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263 謝罪

「お前敗戦の責任者だろ。土下座ね」


 私は倒れた皇帝の頭を踏みつける。さて、この爺どう落とし前つけようか。

 まずは帝国史上最悪の皇帝と言う事を歴史に刻み付けてやろう。やったね皇帝歴史に名を残せるよ。嫌がるなよ。権力者なんて大概歴史に名前を残したがる生物だろう?


「き、貴様! 」


「黙れ」


 帝国騎士の一人が顔を真っ赤にして私に向かってきたが、私は腰のホルスターからリボルバーを抜くと、帝国騎士の太腿を撃ち抜く。私は冷血な勝利者であるべきだ。一切容赦してはならない。ここで普段のノリを出すと侮られる。傲慢であるかの様に振る舞うのだ。


「ぐう……」


「敗戦国の分際で何武装してるの? お前等全員武器を捨てろ。10秒以内に武装解除しない者は殺す」


 もう一度リボルバーを天井に向けて撃つと慌てて剣や槍を手放す帝国兵達。全く負けたんだから武装くらい外すべきだ。

 私は負け犬皇帝を蹴りながら10秒待つ。全員武装を解除したようだ。


「無条件降伏を受け入れるんだよね? 」


 改めて踏みつけている皇帝に問いかける。


「ぐ、儂の命を奪えば我が帝国は荒れ、貴様の物にはならぬぞ。生かしておけば統治を手伝ってやる! 」


「………」


 私はポカーンとした表情になった。そのままアーランドの騎士達を見ると、同じようにポカーンとしている。

 前提条件が違うのだ。彼等にとって戦争とは領土拡大の手段だ。だから勝ったら領土を増やす事を前提に行動する。敵国の貴族に調略を掛けたりとかね。まあ、滅ぼした後は内通した貴族も殺されるけどね。他種族連邦は帝国と通じた王家を他種族連邦を滅ぼした後に因縁つけて処刑してるし。基本的に裏切者は帝国も必要としていない。

 対して私は別だ。まあ、一部領土を貰う可能性は否定しない。帝国との国境沿いにはお父様の故郷の廃墟が有るからだ。但し、アーランドと帝国の国境沿いはある意味紛争地域なので人は住んでいない。当然だ。毎年のように争っている戦場に暮らす人なんて居ない。

 だから多分そこは取る。だけど、帝国自体は不要だ。

 まず帝国を取る。これはアーランドの滅亡を意味する。まず帝国臣民はアーランドの統治を歓迎しない。寧ろ反発は避けれない。帝国臣民からすれば、アーランドは蛮族だ。そして他種族と迎合する普人の裏切り者だ。絶対に荒れる。

 当然帝国が荒れれば、それを抑える為にアーランドは兵を出すしかない。一度手に入れれば手放せないのだ。

 それは帝国との小競合いでは済まない損害が出る。広大な帝国の各地で反乱が起こればアーランドの戦力はすり潰されかねない。戦費にも耐えれなくなるだろう。

 そして大問題なのは、帝国の四方の国がアーランドを潰そうと四方から攻め込んで来る事だ。そんな事されたら、唯でさえ戦力の半数近くを失ったアーランドは帝国領を放棄せざるおえない。当然責任問題だ。

 帝国領を捨てたら、今度はアーランド国内で不満が出る。血を流しながら維持しようとした帝国領を何故捨てるのか? とね。だから帝国を奪うべきじゃないのだ。


「勘違いしているようだね。お前等見たいな塵芥はアーランドに必要ない。帝国は支配する価値も無い」


 私の言葉に帝国側の全員が顔を真っ赤にする。自分達に価値は無いと言われたのだ。

 まあ嘘だ。帝国には価値がある。中央国家連邦がアーランドに侵攻する時間稼ぎと言う価値だ。

 まず皇帝は死刑だ。100回裁判しても覆らない。アーランドの法にはアーランドを侵攻する為に軍を率いてアーランド領に入ってきた王族・皇族・貴族・高級軍人は死刑と明記されている。裁判で争えるのは死刑前に拷問を行うか否かだ。減刑しても死刑なのだ。

 当然帝国内は荒れ果てるだろう。帝国の統治力が衰えれば無理やり押さえつけられていた勢力が立ち上がる。そう独立派だ。

 グランスール帝国は建国初期から侵略を繰り返して大国になった。普段は纏まっている国だ。しかしソ連と同じで中心である帝国政府が強いから纏まっているのだ。一度綻びが出来れば、分断は確実だ。一見頑強な一枚岩に見えるが、ヒビが入ればあっさり砕ける脆い岩だ。

 更に皇帝が死ねば帝国の風物詩である継承権争いが起こる。皇太子は既にアーランドの王都でぶら下がっているので正統な後継者は居ない。そして皇帝も新しい皇太子を選定していない。この状況で軍の上層部も処刑されまくれば盛大に皇族が争ってくれるだろう。その流れは絶対に帝国全土に広まり大混乱になる。

 今までみたいなヌルイ継承権争いじゃなくなるのだ。アーランドに惨敗した以上は強い皇帝を求める派閥。自身達を優遇してくれる皇帝を求める派閥。自分達の国を興したい勢力にかつての祖国を取り戻したい勢力。まさに内乱だ。

 そして、これこそアーランドを救う唯一の手段だ。


「悪いけど帝国には滅びて貰うよ。お前達は殆どがアーランド領に不法に侵入している犯罪者だ。王国法では死刑だ。当然私は法に則りお前達を死刑にする。

 当然帝国は荒れるよね? でも荒れて欲しんだよ。だって大陸に覇を唱えた大国が惨めに自滅する様を眺めるって気分いいでしょう? 」


 本来の目的は愉快犯ではない。確かに多少は鬱憤を晴らせるが、それで死んだ将兵が蘇る訳じゃない。

 彼等は死んでから時間が経ち過ぎた。死者蘇生は死後すぐでなければ不可能だ。魂が剥離し、天へ昇れば蘇生は不可能だ。まあ、私の家族だった場合は天界に攻め込んで家族の魂を強奪するけどね。しかしそれはリスクがあり過ぎる。多分失敗する。家族ならば強行できても将兵だと、ね。無論攻め込んで将兵の魂を奪い返したいと言う思いは確かに有るが、そこまでやると女神と悪魔王を敵に回すし、テトも妨害するだろう。勝ち目無いね。精々その3者を道連れにする程度だ。

 私の中の精霊王の力を暴走させて自爆させれば殺せない事も無い。女神は殆ど力が残ってないから神壁も突破出来るだろうしね。但し私は確実に死ぬ。

 話は戻すが、現在アーランドを攻め込むには帝国を通る必要がある。オストランドを通る事も可能だが、道が悪すぎる。オストランド自体は脆弱な軍隊しか持っていないが、立地が良いのだ。山が国境の役割をしているせいで、帝国領からオストランドに入らないと損害が結構出る。それなら帝国領を通ってアーランドに攻め込む方がマシだ。

 そして帝国が荒れれば他国の軍が通る等不可能だ。各勢力が自分勝手に動く戦国時代に突入した帝国が安定するまでアーランドに中央国家連盟が軍を送る事は出来ない。

 空から飛空船で送れば良いって? そりゃ武装飛空船の餌だ。功績に飢えた空軍に狩りつくされる。現状旧式となった木造船如きじゃ全金属船の武装飛空船には勝てない。射程と速度で圧倒しているのだ。蹂躙できる。

 帝国が混乱すればするほどアーランドは時間が稼げる。その間に疲弊した経済を立て直し、現状の私に依存した生産を改善する。工場群が完成すれば世界と戦えるだけの技術力が持てるのだ。

 5年で良い。5年有れば、アーランドは大陸中の国家を相手に出来る戦力を持てる。

 アーランドが生き残るには圧倒的な技術力を持つしかない。そして技術力が有れば効率的な国家開発も行え、立場が逆転する。同盟国を一つの経済圏として中央国家連盟に対抗できる。だから帝国は混乱するだけで良い。


「さて、まずは皇帝に帝国の栄光ある歴史を汚して貰おう。連合軍の将兵がお前が土下座して帝国の所業の謝罪する事を望んでるからね」


「儂に謝れと言うのか! 」


 帝国は勝利の歴史だ。勝利する事で覇権国家になった。それは帝国の誇りである。それを帝国の頂点である皇帝が跪き謝罪するのだ。自分達が間違っていたと。これ程屈辱的な事は無いだろう。

 私は未だに喚き散らす皇帝の頭を掴む。しかし、肩に手を当てられた。


「俺が運ぶよ」


 拓斗が代わりに運んでくれるそうだ。


「ありがとう」


「良いって。こんな爺に触れる必要はないしね」


 そう言って拓斗は皇帝の足を掴むを引きずり出す。まあ、この場に居る帝国の人間全員エイリアン見たいに髪どころか眉も髭も無いしね。全員ツルツルだ。何でだって? そりゃ産廃の効果だよ。貴族達なんて死んだ魚の様な眼をして抵抗する気力も残っていない。侍女達なんてずっと泣いてるしね。自業自得である。

 まあ、私が怖くて髪を返してって言えないんだろう。だから縋る様な眼で私を見るな。お前達はそのまま禿げとして生き続けるんだ。

 後に禿げた帝国事件と呼ばれる事をこの時の私は知らない。敗戦による莫大な負債で帝国の財政が禿げたのと、帝都で禿げが蔓延し大参事を引き起こした事件である。2つの意味で阿鼻叫喚の嫌な事件である。


「連れてきたよ」


 拓斗が皇帝を投げ捨てる。


「ぐぼ! き、貴様皇帝たる儂に対して何たる不敬をグハ! 」


 鬱陶しいのか拓斗のヤクザキックで皇帝がお腹を押さえて静かになる。


「さて土下座して許しを乞え」


「断る! 」


「……どうしようか? 」


 まさか、この状況でも強情を張るとは。成程流石皇帝だ。思わず失笑してしまった。


「耳でも削ぐ? 」


「拓斗は暫く見ないうちに怖くなったよね」


 拓斗は少し過激になった気がする。多分気のせいだろう。そう思う事にした。

 取り敢えず皇帝が土下座したいと言うまで連合軍に参加した将兵が蹴って遊ぶ事になった。リンチとも言う。死なない程度に無駄に怪我をしない程度に蹴り続ける将兵は無表情だ。それだけ憎いらしい。

 1時間程度で皇帝が降参した。全く無駄な時間を使わされたよ。


「儂は……グランスール帝国皇帝として………我が国がこれまで多くの、国家に迷惑を………」


「続けろ」


 途中で言葉が止まったので蹴ると、渋々続きを言い出す皇帝。


「多くの国家と、そこに暮らす多くの国民に…我等の……所業を……謝罪いたします……我々は過ちを犯しま、した」


 ボロボロになり、涙を流しながら謝罪する皇帝。見渡すと誰も同情なんてしていない。当然だ。彼等は大事な国家を滅ぼされ、多くの仲間を奪われ誇りを踏みにじられたのだ。謝罪程度じゃ許せないだろう。

 でも、少し彼等が薄まった。未練が弱くなった。


「記念撮影が必要だよね。皆の旗を掲げよう」


 まだだ。まだ消えるのは早いと思うよ。私は写真の説明をする。少しずつ薄くなっていた将兵が再びもとに戻る。

 私達は皇帝を引きずって皇城の広場に移動する。彼等の旗を掲げ、既に掲げられている帝国旗の端に【ファイヤーボール】で火をつける。

 パタパタとなびく帝国旗が燃えていく。アリシアさんがカメラを持って代表者達と私が一緒になってサムズアップしながら帝都陥落の記念撮影をした。


「少しは気が晴れた? 貴方達が勇敢に戦った事。そして、国家が滅ぼされ、自らの命を失っても帝国に一矢報いた事は歴史に残る。絶対に残す。

 貴方達の誇りは未来に届ける。貴方達が賢明に生きていたと言う事と共に」


 この写真は複製してアーランド中にばら撒こう。そうすれば彼等が力を貸してくれたことは歴史に残る。

 彼等には勝利を告げる故郷も家族も残っていないのだ。共に戦った私が、アーランドが彼等の勝利を称賛するのだ。

 写真を見ていた英霊達は静かに涙を流した。そうだよね。共に喜べる人が居るのはとても大切で貴重な物なのだ。

 誰だって一人で笑うより2人で3人で多くの人達で一緒に笑いたい。彼等はお互いを知らない。時代が違う人達だ。でも一緒に戦えた。そして帝国に勝ったのだ。

 彼等は私を見つめると、頭を下げた。そして、そのまま消え去った。周りを見渡せば、連合軍は全員消えていた。これで一応のケリが着いたと思ったのだろう。自分を納得させる事が出来たのだろう。次の人生で幸有らんことを願う。


「さて。疲れたし今日は休むかな。迎賓館を占拠しよう」


 私も疲れたので休む事にした。皇帝? その場に捨てておけば自分で帰るでしょう。どうせ帝都の門は分身率いるゴーレム・レギオンで押さえてるし、既に帝都中に転移妨害と飛翔妨害の結界を張った。逃げれないよ。地下道も精霊が全部潰したって言ってたしね。

 その日の晩、屈辱から決起した帝国兵が迎賓館を襲撃した。数は400程度。殆ど戦犯として裁かれる予定の高級軍人達だ。しかし、私が朝目覚めると、一緒に寝ていたはずのクート君は、庭の木の枝に泥だらけの状態で尻尾だけでぶら下がりながら寝てるし、何故か私の手を拓斗が握ってて、その首筋に無表情のアリシアさんがククリ刀の刃を当てていた。

 ヘリオスは部屋の隅で頭を抱えて震えていた。

 そして、襲撃してきた帝国兵達はゴミの様に山積みにされていた。騎士達が頑張ったのかな? え、違うの? じゃあこのゴミ山は一体……

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