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243 領都制圧①

 アリスティアと護衛100人はバスに乗って帝国内に侵攻していた。


「良し、ストレージカードの改良が終わったよ」


「新魔法ステルスの魔導具化に成功。これで安心して移動出来るね。でもバスの運転荒いよ? 」


「足がアクセルに届かないから座れないんだよ! 」


 バスは盛大に蛇行しながら進んでいる。横転しないのはそういう風に作ってるのと、魔導具で姿勢制御を行っているからだ。


「じゃあアクセルとブレーキ伸ばせばいいじゃん」


「それだ! 良くぞ気がついた私よ」


「だよね。私天才だし」


「天災とも言うね。特に帝国にとっては」


これから死体蹴りと言う悪夢を見る帝国からしたら天災であろう。最も皇帝が呼び込んだ天災なのだが。

 暫く移動し、日が暮れる頃に騎士の一人が揺れる車内で怪しげな魔導具を作っている分身に声を掛ける。


「姫様、そろそろ野営の準備をするべきです。日が暮れてからだと周囲が見えません」


「野営……野宿嫌いなんだよね。宝物庫内で寝よう」


 街道を少し離れた草原地帯を進むバスは近くの林に停車する。

 分身達は手頃な木の下を見るける。


「クート君ここ掘って」


「わふ」


 クートとアリスティアは現在契約関係に無い。クートがアリスティアを通して魔王に支配されまいと一方的に契約を切っているのだ。しかし、それはアリスティアを主ではないと否定した訳ではない。故にクートは支配下から離れてもアリスティアに従っている。ヘリオスは全身が包帯でグルグル巻きになって椅子の上で唸っていた。「獣が…獣が」と呻いているが、何があってこうなったのかは誰も知らない。但しヘリオスは契約を切っていないので未だにアリスティアの支配下だ。

 クートが楽しそうに穴を掘ると、出来た穴に宝物庫の門を召喚する。分身が本体から分捕ったのだ。宝物庫は本体と分身の区別がつかないようで、あっさりと奪われた。


「この中なら安心して寝れる。お風呂も有る」


「……便利ですね」


 騎士達はこの宝物庫が物凄く欲しくなった。

 行軍において風呂等入れない。寝場所も場合によっては敵や魔物の襲撃に備える必要がある。更に見張りはバスの横を走っていた魔獣が行うので必要ないと言われて更に唖然としていた。


「良し、警備の子は報酬にジャーキーをあげよう」


「わおーん! 」


 嬉しそうに尻尾を振る魔獣は半分だけジャーキーを食べると、残りは銜えて外に出て行った。恐らく夜の間に少しずつ食べて暇つぶしをするのだろう。

 全員が宝物庫内に入ると、門が小さくなる。生物が中に居ると宝物庫は門を閉じる事が出来ない。しかし、大きさは変えられるのだ。人どころか大抵の生き物が通れない程小さくなった扉の上に伸し掛かるように魔獣が横たわる。これで外には光も漏れない。


「おぉ! 」


 騎士達が驚きの声を上げる。

 宝物庫の中は一定の気温で維持され、明るさもしっかりしている。目視出来る所に壁は無く、かなりの広さを誇る。アリスティアの検証では北海道より広い事が確認されている。

 そして現在そこには工業都市と呼ぶしかない工場群が稼働していた。

 舞と和仁は知ってた。と言う風にため息を吐く。拓斗はやらかしてるなと笑っていた。これ程の工場群を有すアリスティアの生産力の高さはこの大陸随一である。

 主に魔導具用の部品からゴーレム製造まで行う工場群だが、飛空船の類は作っていない。ここで作られるのは本人が使う為だけの物だ。

 最も現在は戦時につき、比較的緊急を要さない物は一時生産を停止し、武器やゴーレムの製造に集中している。

しかし、それは本来の機能の一部だ。アイリスから受け継いだ地球の最先端技術の再現こそが、この宝物庫内に作られた工場群の本来の目的だ。そして、これこそがアリスティア本来の宝だ。金銭などいくらでも生み出せる。しかし、王国に生きる人々をあらゆる災厄から護り抜く為には多くの技術が必要だ。例えば製薬技術。これが有れば病で死ぬ国民が減る。兵器の類は大陸中央の脅威や魔物の脅威から国民を護れる。全てが秘匿され、実用化されるまで公表される事のない技術。そして、現在その生産能力の全てが戦争に注ぎ込まれている。

 騎士や拓斗達は見た。ゴーレムが兵器がどんどん生産され、多くのゴーレムが宝物庫内で出陣を待っていると言う事実を。


「ハ、ハハ……これは酷い」


 騎士は呆れて笑う。彼には工場群の本来の目的は分からない。しかし、アリスティアが一国に相当する戦力を材料さえ有ればいくらでも生み出せる事を理解したのだ。

 多くの国家の戦力は国民の数によって決まる。そして経済力・生産力だ。如何に戦術で優れていようが、数の暴力は無視出来ない。アーランドですら帝国と此度の戦争では正面から戦わず、奇襲や非正規戦のみで戦ったのも数が違い過ぎるからだ。

 如何に屈強で死ぬまで戦意を捨てないアーランド兵ですら抗えない数の暴力。それを覆すアリスティアの生産力。

 アーランドは元より生産力は高い。少ない国民で如何に成果を上げるか。歴代の王家は貴族はそれに傾倒していた。故に帝国の脅威から国を辛うじて護っていた。

 しかし、戦争で多くの兵が死ねばアーランドは失った兵の補充に苦労する。帝国は小競合い程度で受ける被害など誰も気にしない人間帝国だ。この差を覆す事は難しい。人は無限に増え続ける訳じゃない。戦争で国家の経済力と食糧事情が悪化気味のアーランドは国民の数は増加こそしているが、帝国には比べる事が出来ない程少ない。

 しかし、アリスティアは資源の生産さえ行えれば死んでも困らない軍勢が作れる。これは全ての国家にとって、軍事的な常識を根底から覆す事だった。

 唯でさえ、アリスティアは王国随一の金持ちであり、多くの利権を持っているのだ。


「部屋足りないから暫くテントで寝てね。それと宝物庫内は暗く出来ないからアイマスクを支給する。少し五月蠅いけど、数日で仮設の長屋建てるからそれまで我慢して」


「戦場で気にする者は居りませぬな」


 テントの中には簡易的なベットも有る。風呂も有り、食事も暖かい物が食べられる。騎士の中の戦争とは違った。

 食事は多少改善されたが、味の薄いスープに硬いパン。これは野営時のアーランド軍の平均的食事だ。改善されたのは砦などの確たる補給の有る拠点での食事である。これだけでも多くの兵が涙を浮かべたほどだ。

 最もアリスティアは料理が出来ないので、保存食等は後回しになっているのが原因だ。後に缶詰なども作られるようになれば、更に食糧事情は改善されるだろう。これはいかにアリスティアの興味をそこに誘導するかで変わるので、ギルバートの仕事である。

 その日は食事を取り、風呂に入って寝た。食料は以外にも肉が豊富であった。これは魔獣用の食料が大量に備蓄されているのが理由であり、騎士達は魔獣から食事中じーっと見られていたが、何故見られているのか分からず、頭を撫でていた。

 

 移動を開始して6日程経った。分身達は定期的に会議を開き、何処を襲撃するか協議する。但し彼女達が居る場所が分からなかった。


「目の前にある都市を全て襲撃すれば何時か帝都にたどり着くんじゃね? 」


「だよね。全ての道はローマに通じてるらしいし、帝国内でうろつけば、何時かは帝都に着くでしょ。余裕余裕」


 侵攻ルートとか補給路とか軍事の常識など捨て去って軍議を行う。その間、運転は拓斗と和仁に変更された。アリスティアの体格に運転席を合わせても、アリスティア分身の運転能力が低く、危ない運転を繰り返いた結果だ。


「姫様、前方に馬車が止まっています。恐らく商人かと」


「つまり近くに村か町があると言う事だね。捕まえよう。」


 馬車の商人は馬に水を飲ませている間、木陰で休憩していた。

 男は商人歴10年程度だが、未だに店を持てず、行商人だった。近くの都市に物を売る為に移動中である。

 彼の目の前に行き成り王国兵が出て来る。隠蔽用の魔導具を積んだバスは音も無ければ目視する事も出来ない。行き成り出現したかのように王国兵が下りてきて、周囲を逃げれないように包囲する。


「へ、騎士様、私が何か粗相をしたのでしょうか」


 装備から正規軍だと判断した行商人が土下座の様に跪きながら話す。彼はアーランド軍を帝国軍だと錯覚した。何故ならこの地はアーランドとは反対側の国境沿いだ。アーランドと言う国家は悪名として知っているが、その装備など知らないのだ。ついでに旗も掲げていない。身なりの良い軍勢なら帝国軍だろう。程度の考えである。


「貴様の馬車を徴用する。物資もだ」


「そ、それはご勘弁ください! これが無ければ生活出来ません! 」


 行商人は涙ながらに騎士の足にしがみ付く。馬も馬車も買い換えたばかりで愛着が有る訳じゃない。でも、それらの買い替えで金が余りないのだ。


「ついでに都市の入門票なども貰おうか」


「あ、あんた等帝国軍じゃないんですか! 」


 帝国軍ならば入門票を取り上げなくても都市に入れる。つまり目の前の軍は帝国軍じゃないと理解した行商人。


「馬鹿を言うな。俺達はアーランド軍だ」


「っひ! 」


 アーランド軍と言う言葉に悲鳴を上げて、這うように距離を取る行商人。帝国ではアーランドは悪魔の国と言われ、多くの庶民に恐れられている。


「怖がらせ過ぎだよ」


「申し訳ありません」


 騎士の後ろから幼い声がすると、騎士は頭を下げて横に移動する。


「おじさん。状況分かるよね? 」


 分身はしゃがみ込むと、商人の眼を見て話す。

 誰だか知らないが、高貴な者なのだろうという事は理解出来た。


「お願いします。これを取られると生活できないんです! 」


「じゃあお金払うよ。アリシアさん」


「これで如何でしょう? 」


 アリシアが宝物庫から金貨の入った袋を持ってくる。それを受け取った行商人が中身を見ると、驚きの声を上げた。

 馬車や馬に荷物を差し出してもおつりだけで暫く遊べる金だ。


「おじさんはここで魔物の襲撃を受けて逃げた。馬車や荷物は魔物に奪われた。良いね? 」


「へ、へい。私は荷物を不運にも魔物に奪われただけです」


 金払いの多さに途端に笑顔になる行商人。贋金ではない事程度は見破れるのだ。

 それに魔物に襲撃されて身一つで逃げたならば、疑われる事は無い。自分の入門票で近くの町に入られても魔物に襲われて奪われた入門票を使われるのならば言い訳が立つ。そんな事は魔物の居るこの世界でも日常茶飯事なのだ。


 そして行商人から得た情報により近くに中規模の交易都市が存在する事を理解したアーランド軍はそこに向かう。


「よし、次! 」


「はい」


 馬車には拓斗と和仁とアリスティア分身が乗っている。


「行商人か。積み荷は何だ? 」


「干し肉と作物です。これが入門票です」


「ふむ、確かに干し肉と作物だな。助かる」


 兵が荷物を改めると、確かに干し肉と小麦などの作物だった。


「何かあったのですか? 」


 情報収集の為に拓斗が訪ねる。


「知っての通りアーランドへ大規模な攻勢をかけている。食料の備蓄が乏しくてな。っま、お前達が気にするほどではないぞ。行って良し」


 拓斗達は怪しまれずに都市の内部に入った。


「ザル警備乙」


 分身が無表情で警備レベルの低さを嘲笑う。


「まあ、兵士自体数が少なくて大忙しみたいだったしね」


 恐らくアーランドへの攻勢でここからも兵を抽出したのだろう。都市へ入る為の門の警備も人が少なく、入るのに時間が掛かったが、確認自体はかなり手抜きだった。

 そして広場に着くと、分身が詠唱を始める。

 分身の周囲に魔法陣が浮かび上がり、住民達が驚きの表情を浮かべる。


「何事だ! 」


「【サモン】王国兵」


 召喚魔法【サモン】これは対応する護符を持つ者を転移で指定の場所に召喚する魔法だ。アリスティアがゲームで有るなら作れる筈だと作った魔法である。転移の応用であり、割と簡単に作れた。最も結界内など阻止する技術は既存の転移妨害で行えるなど欠点はあるが、この場にその類の妨害は無い。

 100人の騎士とアリシアがその場に召喚される。ついでにクート。ヘリオスは与えられた武器を壊した(この時点でクートがヘリオスを撃墜した事は誰も知らない)ので治療していないのでバスで唸っている。

 更にクートが遠吠えすると、多くの住民が腰を抜かし、衛兵達も武器を落す。絶対強者であるクートの遠吠えで心を折られたのだ。しかし、それは召喚の遠吠え。クートの周りに魔法陣が浮かび、連れて来たわんこーずが召喚される。


「現時刻を持ってこの地をアーランド王国第一王女アリスティア・フォン・アーランドが占領を宣言する! 」


 同時に宝物庫が開き、同じ顔の分身達がゴーレム・ソルジャーを率いて現れると、副王家の旗を掲げる。都市とは外からの敵を撃退出来ても、内部にここまで敵が進行すれば手の施しようがない。

 アーランドの名を告げられた住民達は絶望した表情を浮かべる。安全な筈のこの地がアーランド軍に占領されると言う事の意味を想像したのだ。


「ところでアリシアさん。ここ何処? 」


「………アーランドとは反対側の国境近くですね。帝国横断してます姫様」


 未だに自分達の居る場所を知らない分身がアリシアに尋ねると、呆れた表情でアリシアが答える。防衛態勢など取っている筈がないのだ。


「流石私だ。戦争史に新しい項目を作ったと言えるだろう」


「そうですね。まさか初手で帝国を横断して、アーランドと反対側の国境を攻撃するなんて誰も思わないでしょうね。後世の歴史家が頭を抱えるでしょう」


 アリシアには何でこんな戦術を使ったのかと頭を抱える後世の歴史家の姿が思い浮かんだ。実際はまっすぐ進んだだけである。但し、本人曰くまっすぐであり、かなり蛇行した上に、奇跡的に町や村を目視しなかった為にこの場所にたどり着いただけである。そこに戦術も戦略も無い。


「半分は衛兵隊を捕まえて。残りから更に半分が街の門を制圧。残りは私達と領主館を抑えるよ。ゴーレム兵を使って怪我をしないようにね。盾に使って壊しても怒らないからね」


「了解しました! 」


 騎士達がゴーレムを指揮して走り出す。


「じゃあ拓斗行くよ」


 分身が拓斗の手を取ると、アリシアが若干殺気立つ。アリシアは拓斗と手を繋いだ分身を抱きかかえる。


「行きましょう姫様」


「? 」


 何事かと疑問符を浮かべる分身。他の分身もAKモドキを持つと、領主館に向かって走り出す。


「甘寧一番乗り」


「あ、狡い! 私甘寧やりたい」


 分身達が誰が先にたどり着くかと話しながら走っていく。アリシア達は驚き追いかけた。分身達が何処に向かうか分からないからだ。

 拓斗も掌を少し見ると、駆け出した。

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