250 ドワーフ解放。そして次の標的
ゴーレム・レギオンは命令通り進軍を開始する。砦からは矢が雨の様に降り注ぐ。しかし、全身金属のゴーレムには殆ど効果がない。
但し、大型のバリスタなどはソルジャー・ゴレームを貫く威力があるようだ。しかし、それも大型の重装突撃仕様のゴーレムが最前線を歩く事で防ぐ。重装突撃仕様ゴーレムは動きこそ鈍いが、ゴーレム本来のパワーと重装甲によりバリスタの放った大型の矢を弾き飛ばす。
城門は直ぐに帝国兵が塞ごうと砦中の物を積み上げようとしている。
「させない。撃て」
城門には絶えず砲弾が集中的に放たれ、封鎖をさせない。そして遂に重装突撃仕様のゴーレムが城壁にたどり着く。重装突撃仕様のゴーレムの目的は城壁の破壊だ。その腕に仕込まれたパイルバンカーが轟音と共にアリス鋼製の杭を城壁に叩きつけると、城壁に亀裂が入る。そして、それが何度も何度も繰り返される。
帝国兵はそれを知った時、重装突撃仕様のゴーレムを狙わなければ城壁が粉砕される事を理解した。
「あの大型を潰せ! 」
城壁の真下に攻撃するには身を乗り出さなければならない。随伴歩兵の如く重装突撃仕様ゴーレムの後ろに居たソルジャー・ゴーレムは銃口を上に向けると、身を乗り出した帝国兵にAKモドキの引き金を引く。
軽快な音と共に帝国兵が悲鳴を上げて城壁からポロポロと落ちて来る。これでは防衛は不可能と帝国兵が第一の城壁から後退を始める。中央の砦に引き籠ろうと考えたのだろう。
「じゃあ行くよ。第一目標はドワーフ族の解放。中央の砦はゴーレムに包囲させるだけで良いよ」
「「「「おおおおおおおおおお! 」」」」
分身がスクーターに乗り、拓斗達異世界人と騎士やアリシア等は徒歩。これは分身の通常の身体能力が本体依存であり、足が遅すぎる故の措置だ。騎士達は騎兵並みに足が速いし、異世界人達もそれに準じる程身体能力が高い。
分身率いる制圧隊が城門跡を越える。
「挽肉いっぱい」
「姫様……流石にこれは、うぷ……」
アリシアが余りに凄惨な光景に吐き気を催す。砕け散った城門を塞ぐために集めた兵士達は88ミリ砲の集中攻撃で原型を留めていない者が多かった。騎士達ですら眉を顰めている。しかし分身は割と平気だ。帝国兵はアリスティアの世界の外に生きる者達だ。何が起ころうが、どう死のうがアリスティアは心を痛めない。拓斗も割と平気だが、舞と和仁は視線を逸らしている。
分身はスクーターを下りると、騎士達に指示を出す。
「ゴーレム兵を率いてドワーフを解放せよ」
騎士達が大声をあげて各所に走って行った。
分身は満足気に頷くと、ドワーフ族が収容されている宿舎を最初に抑えた。
戦いと同時に鍛冶場から宿舎に移動させられたのか、宿舎には外から鍵が掛かっていたが、拓斗が刀で扉事切り裂く。
「……やっぱり帝国死ぬべきだよね」
ここで初めて分身は眉を顰める。
小さい窓には鉄格子がはめられていた。そして窓自体少なく、宿舎の中は薄暗い。そこに5段ベットがずらりと並んでいる。
一部のドワーフ達が分身達を眺めているが、その瞳に光は無く、絶望しきっている。
「何じゃ……今度はお主等の武器を作れば良いのか? 」
一人の老齢なドワーフが足を引きずりながら歩いてくる。恐らくこの宿舎に居るドワーフ達の代表なのだろう。しかし体中に鞭で叩かれた跡があり、服もボロボロだ。そして右目が無い。右足も引きずっている。
「私達は貴方達を解放しに来た」
その言葉に代表のドワーフが力なく笑う。それは絶望だ。解放されても強制労働が終わるとは思っていないのだ。解放とは名ばかりの所有先が変わるだけだと思ったのだ。
「開放、か……儂等は逆らわん。ダカラ若い物を無下にせんで欲しい」
「信じて無いようだけど」
分身が拓斗に渋い顔で尋ねる。
「まあこれまでそういう生き方だったんだろう。証拠を見せれば良いじゃない? 」
証拠と言っても、ここのドワーフ達にアーランド王国の旗を見せても分からないだろう。下手をすると、アーランドの事を知らない可能性もある。
最悪なのは帝国の印象を植え付けられている可能性だ。アーランドは悪魔の国。それが帝国内での一般的な印象だ。何も知らないドワーフにアーランドの事を話しても無意味の可能性がある。
分身は暫く考えると、騎士の一人に指示を出す。
「他種族の騎士を集めて」
騎士は状況からアリスティアによる説得は難しいと理解し、直ぐに他種族の騎士を呼んで来た。
「私達はアーランド王国の人間。もう貴方達を無理やり働かせる事も無いし、鞭で叩いたり、見せしめで殺す事も無い」
分身の言葉は静かに宿舎に響いた。しかし分身はどう見ても普人だ。その言葉に裏付けはない。
そして、その言葉に同意するように騎士達が声を上げる。
「俺は獣人だ。でも王国の騎士を務めている。アーランドには他種族への差別はない」
「俺の故郷にもドワーフは普通に居るぞ。俺達獣人と仲が良いんだ。ドワーフは手先が器用で農具なんか凄くてな。鞭で叩くことなんか絶対にないぞ」
「親戚がドワーフと結婚して混血領で暮らしてる。もう大丈夫なんだ」
ドワーフ達が驚愕の表情を浮かべた。アリスティア軍多くは普人だが、エルフは4人、ドワーフは5人いる。獣人は20人程だ。
自分達の持つ知識では普人以外は差別されるのが当然だった。長年閉じ込められていた彼等はここで生まれた者も多い。故に外の世界は殆ど知らない。外から来たドワーフもこの世界では情報伝達が未熟なせいで断片的な事しか知らない。アーランドと言う国は碌に知らないのだ。
しかし、自分達と同じく差別されている筈の種族が騎士を名乗れている事は彼等を信用させるには十分過ぎた。
「アーランドに移住するなら同胞も多いよ。無論強制はしない。もし故郷を目指すのならば必要な食料やテントなども支給する。私は約束は守る」
「本当に……本当に解放されるのか? 」
代表が震えながら訪ねる。その瞳に涙が浮かんでいた。
「私の名はアリスティア・フォン・アーランド。アーランド王国第一王女にして副王家当主。
アーランドにはドワーフの侯爵が居る。私は元々技術者で、師匠がそのドワーフ。絶対に貴方達を虐げない」
王女が平然とドワーフに師事していると言う言葉を聞いた時、彼等は歓声をあげた。
更に他の宿舎も同様に帝国兵による虐殺が行われる前に制圧。最初に制圧した宿舎の代表に説得を頼むと、あっさり彼等もアリスティア軍を信用した。アリスティア軍には他種族も多く、そしてこれまでの帝国兵の様な傲慢さも無い。寧ろ酷使されてきた自分達を気遣うアリスティア軍はドワーフ族には本当に救いとなった。残るは中央の砦だ。しかし、その前に。
「ごはんを食べるべき」
「姫様、砦の攻略が終わってません」
分身が砦を制圧する前にドワーフ達に食事を振る前うべきだと主張を始めたのだ。
「向こうは包囲してるからどうでも良い。寧ろ飢え死に寸前のドワーフや、病気のドワーフの慰撫が先」
こうして敵を目の前に食事と治療が開始された。しかし中央の砦に立て籠もる大国兵が反撃する事は無い。砦の四方をゴーレムに監視されているからだ。城壁から顔を出すだけで銃撃してくる為、帝国兵は震えながら砦に立て籠もっていた。
「しかし重装の兵士が多い」
治療と食事を終えると、死んでいる帝国兵から装備をはぎ取る。これがゴーレムの素材となるのだ。
「そりゃ俺達が作った物だからな……穴だらけになってるが」
当初は自信満々だったが、ハチの巣になって死んでる重装歩兵を見てドワーフが項垂れる。
どうやらこの砦の切り札はこの重装歩兵だったようだ。最もAKモドキを防げず、更に中央の砦に逃げる事も出来ずに壊滅している。確かに重厚な鎧だが、ライフル弾を弾けるほどでもなく、また重装故に逃げ遅れたのだ。哀れ重装歩兵。活躍処か名乗りすら許されなかった。
一部は拓斗に鎧毎真っ二つに斬られたり、屈強な王国騎士に適当な棒で撲殺された重装歩兵も居たが、騎士達の評判はすこぶる悪い。
「重すぎて動きが鈍いんですよ。剣で倒せなければ棒で叩けばいいのです! 」
こうして砦包囲戦も終盤。残すは中央の砦を攻撃するだけだ。アリスティア軍は88ミリ砲をずらりと並べ始める。
これを見た帝国兵の指揮官は悪くは無かった。即座に魔法銃だと理解したのだ。そして大きさからこの砦の未来はない事を悟った。
「降伏だ! 降伏する! 」
白旗を振る帝国軍。城門を開き、武器処か防具すら脱いで全員手をあげている。
「戦時条約に乗っ取り捕虜としての待遇っ」
言葉を遮り、指揮官の分身が帝国軍の指揮官をリボルバーで射殺した。
「指揮官は要らない。それと条約? グランスール帝国と我が国では如何なる条約も締結されていない。お前達は捕虜にはしない。お前達だって捕まった王国兵を捕虜にしないしね」
帝国に捕まったアーランド兵の未来は暗い。気晴らしに殺されるか、奴隷送りだ。絶対に王国には返してくれないのだ。最もそのせいで捕虜になるくらいならば道連れだと死兵になるのが王国兵なのだが。
こうして、またしても一日で砦が陥落した。
アリスティア軍は砦の将兵を尋問した結果、近くに鉄鉱山が存在する事。そしてそこにも多くのドワーフが居る事を知ると、鉱山に制圧部隊を送りこんだ。
元より兵力の少ない鉱山の警備隊では戦いすら起こらず、アリスティア軍に敗北。
「ドワーフは2000名程居ますね」
「全く酷い事するもんだ。輸送船の方は? 」
「明日の朝には到着するようです」
武装飛空船を護衛に付けた輸送船は邪魔をする帝国軍の飛空船を蹴散らして堂々と領空を越えて来て欲しいと言えば帝国の何処にでも来てくれる。
更に空軍が護衛している事もあり、航空機部隊が帝国の飛空船を攻撃しているのだ。
確定しているだけで既に帝国は150隻と言うまさに半数の飛空船を失っている。損害が出ているのを含めれば200隻だ。つまりグランスール帝国は3分の2の飛空船を失っているのだ。もはや空軍には敵は居ない。
「でも帝国って良い贈り物くれるよね」
分身の前には工廠と鉱山に置かれていた鉄のインゴットや鉱石が山の様に積まれていた。
「丁度鉄が足りなくなってきたんだ。これで後2万はゴーレムが作れる」
帝国軍へ供給する武具の4割を生産する工廠と鉱山には膨大な鉄が残っていた。これらは全てアリスティア軍が接収したのだ。
「でもちょっと足りなくない? 」
「分かる。もっと欲しい」
「じゃあ……」
「「「「働け帝国兵共! 」」」」
こうして再び鉱山を荒らしまわり、縦横無尽に無計画に鉄を掘りまくる分身達。
しかし今回は鉱石採掘だけじゃない。ちょっと山の向こうが気になった分身はヘリオスに乗って山の向こうを見に行った。
「おっきぃ木」
「あれ何アリシアさん? 」
山の向こうには150mを越える巨大な木が森の中心に立っていた。
「アレですか。世界樹ですね。元はあの世界樹の根元にエルフが神樹国を作って暮らしていたそうです」
それは世界樹。かつて精霊王が最後を迎えた場所。エルフの聖地であり故郷だ。しかし、神樹国は滅亡の際に残った国民の多くの命を使い強力な幻術を放っている為に、滅びても帝国は世界樹を手に入れれなかった。幻術のせいで世界樹にたどり着けなかったのだ。
「へー」
「アレが世界樹。錬金術の触媒になるんだよね」
「姫様! まさか……」
「次はエルフの聖地『を』略奪しよう」
次の標的を見つけたアリスティア軍であった。