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252 エルフの聖地を奪還せよ ②

「行き成り怪物扱いは酷くない? 」


 分身が手を振ると、妖精族達の周囲に魔法陣が浮かび、妖精族を拘束した。

 詠唱を破棄して精霊に近い妖精族すら拘束できる拘束魔法を使う事に妖精族達は恐れる。


「やっぱり怪物だ! 」


「は~な~な~! 」


 もがく妖精達だが、妖精の力では拘束から逃れる事が出来ない。


「え~い【クラック】っつ、弾かれた」


「私の魔法に干渉しようとしても無駄。こっちの方が制御が強い」


 分身は拘束した妖精族を一か所に集める。


「何で行き成り攻撃してきたの? 」


「お前がこの森の魔法を勝手に解除するからだ! あの魔法を使う為にどれだけのエルフが死んだと、そして苦しんでいると思っているのか! 」


 妖精族の男が怒りの声をあげる。


「だから解除したんだよ。このままだと転生する事も出来ずに魂が消滅してたんだよ? 」


「彼等は覚悟の上だった! 」


「魔法を使った時は覚悟してたんだろうね。でも苦しんでた。もう良いじゃん」


 数百年にも及ぶ束縛と自らの魂の消耗にエルフの魂も限界だった。


「人間に世界樹は渡さない」


 どうやら妖精族は世界樹を奪いに来たのだと思ったようだ。

 これは確かに事実だ。分身は世界樹を奪う為にここに来た。しかし、自分の物にするつもりは無い。


「ここのエルフの生き残りが私の国で生きてるんだよ。だから彼等に世界樹を返す為に来たんだけど」


「そのエルフ達が生きてるとは思えない。お前は普人……人間じゃないだろう! 」


「まあ私は魔法で作られてるドローンみたいな物だし。本体持ってこれば説得が楽なんだよな……」


 分身には魂が無い。魂が無いのに人の形をした何かが自我があるように動く。妖精達はこの異様な存在を恐れている。未知とは誰もが恐れるのだ。

 そしてアリスティア本体であれば速攻で話が終わる。精霊王の力を持っているからだ。妖精族の警戒心もそれだけで薄れるだろう。それだけの影響力があるのだ。本体未だに寝てるけど。


「う~ん説得面倒。拓斗」


「分かったよ。リーン起きて」


 拓斗はポケットを外から軽く叩いてふて寝しているリーンを起こす。


「痛いのですよ。レディーを起こす作法すらしらねーのですか……って同胞! 」


「同胞よ助けてくれ。この怪物に囚われた」


「うへぇ……もうお終いなのです」


 まさか女神が保護していた妖精族以外に生き残りが居るとは思っていなかったリーンが嬉しさの余り万歳するが、分身に囚われている事を知ると、絶望に満ちた顔になる。


「やっぱり敵だ! 」


「これって普段のアリスの行動のせいだよね? 」


「裁判所で話し合おうか? 」


 心外な事を言われたので裁判で争う姿勢を見せる分身。尚、勝ち目はない模様。

 常識的に考えて顔を合わせる度にサンプルを取ろうとするマッドサイエンティストと仲良くなるのは困難だ。


「拓斗彼等を助けてほしいのです」


「え~アリス攻撃してきたし殺すしか無くね? 」


「コイツも何処か壊れてるの忘れていたのです! 」


 分身とはアリスティアを攻撃した以上は目の前の妖精族は敵のカテゴリーに入っている。故に拓斗が助命を求める理由は無い。


「え~別に傷つけてないじゃん。攻撃しなければ普通に解放するよ」


 分身も別に妖精に敵意は無かった。攻撃してきたから拘束しただけだ。


「……そういってサンプルとるのですか? 」


「本人の同意が無ければ無理やり取らないよ。アリシアさんみたいにサンプルをポタポタ落してる訳じゃないしね」


 別に強制的にサンプルを取る気は無い。だからリーンと顔を合わせる度にお願いしているのだ。強行した事は今のところない。急いで手に入れる必要はないのだ。地道にお願いすれば良いと考えていた。


「え、無理やり取らないのです? 」


「最初からお願いしてるだけ」


「手に持ってる凶器はなんです? 」


「許可をくれた時に直ぐにサンプルが取れるように用意してるだけ」


 ここで漸くリーンが自分が拒否していれば問題ない事を理解した。


「すっごい今更なのです! 分かりにくいのですよ! 」


「そう? それはごめんなさい。お詫びにクッキーあげる」


「わーい。もう許すのです」


 分身がお皿いっぱいのクッキーをあげると、今までの凶行を全て許しリーンはクッキーの山に飛びかかった。

 それと同時にく~っという音が複数聞こえた。分身が振り向くと、捕まっている妖精達が恥ずかしそうに顔を背けていた。


「もう攻撃しないなら分けてあげる」


「……どうせ勝てない。我々はもう攻撃しない」


 妖精族の男が諦めたように項垂れる。暫くお茶会になった。





「つまりエルフが滅びた後はこの森を貴方達が管理してたの? 」


「そうだ。彼等は勇敢に戦った。だから彼等の、そして我等の大切なこの場所を我々が守っていた。いずれあの魔法も効果が切れるのでな」


 エルフの禁術は術者達の魔力や生命力だけでなく魂その物を消費する。使えば術者達は当然死ぬが、死んでも解放されないのだ。

 いずれは魂すら魔法の維持の為に食い潰され、そして魔法の効果は無くなる。そうなればこの森は普通の森に戻ってしまう。


「連中……えっと、帝国だっけ? 多分それを知ってると思う。放置すれば後1年も保たないのは普人でも優れた魔法使いなら分かると思うから。

 それにここが普通の森に戻れば私達妖精族も捕まるの。多分もう勝てない。普人多すぎなのよ! 」


 妖精族はエルフ以上の長寿な種族であり、エルフ以上に数が増えない。神樹国が滅んだ際にもエルフに協力していた為にかなりの被害を出したが、数百年経っているにも関わらず当時より人口が少ないままの様だ。更に言えば妖精族の主力を担っていた者達の被害は凄まじく、今残っている妖精族は戦闘よりも幻術や回復等の補助系の魔法が得意な者が多い。

 更に妖精族は体が小さく、魔法は得意だが、武器を使うなどが体格的に無理なのだ。エルフ達を補助する事は出来るが、妖精族だけで自らの身を守るのが難しい。大陸で妖精族が殆ど居なくなったのはこのせいだ。


「ふむふむ成程。それで何で行き成り攻撃してきたの? 」


「それは行き成りエルフ達の禁術が解けたから……外の奴らが襲撃してきたんだと……まさかエルフと繋がりのある者とは知らなかった。すまん」


 エルフと繋がりのある者だと信じてもらうのに大分苦労したが、エルフと獣人のハーフであるアリシアが頑張ったので何とか信じて貰えた。


「まあ取り敢えず世界樹に案内して欲しいけど…問題ない? 」


「……まあ構わないが、我々だけじゃなくエルフ達にも本当に大切な場所なんだ。だから荒らさないと約束して欲しい」


「別に荒らす気は無いけど」


 持って帰るのが目的だ。勝手に荒らせばエルフも気分が悪くなるだろう。


「あ、でも世界樹の落ち葉くらいは分けて欲しい」


「それくらいなら……」


 妖精族は魔法との適正が高く、ほぼすべての妖精族は魔法使いだ。治療魔法を使える妖精も居る上に、錬金術とかも使わない為、世界樹の葉は妖精族にとっては価値は無い。落ち葉くらいなら普通に分けてくれるそうだ。


「落ち葉も使えるのか? 」


 拓斗の言葉に分身は満足気に頷く。


「枝についてる時よりは効果が落ちるけど、これだって有用な錬金素材。落ち葉が有れば幾つかの病気の特効薬となりえるポーションが作れる」


 これはエイボンが持っていた魔導書に幾つか記載されていた物だ。ないない尽くしのアーランドで代用素材を探すのに大分苦労してきたが、これからは病に倒れる国民も減るだろうと分身は大満足だった。

 そしてお茶会も終わり、森の中を進む一行。森の幻術が解けたお陰であっさりと世界樹の元にたどり着いた。


「驚いた。かなり原型を保ってる」


 そこは世界樹を中心に都市が存在していた。本来ならば神樹国が滅びて数百年。とっくに朽ち果てている筈の森林都市は未だに健在であった。


「えへへ。凄いでしょう。私達が何時かエルフ達が帰ってきても大丈夫なように【保存】の魔法をかけたり、掃除したりしてるんだ」


 妖精族の少女達が得意げに語る。彼女達が何時か戻ってくると信じて残していた都市は今すぐにでも住めるとは言わないが、多少の整備で何ら問題ない程度に都市を保っていた。


「へ~これは壮観だな」


「ふむ」


 分身は少し考える。


「アリスどうした? 」


 拓斗が問いかけた。


「う~ん理論上は持って帰れる筈だけど。ちょっと頑張らないと難しいかも。最悪世界樹だけアーランドに持って帰る予定だったけど、都市その物を持って帰った方が良いと思うんだ。でも皆が駄目だって言うせいで軽い実験しか出来てないし」


 ここをアーランドに持ち帰る術は一応ある。と言うか新たに生まれる家族へのプレゼントの為に研究は行っていた。飛空船も完成してるし、問題は無いと思っては居るが、大きすぎるのでちょっと不安になっていた。


「どうやって持って帰るの? 都市を移動させる方法なんて想像がつかないけど」


「普通に浮かべて持って帰るよ。土の精霊……本体今使えないからドワーフの精霊使いに依頼すれば大丈夫なはず」


 水脈とかの関係から都市を浮かべて持って帰ってもかなり問題が出るが、そこら辺は精霊の専売特許だ。かなり動員する事になるが、アリスティアがお願いすれば大抵の精霊は断らないので問題ない。


「まずは一度アーランドへ報告するべきかな。議会は潰してるけど、王国所有にするべきだとか横やりを入れられる前にエルフに売っちゃおう」


「う、売るんですか! 」


 アリシアが驚愕の声を上げる。


「略奪品は私の物だからね。文句が出る前にエルフに売れば後は彼等が守るよ。議会居ないから無理やり奪おうって言う人も出ないでしょ。出ても内乱お断りのお兄様に排除されるだろうし」


 帝国での略奪品は全てアリスティアの私物になる。先手を打ってエルフに引き渡せば問題ないと判断した。

 エルフも聖地を取り戻せば絶対に国には引き渡さないだろうし、エルフはアーランド国内で一二を争う魔法薬の生産地なので、強制は難しい。

 そして、ここでエルフに恩を売れば世界樹の葉くらいは安定的に売って貰えると言う打算も有った。


「取り敢えずお兄様は……放っておこう。電話すると帰ってきてって泣くし。まずは師匠に連絡だ」


「エルフへの連絡は如何しますか? 」


「私エルフの連絡先交換してないんだよ。あの人達領地から出てこないし。登録する前に戦争になったからね。取り敢えず地図! 」


 分身が宝物庫から取り出したのはエルフ領の精密な地図だ。


「あああああ! 姫様。それ国家機密です。何勝手に持ち出してるんですか! 」


 この時代精密な地図は国家機密であり、砦などの軍事施設でも必要最小限の事しか乗っていない地図が多い程だ。

 分身が取り出したのは王国所有の完璧な地図である。持ち出し厳禁であった。


「むふふ、宝物庫に忍び込んだ時にこっそり見ておいた。本物はお城にあるから問題ない」


「やっぱり宝物庫に財宝置いたの姫様じゃないですか! 」


「おっと私がやったと言う証拠は無い。取り敢えず……」


 分身は定規を取り出して計算を始める。およそ30分程計算すると。目的地を見つけた。


「ここの植林地域なら丁度良さそうだね」


「そこですか……エルフの木材輸出を支えてる場所なのですが」


「世界樹の葉を国内に流せば利益は数倍に増えるからヘーキ。それに木材なら最果てからいくらでも取れる。あそこは森林地帯だし」


 既に戦後の北進まで決めているようだ。

 分身は携帯を取り出すと、グランツへ連絡する。数秒でグランツが出た。


「あ、師匠。ちょっと師匠にお願いがあるんだけど。別に悪さしてないし。帝国内で金や鉄鉱石奪ったり砦や都市の城壁爆破して嫌がらせしてるだけだだから!

 え、奴隷? ああ解放してるよ。師匠の同族も解放したから数日後には王都に送る事になるね。凄いでしょう私天才策士だからね。ってそうじゃなくて師匠からエルフに話して欲しい事があるんだ」


 そうして前代未聞の略奪計画を話す分身。それを聞いたグランツは思わず吹き出し爆笑したと言う。

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