256 数が足りないなら増やせばいい
「何で人型なの! 」
――え~私達見えてるじゃん――
火の精霊と思われる赤い髪の精霊? が驚く。巫女服っぽい物を着ている。
――久しぶり! 私達は元々こんな感じだったよ――
多分水の精霊だと思う青の髪の精霊だ。露出の少ない水着っぽい物を着ている。
――人間って私達を正確に認識出来ないんだよね――
これは光の精霊かな? 金髪だし。光ってるし。なんか神官……の様なローブっぽい物を着ている。因みに短いタイプのローブだ。
――多分アリスの中の精霊王の力が正常になったからだよね――
これは風だね緑色の髪だ。ぶっちゃけ、この子は胸を布きれの様な物だけ着ている感じだ。下はスカートだけど。
――と言うか早く再契約してくれ。繋がりが切れてると落ち着かん――
これは土の精霊。ドワーフっぽい。
――ふむ起きたか。具合はどうだ? ――
黒目黒髪の闇の精霊だね。日本人的な顔ではないけど。恰好は……何でスーツ? 私の記憶から選んだのか。
と言うかカラーリングで分かり易い。
因みに精霊は土と闇が男性タイプで他は女性タイプだね。最もそう言う風に見えるだけで精霊に性別と言う概念は無い。どっちにでも成れる。
しかし何故人型に成っているのか。それは精霊達の説明によると、元々こういう姿なのだが、人間の殆どが認識出来ていないらしい。因みに見えないのも認識していないだけで、別に精霊は隠れていない。意識すれば普通の人でも見えるように出来るが、それは面倒だと行わない精霊も多いそうだ。
精霊は基本的に人間に興味が無い。これは他者に興味が無いと言う意味ではない。
関われば興味を持つのだ。逆を言えば関わらない限り人間には興味が無いだけだ。
しかし、殆ど見えない精霊と関わりを持つと言うのは難易度が高い。このせいで精霊と契約した精霊術師・精霊使い・精霊の愛し子など色々な呼び名の有る人が少ないのだ。
まあ、要は精霊と契約しないと精霊は殆ど見えない。しかし見えない精霊とどう関われば良いのかと言う問題が発生する。
これは本来精霊王の役目なのだ。
放置すれば人との関わりが希薄化する精霊達と人間を繋ぐ存在が精霊王だった。しかし古代魔法王朝は精霊打倒を掲げてしまった。
精霊王的には国家の一つ二つ消し飛ばして己の愚かさを悟らせる事は容易だ。この星では人間が精霊王に勝つなど不可能に等しい。私も多分無理かな?
しかし同時に古代魔法王朝は隣接世界へ侵攻を始めた。結果、その世界を滅ぼし、暇を持て余していた邪神が逆に侵攻してきた。
これにより、この世界は滅亡の危機に陥った。
そして精霊王が命がけで邪神を向こうの世界に押し返し、女神が封印する事で危機は去った。しかし、当時の精霊は当然の如く人間に怒りを向けた。
魔法王朝は邪神の特性から首都を放棄していたが、避難地から首都へ向かう事は出来なかった。
精霊の襲撃だけじゃない。邪神の襲来でこの世界の魔物が変質してしまったのだ。元は魔獣も魔物も手を出さなければ何もしてこない程度には大人しかったが、邪神襲来後には目を合わせただけで殺しにくる存在になった。
そのせいで彼等は故郷に帰れない。更に精霊や魔物・魔獣との闘争の結果、技術者の多くを失い文明すら維持できなかった。
――まあ、私達はもう怒ってないけどね――
――悪い奴等は大体死んでるし――
水と風の精霊がケラケラ笑う。
既に遥か昔の話だ。殆どの精霊はもう過去だと割り切っているらしい。但し、当時精霊王に次いで力を持っていた大精霊6柱が自身の属性を司る精霊王(代理)に成っているのだが、彼等が大の人間嫌いで、他の精霊も元々知らない人間はどうでも良いと考えていたせいで更に関係が希薄化してしまったのだ。
「つまり私が人と関わらせればいいの? 」
――まあ、そうだけど、別に無理しなくても誰も困らないよ? ――
――だよね。別に人間居なくても困らないよね。アリス居るし――
光の精霊と火の精霊も私以外にはこれと言って興味が無いらしい。
まあ、これは後で考えよう。上手くいけば精霊術士を量産できる情報だ。
そして彼等が人型だと認識出来たのは私の魂に取り込んでいる精霊王の力が正常化しているからだそうだ。
精霊王の力の権能に関する部分は殆ど邪神の欠片に汚染されており、これまでは軽い魔力の掌握と幻術などの看破程度だったが、これからは多くの力が使える(使いこなせるとは言っていない)。
精霊との再契約は難しくない。と言うか精霊との契約ってお互いが繋がろうと言う意思が有れば問題ないのだ。最もこの世界で当たり前の道連れ的な契約は破棄させる。この世界の精霊との契約は精霊側に破棄できない不平等条約に成っているのも関わりが希薄化した原因だからだ。まあ、私は元々そんな事しないしね。基本頼らないし。
「さて、じゃあ世界樹でも見に行くかな……体に力が入らないんだけど」
「そりゃずっと寝てたし。これ鏡」
うわ、私痩せてるじゃん。元より細身なのにどうすんのさ。これじゃ皇帝虐められないじゃんそうだ!
「鎧よ来い」
ベット脇に立っていた鎧が液状化すると、私の体を覆い、元のドレスアーマーに戻る。
「おお立てる立てるよ」
「立ってるの鎧なんだよなぁ…」
まあね。この鎧はパワードスーツでも有るから動く事は可能だ。最も体中が早速悲鳴をあげている。
私は外に出る事にした。ってこれって作って放置してたバスじゃん。後ろが2階構造の奴だ。下部分を部屋にしてたのか。狭いと思ったわけだ。
バスから出ると騎士達が立ち話をしていた。私がバスを降りると、一瞬キョトンとした顔をしたが、次第に瞳に涙が溜まりあっという間に溢れだした。
「姫様! 目が覚めたのですか! 」
「今起きた所。これから世界樹を見に行ってくるね」
「え、いやいや駄目ですよ。これまでずっと寝てたのですから。まずは体を大事にしてください」
いや、私は世界樹に興味があるのだ。と言うかさっきからずっと呼ばれている。私には分かる。世界樹の方から呼ばれているのだ。
「何で呼ばれてるのか分かる? 」
――声なんて聞こえないよ――
光の精霊が首を傾げると全員が頷く。もしかして幻聴? ……分身共に人体改造でもされたのだろうか……私ならやりかねん。私はぺたぺたと体を触って改造されていないか確かめる……胸に成長の兆しが見えていないが、後数年でたわわに育つので焦っては居ない。今は雌伏の時だ。
「まあ良いけど、取り敢えず世界樹の所にアリシアさん達居るんでしょ? ちょっと行って来るよ」
「しかしここの監視もありますし、出来れば戻ってくるのを待って頂きたいのですが」
「いや、貴方達はこのままで良いよ。私一人で行く」
「「「「駄目です」」」」
全員に怒られたが、私が無詠唱で掌に炎を出す。
「体は本調子じゃないけど、魔法は前より制御出来てる。ヘリオス程度なら蹂躙出来るし」
「あのドラゴンなんて村人でも倒せます! せめて護衛を」
………うちの国の村人なら殺りかねない。バリスタの放つ巨大な矢の如きスピードでクワとか投げてきそう。
結果として護衛が5人程来る事になった。クート君は向こうで拓斗を観察してるっぽい。召喚出来るが別に直ぐに再会できるので問題ない。
しかし歩くのが面倒なので大分前に作った空飛ぶ絨毯の上にシャドウ・ウルフを寝かせて、それに寄りかかって移動する事になった。
尚、シャドウ・ウルフが居る時点で殆どの魔物は近寄ってこない。それ程の魔獣が10匹程飼っているのだ。最も9匹は影の中に居るが、魔物はシャドウ・ウルフが10匹居る事くらい察知出来る。生存本能だけで生きているからね。
3時間程移動した。私は座っていたが、騎士達は重い筈の金属鎧なのに軽騎兵並みの速度で走っていた。鍛え方なのだろうか……私があの速度で走る姿が想像出来ないけど。
そして普通に合流。しかし分身の一体が反逆したので消し去った。役に立たない分身に用は無いのだ。因みに三好さんちのドロドロした末路は私も好きだ。ノブは好きじゃない。だってちょんまげだし。
「よ、拓斗」
「アリス……」
ふむ、ここでアイリスと呼ばないのは良い事だ。多分アリシアさんがキレるからね。
因みに私は自分をアリスティアと認識しているが、アイリストノ違いは実を言うと無い。
簡単に言えば育ち方や環境の違うアイリスであるとも言える。別人とも同一人物とも言える。実際全部受け継いだしたし、魂もほぼ同じだ。
しかし仕方のない人だよ。こんな所まで追いかけて来るなんて。全部捨てて追ってきたんでしょう? 本当に仕方のない人だ。
嬉しさ半分呆れ半分だ。日本で暮らしていれば平穏に暮らせたのに。今の私の眼は誤魔化せない。拓斗は勇者に成っている。つまり女神に選ばれている。
前に会った時から知っていた。しかし精霊王の知識を得た私は拓斗がこちらの世界に来る事を望んだのだと理解出来た。召喚された時に拒否すれば女神も別の勇者を選んだだろうからね。
まあ良いだろう。全ては帝国を始末してからだ。まずは目の前の問題を終わらせよう。
「分身、状況を報告せよ」
「私達の数が足りない」
そういって分身が土地を持ち上げる巨大浮遊魔法の術式が描かれた紙束を渡してくる。
私はそれを見て、確かにこれはとんでもない魔力を使うと理解した。魔導炉を用いれば可能だが、現在宝物庫内の工場群は兵器製造に集中し、他を一時閉鎖している。研究も同様だ。
全てのエネルギーを戦争に向けた結果、他の部分で遅れが出ているのだ。
とは言え、私の魔力量も寝ている間に周囲の魔力を吸い取った結果、容量が増加した。無論魔力回路が大改造とも言える程強靱になったので問題は無い。今の私の魔力制御でも余裕で制御できる。今なら【大帝】も制御出来るだろう。
しかし、それでも微妙に足りない。後、私が全部の魔力使うと失神する。これは魔法使いに共通する悩みだ。普通は1割程度は残さないと動けなくなるのだ。
「成程、しかし私には新たな力が有るスターコア接続! 」
私はドヤ顔で星の核へと接続を行う。それと同時に【魔紋】を展開し、更に魔力回路を強化する。同時に膨大な魔力が星の核から私に供給される。もっとだ。もっと深く接続するのだ。
――アリス! それ使っちゃ駄目! ――
精霊が慌てるが、それを聞く前に私は分身を生みだしまくった。一体一体が大魔導士とも言える魔力を有した分身。これまでは魔力多めの魔術師程度からギリギリ魔導師程度だったのが一気に強化された。
そして新たな分身が100体程生み出された時に、星の核との接続が絶たれる。世界が回り、意識が混濁し始めた。やべ、使いこなせないんだった
――使いこなせない力を使うからだ! 学習しろ! ――
闇の精霊が物凄い怒っていたが、私は唯の失神だ気にするなと言葉にする前に気を失った。




