表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
274/377

257 エルフの聖地を奪還せよ④

 目が覚めたら物凄い怒られた。


「すまぬ」


「かっこよく言っても許しません! 何で毎度毎度無茶するのですか! 」


 怒髪天を衝くとはこの事か。全身の毛を逆立てたアリシアさんが般若の表情で説教を始めた。騎士達もうんうん頷いている。頼りになるのはクート君だけだ。


「主よ、我も毎度無茶をするのは如何なものかと思うぞ。少しは体を労わるべきだ」


 クート君……お前もか。

 やはり頼りになるのは前世の幼馴染兼婚約者だな。


「た、拓斗……」


「しっかり反省しようね」


 ニッコリと笑っているが、眼が笑っていない。私が解決策を実行してやったのに……解せぬ。

 まあお説教は10時間程度で終わった。何時もの事だ。マダム・スミスなら後2時間は続いた可能性があるので苦では無い。慣れれば説教など児戯の様な物だ。


「まるで反省してませんね」


「割と反省してる。でも私も忙しいんだよ。さっさと帝国を出荷して次の作業に移行したい」


「帝国は豚だったのか……」


 和仁がブルリと震える。しかし豚は言い過ぎだ。あの生物は家畜として優秀だし、味も良いし可愛げも有る。それに比べて帝国はどうだ? 害虫でしかない。

 それにどうやら余り時間は無いようだ。私は精霊王の力を使いこなす事は出来ないが、完全に掌握している。だからこそ、この世界の現状に気がついた。

 今までの私は甘ちゃんだった。でもこれからは違う。敵は滅ぼす。


「拓斗……後どれだけ猶予が残ってる? 」


「ッツ! 気がついたのか? 」


 拓斗が顔を引き攣らせながら問い返す。


「アレの始末は私の仕事だからね。帝国程度で遊んでるのも、もうお終い。幸い私の行っている事が役に立つからね。【負ける事は無いよ】」


 私の行動は邪神に取って最悪の選択だ。奴の弱点である物を永延と作り続けている。と言うか、古代魔法王朝は別に未開な国じゃない。だた慢心していただけだ。魔法が万能であると。魔法に出来ない事は無いと。だから滅びた。古代魔法王朝くらい発達した国家なら第一次大戦期くらいの地球とも戦える戦力を持っていたのだ。

 まあ、相性が悪いんだ。邪神魔法ぶつけても効果低いしね。魔法戦なら私だって勝てる気はしない。分身1000人出しても多分負ける。アイツは異世界の神・悪魔王・精霊王を殺して食らって能力の劣化版とも言える権能を持っている。

 それなりに硬い神壁を持ち、割と貫通力のある攻撃を行え、限定的な魔力の掌握が行える。器用貧乏と侮るなかれ。その3つの権能は劣化能力でも恐るべき力を誇るのだ。

 実際この3つの権能は女神・精霊王・悪魔王を苦しめた。女神も悪魔王もこの地上では本来の力を発揮出来ない。この星は精霊王の物だからだ。故に女神の神壁は邪神に貫かれるし、悪魔王の攻撃は神壁で防がれた。そして精霊王は人を護る役目があり、万全に戦う事が出来なかった。見捨てれば勝てそうだったんだけどね。邪神の攻撃を背後に居る人々を護る為に自身を盾にした事が敗因だ。

 そして長いお説教も終了し、私は現在精霊王の体の前に居る。

 精霊王は巨大だ。巨人と言っても良い。所々蔓が巻き付き、半ば世界樹と一体化しているが、滅びてはいない。


「貴方が私を呼んだの? 」


――汝が今代の担い手か――


 ほらね。精霊王の力が人に受け継がれている以上、精霊王は滅びていない。力を失っているだけだ。仮死状態とも言えるのかな?


「担い手が何か分からないけど、貴方の力なら私が持ってるよ」


――そうか、漸く忌々しい呪いは消えたか。済まぬ。今の我にあの呪いを滅ぼす力は無いのだ。しかし、あの時の状況下では我の力なくして人は滅びを逃れる事は出来なかった――


 なるほどね。精霊王の死後の事は割と断片的だ。精霊王の力を受け継いだ人の記憶の一部が力にこびり付き、残っているだけ。しかも物凄い胸糞悪い記憶だ。

 本来邪神の力はもっと早く浄化されている筈だった。人に受け継がれる度に少しずつ浄化され、その力は元に戻る筈だった。

 それを台無しにしたのが聖教を名乗るゴミ共だ。連中何時の間にか大陸中に浸透し、精霊王の力を受け継いだ人を捕まえだした。理由は精霊王の力の簒奪。しかしこれは成功しなかった。

 受け継いだ人が死ねばランダムに何処か別の場所に力は移動する。これを観測するのは私でも不可能だ。

 何度か精霊王の力を持つ人を殺した結果、聖教は簒奪を諦めた。次に行ったのは力の解析だ。ここで更にやらかした。邪神の欠片は確かに精霊王の力を汚染していた。しかし、魔王と呼ばれる存在に変質する程汚染されていなかったのだ。無理に弄った結果、邪神の欠片が暴走したのだ。

 そしてこれを聖教は利用する。暴走した力は精霊王の力に憑りついた邪神の力を増幅し、邪神に近しい力に変質する。これが魔王化の正体だ。

 引き金は憎悪。邪神の力の本質だ。邪神も世界を憎悪している。自身の望みの叶わない世界を憎んでる。

 意図的に世界の敵を生みだし、普人同士を団結させ、ついでに他種族を滅ぼす。

 なるほどねアバロン王国が存在した時代に普人に次いで出生率の高い獣人がまともな国を持って居ない訳だよ。何度も滅ぼされていたのだ。獣の楽園は国家を名乗っていたが、中央集権を行えず、部族の集合体だったからね。


「それで、私に何か用? 力返せとか? 」


――今の我に力を返しても復活には程遠い。我は後数千年はこのままであろう。汝の好きなように使うが良い――


 ふーん。まあ、返す気無いけど。


「それだと例えば私が世界を滅ぼすとか言い出す可能性もあるけど」


――汝がそれを望むとは思えぬの。この世界に大切な物が有るのだろう? そういう者は世界を滅ぼしはしない。仮に滅ぼすのならば理由がある。

 そして、仮に汝がそれを行おうとしても残りの2柱はそれを許さんだろう。汝は人の身故に神と悪魔王には勝てぬ――


 別に殺そうと思えば殺せるけどね。魂弄れる正真正銘の魔女だし。

 まあ、確かに今の私は世界を滅ぼす気は無い。過去は過去だ。辛いし悲しいけど、前世の両親は死んだのだ。今なら受け入れられるよ。二度目は認めないけど。あんな思いは一度で良い。


「それで、私を呼んだ理由は? 」


――汝に願うのは人と精霊の繋がりだ。今の精霊契約は歪んでいる。正してほしい――


 ああ、なるほどね。一方的な精霊契約の事か。それなら別に構わない。


「精霊王の勅令使う事になるけど」


――成程、やはりこれまでの者とは違うのだな――


 楽し気に笑う声が響く。


――構わぬ。我が力を使うが良い出来れば人と精霊の架け橋……に…――


 声が少しずつ小さくなっていく。


「一つ聞きたい。何でそこまで人に固執するの? 別に精霊的には居ない方が楽でしょう? 」


――汝、悠久の刻を生きる我等の孤独を知らぬな。我等だけでは…孤独を埋められぬ。我等精霊族は人が……存在して初めて感情を得られる…のだ。人の存在が無ければ……我等…は唯の……世界の歯車よ……故に我等に……感情を与えて…くれる人は愛おしい…のだ――


 良く分からないけど、人が居ないと精霊も困ると言う事かな?

 まあ、確かに人と繋がりの希薄な精霊は自我が乏しいような気がする。漂っているだけと言う感じだ。逆に私と契約してる精霊は割とアグレッシブだ。良く追いかけっこしてるし、何時も楽しそうに笑っている。これからはもう少し構ってあげよう。

 しかし精霊王の勅令か。アレは別に負担無いしね。要は近くに居る精霊を集めて命令するだけだ。

 内容はシンプル。従属的な契約を禁止する。これで既存の契約法では精霊と契約する事は出来ない。ぶっちゃけ誰だよ変な契約魔法に作り替えた奴は。

 精霊との契約なんていつの間にか従属的な契約だったし、私も余り問題視してなかった。精霊が嫌がる事を頼む気が無かったからね。でも改めて考えれば精霊側には負担だよね。分かるよ。私だってマダムがああしろこうしろって言われると鬱陶しいもん。つい飛び膝蹴り入れようとして捕まるもん。つまりマダムが悪い。


「術式の改変とそれの普及については了承するよ。勅令で既存の契約は危険だから絶対に契約しないようにすれば良いかな? 」


――そうだな。今の我は抜け殻故、他の精霊と言葉を交わす事が出来んのだ。頼む――


 そういうと精霊王の反応が返って来なくなった。一時的に意識が戻ってただけなのだろう。と言うか抜け殻状態でも意識戻るのか……って私の中の精霊王の力を通して会話してただけだしね。体の方はピクリともしていないし、精霊達も独り言? って感じで首を傾げてる。


「ああああ! こんな所に居ました! 」


「探しましたよ姫様! さあベッドにお戻りください」


「いや、俺がベッドを御持ちしました。直ぐに横になってください! 」


 アリシアさんの叫び声に反応した騎士達があっちこっちから私の下に駆け寄ってきた。何でこうなったって? そりゃ私が抜け出したからだよ。

 普通に考えてみるが良い。数か月間寝ていた私が動ける筈がない。直ぐに動いてるのは私の鎧だと露見したんだ。まあ、ヒーヒー言いながら歩いてたしね。

 そんで皆揃って過保護が発動した。私は暫くベッドで過ごせって五月蠅いんだ。私はこれから帝国をけちょんけちょんにして皇帝に土下座させた後に処刑台に送ると言う一大事業が待っているのだ。寝てる暇はない。


「だから休む必要はない」


「こんなにやせ細っているのですよ! 」


 ええいプニプニ触らないで。くすぐったいじゃないか。


「この薬を飲んでれば問題ない」


「この禍々しい色の丸薬ですか? 」


「超高濃度の栄養剤だよ。味はフルーツ味」


 直ぐに元の体型に戻るよ。そして私の体に成長の兆しが……何故か身長伸びてないんだよね。まあ、寝てたし……寝る子は育つとか最初に言い出した奴は不敬罪で死刑ね。絶対に許さない。

 ついでに魔法で全身の筋肉に適度な運動を行わせて失った筋力(笑)も取り戻せる。過負荷で筋肉にダメージが入っても治療魔法で治せるからね。心肺機能も同様の方法で鍛える。最も素の状態に戻す程度で終えるつもりだ。筋肉付け過ぎると身長伸び難くなるからね。私の将来設計に支障が出る恐れがあるので仕方無い。


「と言う訳で【集え我が同胞達よ】」


 余りに鬱陶し皆を放置して精霊達に招集を命じる。

 この言葉は波紋となって遠くに居る精霊にまで届く。


「え、これは? 」


「何だ敵襲か! 」


 空間に幾つもの歪みが発生し、驚いた騎士達が剣の柄に手を添えるが、私が手で制する。


――あー! 女王様だ――


――こんな所に居たんだ! ――


――初めまして! ――


――新しい女王様だ――


――新しい女王様に我等の忠誠を――


 歪みから出てきたのは精霊達。割とフレンドリーだな。と言うかノリが良い。


「皆に命令が有るの。今人の世に広まってる従属的な契約は一切禁止ね」


――分かったよ――


――仰せのままに――


――アレ気に入らなかったんだよね――


――ここに居ない子達にも教えてあげよう――


 精霊は刹那的に生きてる種族だ。怒らせない限りは気分の赴くままに生きている。既存の契約の危険性も深く考えない子が多い。

 だからこそ勅命で禁止したのだが、やはり軽いね。


――そう言えば女王様何処に住んでるの?――


――居るのは知ってたけど、見つからなかったんだよ。もーずっと探してたんだからね――


――独り占めだ――


――もー許さないんだから! ――


 多分私と契約してる精霊が口止めしてたっぽい。追いかけまわされてるし。


「アーランドって国に暮らしてるよ」


 別に私は隠してないから言っても問題ない。但し、私の周りを飛び回るのは勘弁してほしい。危なくて動けないよ。まあ、ぶつかった程度でどうにかなる存在じゃないけど。


――じゃあさ、じゃあさ……私達もアーランドで暮らそう! ――


――良いねー。独り占めは狡いもんね。皆に教えてあげよう――


 あ、ヤバ。この流れだと多くの精霊が帝国から流出する事になる。

 まあ、私は困らない。精霊がアーランドの土地を気に入れば恩恵がある。

 例えば土の精霊に好まれる土地は豊饒の土地になるし、そこが鉱山なら多くの金属が取れる。

 火の精霊は…暖かい事が多くなる。

 水の精霊はかなり重要だ。水害や旱魃が減る。

 光と闇はレイス等の発生を防いでくれるのだ。

 つまり精霊の多い国は自然豊かで安定している国という事だ。

 最も居ないと国が滅ぶ程ではない。唯普通の土地になるだけだ。恩恵は無いが、精霊を怒らせて天変地異が発生する訳じゃない。最も余程怒らせないと天変地異は起こさないけど。

 ふむ、別に帝国が困っても私は困らないからどうでも良いか。これも罰だと思って貰おう。


「よーし! じゃあ皆私と一緒に移住しよう」


――わーい! ――


 こうしてグランスール帝国は精霊の恩恵を失う事になる。ついでにこの地の移動に精霊達がかなり協力してくれる事になった。

 必要魔力は3分の1程度まで下がったし、移動後に土地としっかり繋げてくれるらしい。

 そして私が目覚めて4日後。


「準備は良い? 」


 私の問いに分身がサムズアップで答える。


「準備完了だよ」


 そして詠唱開始。詠唱時間は凡そ30分。ダントツの長さだ。

 まず、持ち上げる土地の保護だ。大地を削り取るような物なので、これを行わないと移動中に崩れ落ちる可能性が高い。

 そして土地その物に飛翔魔法を掛ける。これもかなり難易度が高い。まず対象が巨大すぎるのが原因だ。

 そして30分後、土地が浮かび始めた。


「じゃあ私達は先にアーランドに戻るね」


 分身はこの土地を持って帰るのでお別れだ。お陰で宝物庫の人員が半分以下になったが、既にゴーレム兵は8万を超えている。このくらい戦力が有れば十分だ。ついでに援軍も来ることになった。アーランドじゃないよ。アーランドに頼むと国民総出で来そうだし。何か物凄い好戦的な世論になっているらしい。お兄様も半泣きでこれ以上帝国攻略を先延ばしにしないで欲しいと泣き言が来た。

 前代未聞の土地その物の略奪は世界中の驚かせる事だろう。

 私は帝都へ向けて進軍を始めるのだった。


「姫様、帝都は反対方向ですよ」


「知ってるし。ちょっと迂回しようとしただけだし」


 帝都へ向かって進軍するのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ