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閑話 帝国の皇女様

 これは、私が帝都を制圧して賠償金を回収する為に皇城を解体していた時の話だ。


「何してるの? 」


「ひっ! 見つかりましたわ! 」


 暇を持て余していた私は散歩と称し、皇城の隠し通路を探検していた。

 そこに丁度護衛を連れた貴人と出くわした。歳は10代半ばで金髪ロングの女性だ。大事そうに鞄を抱えている。

 それと、後ろに数人の侍女も居る。


「リーンタール皇女殿下、お下がりください。ここは我等が時間を稼ぎます」


 数人の騎士が貴人……話から帝国の皇女を逃がす為に私の前に立ちふさがる。

 その瞬間、一緒に居た拓斗とアリシアさんと騎士が殺気を放って剣を抜く。敵国での探検に護衛がつかない筈も無いのだ。

 しかし、私は皇女側の騎士に見覚えが有った。


「あっ、くっころ騎士隊」


「「「「「その名前で我等を呼ぶなあああああああああ! 」」」」」


 彼等の服装は私の愛読書であるサスペンス小説に出て来る薔薇騎士隊。通称くっころ騎士隊その物であった。

 女性魔法使いで構成された百合騎士隊との確執から常に自分達だけで動き、毎度敵に捕まる人達だ。

 謎なのは、捕まるたびに敵の男に壁ドンされるのだが、次のページになると捕まえていた側が捕まっていると言うサスペンス溢れる小説だ。何故か捕まえていた側と騎士隊の男達が疲れ果てているのも謎だ。

 ケーナちゃんが貸してくれた小説なのだが、物語が分かり易く、それでいて臨場感溢れる才能ある作家の一品だ。地球なら結構有名に成れそうな文豪だろう。

 解らないのは作者だ。作者の名前が無いのが、この作品群の特徴だ。

 多くの作者の作品の合作とか文集とか噂されるが、文章の書き方的に私は一人の作者の作品だと思っている。


「何で……何でアーランドまで広まっているんだよ」


「これも名も知れぬ作者のせいだ! 」


「我等は皇族親衛隊だ! 」



 何故か武器を捨てて壁とかに頭を打ち付けたり、地面に座り込みうな垂れる男達。

 その余りに哀れな姿にこちら側も動揺した。戦う気有るの? 敵の前で武器を手放すって降伏なのか?

 取り敢えず戦闘不能になったので、速攻で拘束された。


「何で勝手に逃げようとしたの? 」


「このままだと殺されますわ! 」


「別に王国領を犯していない者は処罰しないって通達してたはずだけど」


「信じられませんわ。きっと乱暴されますわ」


 その言葉に騎士達が激怒した。


「そんな事するか! 軍務に就いてる時の強姦は死刑だぞ」


 アーランド軍の軍規は恐ろしく厳しい。

 アーランド軍はそもそも他国を侵攻する事を想定していない。基本は国内での争いに従事する。

 外敵を討ち破るのも仕事だが、外国へ攻め込まない為に、戦場は基本的に国内だ。

 帝国が攻めてこなければ、基本的に国内の魔物の討伐や、貴族の反乱鎮圧が主な任務であり、そんな彼等が略奪や強姦を許される筈もない。

 何故ならアーランド軍が略奪すると言う事は、それは自国民を襲うと言う事だからだ。故に軍規で厳しく取り締まられている。

 最も私は他国での行動を規制する規律が無いので、帝国内では割と略奪に走っている。但し、帝国軍や貴族の資産や鉱山の鉱物限定であり、帝国の国民からの略奪は奴隷のみに限定されている。

 なので、大人しくしている人に無駄に被害を出さないのだ。無論武器を向ければ容赦はしないけどね。


「貴女は軍を率いてアーランド領に侵攻したの? 」


「グランスール帝国の皇女は政治の道具ですわ。私≪わたくし≫は帝都から出た事ありませんわ」


 グランスール帝国の皇女は基本的に婚姻政策の道具なので、権力なんて欠片も無く、軍を率いる権限は無いそうだ。

 そして捕まっている皇族親衛隊も基本的に帝都に居る皇族の護衛が任務であり、皇帝と皇太子の警護は別の親衛隊組織の職務である為に、アーランド領に入った者は居なかった。


「じゃあ、無罪の方向で」


「えっ? 」


「別に被害も何も出てないし。と言うか逃げたいならお好きにどうぞ」


 この皇女って、どう見ても害にならないんだよな。と言うか皇女が政治の道具でこれと言って権限が無いのは割と有名だしね。男性皇族なら一時拘束するけど、皇女は別にどうでも良い。帝国の政治的に皇女を担ぎ上げる可能性は無いのだ。

 男性皇族なら反抗の旗になる可能性が有るので、全部終わるまでは軟禁するけどね。


「良いのですか? 」


 アリシアさんが訪ねる。


「別に構わないけど。唯、逃げてどうするの? とは思うけどね」


 このまま残っていても碌な事にならなそうだしね。

 生き残りの男性皇族殺して貴族がこの皇女の伴侶になって皇帝を名乗る可能性もある。まあ、失敗するだろうけど。男性皇族は嫡子・非嫡子含めて50人以上居るし、公爵等の歴代皇帝の血を継ぐ貴族もそれなりに居るのだ。

 どう見ても後ろ盾のない皇女を抱えるより、派閥の有る皇族を旗にする方が良い。

 じゃあ、この皇女はどうなるの? と言えば、帝国が安定したら適当な貴族か外国に政治の道具として嫁ぐだけだ。


「……私≪わたくし≫は帝国を出るつもりですわ」


「生きていけると思ってるの? 」


 皇女が今の地位を捨てて外国に逃げる。まあ、無理だろうね。生活レベルが物凄い下がるし、資金的な問題もある。

 と言うか一般的な生活が出来るのかと言う最大の問題もあるのだ。


「私≪わたくし≫、こう見えて本を出してますの。こう見えて結構売れているんですのよ。無論父達は知りませんけど」


 作家だったのか。と言うか身分隠して本を出してるって凄いな。私も偶に身分隠して冒険者やってるけど。


「へ~凄いと思う。ジャンルは? 」


「芸術ですわ! 」


 瞳をキラキラと輝かせてフンフンと鼻息を荒げる皇女。

 いや、芸術じゃ広すぎて解らない。


「芸術ですわ! 」


「別に二度も言わなくても聞こえてるけど」


 何か直感的に関わってはいけない気がしてきた。私の中のナニカが、踏み込んではいけないと訴えている。


「そう言えばアリスティア姫もくっころ騎士隊をご存知でしたわね。

 良いでしょう。見逃してくれるお礼に私≪わたくし≫がサインをしてあげますわ。私≪わたくし≫のサインは結構レアですわ」


 おおう。くっころ騎士隊の作者だったのか。確かにくっころシリーズは帝国が本場だってケーナちゃんも言ってたよ。まさか愛読書の作者だったとは。

 どうやら私の直感は間違いだったようだ。あんな素晴らしい小説を書ける人間に悪い人は居ない。


「くっころ騎士隊……何処かで……ハッ! 」


 アリシアさんが何かを思い出すと、メモ帳を開いて何かを調べ始めた。


「持ってるけど、これ借りてる奴だよ」


「では私≪わたくし≫の新作をプレゼントしますわ。未だ発売されていない見本ですが。

 それに、宜しければ、私≪わたくし≫が、その本にもサインしますわ」


 私はケーナちゃんに魔導携帯でメールを送る。内容はくっころ騎士隊の作者に会ったけど、借りてる本にサイン要る? だ。僅か数秒で返事が来る。是非ともお願いしたいとの事だった。


「ケーナちゃんもサイン欲しいって言うので、この本にサイン頂戴」


「構いませんわ……これは写本ですわね。出版社の印が有りませんわ。本来はよろしくないのですが、アーランドは遠い国ですし仕方ありませんわね………ってなんですのおおおおおおおお! 」


「うお」


「失礼姫様を驚かせないで頂きたい」


 突然の叫び声に騎士達が私を庇うように前に出る。


「これ、これは……重要で素晴らしいシーンが悉く削除されていますわ。これでは私≪わたくし≫の芸術の素晴らしさの欠片も理解出来ませんわ! 」


 アレ? 欠陥品だった?


「フフ、これは私≪わたくし≫に対する挑戦ですわ。皆さん! 」


「「「はい、皇女様! 」」」


 背後の侍女が鞄から本を出す。受け取った騎士が困惑気に私を見る。


「何やら背筋が凍るのですが……」


「魔法的な物は何もないけど。取り敢えず頂戴」


「ど、どうぞ」


「で、これは? 」


「私≪わたくし≫の書いたくっころシリーズの全てですわ。これを読めば、貴女も芸術の素晴らしさを理解出来ますわ」


 成程、私とケーナちゃんの読んでいたくっころシリーズは何故か不完全な物だったのか。

 確かに話が飛んでいる事が多々あった。私は読者の想像に任せる的な演出だと思い違いをしていたようだ。


「後で時間を取って呼んでみる。友達にも見せるね」


「是非! では私≪わたくし≫は、さっそく旅に出ますわ」


「護衛の騎士達は? 」


「彼等は自己保身の為に着いて来ようとしていただけですわ。私≪わたくし≫の真の味方は彼女達ですわ」


 どうやら私達を恐れた騎士が護衛と称して帝都から逃げようとしていただけらしい。

 その割には壁に成ろうとしていたように思えるが……まあ、政治の道具として扱われて居れば、彼等に愛着も湧かないか。


「では行きますわよ皆さん! 」


「「「はい皇女様! 」」」


「ノンノン、これからはお姉様と及びなさい。私≪わたくし≫はもはやグランスール帝国の皇女リーンタールではありませんわ。

 これからは……そうですわね、アメリアと名乗りましょう。お母様の名ですわ」


「「「はい、お姉様! 」」」


「馬車の一台くらいなら見逃すよ」


 別に馬車はこれからのアーランドに必要ないし、本を貰ったのだからお礼は必要だ。


「感謝しますわ! 」


「行きますわよ。新しい芸術を探す旅ですわ! 」


「「「はい、お姉様! 」」」


 皇女は馬車に乗ると、侍女が御者を務めて、そのまま颯爽と去っていった。

 私と皇女は互いに姿が見えなくなるまで手を振りあうのだった。















「やはり……姫様、その邪本をこちらに引き渡して頂きます」


 皇女が見えなくなって散歩に戻ろうと振り返ると、メモ帳をプルプル震わせながら青褪めたアリシアさんが私の本を寄越せと言ってきた。


「何で? これ私のだもん」


 私は貰った本を大事に抱きしめる。


「姫様、それは怪しげな邪本です。見ると元の道には戻れない危険な本なのです。

 そして、姫様に見せてはいけない禁書に指定されて居ます。大人しく引き渡して頂きます」


「私、コッチの方だけど、全部読んだもん。悪い本じゃないもん」


「一体何処で写本を……王都の商人には姫様の視界に入れる事を禁じていた筈……その本の入手ルートから詳しく問いたださねばなりません」


「いや! 新作も有るし、まだ読んだ事が無いのも混ざってるもん」


「だ め で す ! 貴方達! 」


「申し訳ありません姫様」


 後ろから騎士に本の束を奪われる。一冊だけ、ケーナちゃんから借りている奴は死守したが、残りが奪われた。

 アリシアさんは奪い取った本を受け取るとペラペラとめくる。


「やはり邪本の類ですね。フン! フン! 」


「アリシア様、鼻息が荒いです」


 騎士の指摘に若干顔を赤らめ咳払いするアリシアさん。


「これは極めて危険な本です。姫様に見せる訳には参りません」


「返して! 」


 私はアリシアさんに奪われた本を取り戻そうと頑張った。因みにケーナちゃんから借りてた本は魔導携帯の転送機能で本人に送ったので奪われる事は無い。このまま持っていると奪われる可能性が有るからね。

 因みに魔導携帯で転送機能がついているのは特殊タイプだけだ。私の周りの人間に渡している携帯にだけ、特殊な機能がついているのだ。


「拓斗・獅子堂。暫く預かりなさい」


「俺がアリスの敵になるとでも? 」


「軽く読んでみれば分かります」


「……ブッ! 」


 私を抱きかかえるアリシア前にアリシアさんが拓斗に本を渡した。一番上の本を器用に開くと、拓斗が噴き出す。


「アリス……確かにこれは駄目だ。腐臭を放っている」


「拓斗まで! 」


 こうして私は受け取った本は没収されるのだった。

 その後、アメリアと言う作家が大陸中に響き渡り、同時に指名手配される事を私はこの時は知らない。

皇女はBL作家です。腐臭を放っていますが、純真なアリスティアには、その腐臭を感知する事は出来ません。それと、親衛隊はモデルに使われている被害者です。

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