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264 真夜中の襲撃

 アリスティアは若干慢心していた。連合軍の主力であった英霊達を天へと送れば戦力が激減する。そして帝国の誇りを踏みにじり過ぎた。

 無論2日後には武装飛空船2隻が護衛した20隻の大型飛空船が送られてくる為、兵力は問題ないと判断したのだ。実際多くの帝国兵は心が折れ、反抗する気力も残っていない。防衛戦は散々な結果だったのだ。勝てたと思えば多くの仲間を自爆で失い、滅ぼした筈の者達が軍勢となって帝都を強襲してきたのだ。

 恐れ。帝国兵がアリスティアに感じた感情だ。アリスティアは何をするか分からない。油断している。もしかしたら逆転出来る。それらの予感を恐れと言う感情が押しつぶし、殆どの帝国兵は抵抗する事が出来なかった。

 しかし、あの悲惨な防衛戦に直接参加してなかった者達は違った。


「どれだけ我等を侮辱すれば気が済むのだ! 」


「左様。我等の誇りを何だと思っているのだ! 」


 帝国軍の参謀や一部近衛騎士達。あの自爆を直接目にせず、皇城で敗戦を迎えた者達。

 アーランドで惨敗した事で復讐心を募らせ、アリスティアが皇帝に帝国に行った事で更に復讐心は強まった。

 彼等の殆どは罪人だ。アリスティアの出した要求では彼等の殆どが死刑にされる。その事で彼等の中に有った恐怖を復讐心が上回った。

 ここで負ければ自分達の未来は無い高級軍人と、大人しくしていれば今のところ何もされず、武装放棄で済まされている一般兵の違いだ。実際一般兵に関しては数が多いので放置される予定である。後の混乱の主力部隊を潰す必要は無いのだ。一般兵は生かしてこそ『次』に使える。しかし、彼等を指揮する高級軍人は『次』の邪魔になる。

 彼等は英霊達が消えた事を知ると武装蜂起を決断した。しかし、皇族と貴族の殆どは参加しなかった。己の頭部を思うと勝てないと悟ったのだ。それとあからさまな慢心に裏が有ると判断した。

 無論参加した貴族もそこそこ居るが、数が少ない。武装蜂起した者達は僅か400人程度だった。帝国の国力を思えば随分減ってしまった。と嘆く者達だが、アリスティアさえ排除出来れば再び繁栄を取り戻せると信じていたのだ。

 最も『そんな未来は来ない』アリスティアの排除はグリザイユ計画の発令を意味する。

 

 グリザイユ計画。秘密裏に製造された特製爆弾をアーランドの脅威となる国家全てに投下する狂気の計画。敵国と仮想敵国の大都市を完全に崩壊させるこの計画は未だに残っている。

 そして更に恐ろしいのは、この計画をアーランド側が知らないと言う事だ。待機している爆撃機の搭乗員も何かを運ぶ可能性が有るとしか告げられておらず、目下ギルバートが計画内容を掴むために王都に残った分身達を調査している。

 しかし、それらを知らない彼等はアリスティアが占拠した迎賓館に夜襲を敢行した。

 結果はあっさりとアーランド騎士に発見された。

 地の利は帝国側にあるはずなのだが、アーランド騎士に慢心の言葉は無い。半分の50人と拓斗が警備していた。

 しかし、帝国の夜襲にアーランド側は混乱した。何故ならば……


「よりにもよって夜襲かよ! (小声)」


「お前等落ち着け。見逃してやるから夜襲だけは止めろ! (小声)」


「死ぬ気か! (小声)」


 見つかった事で開きなおた帝国側の襲撃者が大声をあげて突撃を敢行する。どうせ人数的に見つかる事は分かっていた。故に戦力を分散させずに一点突破で攻め込む。

 対抗するアーランド騎士は剣や槍を投げ捨て、素手で相手する。武器同士のぶつかる音は危険だ。

 アーランドの騎士は精鋭に与えられる職だ。脳筋揃いのアーランド軍の中でも更に脳筋な者だけが成れるのだ。彼等は武器が無くても十分な強さを発揮する。

 実際8倍の襲撃者を一切迎賓館に近寄らせていない。

 しかし動揺が激しい。又、音をたてまいと戦う姿に襲撃者達は押していると判断した。


「押し切れ! 」


「我等の方が数が多いぞ! 」


「正義は我等に有り! 」


「「「「大声出すなよ! (小声)」」」」


 アーランド騎士は恐怖した。目の前の愚か者にではない。背後の迎賓館で寝ているアリスティアにだ。

 アリスティアを無理やり起こせば災厄が発生する。アーランドでは常識だ。普段温厚で穏やかなアリスティアだが、寝起きだけは暴君だ。無理やり起こせばドラコニアを封殺する程の凶暴さを発揮する。

 ここで漸く寝ていた残りの50名の騎士も参戦した。しかし彼等も混乱していた。何故夜襲するのか。勝ち目なんてないのは分かりきっている。

 しかし、それを知っているのはアーランド側だけであり、拓斗も何故これ程狼狽えているのか分からず、黙々と手刀で襲撃者を気絶させていく。

 しかし時すでに遅し。

 バンと言う音と共に迎賓館の扉が宙を舞う。


「………」


 ギギギと錆び付いた様な音と共に騎士達がそちらに視線を向けて悟った。終わりだと。

 そこに立っていたのは寝間着のアリスティアだった。それだけなら、どれ程幸せだろう。麗しい姫君の寝起きを見れたと喜んだと思う。しかし現実は残酷だ。

 暗闇の中でも分かる程の負のオーラを纏っている。もしかしたら空間が歪んでいるのではないだろうかと言う程の負のオーラだ。思わず拓斗が後退る。いや、全員ジリジリと距離を取り出した。襲撃者もだ。


「………五月蠅しゃい……今何時だと思ってるのぅ……」


 コクンコクンと時折首が下を向き、その度に目をこすって涙目で睨むアリスティア。手にはクートの尻尾が握られ、寝ているクートを引きずっていた。

 ヘリオスは恐怖心で心がへし折れた為に外には出てきていない。未だに迎賓館の中で頭を抱えて震えていた。アリスティアの護衛をしていたアリシアも頭を抱えている。何でこんな時間に襲撃してきたのかと頭痛がしたのだ。

 この時、漸く襲撃者達は我にかえる。目の前には暗殺対象が武器すら持たずに寝惚けている。異様な雰囲気を纏っているが、アーランドの騎士は硬直している。今こそ好機とばかりにアリスティアに向かって駆け出した。

 たどり着けたのは数人。残りはいち早く立ち直った拓斗が立ちはだかるが、数が多すぎた。


「アリス! 」


「死ね王女おおおお! へぶし! 」


 振り下ろされた剣がアリスティアに触れる前に襲撃者が何かに潰される。クートだ。未だに鼻提灯を浮かべるクートをアリスティアが振り下ろしたのだ。その衝撃は凄まじく、咄嗟に闘気で防御を行った襲撃者一撃でノックダウン。地面に埋め込まれた。クートは未だに寝ている。この程度じゃダメージにはならないのだ。未だに夢の中で楽しく穴を掘っていた。

 そして暴虐の時間が始まった。アリスティアは残りの襲撃者をクートを横薙ぎで払い転ばせると一人の男の頭を掴む。


「何をぐおおおおおおおおおおおおお! 」


 自身の頭を握る小さな手を放そうと腕をつかんだ襲撃者だが、己の頭蓋が悲鳴をあげだした。万力の如き力で握られており、彼の力では引き離せない。


「ソイツを離せ! 」


 襲撃者が剣を突き刺そうと、突きを放つが、目の前には先ほどまで掴まれていた仲間が居た、先ほどまで頭を掴んでいた男を投げたのだ。

 互いに錐もみしながら転げる2人にクートを振り下ろして止めをさすアリスティア。


「五月蠅いの……皆五月蠅い………五月蠅いのは嫌い」


 アリスティアの負のオーラが更に強まる。そして蹂躙を始めた。一人一人しっかりとクートを叩きつける。防ぐ者は手足をへし折る。その余りにも暴虐すぎる戦い方はドラコニアその物であった。

 実際ドラコニアも寝起きのアリスティアを見て「流石俺の娘だ」と言う程である。

 寝起きだけはドラコニアに匹敵する身体能力を持っていた。いや、ポテンシャルだけはそれ程高いのだ。使いこなす才能が無いだけだ。

 逃げ出せた者は居ない。アリスティアが迎賓館から出てきた時に立っていた者は全員ぼろ雑巾の如くボコボコにされ、山積みにされた。

 アリスティアはパンパンと埃を掃うと、クートが居ない事に気がついた。

 戦っている間にすっぽ抜けて、クートは木の枝に尻尾でぶら下がって寝ている。未だに起きないのは本能が目覚めてはいけない事を理解しているのだ。それと夢の中での穴掘りに夢中になっている為だ。陰に隠れているシャドウ・ウルフも影の中で震えていた。


「クート君どこぉ……」


 既に眠気が限界なアリスティアはクートを見つけられなかった。代わりに拓斗が視界に入る。


「じゃあ拓斗でいいや」


 拓斗の腕を掴むと引きずるように迎賓館に戻っていくアリスティア。


「……良いのか? 」


 アリスティアの寝室に男が入る。年齢的に間違いは起こらないだろうが、大問題だ。


「お前引き離せるか? 」


「ごめん無理。アリシア様に期待しよう」


 無理やり引き離せば目の前のゴミ山の仲間入りだ。今のアリスティアには言葉は通じない。言い訳は出来る。文句を言われても「じゃあお前引き離せるの? 」と言えば文句を言った方も沈黙する。それ程有名なのだ。毎朝ドラコニアとギルバートが部屋から一方的に捨てられれば有名にもなる。

 その頃アリスティアはスヤスヤと夢の中へ旅立っていた。拓斗はベット脇で困惑気に座っている。手を掴まれているのだ。


「少しでも妙な真似をしたら首を刎ねますよ」


「分かってる」


 放そうとすると万力の如き力で握りしめるので拓斗を追い出せないと判断したアリシアは拓斗の首筋にククリ刀の刃を押し付け、充血した眼で拓斗を見つめていた。少しでも動けば拓斗の首を刎ねる事は間違いない。


「そう言えば昔から寝起きは機嫌悪かったな。流石にここまで悪くは無かったけど」


 アイリスも寝起きが悪かった。お陰で世界経済が混乱した事もある。株式市場はアイリスの遊び場だからだ。寝惚けて危うく世界恐慌の引き金を引きかけた少女であった。基本的にアイリスもアリスティア同様、個人資産は腐る程有ったのだ。


「口を開かないでください。迎合する気はありません…………………ただし、前世の姫様の事は詳しく鮮明に細かく書類に記載して後ほど提出して頂きます」


 アリスティアの語らない過去についてはアリシアも興味津々で有った。具体的には前世がどれほど愛らしかったのかを論文で1000枚くらい提出してもらいたい程だ。因みに拓斗なら2000枚は余裕で書ける。

 こうしてアリシアの戦いはアリスティアが目覚めるまで続くのだった。

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