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244 領都制圧②

 分身20体が率いる王国騎士25人。そして拓斗・舞・和仁・アリシアとゴーレム・ソルジャー100体が領都の大通りを駆け抜ける。

 武器を所持した一団が規則正しく…分身を除く。動く姿に多くの領民が悲鳴を上げて逃げまどう。


「見えた。アレが領主館」


「不味い籠城するつもりだ」


 領主館は小規模な砦の様な作りである。つまりこの土地は帝国によって滅ぼされ併合された土地である証拠だ。いざ反乱が起これば、領主館に立て籠もり、援軍を待つと言う戦術が帝国では行われている。故に占領地の領主館は砦としての機能も持っている。

 恐らく広場での騒動が伝わり、籠城を決め込んだのだろう。元より反乱に対して警戒している帝国貴族故に、そこら辺の対処は早かった。


「RPG! 」


 分身の一人が他の分身に命令すると、命令を受けた分身が収納袋からRPG-7を取り出す。これは魔導具ではなく、地球と全く同じものだ。

 そして分身が膝を着いて発射する。

 発射された弾頭は既に殆ど閉じられた鉄で補強された堅牢な城門に接触すると爆ぜる。

 爆炎を分身が風魔法で吹き飛ばすと、城門は既に破壊され、多くの領軍の兵士達が倒れるか、死んでいた。


「突入せよ」


 分身達はAKモドキを構えると、破壊された城門を突破し、領主館内部に侵入する。


「敵襲! 」


「直ぐに領都内の警備隊を呼べ! 」


 分身達は迫りくる兵士の肩や足を撃ち抜く。


「誰も来ないよ」


 この都市に居る兵士は明らかに二線級の兵士だ。見た限り規律だって動く事も出来ず、バラバラに抵抗している。当然一人一人が屈強なアーランド騎士には敵わない。一撃で倒される。

 余りにあっけなく城門付近に居た兵士が倒れた事に一人の分身が慢心する。すると背後から兵士が剣で斬りかかる。


「彼女に触れないで貰えるかな? 」


 振り上げた両腕事頭を刀の横薙ぎで切り落とし、分身に血が掛からないように回し蹴りを行う拓斗。首と両腕を失い絶命した兵士はそのまま10m程転がっていった。

 そして、拓斗の冷徹な視線を受けた生き残りの兵士達は直感で悟る。この男には勝てないと。

 絶望的な力量差を未熟な者達ですら分かる程の威圧感を受けた兵士達は武器を落すと、地面に蹲る。

 拓斗はそれを鼻で笑うと刀を振り、粗方血を落すと、布で刀を拭い、鞘に納める。

 拓斗からすれば分身で有ってもアリスティアに剣を向けるならば神ですら殺す対象だ。

 因みに分身はアリスティアのコピーなので殺気に鈍い。特に自分に向けられないと分からない程度には鈍いので、首を傾げている。


「取り敢えず内部を制圧するよ。2人はゴレーム30体と共にこいつ等を捕縛。外から援軍が来たら」


 分身が次の言葉を出す前に騎士が笑う。


「我等の武勲にでも成ってもらいましょう」


 騎士達もこの領都に居る兵士のレベルは既に分かった。自分達が一切油断しなければ脅威ではない。更にゴーレムを盾に使えるならば負ける事は無いのだ。

 分身は頷くと、領主館内部に突入する。

 今度は拓斗が先行した。分身に剣を向ける衛兵は全員一刀両断し、彼等の士気を打ち砕く。

 領主館の内部に居た兵士は盾を持っておらず、室内である事から武器は剣だけだった。拓斗は相手を剣毎真っ二つにするだけだ。

 前方を拓斗が押さえると、分身は横の部屋のドアを銃で破壊し、閃光弾を投げ込む。内部で強烈な光が現れ、それが消えると突入する、兵士が居れば足や肩をAKモドキで打ち砕き戦闘不能にする。

 領主館に突入し、僅か10分程度で領主館の大半を制圧した分身達は、執務室で領主と対面していた。最も対面と言うよりは領主を這いつくばせ、領主の椅子に分身が偉そうに座っている。

 領主は国境沿いの領地である事から諸侯軍としての部隊を送るだけで領主本人は出陣していなかったようだ。最も今回のアーランド侵攻は帝国史上でも最も多い動員をかけており、領主の息子が全員従軍しているらしい。


「さて、私達がこの都市を制圧した」


「ぐ、こんな事をして唯で済むと思うな! 直ぐに周辺から援軍が来るはずだ! 」


「姫様、逃げた衛兵を捉えました。暫くは援軍など来ないでしょう」


「うむご苦労。後でクッキーをあげよう」


「ありがとうございます! 」


 騎士は嬉しそうに礼をすると部屋を出る。領主がその隙に逃げようとしたが、拓斗に掌を踏み潰され、悲鳴を上げる。


「動くなって言ったよね? 」


 拓斗が殺気を放つと、領主はガクガクと震え出す。


「それでアリス……で良いよね。この後どうするのか聞いても良い? 」


 分身を本人と呼んでいいのか分からない拓斗が首を傾げながら問いかける。


「私が知らない間に拓斗が不良に成っててショックだよ。お姉ちゃん悲しい」


「今は俺が年上だよね! と言うか1ヵ月しか離れてなかったじゃん! 」


「1カ月って絶対なんだ」


拓斗とアイリスは同い年であったが、アイリスの方が生まれるのが1ヵ月程早いので、アイリスの中では自分の方が姉ポジだと言う確信を持っていた。それはアリスティアにも受け継がれている。


「取り敢えずアリシアさんはアーランドへ連絡して飛空船を呼んで」


「はい……へ? 」


 アリシアが何故ここに飛空船を呼ぶのか分からず首を傾げる。


「根こそぎ略奪するんだよ。ああ、領民の方は良い。寧ろ取らない方が有効活用できる。でも多種族の奴隷は開放する。領主と帝国資産は根こそぎ奪う。

 これを騎士に支給して。これで奴隷の居場所が分かる」


 分身が手渡したのは準備していた魔導具である。これは隷属魔法を感知して見つける魔導具だ。


「ドラゴン○ールが見つけれそうなフォルムだな」


 和仁が笑う。


「それっぽく作ったからね。じゃあ部隊を2つに分けるよ。資産の略奪と奴隷の解放。アリシアさんと私は開放した奴隷に食べさせる食事を作ろう」


 その瞬間アリシアの表情が凍り付く。


「ひ、姫様はお疲れでしょうから私がやります」


 その言葉に騎士達もコクコクと頷くと、思い出したかのように手を打つ。


「そうでした。我々なら70人とゴーレムだけで十分でしょう。残りは料理をさせます。姫様は魔導具などのご用意をお願いします」


 余りの必死さに疑問符を浮かべながら分身が頷く。


「アンタ料理出来ないの……って言うか王女だからか」


 舞が疑問を持ったが自己解決した。


「失礼な。料理は作った事が無いけどクッキーくらい作った事がある」


「味は? 」


「食べたら元気になった」


「だから味は」


「元気になったの! 」


 クッキー事件の後にアリスティア作クッキーを食べたアリシアとギルバートは意外と美味かったと言う事しか覚えていなかった。ナニガドウ美味しかったのか記憶してなかったのだ。唯虚ろな瞳で「意外と美味しかった」と言うだけだった。もしかしたら美味しいと言う概念を植え付ける代物だったのかもしれない。


「ハア、私が手伝うわ」


「私だって料理位できるはずだし……多分……出来るもん」


 分身はもしかしたら自分は女子力が足りないのではないかと不安げになる。しかし、それを察知したアリシアが領主館に有ったお菓子を差し出すと、ご機嫌になって女子力の事は記憶の彼方へと旅立った。

 それから3日程で領都内部の制圧は終わる。一部抵抗する者が居たが、それはゴーレム・ソルジャーの持っているAKモドキが魔法銃である事を察知し、それを単発だと錯覚した連中だけだ。

 この世界の魔法銃は単発であり精度も悪いので抵抗出来ると判断した者達は大分痛めつけられ牢に入れられた。

 占領した領都に居る奴隷の中でも他種族の者達は領主館の広場に集まっていた。当初は全種族を解放しようとしたのがだ、どうにも帝国の普人奴隷は普人主義者が多すぎて断念した。奴隷の中にも普人と他種族で分かれているのにはアーランド側も呆れるだけだった。これは聖教が深く関与している事であり。長年奴隷を続けていれば自分の鎖は他より綺麗だの食事の肉が少し多いだので騒動が起きる為に、普人奴隷は奴隷の中でも優遇されている事が原因だ。最も多少優遇されているだけであり、奴隷である事に変わりはないのだが、それでも他種族への敵愾心が根強かったのだ。

 アリスティア分身は本体が瀕死である事を察知されない為に本体のフリをしている。彼女が壇上に立つと、多くの多種族奴隷が歓声を上げた。

 帝国にとってアーランドは異教徒であり悪魔の国だと恐れられている。しかし、その反面、大陸中央に生きる他種族の唯一の救いなのだ。

 他種族が人として生きれる最期の国。それが大陸中から多くの他種族と、それを支援する普人がアーランドへ目指すのだ。


「諸君、我が名はアリスティア・フォン・アーランドである。アーランド王国第一王女にして副王家当主である。

 今日この日を持って皆は奴隷から解放される! 今まで普人の横暴から諸君を護れなかった事をここに詫びる。すまない! 」


 分身が頭を下げると、他種族の中に困惑が広がる。ここは帝国だ。自分達をアーランドが救う術などこれまでなかったのだ。誰もアーランドを恨んでいないのだ。

 彼等はただ人として生きたいだけだ。アーランドが出来る事など無かったことは彼等がよく分かっていた。


「貴方達にはこれから3つの選択肢が与えられる。

 まずは一つ! 我が国に移住し、国民として生きる事だ。我が国は我が国を愛し、第二の故郷として我が国と自分達の家族を愛する者を国民として受け入れる準備がある! 」


 歓声があがる。


「次に2つ目の選択肢だ。自分の故郷へ帰りたい者も居るだろう。幾ばくかの物資を分けよう。好きにするが良い」


 中には故郷への帰還を願う者も居る。彼等は泣きながら歓声をあげる。但し、故郷が残っている保証は無い。多くの種族は隠れ里の様な場所に住んでいるが、帝国の奴隷狩りにより無くなっている可能性もそれなりに高いのだ。


「そして第3の選択だ。我が国にも奴隷制度は存在する。良き主君に恵まれた者も居るかも知れない。自分の現状に満足する者は我が国に連れていく事はしない。持ち主の元に戻るが良い」


 奴隷と言っても多種多様の事情がある。主従として確たる信頼を持っている者も居る。帝国では殆どの他種族が奴隷であり、普人に他種族が使える最も違和感のないものが奴隷なのだ。

 ごく一部の者が考え込んだ。多くは冒険者に従う奴隷だった。冒険者は奴隷を比較的差別しない。彼等を傷つける事は自分達の稼ぎに影響を与えるからだ。無論全員が差別し無い訳じゃない。使い潰す冒険者も一定数存在する。


「私は貴方達に一切命令しない。各自が考え、自分で答えを出し、道を決めるが良い。但し、王国に仇なすならば我が国は一切容赦しない。そして、貴方達を差別しないが、優遇もされない。一国民として当たり前の権利が与えられるだけだ」


 これは一時の同情で彼等に特権を与えないと言う事だ。それらは時間の経過とともに不満を蓄積し、いずれは移住者を迫害する事に繋がる恐れがあるからだ。実際地球でも似た問題が起こっている。

 すると、一人の青年が手をあげる。


「あの~仕事とかどうすれば良いのでしょうか? 俺、生まれた時から奴隷で字も余り読めないんですが」


「我が国は多くの労働者を求めている。貴方達は多くの商会や職人から仕事を得られるだろう」


 実際アーランド景気が良すぎて人が致命的に足りない。元奴隷の教育と言う手間を取ってでも雇うだろう。筆頭は副王商会連合である。アリスティアは学が無くても良いから労働者が欲しいと言う懇願を何度も副王商会から受けているので間違いない。

 結果として。1割の奴隷がこのままの生活で満足しているとアリスティアの元を去る。

 更に2割の奴隷は故郷に戻ると旅立った。この2つの選択をした者は今後関与しない。そして実に7割の奴隷がアーランドへの移住を希望した。

 そして都市を攻略して3日後、武装飛空船1隻を護衛として大型飛空船10隻の輸送部隊が都市に到着し、移住者をアーランドへと輸送した。制空権などもはや帝国に無いのだ。

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