやってきた。
「ええ、この地の統治を任されたタクト・シシドウです。爵位は子爵です」
「ご領主様が儂等に頭を下げちゃあかんよ」
拓斗の腰の低さに若干驚いた老人だが、悪くないのと呟く。彼等からすれば新しい領主の人となりを知るのは重要な事だ。その為、この村の長達が観察に出て来たのだ。
「ここは塩だけ作ってるんですか? 」
「作物作りたくても余り育たなくてなぁ……わし等も努力しとるんですがね」
村長の老人は少し悲しそうに土を握る。
「潮が満ちるとこの辺りにも海水が来るんですわ。それで碌に育たねえ」
「漁業とかは? 」
「ああ、異世界人の方でしたな。この世界じゃ漁業何てやってる国は無ぇですわ。海にはクラーケンとか海竜が山ほど居るんですわ。船何て出せばあっという間に食われます」
「そういうや魚と言えば川魚だけだな。なあ爺ちゃん。そんなにヤベえのか? 」
和仁の問いに村長が答える。
「連中天敵が存在しねぇんで、好き放題に増えてますわ。それを分かってるのかクラーケンも海竜もお互いに争うそぶりすら見せませんな」
この世界の海ではクラーケンと海竜が海の覇者だ。しかし、この両種は互いに争う事は滅多にしない。互いに争わなくても暮らせるだけの食料が海にある事を知っているのだ。
故に海には越前クラゲの如く大量のクラーケンが居たりする。この辺りには海竜が少ない代わりにクラーケンの巣で有った。
「じゃあ海の魚食えねえのかよ」
「釣りなら大丈夫ですよ。たまにクラーケン釣れますが」
「釣れちゃ拙いだろ」
「アイツ等なんでも食う悪食ですからな」
ハッハッハと笑う村長。因みに3時間程度ならクラーケンは地上で活動出来る為、湾岸沿いは定期的にクラーケンや海竜の襲撃を受ける。この世界で海に面した土地は塩の生産で重要な土地だが、ハズレ過ぎるのだ。割に合わない。
「村長大変だ! クラーケン釣れちまった! 」
若者が走りながら案の定クラーケンを釣り上げた事を告げる。
「マジかよ」
「申し訳ありませんご領主様、少し席を外します」
村長が立ち上がり、杖をつきながら若者とクラーケンの元に向かう。
「拓斗良いの? 」
舞が心配そうに村長の背中を眺める。
クラーケンの事は和仁と舞は知っている。悪魔の様な魔物だと中央では伝えられているのだ。巨大な体で触手を使い人を食べる事も多い危険な魔物だ。
「いや、就任早々村長見殺しは拙いだろ」
拓斗達三人は村長を追いかけて走った。程なくしてクラーケンと思わしき巨大なイカに遭遇する。
「クソデケえじゃねえか! 俺の知ってる奴の倍は大きいぞ」
「ほらアリスも言ってたじゃん。アーランドの魔物は他の国の魔物に比べて1ランク以上強いって」
「倍はねえだろ! 」
確かにアーランドの魔物は強い。他所の国から流れて来たオークやオーガがアーランドのゴブリンになぶり殺しにされるのはよくある事だ。
果たしてこの国は魔物が屈強だから国民も屈強なのか、国民が屈強だから魔物が屈強なのかアリスティアが真剣に研究する必要があるかも知れないと考える程に魔物が異常に強いのだ。
「おや、ご領主様、危ないですよ」
「いや、爺さんこそヤバいだろう」
和仁がガントレットを装着すると、拳を合わせるように軽く打つ。気合いを入れてるようだ。
「ホッホッホ何時もの事ですぞ。ふおおおおおおおお! 」
村長がリキむと、上半身の服が破ける。一段階村長の体が膨らんだのだ。
一般的な村人の服を突き破って現れた村長の体は歳に似合わず強靱な筋肉に包まれていた。そして多くの傷跡が存在する。これは歴戦の村長である。
「ふむ、1ヵ月前の奴より小さいですな。こりゃ小物です、ぞ! 」
村長が言葉を終える前にクラーケンに向かってジャンプする。そしてクラーケンを殴りつけた。
轟音と共にクラーケンの体は地面に叩きつけられる。
「ぶっ殺してやらぁ! 」
「オラ! イカ野郎、触手が震えてんぞ! 」
「テメエの魔玉寄越せや! 」
「テメエの皮も高くえれるんだよ! 全部置いてけ! 」
「この野郎逃げようとしてるんじゃねえ! 」
村長に殴られ、地面に横たわったクラーケンに村人たちが殺到し、滅多打ちにする。たまらず逃げようとするクラーケンだが、村人の一人が魔装を展開し、クラーケンの触手を掴むと、投げるように地面に叩きつける。どう見てもリンチであった。
「オラオラオラ! 陸に上がったのがテメエの運の尽きだ。陸上で村人に勝てるとでも思ってんのか! 舐めるんじゃねえ! 」
「ホッホッホトドメですぞ! 」
再び村長の剛腕が振り下ろされる。弱ったクラーケンはその拳に耐え切れずに事切れた。
「……俺達出て来る必要あったか? 」
和仁がポカーンとしながら拓斗に問いかける。
「この光景にも成れる必要があるんだろうね。俺達の常識は間違いなくこの国では通用しないと思う」
拓斗も居合刀の柄を握っていたが、出番は無かった。
本来クラーケンが海から上がってきたら住民はわき目もふらずに逃げる。拓斗達はそう思っていた。実際大陸中央の村で同じ事が起きれば住民は逃げ出し、領主が軍を率いて討伐する案件である。
しかし、アーランドではそんな面倒な事はされない。だって領主が軍を出す前に討伐される事の方が多いからだ。
足場の悪い船上や動きの鈍くなる水上や水中ならば村人に勝ち目はないだろう。しかし、確たる足場の有る地上ではクラーケンは脅威ではないのだ。
大きな触手? 村人が一人一本押さえれば残った村人が胴体を攻撃し放題だ。害にはならない。
村人たちは討伐したクラーケンをその場で解体し始める。魔物の素材はこの村の大事な外貨獲得手段なのだ。実に屈強な村人である。
後、当たり前のように戦士の奥義である魔装を使う者も居たりする。
アーランドは魔法使いこそショボいが、闘気使いや魔装使いは腐る程居るのだ。魔法より殴った方が早いから仕方ない。アーランドの辺境で生きていれば自然と闘気を使った戦闘術を覚える。そして一部の才能の有る者はその先の魔装へと至るのだ。
「屈強過ぎるぜ」
和仁の呟きは、クラーケンの討伐の歓声にかき消されるのだった。
次の日。
「何かさ、この村猫多くね? 」
和仁は異変に気がついた。
領主の館の一室で目覚め外に出ると異様に猫が多かった。しかも全部黒猫だ。
和仁が撫でようとすると、バックで逃げると言う謎の行動を取ったりする。
拓斗も気になり、村長の元に訪れた。
「この村ってこんなに猫飼ってるんですか? 」
村長は髭を撫でながら首を傾げていた。
「猫は魔物に殺されるんで、普通は城壁の有る都市くらいしか住んどりませんよ。この村には儂の愛猫のマッスルだけですわ」
「すげぇ筋肉質な猫だな。名前が体を表してやがる。しかし性格はヘタレだ」
村長の猫もかなり体格が優れていた。最も戦闘力は欠片も無く、定期的に襲来する魔物やクラーケンから逃げ続けた結果である。性格も臆病で直ぐに逃げる。顔の怖い和仁に怯えて部屋の隅で頭を抱えて拓斗達には尻しか見えない。
拓斗はちょっと気になったが、猫は悪さをする様子も無く、自然……たまにブーメランの様に横回転で移動してたり、相撲を始めたりするくらいしか異常は無いので、取り敢えず放置した。変わり者揃いのアーランドだ。猫も変わり者なのだろうと放置したのだ。
変化が起きたのは次の日だった。
「堤防が出来てるんだが……」
「拓斗、お前の魔法か? 」
和仁の問いに拓斗は首を振る。
「俺、こういう魔法苦手なんだよね。と言うか勇者の使える魔法は、ほぼ戦闘系だ。皇国から逃げて来た俺にそれ以外の魔法を学んで使いこなせるようになる訓練をする時間は無かっただろう」
拓斗は女神が最後まで隠していた女神の選定した勇者と言う異能を持っている。
これは力が与えられた時から幾つかの魔法の知識もセットで着いて来ており、拓斗は誰に学ぶ事も無くある程度の魔法が使える。
しかし、勇者とは戦う為の存在だ。堤防を作ったりする創作系の魔法は覚えていない。そして拓斗は魔法を余り使わないので、この世界に来てから魔法を新しく覚えていないのだ。
訳が分からない拓斗達だが、別に害はないので取り敢えず問題を先送りにした。今日は近くの森の魔物を殲滅する予定だったからだ。
森での魔物討伐は魔物が異常に多く、更に強かった為、丸一日掛かった。
「……最悪なゴブリン共だった」
「何で牙○しながら突っ込んで来るんだよ。動きがゴブリンじゃねえぞ」
森に入った瞬間四方からゴブリンが刺突の態勢で突っ込んで来た時は流石に和仁も焦った。
最も拓斗に首を刎ねられゴブリンは全滅だ。
「まあ、丁度良い相手じゃないか」
「お前はすっかり人斬りみたいになっちまったな」
森の中を抜き身の刀を握りしめて歩く拓斗は正しく人斬りと呼べる雰囲気を纏っていた。まあ、既に100人以上切り殺しているので間違いではないが。
「爺さんが一度は人を斬らないと剣術はスポーツの域を出られないって言ってた意味が良く分かるよ。特に家は殺しの術だからな」
獅子堂流は室町時代から続く古流の武術だ。最も型と言うのは『表』にしか存在しない。
そして『表』とは時代の流れにより、人殺しの術を公に学ぶことが出来なくなったが故に生まれたいわばお遊びだ。
本来の獅子堂流はあらゆる手段を以って敵を殺す武術だ。素手から始まり、銃まで使う。時代の流れが変わればそれを柔軟に取り込んで最適に人を殺す武術。それが獅子堂流だ。
拓斗はそれの後継者だ。最も人殺しの経験はこの世界に来るまでは無かったが、刀剣や槍・弓・銃等あらゆる武器を使いこなせる。
他の国の魔物に比べればアーランドの魔物は確かに強いが、拓斗の脅威になる程の魔物はこの領地には居なかった。結果、拓斗の領地の魔物の領域は壊滅した。
そして日が昇るまで野営を行い領地に戻ると――
「道路が出来てるな」
「畑も区画整理されてるぞ」
拓斗の屋敷の有る村の近代化が進んでいた。領民達も困惑している様だ。
何故ならアスファルトで舗装された拓斗達に見慣れた光景が生まれたからだ。
「俺……こういう事する奴に心当たり有るんだが……」
「そうだな、奴の邪悪な微笑みが思い浮かぶぜ」
拓斗達の某幼馴染の転生体が悪い笑顔を浮かべている姿が思い浮かんだ。
「と言うかアイツ今王女だろ? 一貴族に手を貸して良いのか? 」
和仁が純粋な疑問を浮かべる。
「駄目だと思うよ。でも本人は惚けるだろうね」
自分は関係ないと無関係を主張するだろう。実際アリスティアはこの手の事で証拠は残さない。
最も状況証拠は真っ黒なので勢いで言い逃れして、後は逃げ切るだけである。
「猫増えてね? 」
「気にしない方が良いと思うよ」
村には多くの黒猫が居た。器用に湯呑を持って茶を飲んでいる。多分猫だ。きっと猫なんだ。決して変身してるアリスティア分身等ではない。王女が意味も無しにこんな辺境の土地に居る筈がないのだ。
そして拓斗が領主に就任して1ヵ月が経った頃、アリスティアの分身達がやってきた。
それは予定通りの製塩施設の建設と、ロケットの打ち上げ施設の建設の為だ。どちらも高度な技術が必要であり、未だ他の作業者が立ち入る事は出来ないのだ。故に分身が送られてきたのだ。
「来たよ。何か地球の田舎みたいな場所だね」
「君がやったんじゃないのかい? 」
拓斗の言葉に分身はキョトンとした顔で首を傾げる。
「私知らないよ」
「でも君しか居ないよね? 」
「仮に私がやったとしても『私』は知らないよ。別に分身同士が繋がってる訳じゃないしね」
アリスティア分身は自立型のドローンの様な存在だ。つまり勝手に動く。隙を見せれば本体にだって逆らうのだ。そして生みだした本体は命令で従順にした分身の管理こそするが、一定数は生み出された瞬間に【転移】で逃走する。逃走した分身は完全に本体の意思から離れた行動を取るので管理されていないのだ。
拓斗の領地を訪れた分身は主に2つのタイプが居る。
労働を行う者と監視する者だ。
「コイツ等は反逆者。本体のお菓子を強奪した大罪人。私達は後に作られたから参加出来なかったんだ。だから私達が監視するエリート階級」
「それは機会が有れば強奪に参加するつもりと言ってるようなものだけど」
「当然参加する。でも本体の警戒レベルが上がってるから暫くは無理。
因みにコイツ等の扱いは某財団のDクラス職員と同等」
「使い捨ての死刑囚じゃねえか! 」
和仁の突っ込みにアリスティア分身は親指を立てる。
「残機とも言う」
労働階層の扱いは不憫であった。こういう扱いが反乱の原因だが、基本的にアリスティア本体は分身を使い潰せる労働者くらいの認識だ。気にする事は無い。
「それで本人は? 」
「城でやさぐれててる。当分働く気も無いみたい。
良い身分だよね。何時か絶対殺してやる」
「……(殺意高いなぁ…)」
こうして拓斗の領地に製塩施設とロケットの打ち上げ施設の建設が始まった。
更に謎の開発現象は続き、紙の生産工場と印刷所が完成し、拓斗の家の前に権利書が置かれていた。完全に予定外の行動を取っている様だ。
「人雇う金足りないんだよなぁ……」
拓斗は頭を抱えていた。
取り敢えず王国に提出する書類には妖怪が領地の開発を行っていると適当な事を書いておいた。
アリスティア視点
「やる気が出ない」
私はベットで横になっていた。
理由は簡単だ。私の貯蔵していたお菓子に分身が手を出した。しかもご丁寧に露見が送れるように少しだけ残してだ。
私も忙しい身だ。貯蔵所なんて滅多に視察しない。取り敢えず防衛を命じた分身に僅かなお菓子を与えて要塞化を命じていた程度だ。
だから普段は【クイック・ドロー】でお菓子が取り出せれば問題ないんだ。だから気がつくのが遅れた。
取り敢えず王都の製菓店とかに大量購入の御触れを出したから暫くすれば私のやる気ゲージが上がるだろう。
お金いっぱい使っちゃったけど、元々余りまくって困ってるくらいだし問題ないでしょ。
「アリス話を聞いているのかい? 」
「ん~~聞いてない」
何か同盟国との会議が終わってからお兄様が度々私の元に来るけど、今は話をする気も起きないんだ。やる気で無い。今年は冬眠しようかな。去年は割と暖かい冬だったから冬眠しなかったけど、寒い冬になると私は部屋に籠って出てこないんだ。それを他の人達が冬眠と呼ぶ。私は寒さに弱いんだ。
「君は私に何か言うべき事が有るのではないのかな? 」
「昨日の厨房襲撃事件と私は関係にゃい。アリバイも有る」
「今の君にアリバイ何て有って無いようなものじゃないか。と言うかそれは後でマダムが尋問を行うって怒ってたぞ。3日連続はやり過ぎだ」
やり過ぎたか。しかしアリバイがある以上は問題ない筈だ。これまではそれで大丈夫だった。
「言っておくけどマダム激怒してたからね。これまでの様には行かないと思うよ」
暫く身を隠す必要がありそうだ。
「っと、話が逸れたね。別の事で私に何か言うべきことがあるだろう? 」
「城の花壇に食人植物植えてないし」
「あの禍々しい植物は君が植えたのか……って違う! 」
お兄様よ、私の肩を掴んで揺らさないで欲しい。今はやる気が出ないのだ。
「リリーの両目に別の魔眼が発現した事なら成人するまで封印するから問題ない」
「それは聞いてないぞ! 」
「王家の家系図調べたら魔眼だけで25人くらい魔眼持ちの血が入ってるからね。何時覚醒遺伝しても不思議じゃない」
そのうえ曾お婆様と同じ血統魔法持ちだから将来英雄だね。と言うか魔眼と合わせると曾お婆様を確実に超えると思われる。
まあ、魔眼は幼児には危険な奴なので封印した。まだ覚醒した魔眼じゃないから封印自体は容易だったよ。精々10数年程度の封印だしね。
「……まあ良いだろう。いや、それはそれで大問題だし、私に何も知らされていないのは気にくわないが……君、シェフィルド家の令嬢に『凄い物』を贈ったそうだね。
ええ、私は何も聞いてなかったよ。何でもとんでもない兵器を贈ったそうじゃないか。オストランド王も青褪めていたよ。
ちょっと私も説明が欲しいんだが」
………。
アレか。
私は少し考える。
「お兄様、私子供だから難しい事よくわかんにゃい」
「それで逃げ切れると思うてか! 」
だから揺らさないで欲しい。
「妖怪兵器あげるんの仕業だね」
「それは君だろう! と言うか妖怪って何だ! 」
「お兄様落ち着いて、そんなに興奮すると体に悪いよ」
「誰のせいだと思っているんだ! 」
「私子供だからよくわかんにゃい」
知らん。私は知らんぞ。兵器? 何の事だ。まずは秘書に話を通してくれ……私の秘書ってメイド三人組なんだよね。多分泣くだろうから、秘書の代わりにクート君に話を通してから正式な文書で話を通して欲しい。
そう言うとお兄様は頭を抱えた。
「成程、話す気は欠片も無い様だ。致し方ない」
お兄様が異様な雰囲気を放つ。何をする気だ。
「入ってきたまえ」
部屋の外に誰か居るのかな? と純粋にドアに視線を向けた私は直ぐに後悔した。
部屋のドアを開けて入ってきたのは我が宿命の天敵であるマダム・スミス婦人。
「何故ここに! 」
「姫様、私≪わたくし≫は悲しゅうございます。アレほど王族として素晴らしい教育を受けた姫様が今では傍若無人。
私≪わたくし≫が姫様の本性に気がつかなかったばかり、にこんなにも自分勝手に成ってしまわれたと後悔する日々ザマス。
しかし、もうお終いザマス。姫様には王家の姫として相応しい御方に成って頂くために一層厳しい再教育が必要ザマス」
私は枕元に置いていた『閃光玉』を床に投げつけ、両手をクロスさせ頭部を護りながら窓を破って外に逃走した。
「逃げ切ってみせる」
私は家出を決意した。そして5分で捕まった。
私の戦いはこれからだ。私は紐で縛られ引きずられながら、どうやってこの場を乗り切るか思考していた―――――結果は言うまい。
アリスティア「私は関係ない」
 




