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転生王女の国家大改造 ~無敵な国を作りましょう~  作者: 窮鼠
ヤマタノオロチを出荷せよ
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280 帝国動乱

 アリスティアが帝国を去って暫く経った。

 帝国は今回のアーランド戦で歴史的惨敗を喫する。当初こそアーランド軍を瓦解させ戦意高揚していた部隊はたった一人の少女に崩壊させられ、軍が帝都に撤退する頃には帝国内を食い荒らされていた。

 アリスティア率いるゴーレムの軍勢は神出鬼没であり、通常の戦とは決定的に違う。

 何処から攻めて来るのか分からず、何処を行軍しているのかも分からない。残った帝国軍は組織的抵抗など出来なかった。

 そして一番恐ろしいのはアリスティアの軍勢はゴーレムだという事だ。命無き軍勢はアリスティアの命令に絶対服従だ。局地的優位を築こうとも士気の崩壊が起こらない。そして不利になれば帝国軍を巻き込んで自爆する最悪の軍勢だ。

 グランスール帝国は決して弱くは無い。大陸に覇を唱えた強国だ。しかし、強国故に軍事に関しては奇策と言う物が少ない。いわば常識的な強国なのだ。

 相手より多数の兵を揃え、周囲の国家からの干渉を抑え込んで優位な情勢で戦争を行い勝利する。単純であるが、そこが強みだった。しかし常識を打ち捨てたアリスティアには勝てなかった。

 敗北の理由は簡単だ。アリスティアが何を考えているのか帝国軍の指導者達が読めなかったのだ。

 多くの戦場で勝利を収めて来たグランスール帝国軍。特に参謀達は優れている。しかし、故に常識が仇となる。普通ならこうするだろう。優れた将が率いた軍勢ならば動きを読むのは容易い事だった。実際アーランド軍の遅滞戦闘も軍参謀達の頭脳で居場所を予測され、誘導された結果、アーランド軍は瓦解した。

 その優れた参謀達の頭脳を持ってしてもアリスティアは読めなかった。当然だ。明確な理を伴った軍勢では無く歩く災害なのだから。戦の常識で災害を予測するのは筋違いな話だ。

 アリスティアはただ真っ直ぐ進んだだけだ。そして視界に入った場所を襲撃していただけだ。但し、本人が方向音痴であり、気分で進行方向を決めていただけだ。アリスティアが明確に攻撃対象を決めたのは帝都だけであった。それを読めと言う方が無茶である。

 そしてアリスティアに敗北した帝国はアリスティアの苛烈極まりない賠償を受け入れる事になる。抵抗は出来ない。敗戦の時点で帝国の誇る野戦軍は壊滅状態であり、帝国民の心にもアリスティアへの恐怖が植え付けられていた。

 高額の賠償金を一括で支払わされた。足りない分は貴族資産の強奪も行われた。

 更に軍を率いてアーランド領に不法に立ち入った高級軍人・貴族・皇族は処刑する為にアーランドへ連行され処刑された。その中に皇帝すら居るのだから大陸中が驚いた。

 この時点でアリスティアが帝国支配に興味が無いのが理解出来るだろう。ある程度支配者を残さなければ敵国の領土等維持できない。しかし、アリスティアは処断した。

 更に多くの奴隷階級の多種族を解放。これの殆どがアーランドへ移住した。

 多くの将兵と国民を失った帝国は奴隷すら失い、労働者が足りなくなる。今回の侵攻には多くの国民を徴発した為だ。当然挑発した国民の多くも戦死しているのだ。

 奴隷を失い国民を失った帝国。更に国庫は空っぽであり、皇城すら更地と言う凄惨たる有様である。

 しかし、不思議な程に一般国民からは奴隷以外を奪う事は無かった。

 この結果、政府や貴族は財政が悪化したが、一般国民は奴隷を失うだけだった。無論それはそれで問題だが、国民からすれば我慢出来る結末だ。その後の事まで考えての事だと知らないからだ。

 とある帝国領の村に兵がやってきた。


「臨時で税の徴発を行う! 」


 帝国政府も貴族も敗戦後に行ったのは損害の補填だ。しかし、手元に金は無い。ではどうするのか? 答えは国民から毟り取ると言う短絡的な選択だった。

 いや、間違いではない。必要な金すら残っていないのだ。ある場所から手に入れるしかない。しかし、帝国が臨時で税の徴収を命じた場所が悪かった。

 それは帝国に強制的に併合された領地だ。帝国成立後から併合された領土に住む者達は二等臣民であり、帝国に最初から暮らしていた一等臣民に比べると冷遇されている。

 多くの権利が一等臣民に準じる程度だ。同じ扱いではないのだ。

 そして、それが二等臣民の不満でもある。同じように帝国で暮らし、税を納めているのに一等臣民には成れない。寧ろ一等臣民より多くの税を取られるのだ。

 彼等の生活には余力は少ない。無論大陸最大の国家だ。餓死するまで毟り取る事は無かった。飼い殺しの言葉通り、ある程度の生活を保障する程度だ。

 しかし、敗戦での損害補てんには金が要る。しかし、ここで一等臣民に負担をかけて不満を持たれたくない政府や貴族は率先して二等臣民の資産の徴発を始める。

 貴族達からすれば元は自分達に従わなかった者達だ。平時から見下している為、慈悲は無かった。

 しかし、毟り取られる彼等にとってはたまった物ではない。


「そんな! 戦争前にも臨時で税を納めたばかりです。これ以上取られると我々も生きてはいけません」


 帝国はアーランドに総力戦で挑んだ。その際にも二等臣民に帝国への忠誠の証と称して臨時の徴発を行っている。この村もこれ以上税を取られれば餓死者が出る。

 しかし兵士は「黙れ! 」と叫ぶと村長を殴りつける。

 転がる村長を見た村人が怯える。しかし、彼等は不自然さを覚えた。

 普段ならばここで村長は見せしめに殺される。臨時の税を断るなど許されない。そして、普段の兵士ならばすぐに剣を抜く。

 しかし、よく見れば兵士達の姿はおかしかった。鎧を着ておらず、槍も持っていない。腰に剣を吊るしているが、それを抜いて威圧する事も無い。

 更に騎士もおらず、馬に乗っている者も居ない。荷馬車の馬も年老いて現役を退いていてもおかしくない老馬だった。

 その兵士達は村長を集団で殴る蹴るするだけだ。そしてボロボロになった村長を無視して村の倉庫に押し入る。


「何だ十分あるではないか。我々を謀ったか! 」


「それは来年の種麦です! それだけは差し出せません! 」


 ボロボロになっても尚兵士の足にしがみ付く村長。例え餓死者が出てもこれだけは残さねば来年は村が滅びる大切な物だ。


「貴様らは帝国に対する忠誠心は無いのか! 今は国難である。故に、これは徴発する」


「それでは我々が飢えて死にます! 」


「知った事か! 国難だと言っておるだろうが! 」


 兵士の隊長が村長を蹴りあげる。転がった村長は血を流しながらも這いつくばって兵士を止めようと動こうとする。

 これを見ていた村人たちが殺気立つ。兵士の言葉は自分達に死ねと言っているのだ。

 そして兵士の一人が麦の詰まった袋を掴む。その顔はニヤニヤと何時も自分達から収奪を繰り返す下種な微笑みだった。

 普段は我慢出来た。如何に高圧的でも従順なら手荒な真似はされなかったし、税も飢え死にする程苛烈では無かった。だから耐える事は出来た。それが帝国のやり方だと理解出来てもだ。

 しかし今回だけは違った。

 兵士の後ろに男が立つ。自分を隠す影に兵士が訝し気に振り向くと、こん棒を振り下ろす村人の姿が映っていた。


「ぎゃあ! 」


 頭を潰され崩れ落ちる兵士。他の兵士は叫び声でこちらを振り向く。

 血の滴るこん棒を持ったまま息を荒げる男は村長の息子だった。


「もううんざりだ。二等臣民だ、帝国への忠誠なんて俺達に押し付けるな! 」


 その言葉に村人たちも倉庫に置かれた農具を手に取り、兵士達を囲む。


「そうだ! このままお前等に種麦まで奪われればどうせ村はお終いだ! 」


「だったらお前等を道連れにしてやる! 」


 一つの村の反乱等、直ぐに鎮圧される。恐らく自分達は吊るされ、他の村への見せしめに使われるだろう。

 しかし、待っているのが餓死ならば帝国に一矢報いたい。彼等はそう思った。

 長年の不満を怒りに変えて村人たちは兵士達に襲い掛かった。

 対する兵士は剣を抜かなかった。そして、この村にやってきた兵士は質が低い兵士だった。練度の高い兵士は軒並み戦死しているのだ。碌に訓練の受けていない兵士は行き成りの反乱に碌に抵抗も出来ずに村人に殺された。


「おかしくないか? コイツ等剣すら抜かなかったぞ……って何だこれは? 」


 村長の息子が兵士の死体から剣を奪い抜くと、そこには錆び付いた今にも折れそうな剣が有った。多分農具と斬りあっても折れる程ボロボロの剣だ。

 兵士達は威圧する為に使い物にならない剣を吊るしていたのだ。

 これはアリスティアに根こそぎ物資を奪われたせいだ。

 アリスティアは武具もインゴットに変えて根こそぎ奪い去った。戦死した帝国軍も全ての武具を奪われている。そして武器工廠を幾つか落された帝国は金属不足が深刻化していた。鉱山が残っていても、そこで働かせていた奴隷の他種族を奪われたために稼働も停止している。更に精錬を行っていたドワーフも居ないのだ。

 無論普人の鍛冶師や鉱山労働者だっているが、鉄鉱山だけ持っている訳じゃない。普人主義国家であるグランスール帝国は普人奴隷をそこまで重労働をさせていなかった。その為重要な技術を幾つか失った。そして現在は足りない鉄を掘る為に他の鉱山を一時的に閉鎖して工夫の移動を行っているのだ。

 更に普人の鍛冶師に支払う金が無い為に生産も滞っている。

 その結果、『普段なら』従順に税を支払う村からの徴発に向かう部隊は普段より人を少し多めにして威嚇するだけで、武器自体は碌に持っていなかったのだ。持っていても今回の様に武装していると言う事を示すだけの使い物にならない物を持っていた。

 しかし、残っている武器はアリスティアが要らないと置いていった物であり、それを村人が見れば反乱が起きかねないので使えなかったのだ。

 しかし、実際に反乱が起きればこれが露見する。その結果――


「なあ、もしかしたらイケるんじゃないか? 」


「コイツ等はアーランドに負けたんだよな。もしかしたら俺達は自由に成れるんじゃ……」


 帝国に冷遇され続けた結果、彼等は今は亡き祖国を思うようになる。

 目の前の兵士を見た彼等は帝国からの独立が勝ち取れるのではないかと酔いしれる。その甘く芳醇な独立の香りは二等臣民の多い領地全体に広がり、二等臣民を酔わせる。


「行くぞ皆。独立だ! 」


「うおおおおおおおおおおおおおお! 」


 アーランドとの戦争の敗北で多くの属国が離反し、帝国からの独立を宣言している中、帝国は各地で独立運動を起こされると言う最悪の展開を迎える。

 この村と同じように格領地で反乱が起こり、それを防ぐ為の兵も兵糧も武器も足りない帝国貴族はあっという間に駆逐される。

 そして立ち上がる者も居た。


「今こそグランスール帝国に滅ぼされた祖国を復興する時が来た! 皆の者私に続け! 」


 祖国を滅ぼされ帝国に無理やり併合された国家。しかし、それは全ての貴族や王族を殺せた訳ではない。

 生き延びていたのだ。そして帝国に隙が出来る機会を窺っていた。その者達は祖国の再興を目指して嘗ての領土の領民を従え始めた。

 これに対し、帝国は所詮は敗北者と侮り残っていた。

 そして軍を再編し、決戦を行い―――敗北する。

 反乱軍なのに正規軍の様な武具を持ち、兵糧もたんまりと持った彼等と、アリスティアに根こそぎ奪われ、誇りを踏みにじられた帝国軍の士気の差は明らかだ。

 更に帝国は歴戦の参謀も殆ど居ない為に碌に統制も取れていない烏合の集であったのが原因だ。

 帝国の内乱はこうして火蓋を切るのだった。その混乱の背後に居る者達思惑を知らずに。

次は帝国騒乱の裏側です。物資不足の帝国で発生した反乱軍が武具や兵糧をたくさん持っているのは不自然ですが、理由はしっかりと存在します。

 後は帝国軍があっさりと負けたのも理由が有ります。

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