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転生王女の国家大改造 ~無敵な国を作りましょう~  作者: 窮鼠
激突アーランド王国VSグランスール帝国
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233 魔王復活①

 シンシアナが現れた時、帝国軍は混乱の中にあった。

 しかしシンシアナの血染めの王国旗を見た時、戦場が静まり返る。

 何故なら、その旗は帝国軍の教本だけでなく、多くの国民達が親から聞かされる悪夢その物だからだ。

 決して相対してはならない。決して剣を向けてはならない。その女は全ての人間を一撃で殺してきた。

 帝国が誇る英雄も彼女の前では一合すら耐えれなかった。その抜き手は盾も鎧も打ち砕く。その蹴りは体を真っ二つにする。

 血装のシンシアナ。それはアーランドでの渾名だ。帝国では一撃必殺のシンシアナと呼ばれる。


「シンシアナが出たぞおおおおおお! 」


 生き残っていた老兵が絶叫するように叫び、武器を捨て帝国に向けて走り出す。走りながら鎧も脱いでいる。わき目もふらずに逃げる老兵――自分の先輩達を見た帝国軍の若い兵士達もアレが本物だと悟った時、彼等は一斉に逃げ出した。

 数の有利? そんな物はシンシアナには通用しない。どれだけの兵を集めても必ず軍が瓦解させられるのだ。そしてシンシアナと戦わないで逃げるのは帝国でも恥ではない。

 敵前逃亡は許されない事だ。しかし、シンシアナ相手では士気の維持など不可能なのだ。故に黙認される。

 シンシアナは佇んでいた。

 彼女は死者だ。複雑な思考は既に取れない。何故なら魂は既に天に上り、ここに居るのはその残滓…想いだけだ。

 そして、それは他の者達も同じ。彼等の思考は死ぬときで止まっている。仲の良い相手と再会するなら多少の感情の発露は有るが、基本的に思念だけの存在だった。

 アリスティアはその思念に器を与えた。彼等の無念を晴らす為に。


「………」


 シンシアナは無言で帝国軍、そしてその奥にある皇帝の旗を指さす。

 まだ旗は掲げられている。まだ皇帝は殺せていない。アリスティアを助けると言う思考は無い。何故ならシンシアナはアリスティアを『知らない』。

 そしてアーランド軍に歓喜の雄叫びがあげられる。それは声としての雄叫びではない。魂の雄叫びだった。

 陣形など無くアーランド軍は後退を始めている帝国軍に雪崩れ込む。


「クソ、逃げるな! 祈りの魔法で浄化すれば済む話だろ! 」


 若い指揮官が声を上げる。既に魔法師団は壊滅と言っても良い程の被害を受けているが、魔法使い全員が魔法師団に居る訳じゃない。最前線での治療や近接援護の為にある程度は他の部隊にも居るのだ。

 そして、その魔法使いの一部は祈りによる浄化を使える者も居た。しかし、その魔法使いは狂乱するように叫ぶ。


「駄目だ。浄化出来ない。あれは浄化出来ない! 」


 余程の力量が無ければ無理やりな浄化は不可能だ。そして、現在帝国軍に残っている魔法使いにそれが可能な者が居ない。仮に優れた神官が居ても浄化は不可能だ。

 彼等は悪霊に等しかった。帝国を心の底から呪っているのだ。帝国に類する者の浄化など受け入れない。アーランド正教の浄化を長年受けていても消えない程なのだ。彼等が浄化されるには……帝国に相応しい罰を彼等が与えた時だろう。

 雪崩れ込んだアーランド軍の英霊達は、一部は槍衾で串刺しにされる。恐怖に震えながらも帝国軍の一部の槍兵達が己の身を守る為に槍衾を作ったのだ。


「へ、へへ串刺しだ。なにがアンデッド、だ? 」


 串刺しにされたアーランド兵が動き出す。そして恐怖に引き攣りながらも笑っていた帝国兵が悲鳴を上げた。

 その瞳には憎悪しか浮かんでいない。その瞳は自分を見てるんじゃない。そして、その瞳に諦めは無い。

 貫かれた兵士達は前進する。体を槍で貫かれた? そんな物は血肉の無いこの体にはそれ程の問題ではない。いや、穴が開くと魔力が漏れるのだが。

 そして槍に貫通されながらも前進したアーランド兵は貫かれたまま槍兵を剣で殺す。


 殺せない。


 その考えが帝国軍に一気に蔓延した。一応ダメージは有るはずなのだが、この【英霊召喚】で呼び出された死者は悪しき者でもない。故に浄化に対する耐性もあり、倒すには存在を維持している魔力を削るしかないのだ。しかし、【英霊召喚】の術式には周囲の魔力を吸収する術式が組み込まれている。このせいで彼等を魔力切れで消すのは容易では無かった。

 何故ならば、この戦場には魔導炉の爆散で尋常ではない魔力がまき散らされているのだ。でなければ魔力の消耗はもっと分かり易く、帝国を大混乱になる事も無かった。

 そしてシンシアナはアリスティアが【英霊召喚】で使った魔力の大多数を独り占めしていた。他の兵士達も不満は無い。シンシアナこそが最強なのだ。そして彼女の血統魔法は膨大な魔力を消費する。

 パキパキと音をたてながらシンシアナに闘気の鎧が生み出されていく。

 それは獣のような鎧だった。見ただけで死を連想するそのシルエットこそがシンシアナの血統魔法であり魔装である【武神】だ。

 シンシアナは一瞬で帝国兵の前に移動する。その余りの速度に対応の遅れた帝国兵が武器を持ち上げる前に蹴りを放つ。それだけで帝国兵の首が飛ぶ。

 着地したシンシアナは止まらない。ジグザグに動き、帝国兵を翻弄しながらも一人また一人と一撃で殺す。まるで作業のように。


「本物じゃねーか! 」


「逃げろ逃げろ! 」


 今まで死んだ筈だと信じなかったごく一部の兵士達の士気も完全に崩壊し、帝国軍は国境に向けて撤退が始まる。

 しかし、シンシアナは帝国軍に用は無い。望むは敵の総大将の首だ。彼女は一直線で帝国の本陣へと駆け出した。


 



 何故こうも帝国軍が容易く瓦解したのか。確かにシンシアナの存在は帝国にとって悪夢の再来であり、彼女が出てきた時点で士気はどん底だった。

 しかし帝国は大陸に覇を唱える国家だ。如何に皇帝が愚かであっても軍の統制は軍人の有能さも有って問題は無かった。


「狼狽えるな。隊列を組み直すのだ! 」


 一部生き残った有能な指揮官が己の部下に命令を放つと、彼の部下は規律を取り戻し、隊列を組み直そうと動く。男はこの戦は敗北だと理解していた。しかし、無暗に後退すれば追撃され、被害が広がる。

 戦争で一番怖いのは追撃だ。士気の崩壊した兵士は戦うよりも逃げる事を選び、追撃して来た兵士に殺される。故に撤退には規律が必要なのだ。

 統制のとれた部隊が殿を務めれば被害はそれだけで少なくなる。一部の将校はそれを行おうと考えたのだ。


「おじさん。偉い人だよね? 」


 ふと気がついた時、自分の馬の近くに少女が居た。

 ゾクリと背筋が凍り付く。


「き、貴様は」


「偉い人は死なないといけないんだ。だから死んで」


 アリスティア分身は既に帝国軍内部に隠蔽魔法で紛れ込んで居た。

 彼女達の役目は帝国軍の混乱だ。つまり、絶望的な戦況でありながらも冷静さを失わずに指揮を執る有能な指揮官の摘み取りだ。アリスティア分身は将校に拳銃を向けると、躊躇わずに引き金を引く。

 乾いた音が7回程響き、将校の体に同数の風穴を開けると、たまらず将校が馬から落ちる。


「痛い? でもね、貴方達が殺したアーランドの将兵はもっと痛かったよ。もっと辛かったよ。

 お前達にはその100倍の苦痛を味合わせてやる。地獄で帝国が惨めに滅びるのを歯を食いしばって眺めてろ」


 マガジンを取り換えるとアリスティア分身は将校に止めをさす。そして再び隠蔽魔法で姿を消すと、別の獲物を探しに帝国軍内部を駆け回った。

 これにより帝国軍の士気は回復の見込みが無くなった。それどころか、指揮を執るべき指揮官が居なくなった事でシンシアナ達英霊の攻撃を組織的に防ぐことが出来なかったのだ。

 しかし、それだけじゃない。

 ボコリと地面が盛り上がる。


「プハー! 呼吸してないけど新鮮な空気だ! 」


 地面からアリスティア分身が率いるゴーレム・レギオンが現れたのだ。

 彼女達は魔導炉が爆散する前に自分を率いている連隊事地面に埋めたのだ。それが出てきたのだ。

 残存ゴーレム・レギオンは数がだいぶ減り、当初こそ3万7千程居たゴーレムは現在2万5千程まで数が減っていた。

 しかし、どれほど被害を受けても士気の崩れないゴーレムは恐ろしい軍勢だった。


「後退する帝国軍の先に回り込むよ。総員駆け足! 」


 戦場は終わりに向けて動き出す。












 拓斗達は魔導炉の爆散を航空機の窓から見ていた。


「この膨大な魔力……魔導炉を臨界爆破させましたか」


 アリシアの呟きに拓斗が訪ねる。


「魔導…炉? あれって古代の遺物的な奴か」


「姫様は既に量産技術を持っていますからね……戦争で使うなんて誰も考えませんでしたけど」


 魔導炉は存在そのものが宝だ。戦争で使い潰すなんて何処の国も考えないだろう。

 しかし、アリスティアからすれば核の代用品には丁度良い物だった。


「わふ! 」


 拓斗達が窓から外を見ている時にスピーカーから犬の鳴き声が聞こえた。

 どうやらここまでの様だ。これ以上は魔導炉の爆散で荒れ狂った魔力の影響を受けかねないと考えたのだろう。

 拓斗達は後部のハッチを開く。基本的にここから降りる仕様だ。何故ならアーランドでも航空機用の滑走路が一つだけ。しかも基地に有るだけだ。なので、後部ハッチから空挺降下するのが使用である。行だけ便なのだ。


「行くぞ」


「姫様不良品だけはやめてくださいね! 」


 拓斗達は降下の腕輪と言うパラシュートの代わりとなる便利な腕輪を付けている。これはこの航空機に積んであった物だ。

 最も安全確認等されていない物なのはアリシアがよく分かっていた。


 拓斗達は航空機から飛び降りるのだった。

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