表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
262/377

245 新たな土地へ

遅れました……いや本当にすみません。毎月来月は暇になるって会社の人が言うのにもう9月まで忙しいんです。何故か暇な月が無いんです……今年は割と暇だって去年の年末に言われていたんですがね……エタる事は無いと断言はしておきます。

 何処か知らない都市を攻略して3日経った。

 都市の内部は非常にピリピリしている。当然だろう奴隷を奪われたのだから。

 しかし、奴隷を奪われる以外の被害は無い。古今東西戦争で占領された土地は悲惨だ。乱暴狼藉がデフォルトでついてくるからだ。

 しかしアーランド軍は違う。奴隷を奪ったが、領民はそれ以外を奪われる事は無かった。

 これはアーランド軍の軍法が理由だ。アーランド軍は外に出る軍隊ではない。基本的に国家防衛の為の組織であり、行動は国家の内部で殆ど終わる。国外に出るとしても、基本的に北方の無人地帯だ。

 つまり外国への侵攻は想定されていないのだ。

 故にアーランド軍の軍法では乱暴狼藉は死刑である。何故なら人の居る土地に軍を送る場合はそこはアーランド国内での反乱と言う事だからだ。自国の国民から略奪なんて自国民に恨まれるだけの行いを王家が許す筈も無かったのである。

 因みに王国に侵攻して来た帝国軍は好きにしても良いと言う事に成っている。侵略者は一切の人権を無視されるので、虐殺しようが奴隷にしようが捕まえた本人の思うままである。最もアーランド人は虐殺を好まない。銅貨一枚の利益も出ないので、基本的に捕虜=奴隷である。

 これなら捕まえた人間も奴隷の未来を想像して鬱憤を晴らせる上に金も手に入る。買い取る商人や貴族も安い労働力が手に入り皆笑顔だ。奴隷はだって? 侵略してきた方が悪いで終わるのだ。例え国家の命令で渋々侵略して来たとか言い訳は一切聞かないのがアーランドである。

 そういう訳で、不満は有れど、アリスティア軍を恐れて領民は大人しい。領主? 奴なら牢屋で未だに泣いている。

 アリスティア軍が行ったのは奴隷解放と同時に貴族の資産とこの都市に有る帝国政府の資産の没収だ。

 もう徹底的に行われた。帝国所有の建物はガラスや扉の蝶番まで奪われた。


「うんうん。いい感じに金属が集まる」


 分身達は積みあがっていく金属の山を満足気に見ている。

 そしてある程度集まると【ファクトリー】で金属インゴットに加工する。そして宝物庫内に運び込む。


「やっぱりフォークリフトって便利だよね」


「作ったは良いけど私達操作出来ないしね。和仁は役に立つ」


 フォークリフトを操作しているのは和仁だ。バイトで操作を覚えたらしい。尚免許は持っていないそうだ。


「姫様、近隣の貴族が援軍を送ってきたようです」


「早いね」


 まだ占領して3日だ。早すぎる。


「どうやらこの地を落されると周囲の貴族は非常に困るのでしょう。

 数はおおよそですが200程度です」


 ふむ。と分身は考えると、騎士に問いかける。


「少なくない? 」


「そう思い領主を連れてきました」


 縄で縛られた領主が分身の前に座らされると、口を縛っていた布を取られる。


「200程度で私に勝てると思ってるの? 」


「そんなもん儂が知るか! 援軍を要請する前に捕まったのだぞ! 」


 領主は奇襲により家族諸共捕まっている。援軍を呼ぶ時間は無かったのだ。


「恐らく向こうは直ぐに出せるだけの戦力を先行させたのでしょう。後続部隊が居ると思われます」


「戦力の逐次投入って駄目なんじゃ……」


 負けフラグしかたってないよね。と言うと騎士も苦笑いした。急造の200名の部隊。それも帝国の正規軍ではなく貴族の持つ領兵だ。練度は落ちる。

 この数ならアリスティア軍の騎士100人で蹴散らす事も可能なのだ。


「自分達で蹴散らしてきますか? 」


 それを理解している騎士が問いかけるが、分身は首を振る。


「栄えある王国騎士を帝国の貴族の私兵程度で傷つけられるとか容認できない。わんこーずを出す。お願いクート君」


 クートは頷くと、他の魔獣を率いて出撃する。一時間程度で全滅させた。

 その後分身はゴーレム・レギオンを動かし、後方に居た部隊700人を蹴散らす。


「帝国の貴族って親切だよね。食料に医薬品や金属をくれたよ」


「確かに強欲な敵国貴族にしては剛毅だな」


 拓斗は分身の言葉に同意する。拓斗にとって帝国の人間がどうなろうと知った事ではない。

 分身はゴーレムと騎士を使い、駆逐した貴族の領軍から物資を奪うと、死体は一か所に埋める。


「姫様、領都で暴動が起きているようです」


 さて仕事も終わったと占領した領都に戻ろうと思えばアリスティアの居なくなったと思った領民が暴動を起こしていた。

 当然分かりきっていた事だ。寧ろ分身は分かっていて全員領都から出したのだ。

 この都市から奪う物はもうない。後始末だけだ。


「敵対するんだったら仕方ないよね」


 分身はドクロのマークがついたリモコンのボタンを押す。

 すると領都を護る外壁がいたる所で爆発を起こし、崩壊を始める。

 分身の目的はまだ終わってなかった。この侵攻の目的……それは帝国の国力低下と帝国内部を混乱させる事だ。

 あの領都はそれ程大きくは無かった。しかし、近隣の領地に対する影響力と帝国の支配の象徴だ。この地は帝国によって滅ぼされた国の土地なのだ。帝国に対する不満を持つ者も多い。最も帝国領に成って100年以上たっている上に、滅ぼされた国も普人主義の国家なので、アリスティア軍に迎合する訳じゃない。気に入らない帝国から絶対悪のアリスティアへと占領者が変わっただけだと思われた。

 敵の敵は決して味方などではないのだ。故に隙を突いて自分達の独立を取り戻すと決起したのだ。

 だが甘い。その程度の考えなど直ぐに察知されていた。


「これで帝国は反乱を鎮圧する必要が出た。そして、反乱を鎮圧しても領都の城壁は崩れ落ちている。反乱を起こした連中も今頃顔を青褪めているだろうね」


 大方目の前の領都の城壁を利用して疲弊した帝国に反旗を翻そうとしたのだろう。占領してから帝国は軍の半数以上を失ったと言う事を騎士達を通して領都内に噂をばら撒いたのだ。

 しかし、防壁を失えば、反乱を起こした連中は決死の防衛戦を行わなければならない。帝国は反乱を絶対に許さない。許せば無理やり併合した領地に飛び火しかねないのだ。

 本気で潰しに来る帝国と、独立を目指す勢力の争いはこの周囲一帯の経済に重くのしかかるだろう。アーランド戦での敗北を合わせると帝国は涙しか出ないだろう。


「悪辣だな」


 拓斗が崩れ落ちる城壁を見ながら喋る。しかし、その表情には何も浮かんでいない。同情も欠片も無い。


「帝国の混乱はアーランドにとって利になるからね。混乱した帝国を周囲……特に魔法王国と皇国は放っておかないでしょう?

 アイツ等は帝国並みに強欲だからね。そしてこの敗戦程度なら2つの国の援助が有れば帝国は立ち直るよ。そうなれば魔法王国と皇国は盛大に恩を使ってアーランドへけしかけるだろうね」


 この混乱は全てアーランドのせいにされ、自分達の誇りを取り戻せと帝国人を鼓舞して再びアーランドへ攻め込むだろう。

 無論負けるつもりは無い。グリザイユ計画は既に始まっている。帝国も魔法王国も皇国も全部焦土に出来る。

 しかし、それは最終手段だ。

 分身は自立している。しかし、本体をコピーしたものだ。本体が望まない事は分身も望まない。

 まだ大陸中央には多くの他種族が居る。彼等はアリスティアの中では罪は無いのだ。彼等を巻き込む事をアリスティアは望まない。あくまで最終手段として保険として行われているだけだ。この侵攻が成功で終わればグリザイユ計画は無かった事にされ、生み出された物もアーランドも知らずに闇に沈められる。

 これは表に出せない最終手段だから当然の事だ。最もギルバートの眼を欺けるかどうかが不安要素である。グリザイユ計画の名前自体は既に王国内に残っていた貴族に伝えている。ギルバートは真っ先にこの危険極まりない所業に目を付けるだろう。


(まあ本体が狸寝入りすればラクショーだよね)


 分身は本体と同じく楽観していた。いざとなれば全ての証拠を処分すれば良い。生み出された危険物も最悪次元転移で異界にでも飛ばせば良いのだ。その転移先で使われたらどうするって? そりゃ知った事ではない。まあ地球産とは原理は同じでも盛大に魔法技術を駆使しているので、起爆させるのは地球でも難しいだろう。精々分解して技術を習得する程度だ。出来ればの話だが。

 全てが終わると、再び目的を定めない謎の行軍を始めるアリスティア軍。

 しかし、アリスティア軍は目下問題が発生していた。それは分身が減り始めたのである。

 元々存在するだけで魔力を消費し、いずれは消えるのが定めの分身だ。そして本体は一台だけハイデッカー仕様のバスの中に居る。


「スヤァ……」


 寝ているアリスティアだが、その体には生命維持装置が付けられている。未だに自発呼吸も出来ない程体は弱っていた。

 最も分身の持つ医療技術と本体が暇つぶしに作っていた医薬品で順調に回復しており、もう少しすれば自発呼吸も出来る。


「姫様治りますよね? 」


 普段はアリシアはここでアリスティア本体の手を握っている。拓斗達や騎士達も入れない場所だ。ここはある意味アリシアの領域と化している。


「心拍も血圧も安定している。問題ない」


 医者のコスプレをしている常駐の分身が付け髭を撫でながら問題ないと話す。

 しかし、そこに軍を動かしている分身がやってきた。


「大丈夫そう? 」


 分身の言葉に医者にコスプレした分身が頷く。


「経過は順調。そろそろやっても問題ない」


「そう。じゃあ始めるね」


 分身はそういうと、ロープを取り出す。魔法のロープだ。

 それは勝手に動き出すとアリシアを拘束した。


「ひ、姫様? 」


「暫く大人しくしてて」


 分身はアリスティアの胸に手を当てると、呪文を唱え始める。

 すると本体の体がビクンと跳ねる。


「何をしているのですか! 」


「何って私達を作らせるんだよ。さっさと詠唱を始めろ」


 分身はアリスティアの壊れた魔力回路の変わりになる。眠っているアリスティア本体が歌うように詠唱を始めた。

 そして詠唱が終わると、新たに10人程の分身が生み出される。

 その場に警報の様な音が鳴り響く。


「これ以上は無理だよ。本体が死ぬ……と言うか脈拍が弱まってる」


「強心剤を投与して。今日はこの程度で良い。アリシアさんはもう良いよ」


 魔法のロープがアリシアを離れ、分身の手元に戻る。

 アリシアはアリスティア本体に駆け寄ると、泣きそうな顔で手を握る。


「………本当にこれが必要なのですか? 」


 アリシアは涙目で問いかける。


「当然必要。現在精霊王の刻印を封印するのは不可能。アレは外部からの干渉は受け付けない。元は本体の魔力の塊である私達も本体から離れれば異物となる」


 分身を生みだせば疲弊しているアリスティア本体の体に負担をかける。しかし、現状無理やり分身を作らせなければアリスティア本体の体は永遠に周囲の魔力を取り込み続ける。今は限界を迎えていない。しかし、人である以上は何時か限界になる。ましてアリスティアは魔力が多すぎて使いこなせないと言う問題が有った。

 魔力が多い。それは多くの魔法使いが願う事である。しかし、魔力は多ければ多い程制御が難しくなる性質がある。魔法が下級・中級・上級・戦術級・戦略級と階位が分かれているのも、主に消費される魔力量で変わるのだ。消費される魔力が多ければ、その魔法を使うのが困難であるからだ。

 その点分身は中級程度だが、魔力の消費は多い方だ。更に戦力が増える。


「それに暫く本体は【起きない】からね」


「何故ですか? 」


「魔力回路の修理……いや、魔力回路その物を一から作る事に成ってる。多分起きてたら発狂するんじゃないかな? 一日中体の中をミミズが動き回るような不快感を2か月くらい続くからね」


 魔力回路は完全に全損しており、原型を留めていない。これは魔法使いに取って死を意味する。本来なら直す事など出来ないだろう。しかし、それはこれまでその技術が存在しなかっただけである。また、誰も知らない事だが、古代魔法王朝時代は当たり前の技術であった。それをアリスティアが知るのはしばらく先の事である。


「この技術を応用すれば魔法使いを量産出来るんだけどね」



「んな! 」


 クックックと嗤いながら分身は出て行った。

 一定以上の魔力を持つ者に、この秘術を施せば魔法使いを生みだせる。しかし、この研究を行っていたのはロストナンバーズであり、それを行っていた分身は既に消え去っている。何を思って生み出した技術なのかはもう誰にも分からないのだった。多分興味があっただけだろう。魔法王国にこの技術の存在が知られれば……いや、他の国に知られれば大陸全土の国家がアリスティアを求めてアーランドへ侵攻して来るだろう。

 とんでもない秘密を知ったアリシアの胃が物凄い痛みを放っていた。

 そしてアリスティア軍は新たな標的を目指して当てのない旅を再開した。次に何処を襲うのか。それは侵攻しているアリスティア軍の兵士どころか、指揮している分身も知らない。何故なら速攻で街道を外れたからだ。何故街道を走らないのかと運転している拓斗の問いに分身は「私のソウルがこっちだって言っている」と答えた。

 これは実際に幸運な判断だった。その街道をまっすぐ進むと帝都があり、帝都に到着する頃には帝国軍が帝都に戻る頃だったからだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ