番外編 王女の部屋を攻略せよ1
話はアリスティアが旅立った日に戻る。
「行ってしまったな」
「ええ寂しくなるわ」
馬車が見えなくなるまで俺達はアリスティアを見送り城へ戻る。
「さて粛清を始めるか」
俺がアリスティアを留学させた本当の理由はこれだ。余り血生臭い事をアリスティアに見せる気は無い。それに今回はアリスティアに見せれば傷つくはずだ、自分の能力を利用しようとされているのだから。
「身の程を知っていれば何も無かったのに」
そうだな特に普人の貴族の腐敗が激しい。恐らく帝国と皇国に懐柔されたのだろうが奴らにとって我が国の普人は異教徒同然だ用が済めば殺されるのがオチだろうに。
「時代が世代が変われば人も変わる。奴等の先祖は正しき道を知っていた。だが奴等は甘い甘言に惑わされてそれを忘れただけだ」
どうって事は無いよくある話だ。奴等は普人だ。だから帝国・皇国に従える未来があるのだと思い込んでるだけだ。そんな未来等存在しないのに。
「おやおや勝手をされては困りますな」
「オットマン伯爵か」
ダルニエル・オットマン伯爵。こいつはこの国の法衣貴族だ。
法衣貴族とは爵位だけで領地を持たない貴族で国からの年金で生活している貴族の事だ。
「何故姫様を留学などさせたのですかな?」
「アリスティアが望んだからだ。外を知り己を高めるのも王族に必要な事だ」
そしてこれから始まる事を知らせない為に…
「しかし姫様の生み出す物の価値を他国に教える事になりますぞ」
「それは関係のない事だ。アリスティアは無駄な事をしない」
アリスティアは信用しない人間に自分の力を必要以上に見せつけないし貸す事もしない。自分の力は自分自身の意志で行使出来るはずだ。あの子はそこら辺が強かでオットマン伯爵もアリスティアの生み出す作品が欲しいのだろうが現在アリスティアは作品を王家に献上する以外に放出してない。
それにアリスティアが認めた者にならアリスティアの作品を流すのも良いだろう…本人は絶対にやらんがな。
「姫様の考案した魔道歯ブラシ・魔道火打石などは素材がゴブリンの魔石で作れるほどの低燃費かつ安価で国でも人気です。なのに我等貴族に何故その権利が来ないのですかな?これは姫様の生み出す物を王家が独占しているのでは?」
「アリスティアは利益を求めていない。王家もアリスティアが出した利益は孤児院などの福祉事業に回してる為利益等無いぞ?」
これは本来アリスティアに与える利益を本人が望まず少しのお小遣い増額しか求めないので本来の利益はアリスティア名義でそちらに回してるからだ。
俺達がアリスティアの生み出す物の利益を求めないし個人に頼った資金も当てにはならないのだ。数十年後にアリスティアが死ねばそこで終わるのだから。
「しかし姫様は一部の発明を隠匿しております。それらも国が接収するべきですぞ」
あれか…確かに旧アリスティア自室は攻略不能の迷宮だからな。そこに何個かの発明を封印してるのは俺も知っている。
何故旧自室なのかと言うと本来アリスティアが生まれた時に与えた部屋なのだがアリスティアは一定以上の広さの部屋で生活すると落ち着かないを通り越して挙動不審になる為、当時物置だった部屋に移動したのだ。俺達も流石にそこだけは駄目だと何度も言ったのだが当時1歳のアリスティアは幼いその腕で扉にしがみついて意地でも出ないと無言で主張した(まだ話せなかったが当時から自己主張はしていた)為改装して自室になった。
必要な物を置くと余りスペースが無く家持ちの平民の自室とそう大きさが変わらない部屋だがアリスティアはこの部屋のサイズが気に入ってる為あの部屋が今ではアリスティアの倉庫なのだ。そして何時からかアリスティアが自分の発明品で外に出せない物を隠し始めた…まあ元々部屋を移した事自体余り広がっていないので偶に暗殺者や誘拐犯が出るのだがアリスティアが部屋を倉庫化すると錯乱して部屋から放り出される事件が発生し始めた。
拷問しても部屋の中にドラゴンが居たとか死んだ家族が居たとか意味不明な事しか言わないので何が起こってるのか不明だしアリスティアを問い詰めても危険だから絶対に入るなと勝手に部屋に入る人って最低、もし家族なら絶縁も考える。とある意味恐ろしい事を言われたので絶対に立ち入り禁止になっている部屋なのだ
「本人が場違いな工芸品で存在自体が危険だと言ってるものだ。あそこから出す事も無いだろう」
何で知ってるのかも疑問だがアリスティアは別段隠してないし本人曰く怪しい人ホイホイと言っていた(確かに犯罪者がよく釣れるしあの部屋に入った時点で重罪だ)
「姫様はまだ子供ですそういう判断は出来ません。そういう事は我等がするべき事です」
大方お零れ頂戴を考えてるのだろう。だがアリスティアの作る物は基本的に本人が欲しい物だから売れば金になるからな業突く張りな貴族がこうやって五月蠅いのだ。
「必要ない。アリスティアの作る物はアリスティアの物だ。我等はそこに関与しない所詮は個人の生み出せる物だからな」
「個人で?それがどうしたのですか?現に姫様は何かを隠匿した。それが答えです」
そう言うとオットマン伯爵は懐から紙を取り出した。
俺はそれを受け取り中身を見る…中身は捜査令状だった。
「これはどういう事だ‼」
「議会は姫様に背信の疑いを持っております。姫様が自らの頭脳で何か良からぬ事を企んでるのではないのかと」
「ふざけるな‼それこそありえん‼」
「そうですね勝手な妄想を言われては困ります」
ふいに横から声が聞こえた。
「ボルケン‼これはどういう事だ」
「陛下、我等は別に姫様を疑って等いません。それはオットマン卿の妄想ですよ。我等5侯は姫様が隠した物が真に危険な物ならそれを破棄するべきと考えています」
「妄想だと?失敬な!これは私だけの意見では…」
「議会での決議は姫様の自室の捜査を認め姫様の発明品が真に危険な場合は破棄するとしか決議されていない。卿が言ってるのは単なる妄想だ」
するとオットマン伯爵は悔しそうに黙った。やはり独断か…まだ早いな他の罪状を集めて一纏めに裁くか。
「…もうしわけありません…しかしそう考える者もおる事を覚えていて頂きたい」
その次に来るのはそうさせない為に優れた伴侶を…敷いては息子をとでも言うのだろうこのクソ豚は。最初からおかしいとは思っていのだ。こいつは王女派の筆頭、アリスティアを陥れる等無いと思っていたがいつまでもアリスティアを懐柔出来ないから焦れてきたのだろう。
王女派と言ってもアリスティアは関与しない。他の貴族には王女無き王女派と呼ばれて陰で馬鹿にされているのだ。アリスティアは基本的に権力に興味を持たないのと欲に溺れた貴族を嫌悪しかしていないのだから当然彼等に近づかない。
「確かに議会を通しているようだな。俺は関与しないが好きにしろ、どうせ攻略など出来んのだからな」
「陛下…当然協力していただきたいのですが…」
ボルケンも俺が協力しないのは想定外だったようだ。確かにアリスティアに絶縁宣言を受けて無ければ協力の可能性はあったが…
「娘に嫌われたくないしこの礼状には俺に協力義務は無い‼残念だったな‼精々不届き者と同じ末路を辿りアリスティアに嫌われてしまえ」
まあ俺に協力義務が無いのは国王は議会の議決を拒否できるからだ。今回は俺に直接関係が無いので通っただけだろう。
「そう言うかと思ってはいましたが溺愛し過ぎです。姫様をどれだけ甘やかせば気が済むのですか?」
「当然大好きお父様と言ってくれるまで甘やかす‼」
何を今更。
「親馬鹿ここに極まりですから諦めた方が良いですよボルケン殿」
親馬鹿とは良い言葉だ。シルビアも良く理解していてくれるな。
「確かに…では騎士や兵士を出しましょう」
可哀想な事を…アリスティアと一番仲の良い連中を出すとは。
「私も私兵を出しましょう‼」
オットマン伯爵だけはあの部屋の恐ろしさを甘く見ているようだ。私兵を出して現物を手に入れれば儲け物とでも考えているのだろう。
「いちおアリスティアの自室だからな変な事をすれば罪に問うからな」
釘だけさしておくか…どうせ手に入らぬ物を想像して聞いていないだろうが下手なマネをしたらコイツは殺す。
そして次の日。
「………恐ろしく士気が低いな」
「儂もこの士気で帝国と戦ったたら惨敗する未来しか見えませぬ」
アルバートの意見に激しく同意するほど兵士や騎士の士気が低い…と言うか全員俯いてるぞ。これじゃ碌な活躍も出来ないだろう。
「命令にここまで抵抗するのも珍しいですね」
ボルケンは軍人じゃないから分からないのだろう。アリスティアは王都に居る兵士や騎士なら大体会ってる(馬鹿な奴以外)し傷の手当等で非常に人気が高いのだ。そのアリスティアの部屋を本人が居ない間に捜索するなど下手をすれば嫌われるし悪名高い姫様のおもちゃ箱とも呼ばれる部屋の捜索だ、この命令を受けるくらいなら引退すると言いだした騎士も居たらしい。
「俺達…生きて姫様に会えるかな…」
「大丈夫だ。姫様なら分かってくださる…悪いのはこの命令を出した奴だって‼」
「スミマセンスミマセンスミマセンスミマセン」
「この部屋って姫様が慈悲は無いと言うほど危険なんだろう…帰りたい」
「せめて妻に別れの挨拶を…」
俯いてるどころか全員虚ろな目をしてる。確かにあの部屋の噂を聞く限りまともな精神を持った人間なら近寄りたくも無いな…しかもアリスティアに嫌われる危険すらあるのだから。
「これが我が国の精兵とは情けない‼私の私兵の方が優秀ですな」
そこに現れたのはオットマン伯爵と私兵…私兵はどう見ても盗賊にしか見えない。欲望に目をギラギラさせオットマン伯爵は私兵に指示を出している。
流石にあからさま過ぎて騎士や兵士も眉を顰める。それほどに低俗な連中を連れてきたものだ。
「娘の自室だぞ‼もし荒らすような真似をしたら許さんからな」
「自室と言っても物置のような物ですよね?」
「私物もいくつかあるだろう」
当然いくつか残してる筈だ。もしそれを傷つけるのならそれを理由にコイツを処刑しよう。どうせ居なくなっても誰も困らない屑だからな。
「では気を付けましょうかな」
オットマン伯爵は唯の倉庫だと勘違いしているがあの部屋は俺の本能も危険だと地味に主張してるから俺は入らない…絶対に俺を想定したナニカを置いてるだろうし。正直この部屋を漁って娘に嫌われるくらいならボルケンと2人で仕事している方がマシだ‼兵士?騎士?最近アリスティアに近寄りすぎだから少し嫌われれば良いと若干思わなくもない。
そして俺達はアリスティアの本気を垣間見たのだった。




