25 初めての依頼は茶番2
今回、残酷な描写がありますので苦手な方はご注意下さい
無礼だとか薄汚い冒険者だとか私が正体を出したら貴方方全員不敬罪ですが今は時間が惜しい。予想以上に病気が進行してるので国王陛下を見ると頷いて周りの人間を部屋の外に出した。今この部屋に居るのは騎士一人と王太子殿下と国王陛下の三人。他の騎士は部屋の外で誰も入ら無いように見張ってます。
「これで良いか?」
「ええこれで本気で行けます」
私は仮面を外し変化も解く。本気で魔法を使う時に他の魔法を展開してると邪魔になるので…あと仮面ってかっこいいけどちょっと邪魔。
「【ヒール】【浄化】【癒しの光】合成…【女神の癒し】」
白い羽根が孫姫さんの周りに舞い、雪のように解けていく…それと同時に孫姫さんの顔色もどんどん良くなっていく。だけど何かが邪魔をしてる感じがしますね。多分かなりヤバい病気なのでしょう、私はさらに魔力を掛けて【女神の癒し】の効果を上げていく、そして魔法が終わる頃には1割ほどしか魔力が残らなかった。
「ハア…ハア……終わり…多分これで…」
流石に魔力が急激に減ったのでフラフラする。私は仮面を付けるとなけなしの魔力を使い変化を掛けると膝をつく。不味いですね魔力切れ一歩手前で気を抜くと意識が飛びそうで杖に縋り付いて何とか立ってる状況です。
「お嬢様…余り無茶をしないでください…複数回に分けて治す事は出来なかったのですか?」
「かなり悪い病気だったみたいで…一気に…治さな…いと…」
ああヤバいふらつきます。もう立ってられない。
「暫くお休みください。雑事は私の方で済ませますので」
「動けない…けど…何とか起きてる…」
取りあえず国王陛下の許可を取り椅子に座る。私が座るとアリシアさんが私の額を触って熱を測ったり水を差しだしてくる。冷たくて美味しいです。贅沢を言えばアリシアさんのクッキーが欲しいけど流石に常備してないだろう。
「あ…あれ?わたくしは一体…」
国王陛下や王太子達から感謝を受けてると孫姫さんが起きたようだ。病気が進行してここ数日意識が無かったらしいけど様子を見る限り特に問題は無さそう。無事に終わったのは嬉しいけど私はグロッキー…やはりこういう大威力の魔法は体の負担が大きい。
「マリア―ネ‼何処か苦しい所は無いか?」
「えっとおじい様‼すみません見苦しい姿を…」
アワアワと髪を弄ったり佇まいを治す孫姫さんとそれに連動するようにアワアワ動く国王陛下と王太子様…コントでしょうか?
「えっと特に何ともないです。寧ろ体が凄く軽いのですが私は一体?」
「そこに座っておるホロウ殿が治してくれたのだ‼今は術の反動で動けないようじゃがマリア―ネもお礼を言いなさい。そなたの命の恩人じゃ」
びっくりした顔で孫姫さんが私を見る。どう見ても子供ですし普通は自分の命の恩人だと言われても驚くでしょうね。私は暫く動けないので会釈だけで済まします無礼な態度ですが動けないので見逃してください。
「それは、お礼が遅れて申し訳ありません。この事は生涯忘れませんわ」
深々と頭を下げる孫姫さん。私はとりあえずヒラヒラと手を振る。取りあえず孫姫さんも落ち着きを取り戻し皆に姿を見せるために別室で準備をするようだ。そのまま侍女数人と部屋を出て行った。
「ホロウ殿、疑ってすまなかった。だがこの事を私達は絶対に忘れない。何か望みがあるのなら出来る限り叶えよう」
「いえ私は依頼を受けただけですので、報酬も依頼書通りで十分です」
王太子様が私の前に跪きながら頭を下げますが流石にこれは不味いですよ。王太子と言えば次期国王ですよ表向き平民の私に跪いては威厳とか権威とかが損なわれてしまいます。それに別途報酬は別に要らない、何故なら報酬で金貨150枚あれば一生遊んで暮らす事も可能なのだ…私的には研究費に消えるけど。
そんな訳で他の報酬は要らないのです。お金は自分で稼ぐし王太子様は国王陛下と私の密約を知らない筈なので貴族にしようとかどっかの貴族家の養女にするとか言い出しかねないしそうなったらなったで断るけどそれもまた面倒事になるので早く帰えって寝たい。
「しかしそれでは気が済まない…」
王太子様も納得してくれないみたいだ。王族にとっては金貨150枚はそこまで大きいお金じゃないのは分かってますが実際金貨150枚って破格なんですよね。
「アルディウスよそれぐらいにしておけ、ホロウ殿への報酬はギルドで受け取ってくれ。儂もそなたへの感謝は忘れない。もし教会や何か困った事があれば近くの騎士団に頼ると良い。そなたの力になるように話をつけておく」
「すみませ…ん」
ここまで聞いて私は意識を失った。
「眠ってしまったか。シア殿、そなた達は宿に戻った方が良いじゃろう。儂としては城に国賓として泊まってもらってもかまわぬが」
「いえ、ホロウ様を連れて宿に戻ります。ホロウ様は広い部屋が嫌いなので…それとホロウ様の治療魔法の力を教会側に知られましたので『こちら』側に居た方が安全ですから」
私は姫様を抱き上げると国王と王太子に頭を下げる。そして部屋を出ると外で待機していた城のメイドに城門まで見送られて外に出た。陽は沈み始め辺りが暗くなり始めた時間です。どうやらかなり長く城に居たようですね。
私はお嬢様を抱き上げたまま大通りを外れた小道に入る。そこはいくつもの木箱があり道幅も狭く薄暗い。私が何故ここを通ったかと言うと…
「そこの亜人‼その娘を置いて行け‼」
背後から声を聴き振り返るとギルドに居た神官と城に居た神官が教会騎士を8人程連れて立っていた。このゴミはお嬢様を狙っているらしい。
「おや確かゴルド助司祭とバルド枢機卿でしたか?私達に何ようですか?」
私は既にこの町の教会関係者の顔も名前も知っている。この情報を知っておかねば姫様に近寄られても気が付くのが遅れ姫様の身に危険が及ぶ可能性があります。私達に与えられた任務は姫様の危険を最小限にする事なのです。
「貴様のような亜人には関係ない‼その者は教会で預かる。抵抗するなよ?」
はぁ…どこまで行ってもゴミばかり。
「渡すとお思いで?貴様等のようなゴミに我等が至宝を差し出す筈が無いでしょう?」
私が拒否すると教会騎士は剣を抜きこちらに向かって来る。だがそれらの剣が私達に届くことは無かった。
「ぐ…」
「ぎゃあ!」
突然建物から飛び降りてきた者達が持っていたナイフを深々と教会騎士の頭に突き刺す。騎士達は何が起こったのか理解できずに倒れていく。飛び降りてきた者達は一見浮浪者だったり冒険者だったり市民だったりとバラバラの格好をしてますが彼らは全員姫様の護衛として派遣された第二特務騎士団の団員です。
第二特務騎士団は基本的に表に出ません。第一特務騎士団が国外での諜報活動や場合によっては暗殺を行いますが、第二特務騎士団は普段国内で活動します。任務内容は裏切り者の暗殺や国内の間諜の処分などを行います。そしてその秘匿性から陰から王族を守る番犬なのです。
「声を出させるな姫様が起きてしまう。早々に処分しなさい」
私は姫様に血の匂いが付かないように少し離れる。
「貴様等‼誰に刃を向けている‼私達に刃を向けのは神…に」
何やら神官達が言っていましたがそれを言い終える前に護衛の一人に心臓を突き刺されその命を散らせた。
「副隊長、処理が済みました。我等はこの後ここに転がってるゴミを処理してきます」
「バーレル既に私は抜けた身です。副隊長は別の人が居るでしょう?」
この者はバーレルと言い姫様についてきた第二特務騎士団の小隊長です。そして私もかつてはバーレルと共に第二特務騎士団で国の為に働いて居ましたが姫様の侍女になる際に騎士団を抜けたのです。仕事上職務から解放される事はありませんが愛する姫様の前で血の匂いをまき散らす訳にも行きませんからあっさり許可されました。
「いや~副隊長が抜けてから副隊長席が空席なんですよ、仕事上滅多に団員がそろう事もありませんし」
「隊長に決めるよう頼みなさい。私が副隊長に戻る事はありません。私は姫様の侍女ですから」
そう言うとバーレルと周りで死体を鞄に詰めていた元同僚達から羨望の目を向けられた。当然でしょうね姫様の身の回りをお世話しているのは私だけですから。
「ずるいっすよどうやって気に入られたのかご教授してもらいたいです」
「姫様の考える事など私にも理解出来ませんが」
本当に姫様は何を見て何を考えて生きてるのでしょうね。この血に塗れた私を侍女に選ぶだけでなく何処か遥か遠くを見てるような雰囲気を出してる事があります。魔法も誰に教わる訳でも無く習得し自ら新しい道具を生み出す頭脳も持っている姫様の内面は陛下達ですら計りかねています。
「羨ましいっすよね俺も姫様に甘えられたいぜ」
「お前じゃ逃げられるのが落ちだ」
「てめぇの方が顔が怖えだろ!」
バーレルの発言に周りが次々とヤジを飛ばすも手は止めず数分で死体はカバンの中に納まった。死んだゴミは何処かに見つからないように処分されるでしょう。
「終わったなら早々に散りなさい、姫様に存在を知られるわけにはいきません」
「副隊長も丸くなりましたね。前は無表情だったのに」
私も昔は姫様以上に無表情でしたからね。姫様に使えているこの幸せな時間が私を変えたのを否定はしません。
そうして彼等は最初から居なかったように何処かへ去っていく。この場には血の跡すら残さずに。
「姫様も少しは自分の事も考えて欲しいですね。いつまでも他人優先だと心配になってしまいます」
私は姫様の頭を撫でると自分と姫様に隠蔽を掛け宿に戻っていく。まるで何事も無かったように。




