表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
279/377

262 帝都陥落

 私は帝都の城壁の上に立っていた。


「子供、か? 」


「何でこんな所に」


 城壁に居た帝国兵が私を見て困惑する。


「私の名前はアリスティア・フォン・アーランド。アーランド王国第一王女にして副王家当主」


 その言葉を聞いた瞬間、帝国兵が絶叫をあげて斬りかかってくる。


「カリバーン! 」


 右手に握られたカリバーンが黄金の輝きを放つ。それと同時に振り下ろされた剣をベルゼバブで受け止める。

 体格差から私が防御出来ないと思っていた帝国兵が驚愕の表情を浮かべる。自身の渾身の一撃を片手で受け止めたのだ。しかも平然と。

 聖剣カリバーン。聖の名を冠する武具の2位に位置するこの聖剣の効果は所有者の魔力を用いて仲間の強化。そして、強化された仲間が多い程所有者は強化される。

 あくまで所有者の魔力依存であり、使い手を極端に選ぶ聖剣だ。魔力が多いという事は魔法使いだ。そして魔法使いは剣では無く杖を使う者だ。

 今回強化したのは連合軍30万の将兵全員だ。今の私は身体能力だけならばお父様を上回る。


「っぐぅ……」


 つばぜり合いを続けると、帝国兵が崩れ落ちた。手に持つ剣は朽ち果て、刀身が無くなっていた。ベルゼバブはあらゆるエネルギーを食らう人工魔剣だ。つばぜり合い等行おうものならば、剣を通して生命エネルギーを食われる。実際座り込んだ帝国兵は起き上がる気力も残っていない。

 現在私が居るのはC—4を設置していない城壁の上だ。連合軍も一部城壁の上に到達したが、C—4の設置していない所に攻城用のモアイが接触している為一応爆発には巻き込まれない。そして帝国兵は城壁の昇ってくる連合軍相手で手一杯であり、下の重装突撃仕様ゴーレム達への攻撃が行えない。分かっていないのだろう。自分達の足元でナニをされているのかを。


「ふ、ファイヤーボール! 」


「続け! 魔法を撃ち込め! 弓兵を呼んで来い! 」


 無駄に多い帝国兵をなで斬りにしていると魔法が飛んで来た。ベルゼバブで吸収し、カリバーンで切り裂く。どっちの剣も魔法は余り効果が無い。私自身もだ。


「術式解凍【ストーム・バースト】」


 風が爆発するような勢いで吹き荒れ、飛んで来た矢も吹き飛ばす。それどころか近くに居た帝国兵すら吹き飛ばし、城壁から地面に叩きつけた。強者は残っていない。落ちた帝国兵は死んだだろう。

 私は怯んだ帝国兵に地面を這うように体を低くして接近しカリバーンとベルゼバブで切り裂いていく。的の…………小さい……私が重心を低く走ればそれだけ攻撃は当たらないのだ。

 斬る・突き刺す・魔法で吹き飛ばす。私は何も考えずに帝国兵を一人ずつ始末する。


「侵略者め! 」


「蛮族を倒せ! 」


「怯むな。囲い込め! 」


 帝国兵も後が無い。恐怖心を抑えて私を殺そうと雪崩れ込んで来る。


「お前等がお前等がそれを言うの……ふーん」


 私はカリバーンを地面に突き刺すと【フレア・トルネード】と言う魔法を放つ。炎の竜巻が私の右手から放たれ、帝国兵を焼き尽くす。


「お前達が私を呼んだんだろう。お前達がアーランドに野心を持たなければ私達は何もしなかったんだ。何時だってそうだ。アーランドはお前等帝国に野心なんて持ってなかった。

 故郷を奪われ。誇りを踏みにじられ、北の地に追い払われても、その地を第二の故郷だと思って懸命に生きてきたんだ。それを奪う事の愚かさを教えてやる! 」


 アーランドに住む殆どの国民は大陸中央に戻りたいとは思っていない。望郷の想いを捨てれない人々も居るが、彼等だって戻る事は出来ない事を理解している。だからアーランドは大陸中央と決別しているんだ。

 グランスール帝国が大陸中央で何をしてもアーランドに関わらなければ何もしなかった。

 だけど、何時も何時も国境を荒らし、アーランド王国を苦しめ続けた。コイツ等が居なければアーランドは破綻寸前まで追いつめられる事も無かったんだ。もっと豊かに生活出来た。親を失った子供や子供を失った親も少なくなった。

 コイツ等に今までどれだけアーランド王国が歯を食いしばっていたか教えてやる。少しずつ崩壊する姿を見ながら何時か来る絶望から目を背けながら耐えてきた多くの国民や貴族達の想いをだ!

 私は再び帝国兵の集団に飛び込もうとした。その瞬間体が持ち上げられる。


「アリス…君何してんのさ……」


「拓斗よ。今良いところなんだ。放して欲しい」


 どうやら分身がバレたらしく転移で拓斗が私の近くに跳んで来たようだ。と言うかよく戦場に居る私を見つけたな。


「アレだけ暴れれば普通に分かるよ。他の連中も急いでこっちに向かってきてるからお説教は覚悟してね。何で最高司令官の君が最前線の最前列に居るのかな……」


「ローマなら稀にある事だし」


「うん。アーランドはローマじゃないからね」


 ッチ、誤魔化されないか。


「どうせ君がここに出なくても勝利は揺るがないんだろう。腹いせは程々にしないと皆心労で倒れるよ」


「むう、バレた」


 確かにここに居なくても勝利は揺るがない。唯物凄い腹立たしいだけだ。目が覚めてから怒りで視界が真っ赤になりそうな程だ。

 同時に帝都の中心にある皇城の方から爆発音が響き渡る。


『主よ。謎の爺が地下に居たが、目的通り帝都内部への穴掘りを完了したぞ』


 クート君から連絡が来た。という事はあの爆発音は軽戦車が皇城を攻撃し始めたのだ。不味いな。


「拓斗、準備が終わったから一度引くよ。この地は汚染された」


「は、汚染?! 」


「実は軽戦車の砲弾に産業廃棄物を詰めてあるんだ。物理的な破壊力は殆どないけど、今頃皇城はとんでもない事になってる筈。風向き的にも一度引くべき。

 大丈夫だよ。一時間程度で収まるから」


 まあ嫌がらせだ。ちなみに産業廃棄物とは生命の秘薬を精製する過程で微量に生まれる正反対の効果を持った魔法薬だ。使い道が無い上に、存在を知ると一部の人間が発狂するから密かに処分して欲しいとお兄様に懇願された物だ。

 帝都ってよく見るとゴミ箱そっくりだよね。ゴミ箱ならゴミ捨てても大丈夫だよね? 私が許可する。と言う訳で処分する事にした。どうせ戦車一両で落とせる訳ないし。

 え、戦車の安全だって? 乗ってるの分身だし、クート君は魔法薬を察知して地下からこっちに逃げてるから大丈夫だよ。いざとなれば自爆するでしょう。

 暫く城壁の上を荒らして城壁下に居る部隊への対応をさせない。攻城用モアイが居る場所は一応安全範囲なので、そこを突破口にしようとしていると錯覚させる。

 これが成功した。そりゃ後ろに引いたとは言え、最高司令官が最前線に居たのだ。明らかに怪しい。

 そして皇城への砲撃。一部部隊は帝都内部に敵が浸透したと勘違いしたのか、城壁上の帝国兵が微妙に減っている。因みに戦車が意外としぶとく逃げ回りながら産業廃棄物を詰めた砲弾を各所にばら撒いているようだ。断続的に爆発音と共に絶望しきったような悲鳴が上がっている。後方かく乱は良いね。城壁の上の帝国兵の士気がみるみる下がっていく。後ろが気になるようだ。

 向こうは良いな。私は全員に囲まれてお説教だよ。軍の指揮は分身に代行させてるから大丈夫だし、連絡は取ってるから怪しい動きは無い。魔導戦艦は適当に城壁上の帝国兵を消し去っている。

 勝ってるんだよ。私が帝都一番乗りした事くらい許してくれてもいいじゃん。


「いえ確かに自分達が帝都に一番乗りしたかったと言う思いは否定しません」


「別に姫様に先を越されたとか考えてません。姫様の安全を思っての事です! 」


「……本音は? 」


「「「「「羨ましいです」」」」」


 アーランドの騎士は今日も脳筋である。


「いや、姫様も同類じゃないですか! 何で毎度毎度危険地帯に行くのですか! 」


「ムシャクシャしてやった。別に反省してないし」


 私に指図するんじゃない! っあ、耳は引っ張らないで痛いから。


「第一、何で気がついたの? 完璧に本陣から移動した筈なのに」


「ああそれね。確かに激しい戦闘が行われてるとは思ってたけど、君の分身が各地で暴れてたし、最初は気にしなかったんだよ。でも、ふと気になったからリーンに聞いた」


 拓斗よ感が鋭すぎないか?


「リーンはその魔法では欺けないのです! 」


「これあげるから次からは黙認して」


 私はホールケーキを差し出す。


「次からは拓斗達に協力しないのです! 」


 リーンはあっさりこちら側に寝返った。これで次からは大丈夫だ。


「ちょ、裏切るのか? 」


 拓斗がリーンを掴むと上下に振る。


「目が回るから止めるのです! リーンとの契約は女王様を見つけるまでの物なのです。今は女王様の御意思のままなのですよ。

 第一リーンが女王様に逆らえる訳ないのですよ。女王様は我等の女王様なのです。契約者である拓斗とは違うのですよ。なので、今後は本体か教えないのです」


「………」


 拓斗は無言でリーンは拘束上下の刑に処した。しかしリーンは既にこちら側よ。精霊の末裔である以上は逆らえない。と言うか本人達に実害が無ければ逆らう気が起きないのが精霊の末裔の特性らしい。エルフにも該当しそうな種族特性だね。気を付けよう。


「そこで胸を張ってても許しませんよ。万が一姫様が亡くなったらアーランド国民が復讐で立ち上がりかねません。もっとご自分の立場を理解してください! 」


「無理だよね。私アーランドの王族だし。血だよ」


 そう言うと拓斗達異世界人組以外が渋い顔をした。どうにも私は前に出てしまう。アーランド王族の血が強い様だ。

 アーランドの王家は常に貴族を兵を率いて前に出て戦ってきた一族だ。ある意味王国随一の脳筋だ。私も脳筋なのかもしれない……いや、私の腕はプニプニだ。脳筋ではない筈だと言っておこう。違うんだ。気がついたら最前線に居ただけだし。


「……姫様から絶対に目を離さない事にします」


「そんなに見つめられても困っちゃうよ」


 悪戯出来なくなるじゃん。

 まあ、お遊びはここまでだ。丁度良い時間だ。戦車も潰されたらしいし、魔法薬の効果も切れた頃だ。

 私は宝物庫からアンテナ付きのスイッチを取り出す。


「爆破は爽快だ」


 ポチっとスイッチを押すと、C-4を設置した場所が爆発し始めた。その数300か所以上だ。当然の如く城壁が崩壊し始める。


「さあ道は出来た。総攻撃だ」


 攻城用の巨大モアイなんて唯の置物だ。本命は城壁を破壊して堂々と帝都に雪崩れ込む事だ。あ、また白旗振ってる。


「降伏受け入れますか? 」


「……」


 私は渋い顔をする。出来れば皆殺しにしたい。許せないし。


「圧倒的な勝利が必要なら、もう達成しているよね」


 拓斗がしゃがみ込むと、じっと私の顔を見る。


「君が怒りを抑えられないのは分かってる。昔からその傾向有ったしね。今も治ってないみたいだね。

 でも、何処かで終わらせる必要はあると思う。じゃないと同じ間違いを繰り返すよ」


 嫌な事を言う。分かってるよ。今だって憂さ晴らししているようなもんだって。

 でもこの怒りは収まらないんだ。でも、このくらいで良いかもしれない。

 怒りは収まらない。でも帝都の住民全員殺しても多分収まらない。歯止めが効かなくなるだけだ。


「……仕方ない城兵の降伏は認める。敵の指揮官を皇城に送って無条件降伏を受け入れるように命じて」


「ッハ! 」


 騎士の一部が駆け出していく。この状況だ。もう抵抗する気力など残っていないだろう。ところでクート君地下で誰と会ったのだろう?

 まあ良いや。別に地下暮らししている人も居るかもしれないしね。

 その日、帝国は遂に膝を屈し、無条件降伏を受け入れた。


「旗を掲げよ! 」


 夕暮れが近かった事もあり、私は帝都の前で一晩過ごす。中には入らない。奇襲は怖いからね。外も同じだけど、だいぶマシ。奇襲は無かった。

 そして次の日に連合軍に参加した多くの国が旗を掲げ、崩れた城壁では無く開かれた門から帝都に入った。

 帝都の住民はまず私の軍勢を見て驚愕する。殆どがゴーレムだ。そして悲鳴をあげた。

 ゴーレムの次に歩いていたのは高位の魔獣――わんこーずだ。クート君以外の全てが本来の姿を取っている。クート君はその気にならないしらしく、大型犬程度の大きさだ。最も威厳があるけど。

 そしてその後ろを歩くヘリオスを見て崩れ落ちる国民が続出した。古代龍怖いらしい。ヘタレめ。王国民なら普通に武器を持つよ。

 そして、その後ろの連合軍の旗を見て完全に燃え尽きていた。まあ滅びた国とかの旗だしね。あっという間に亡霊の軍だと言い出し始めた。お前等がしっかり浄化しなかったからこうなったんだぞ。

 魔導戦艦は帝都上空でいつでも攻撃態勢を取っている。下手な動きをすれば無差別に帝都を攻撃すると脅しているので大丈夫だろう。

 そして疲れ切った帝国兵が皇城の城門を開門する。全員武器と防具を付けていない。武装解除くらいは守ったか。

 連合軍はここまでだ。私は騎士と魔獣と異世界人組を率いて皇城に入る。


「こちらに皇帝陛下がいらっしゃいます」


 場所は謁見の間の様だ。開かれた扉には帝国の繁栄の証の如く、豪華絢爛な場所だった。柱の一つ一つに精密な彫刻が施され、足元にはフカフカの絨毯だ。別にアーランド攻めなくても豊かじゃん。

 但し、私を激怒させる事が一つだけあった。皇帝が堂々と玉座に座っているのだ。一瞬で頭が沸騰し、気がついた時には顔に跳び膝蹴りを入れていた。


「お前、何偉そうに座ってるの? 」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ