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268 魔法を封じても勝てるとは限らない ③

「いや、これまだ試験前なんだけど」


 分身が渋る。


「何? 自身無いの? 」


 ちょっと煽って見た。


「別に問題ないし。推力の測定終わってないだけだし」


「大問題じゃねえか。設計段階である程度分かるだろうが」


 和仁がつっこむ。

 確かに設計段階である程度は解るんだ。でもね。こっちの技術を取り込んだ結果、意味不明な事になっている。


「使用魔力量と魔力密度で同じエンジンでも推力にかなりの差が出るんだ。まあ、地球でも燃料の質の差はあるけど、魔力になると差が大きすぎるんだよ」


 それが一番のネックだった。兎に角魔力を燃料としたエンジンは気難しい。特に魔力密度の維持が最大の難しさだ。魔導具化してもバラつきが出る。安定した推力を出すのが非常に難しい。

 そう言いながらも分身はエンジンの噴射口を外に向けて固定を始める。この試験が成功すればアーランドの宇宙開発事業も大いに発展する。まあ、やってるの私だけだし、未だに王国側から許可取ってないけどね。

 大分前に土地の確保を要請した筈なんだけど……書類の山に未だに埋まっているのだろうか。全部終わったらお兄様に聞いてみよう。人工衛星の有無は国の安全保障に関わるからね。ついでに条約の出来ていない間に兵器も撃ち上げよう。やったもん勝ちだ。

 時間は殆ど掛からずに固定完了。直ぐに実験予定だったらしく、直ぐに動かせる様だ。


「んじゃ点火」


 私の号令で急遽起動試験が始まった。唸り声を上げるエンジンが火を噴く。


「やっべえ。推力が強過ぎる。想定以上だよ」


「メーター振り切ってね? 」


「魔力量は兎も角、高濃度過ぎてエンジンが過剰に加熱してるみたい。総員退避! 」


 全員で逃げ出すと同時にエンジンは固定具を吹き飛ばして飛んで行った。そのまま工場に激突し、工場毎炎上した。


「アレは……第七錬金棟か。なら良いや」


 第七錬金棟は生命の秘薬の生産所だし、現在止まっているから問題ない。


「んじゃ直しておいてね」


「酷くね! 全部オシャカだよ」


「また作ればへーきへーき」


 憤慨していた分身も私の言葉に納得して去っていった。


「宇宙開発への道は遠そうだ」


「今やる事じゃないよね! 」


 拓斗よ実験は何時でも何処でも行うのが私のポリシーなのだ。思いついたアイデアは即実験だ。


「見たまえ外の皇国兵が消し飛んだ。総員再度突撃」


「「「「うおおおおおおおお」」」」


 私が安全圏に居るので再び騎士達が全員で突撃を始める。


「拓斗も行ってきていいよ」


「んじゃ、ちょっと殺してくるか。特にあの二人をね」


 拓斗がニヤリと笑うと、一瞬で騎士達を追い抜いて走り去る。殺意高すぎじゃね?


「では姫様は大人しくしてましょうね」


「そうだね。釣りでもしよう」


「……ここって魚居ましたっけ? 」


「切り身なら……って違うよ。

 じゃーん! 」


 私は釣り竿の先に魔杖刀ベルゼバブを縛り付けると、宝物庫の扉を巨大なまでに広げる。そして、その上の方に【浮遊】で浮かび上がり、外にベルゼバブを出す。


「これで勝てる」


「何に勝つつもりですか……」


 今の私の戦闘力は外に出たらミジンコに劣るが、宝物庫内ならば誰にも負けない。あ、そこの異世界人二人は立ち入り禁止だからね。絶対に入ってきてはいけない。


「対処方を思いついたんだ。食べていいよベルゼバブ」


 ベルゼバブが怪しげな光を放つ。それ以外には一見変化はない。

 しかし、拓斗が参戦した事で異世界人2人はかなり追い詰められたが、未だに逃げてる。わんこーずが戦場から逃がさないように動いてるせいでじり貧だ。


「待て、同じ日本人だろう。助けろよ! 」


「ごめん。アリス狙う奴は全員殺す事にしてるんだ。だから死ね」


 拓斗は彼等の命乞いを聞く気は無いらしく、容赦なく刀を振るう。たまに隙を作って反撃させると、好機とばかりに逆襲する。あえて隙を作って形勢逆転の好機だと思わせたのだろう。まんまと引っかかった二人が足を斬られた。ああ、絶対にちょこまか動くのが鬱陶しいと足を狙ったのだろう。

 しかし、彼等は立ち上がろうとする。当然だ。止まればクート君かタイタンか拓斗に殺される。しかし立ち上がった2人は崩れ落ちる。訳が分からないと言う表情だ。


「その力がOFFに出来ないのはデメリットでしかないんだよね。漸く力尽きたか」


 彼等の力はOFFには出来ない。常に周囲の魔法や魔導具を無効化させる。

 しかし、この手の力は無限に続く訳じゃない。何を代償にしているか分からなかったが、この様子だと自分の魔力を使っている。多分無効化する度に消費されているようだ。それと同時に常に自分から一定範囲に干渉して無効化も行っている。全部ベルゼバブが食べて圧力をかけた。

 魔杖刀ベルゼバブは全てを食らう刀であり杖だ。女神の力も美味しく頂いた。まあ、力その物を食べた訳じゃないけどね。

 今回は彼等が一定範囲の魔法や魔導具を無効化させる力を食い続けた結果だ。OFFに出来ないから魔力が尽きるまで自分の力は止まらなかった。


「まあ、コッチも辛いけどね」


 魔杖刀ベルゼバブは私の魔力も平気で食べる。魔導師30人分くらいの魔力を食べられて軽く目眩がしたよ。もう用は無いので宝物庫の片隅に投げ捨てる。お前は強いが使い勝手が悪すぎる。と言うか私の魔力を食べ過ぎだ。普通の魔導師だったら死んでる量の魔力だよ。

 取り敢えず好機だ。魔導具無効が無くなればこっちの物だ。


「ゴーレム・レギオン前進せよ。ついでに和仁にも念の為にカラシニコフあげる」


「まあ、貰っとくけど……これ実銃じゃね? 魔導具じゃねえよな」


「何時から私が魔法銃しか持っていないと勘違いしたの? 火薬とか錬成するの面倒だから大量生産していないだけでいっぱい持ってるよ」


 魔法銃だけじゃなく、地球と全く同じの銃だって持ってるさ。唯、使える人間が居ないだけだ。騎士達に渡せって? 鈍器だと思われるだけだ。彼等の脳筋ぷりを侮ってはいけない。


「じゃあ和仁はさっきから救援を求めているのに全員に放置されて殺されそうなヘリオスの救援をお願い」


「応、何か物凄い可哀想だ。俺くらいは助けに行ってやる」


 若干哀れなヘリオスにも飼い主として救援を送るべきだ。私はアリシアさんにがっちり捕まっているので動けない。すまんなヘリオスよ。これ以上勝手に動くとアリシアさんのお説教ゲージがMAXになりそうなんだ。ここらで暫く大人しくすることで少しゲージを下げておくべきだ。


「神よ我等に祝福を! 」


「正義は我等に有り! 」


 しっかし皇国兵の狂信者共は士気が下がらない……いや、既に理性を捨てていると見るべきか。現実逃避して暴れているっぽい。マジで鬱陶しい連中だよ。


「全員殺して。捕まえても意味は無い」


「「「「応! 」」」」


 騎士達も分かっているのだ。説得なんて不可能だと。油断なく連携を取って一人一人殺していく。油断は無い狂信者は恐ろしい存在だ。一時的に限界を超えた動きをする事が有る。だから確実に殺していく。具体的には全員首を刎ねる。これで死んだふりも防げる。

 但し、騎士達も余りに気味の悪い皇国兵に士気が若干落ちている。女神の叫びながら暴れまくっているのだ。既に大勢は決した。こっちの勝利だ。逃げ道なんて残っていない。いや、一見残っているが、そこに逃げるとわんこーずに狙われる。わんこーずの動きは実に合理的だった。

 そして戦闘開始から3時間。皇国軍は全滅した。異世界人2人は足を負傷して尚も逃げようとしたが、魔力の枯渇で足元も覚束ない状況だ。魔法無効の方が拓斗に首を刎ねられ、魔導具無効の方はクート君に踏みつぶされて死んだ。


「中々手古摺った? 」


『主よ異世界人とは面倒な連中だな』


 クート君も余りに粘られたので呆れている。寧ろ、良くぞクート君に瞬殺されなかったと褒めるべきだろう。

 だけど、こういうのが数百人は残っている筈なんだよね。

 不味いな。これまでの異世界人のデータを見ると、アーランド騎士より身体能力が優れている可能性が高い。これが異世界補正って奴か。面倒極まりない。

 無論負けるつもりは無い。王国兵は屈強だ。簡単に負ける筈がない。でも、皇国の異世界人をもっと警戒するべきだ。

 やっちゃう? 王国騎士甲冑作っちゃう? 後でお兄様に相談しよう。究極の脳筋を生みだすべきだろう。じゃないと無駄に被害が増える。

 もう帝国戦は勝利だ。種は撒いた。帝国は二度と覇権国家には戻れない。

 後は賠償金を貰って捕まえた皇帝に同盟国へ領土を割譲させるだけだ。断るのならば頷くまで拷問に掛けるけどね。帝国から手を出してきたんだ。袋叩きにされても文句は言えない。

 そして全員殺して装備をはぎ取り、適当に掘った穴に死体を埋葬すると、私達は帝都に戻る。

 案の定反乱の動きが有ったが、私が無傷で戻ってきたら蜘蛛の子の様に逃げ去った。帝国軍は諦めてるらしく動いていない。貴族もだ。恐らく教会が動かそうとしたのだろう。

 今回の戦闘ではゴーレムが多数壊されたが、怪我人だけだ死者は出ていない。そして怪我人は全員魔法で治したので負傷者0だ。

 ん~まあ、完全勝利かな。課題は出来たけどね。魔法妨害への対処法を増やすべきだし、王国騎士の強化も考えよう。まあ案は有る。王国兵をお父様並の身体能力を持たせれば世界中を敵にしても勝てる筈だ。その為には早くロケットを撃ち上げないとね。試作品は有るけど、耐久試験が残っているのだ。深海だろうが溶岩だろうが、単独で大気圏突入くらい出来ないと私は採用する気は無い。王国兵の安全を絶対に護る甲冑を作ってみせる。

 そして皇国軍がちょっかいを出してから3日後。遂にアーランド空軍が帝都に到着した。

 総数19隻の艦隊だ。無論帝国側から見ての艦隊だ。実際は武装飛空船1隻と大型飛空船18隻だ。大型飛空船は戦闘艦ではない。輸送艦だ。だが、アーランド以外の国家では飛空船=戦闘艦だ。だから過剰に畏怖を与えた。

 しかし予定では20隻だったんだよね。でも、2隻は途中でエンジン不調で帰投した。

 乗っている王国兵は約5千。現在王国が外に出せる限界数だ。

 彼等は堂々と帝都の大通りで行進を行った。私が行わせた。帝都はそこに住む者が嫌う他種族に落とされたのだと理解させる為だ。

 同時に同盟国に対して使者を送るように要請も出している。こっちは移動に時間が掛かるでの、送られてきた人員で賠償金を確保しよう。

 青褪める帝国国民を見ると気分爽快だ。普段はさぞ他の種族を見下していたのだろう。屈辱と恐怖の表情だ。安心するが良い。賠償金とか終われば帰るからね。でも帝国の繁栄は戻ってこないけどね。

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