23 国王陛下の依頼
「儂の孫娘を助けてくれぬか!」
…え?
「あ…あの状況が分からないのですが何故自分なのですか?内容は分かりませんがこの国にも有能な人達が居るはずです。他国の者である私に頼るのは拙いのでは?」
普通は問題ごとを自分の国の中で解決するはずです。助けるが誘拐とか病気とか知りませんがどっちでも自国で対処するのがベストで他国の手を借りるのは悪手だと思うんですよね。特に私は他国の王族でいくら親交がある国でも何の報酬も無しに手は貸せない…当然私個人の報酬だけでなくアーランドへの何かしらの報酬を与えないといけないのだ。これがどれだけ不味い事なのかは下級貴族ですら知ってるはず。
特にアーランドは帝国と皇国に睨まれた国です。私達はあの2つの国など恐れませんがそこに手を借りては帝国と皇国に睨まれるどころか帝国はこれ幸いと有りもしない大義名分を掲げて攻め込んで来そうですが。
「確かに余り良い判断では無いじゃろう。だが国内で孫娘を助けるのは不可能じゃ、そなたも知っておるじゃろう?教会は治療魔法の適正がある者を違法な手を使ってでも集めてることを」
「確かに余り褒められたものじゃない手を使って集めてるとは聞きますがアーランドの教会は大人しいので皇国の影響が無いのです。なので噂で聞くくらいしか知りません」
アーランドにも教会はあるけどまあ宗派が違うので同じ神様を祀ってても内容は全然違う。もしアーランドの教会が普人主義を掲げたら即焼き討ちを受け犯人すら捜査されないとはお父様の言葉だ。だから私は他国での教会の横暴は本当に噂程度の情報なのだ。
噂に聞くのは治療魔法に適正のある子供を権威を盾に連れ去ったり金銭で無理やり買い取ったりならまだ良い方で少しでもごねると異教徒の烙印を押し火あぶりにしたり誘拐したりと好き勝手してるらしい。
「噂は当てにならぬと言うが大体噂通りじゃな、教会は治療魔法の使い手の数で権威を保っておる。ギルドへの神官の派遣や教会での治療など生活に必要な部分を抑えてるのじゃ。だから多少の横暴は誰も文句は言えぬ、そなた達を除いてはな」
「噂通りなら多少では無いと思いますが…」
そういうと国王陛下は頭を抱えた。顔色も悪そうだ。
「そうじゃ!あ奴等は儂等が手を出し難いと知ってるからやりたい放題じゃ、しかも有り余る資金で大抵の事は隠蔽してしまう。じゃから儂は手を打った。少し前からこの国で連続強姦事件が起きたのじゃ、儂は騎士団に命じ密かに調査した。結果は…教会の若い神官達の暴走じゃった。自分達は特権階級に居るのでこの程度は何の問題も無いと勘違いしていたらしいの。儂は直ぐに拘束させ全員処刑した」
うわぁ…馬鹿貴族と対して変わらないですね。アーランドでも処刑されますよ。神官は神官で貴族じゃないのだ特権階級ではないので貴族みたいに減刑はされないから一般市民同様の権利しかないのだが何を勘違いしたのか。
「しかし全員処刑すれば教会が黙っていないのでは?彼等が大人しく失態を認める事は無いと思いますが」
「そうじゃな。教会と皇国は儂等が教会の権威を下げるための陰謀じゃと騒いでおる。当然儂等も明確な証拠を揃えた上での処刑で証拠も提出したのじゃが「このような物では神官達が法を犯した証拠にはならぬ」と話にもならん!そこから王国と教会の仲が悪くなっての。丁度その時期じゃな儂の孫娘が倒れたのは…」
相変わらず教会は自分達のミスを認めないのですね。しかも逆切れして何かしてるのかな。
「裁かれても仕方のない連中ですね、我が国で排斥されるのも仕方の無い事でしょう」
「我が国にも治療魔法の使い手は居るが数も少ない。そしてその治療魔法の使い手では孫娘を治せなかった。儂は野に居る治療魔法の使い手を集めようとしたが教会は儂の孫娘が倒れたのは儂の信仰心が足りない故の天罰と野に居る治療魔法の使い手に圧力を掛けておる。無視すれば神の意志に背く背徳者じゃとな。これでは治療魔法の担い手は集まらぬ、教会の圧力に屈せずに集まってくれた者も少なからず居たがやはり治せなかった」
碌な事をしませんね。
「それで私ですか?しかし私は他国の者ですよ。私の手を借りると言う事はアーランドに借りを作ると言う事になってしまいますが」
ここが重要ですね。最悪孫娘さんは諦めなければならない事態ですし。
「それは分かっておるが帝国や皇国も我が国を迂闊に潰せんのでな、この国はこの大陸で一番学業に力を入れている将来を担う人材の育成国じゃ。それに皇国も今回は証拠を持ってるこちらに武力行使は出来んしの。もし帝国が攻めてこればアーランドとの同盟もやぶさかではないの」
確かにあの2つの国の嫌がる条件は持ってますね。将来の人材の育成はどの国でも重要項目ですし力尽くで奪うにしても教育者まで一緒に死なれては困ってしまいます。皇国は攻め込めば国が持ってる証拠を道ずれと言う感じで各国にばら撒かれるのが落ちなので精々口だけで文句を言うしかないでしょう。
しかしいざと言う時にはアーランドと同盟ですか。確かにアーランドは反帝国・皇国の象徴とも言えますが基本的に引きこもり体質なので御旗にはならないと思うんですよね。
「今回はアーランドに対する関税の減額や各種物資の提供などで話をつけておる。そなたの体調や意志に任せるとの条件で話が通ったのじゃ。どうか孫娘を救ってはくれぬか‼孫娘は儂の宝じゃ、あの子の為なら儂はいくらでも頭を下げるしそなたに対する報酬も出来るだけ要望に応える。だから頼む‼」
これはどうすれば良いんでしょうか?国王に頭を下げられてるのに拒否するのは大問題です。流石に不敬罪とかで裁きはしないでしょうけど…と言うか事前に話を通して欲しかったよお父様。絶対にこの件も許さないが私個人の人脈を作るチャンスでもあるんですよね。多分この件の責任者はお父様では無くお母様なのでしょうね。私が社交界に出ず人脈すら持たない事を考慮してでしょうが私が特定の人脈を持たないのは将来後継者争いを避ける為でもあるんですよね。お兄様は確かに有能で強いですが技術と実力は多分私の方が上です。流石に王の器や政治に関しては分かりませんが少しでも上回ってる部分がある以上周りが騒ぎだして無理やり私を候補者にする危険がありますし私はそんな下らない事で家族間に溝を作りたくない。私見ですがお兄様は性格に難こそありますが立派な王様の器を持ってると思うんです。私は技術屋でもやって舞台裏から支えれば良いと思ってます。
「難しい要望です。私は人脈を作る気は無いのです。将来私とお兄様が争う事の無いように」
そう言うと国王陛下は目を開いて驚いた。
「…そなたは王座に興味が無いと?それだけの実力なら望む事も出来るであろう。事実そなたの実力は多少でも我が国に来ているのだぞ」
「申し訳ありませんが私にとってそれは路傍の石ころです。地位や権力に欲を出せば無関係の人を困らせますし私は自由に魔法を極めたいのです。それがアーランドの発展に繋がります。なので私はこの話を受ける事は出来ません」
私の返答に国王陛下が項垂れる。
他の国みたいに兄妹で殺し合いとか疑いあう関係などごめんこうむります。ですが…
「私が関わらない方法でならこの話を受けても良いと思ってます」
私の返答に国王陛下はっは!っと顔を上げる。その顔は私が何を言ってるのか理解出来ていないようだ。
「私は身分と正体を隠して冒険者登録を行い活動する予定です。なのでその正体不明の冒険者としてならこの話を受けます。ですが受けるのは私ではありません。あくまで謎の冒険者としてです。当然この話を飲めないのなら私は関われません」
これは私が関わらずに事態を解決する方法です。当然アーランドに報酬は出ませんがその冒険者は私で無いので私の功績や人脈を作る事にはなりません。当然帝国や皇国に睨まれる事も無いでしょう。謎の冒険者が教会や皇国に喧嘩を売る事になりますが私は彼等が嫌いなのでどうでも良い。元々好感度がゼロなので敵対してもどうにでもなりますしね。
「それではそなたが教会に睨まれるだけで儂や国に対する利益しか出ないではないか‼この話ではそなたやアーランドにメリットが無いぞ」
「どうせ私が治療魔法を使う時点で教会に目をつけられるでしょう。当然私が彼等と慣れ合う事などあってはなりませんしあり得ません。なので問題はありません」
そう言うとちらっと後ろに居るアリシアさんを見る。
アリシアさんは少し困った顔をしてるが多分この件も知ってたのでしょう。そして私の判断は想定外なのでしょうね。普通ならこんな面倒な事はしないで素直に人脈の構築を行うでしょうし。
「…そうか、ならば儂としては何も異論はない。儂に断る理由も無いしの。じゃが本当にすまぬ、儂の願いが無ければ教会に睨まれるのももっと後じゃった筈じゃ当然相応の報酬は約束しよう。何か求める物はあるかの?」
「普通に相場の報酬でかまいませんが間違っても爵位等を送らないでほしいです」
爵位を貰っても困る立場なので普通に金銭で良い。それに恐らく国王陛下はかなり忙しくなるだろう。登録したばかりの冒険者に指名以来を出す時点でその冒険者の身元を知っているので教会やそれを指示する貴族が正体を暴こうとするでしょうがもしばらせば私はアーランドに逃げますし今後私やその冒険者に何かを頼む事も出来ないでしょう。将来的には国を通しての関係なら結んでも良いと思ってますが私が国王陛下と本格的な人脈を作るのはお兄様の後が好ましい。
「当然じゃな。細かい事後処理も当然儂が行うしそなたの事も決して口外はせぬ、儂が墓まで持っていくと約束しよう」
「ありがとうございます。私との関係はお兄様と人脈を作ってからなら構いません。将来の国王であるお兄様ならいずれ陛下とも会う事になるでしょうから」
「ほほ、楽しみじゃな。そなたがそこまで支持するのならアーランドの将来も安泰じゃな、儂はアーランドが羨ましいわ。実を言うとそなたに息子との縁談を申し込んだのじゃがこれが返ってきおった」
国王陛下が私に差し出したのは一枚の紙。内容は『それは新手の宣戦布告か?』と血で書かれてました。流石にこれは私も汗が止まりません。国際常識を逸脱し過ぎです。
「申し訳ありません‼お父様には私の方から叱って(魔術的に)おきます。これは国際常識を無視し過ぎでした」
慌てて頭を下げると国王陛下が笑い出した。何故?
「くっくく、いや構わぬよ儂等は軽口で手紙をやりあうのでな。これも公式な手紙では無く私的な物じゃ」
はぁ―――――ビックリした。お父様は本当に後で〆よう。
「では儂はギルドに依頼を出すとするかの」
「私はこの後直ぐに登録を行いますので明日には依頼を受けます。ですが多少無礼な格好になってしまいます」
仮面付ですし。
「構わぬよ。そなたにこれ以上の迷惑を掛ける訳にはいかぬのでな」
「では私はこれで失礼します」
私は最後に頭を下げるとアリシアさんと部屋を出ていく。暫く歩いて城を出るとアリシアさんが話しかけてきた。
「これで良かったのですか?」
「これが最善。それより今から冒険者登録って出来るの?」
今から登録しておけば問題は無いのですが。明日だと別人が登録しそうですし。
「それは出来ますよ。夜の鐘が鳴るまでは登録できます。時間ですと後3~4時間程は大丈夫ですので宿で着替えましょう」
衣裳は宿にある(学園は3日後からです)ので着替えたらギルドに行きましょう。一応ギルドは犯罪履歴を検索する魔道具に引っかからなければ誰でも登録できますし本名でも偽名でも大丈夫…だって戸籍制度が貴族以外に無いこの世界では本名か偽名か等区別できないので犯罪を起こしてなければ大丈夫なのです。
そして私達は改造馬車は既に国に帰ったので普通の馬車で宿に戻った。




