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転生王女の国家大改造 ~無敵な国を作りましょう~  作者: 窮鼠
激突アーランド王国VSグランスール帝国
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228 決死の戦い②

遅れてすみません。

 クート視点


 クートは怒り狂っていた。


(アレは何だ。あれは本当に主なのか。こいつ等が我が主をあんな風に変えたのか!)


 クートは戦えばアリスティアに勝てる程強くなった。本来使い魔とは対等な契約か従魔の契約の二つだ。アリスティアとクートは対等では無くアリスティアの下にクートが従う従魔契約である。

 しかしクートは変質した。アリスティアとの繋がりから膨大な魔力が流れ込んできたのだ。

 クートは魔物の中でも元々異質な存在である。クート自身は知らない事だが、源流を辿れば魔獣ではない。聖獣の直系だ。但し、途中で魔獣と交配した結果、クートは魔獣として生まれた。恐らく父や祖父に当たるのも魔獣だ。聖獣であったのは遥か太古の祖先である。

 しかし、アリスティアから流れ込んだ清い魔力はクートの魔獣の部分を消し、一種の先祖返りを引き起こした。その時点でクートはアリスティアと同等だ。

 クートの先祖はかつて精霊王と友誼を結び、共に滅びた狼王と言う種族だ。格としては精霊王には劣るが、現状アリスティアは精霊王の力の1割も使いこなせない。成長しても人間と言う種の限界から5割も使えれば良い方だろう。

 しかしクートは元より屈強な肉体を持っている。そして狼王は魔法も使うが、獣らしく肉体特化の聖獣だ。その力をクートが使いこなせない筈もない。同系統だからだ。

 故にクートはアリスティアより強い。クートが望めば無理にでも使い魔の契約を破棄する事だって可能だった。

 しかしクートはそれを行わなかった。自身の力はアリスティアによって引き出された物だと理解していたし、アリスティアとの生活も悪くなかった。弱き魔獣を従え、小さい山の頂点に君臨する事の虚しさをクートは知った。

 そして弱者だと侮っていた人間の強大さも理解した。自分は獣の世界しか知らないが、この世界は既に人の世だ。魔獣は駆逐される側だと理解したのだ。

 別に今の力なら人間を滅ぼせなくても大打撃を与える事も可能だが、それをする気は起きない。そんな事よりアリスティアと共に居るだけで安心出来る。アリスティアとの生活は楽しかったのだ。

 ずっとこんな日が続けば良いと思った。アリスティアは人だ。魔導の極地に至っても200年程度で命が尽きるだろう。自分は知らないが、己の本能はそれ以上生きると訴えていた。じゃあ200年くらい楽しもうと考えていた。

 しかし戦争が始まった。成程猛るのは分かる。自分も昔は他の魔物や魔獣と縄張り争いをしてきた。あの時は自分も猛った。

 しかしアリスティアの心に浮かぶのは黒く禍々しいナニカだった。それは日を追う事に強くなる。

 これはおかしいと思った。でもアリスティアも近しい精霊も気がつかない。ヘリオスはアホなので気がつく方がおかしい。寧ろヘリオスが異変があると言えば自分は気のせいだと断言する程度の小さな異変だった。

 自分がおかしいのかと思ったが、アリスティアが戦場に出て確信した。やはりおかしい。そして原因は目の前の帝国軍とか言う愚か者だ。こいつ等を全員殺せば、アリスティアの目の前から消し去ればあの黒い物も無くなるのかも知れないないと思った。


「殺せ! 」


「「「ウォン! 」」」


 怒り狂ったクートは自身の配下を従え帝国軍へと雪崩れこむ。屈強な騎士も脆弱な兵士も区別なく殺す。

 足で踏みつぶし、爪で切り裂き、牙で噛み千切る。一糸乱れぬ動きでクートの群れは帝国軍を蹂躙し始めたのだった。



 ヘリオス視点


(……吾輩巣に引き籠りたい)


 ヘリオスはそう思った。

 本来ドラゴンは強大な魔力と優れた身体能力。そして空を飛べる事から最強の生物と言われてきた。ヘリオスはそのドラゴンの中でも力有る古龍だ。

 自分は最強種だと言う優越感を持っていたヘリオスだが、彼のプライドは木っ端みじんに砕かれた。

 ドラコニアに撃ち落とされるのもアリスティアに勝てないのも納得できる。ドラコニアは本当に普人なのか? と言う程の力を持ち、アリスティアは自身を軽く凌駕する魔力を持っている。

 地を這う獣であるクートに勝てる気はしないが、戦った事が無い以上は自分の方が強い筈だ。だから戦わない。絶対に戦わない。ヘリオスは自分のプライドを守る方法を学んだのだ。

 しかし自身のブレスが帝国軍を名乗る普人の群れに防がれた時、再びプライドが砕けた。


(もう最悪なのである。皆に馬鹿にされるかつての生活が吾輩の心を蝕むのである)


 普人の群れである帝国軍にブレスを防がれた事でヘリオスは昔の心の傷が開いた。

 嘗てヘリオスは今以上に竜の社会に近かった。しかし、ヘリオスは弱すぎた。

 火と言う属性を持ったドラゴンの中でもヘリオスは一番才能が有った。しかし、他の竜達より弱かった。

 泣き虫炎竜。

 昔のヘリオスの渾名である。

 何時も何時も顔を合わせれば他のドラゴンに虐められたヘリオスは、何時しか自分の巣に籠った。ドラゴンは弱肉強食だ。弱い竜に居場所は無い。

 何度も嫌がらせの襲撃を受けては逃げるように巣の場所を変えた。そしてオストランドのとある山に巣を作って1000年以上が経った。他のドラゴンも自分を虐めるのに飽きたのか、それとも自分の事を完全に見失ったのか分からないが、平和だった。取られないように各地に隠していた宝も現在の巣に移動させた。

 何時しか知り合いの多くは人に討伐されたと言う噂を精霊に聞いた。ヘリオスは人と争うのは苦手だったので生き残った。そして何時しか古龍になっていた。

 古龍になった事で身体能力も保有魔力を飛躍的に増えたヘリオスは、過去のトラウマから戦闘は避けた。狩る獲物も弱い魔物だけだ。安全に静かに暮らしながら過去に受けた心の傷を癒し、プライドを持ち始める。

 最も調子に乗ってオストランドの首都を攻撃したらアリスティアに返り討ちにされて再び心が折れたが。


(嗚呼、神竜様が生きて居れば吾輩ももっと楽な生活が出来たのがだな)


  ヘリオスは帝国の魔法師団にブレスを撃ち込み、魔法師団に甚大な被害を与えながら考える。

 嘗てシンシアナに半殺しにされ、傷を癒し、シンシアナが死んだからと油断した神竜はドラコニアに討伐された。

 人にとっては恐怖の象徴である神竜だが、ヘリオスに目をかけてくれた良いドラゴンだった。人の国を亡ぼすのは暇つぶしと言っていたが、虐められる度に助けてくれたドラゴンだった。

 そんな自分は今や使い魔としてアリスティアと名乗る幼女の僕だ。抗う気は無い。食事は美味いし、横のクートと戦闘すれば完全に心が折られるかもしれない。

 でも帝国軍は許さん。至高の生命体である自分のブレスを一度でも防ぐと言う愚行は断じて許さん。ドラゴンはプライドの塊だった。そして完全に脳筋種族である。

 本来ならば地に降りて牙や爪、尻尾で蹂躙してやるのだが、アリスティアから「それやると返り討ちにされるから絶対に駄目ね」と言われているので地に降りれない。

 仮に降りれば地を這う獣に蹂躙されて自身のプライドが修復不能になりかねないので我慢した。ヘリオスは我慢出来るドラゴンなのだ。

 故にヘリオスは大声で叫ぶ。


「カードオープン! 」


 ヘリオスが爪の間に挟んでいたカードが光を放ち、中の物を展開させる。

 出てきたのはロングバレルの30㎜ガトリングガンであった。ガクンとヘリオスの体が高度を落すが、必死に立て直す。

 両手で持った30㎜ガトリングガン背中の弾薬箱から弾薬を供給される。そして総重量は2000㎏を超える重量物だ。

 ヘリオスも苦悶の声を上げながら落下しないように耐える。暫くすると慣れた。魔法を併用すればこれくらいは持てるのだ。


「貴様等に吾輩からのプレゼントをくれてやる! 」


 ほんの僅かの時間にガトリングガンが回転し、弾薬をばら撒き始めた。

 弾頭は対人用の榴弾だった。

 弾頭が雨のように降り注ぎ帝国軍に甚大な被害を与える。

 しかし、生き残りの魔法師団が魔法障壁を張った。恐らく消耗を度外視したのだろう。榴弾の貫通力では破壊出来ない。

 そして予備の弾薬はストレージカードと言う収納用のカードに入ってるのだが、全て榴弾だ。

 ヘリオスが魔力を口に集める。それを察知した帝国軍は慌てるが、魔法師団は魔法障壁の展開に死力を尽くしており、空を飛んでるせいで反撃出来ない。

 そして僅か5秒程で十分な魔力を込めたブレスを撃ち込む。先ほど教えられたように思いっ切り圧縮したブレスは魔法障壁を貫通し、灼熱のドームを生み出す。


「穴が開いたのである」


 ヘリオスが魔法障壁に取り付き、先ほど空いた穴にガトリングガンの銃身を押し込むと再び発射する。ブレスに焼かれるか、榴弾の破片でズタズタにされるか、帝国軍は結果として被害が膨らむ。

 10秒程障壁の内側に撃ち込んだヘリオスはアリスティアの命令通り飛び上がり再び高度を取る。


(素晴らしいのである。これなら吾輩を虐めた連中にも仕返しが可能なのである!

 この腕を振るわす振動も素晴らしい!)


 ヘリオスは上機嫌だった。人の死に感傷を抱く事は無い。人が地面を這う蟻の事を気にしないのと同じだ。唯ガトリングガンの素晴らしい威力に酔いしれた。

 自身の魔力を全く使わないのに、これほど高威力なのだ。


(主はカンツウリョクなる物が高い徹甲弾と言う物も存在すると言っていたな。ならば我等ドラゴンの鱗も貫く事も可能かもしれない……アレ? もしかして、これ持ってる吾輩って最強じゃないか?)


 上機嫌にヘリオスは弾丸の雨を降り注がせるのだった。



 皇帝視点


「馬鹿な娘だ。しかし儂の大陸制覇にはあの娘の頭脳が必要だ! 全軍に伝えよ。あの娘を何としても確保するのだ! どれだけ被害が出ても構わん! 」


 皇帝が輿から立ち上がり声を上げる。


「お、お待ちください。全軍で確保に向かえばアーランド軍の包囲に支障が出ます。それに被害が出過ぎています。一度距離を取るべきかと」


 皇帝は歳を思わせない動きで輿から飛び降りると、苦言を言った将校を杖で殴る。


「兵などどれだけ死のうが補充出来るであろうが! 貴様は替えの効く兵の命と魔導炉や飛空船を生み出すあの小娘どちらが価値があるか分からんのか!

 これは勅命じゃ。全軍を持ってあの娘を確保せよ。頭の欠けたアーランド軍などもはや脅威ではない」


 殴られた男は少し躊躇うが、全軍に包囲を解いてアリスティアを確保せよと命じる。

 局所的に甚大な被害が出ているが、アリスティアを確保出来れば平民でも伯爵。貴族ならば皇帝の娘を娶らせ公爵にするなど魅力的な報酬に目がくらんだ者達がアリスティア軍に殺到し……悉く殺されていく。

 帝国軍が受けている被害は甚大だ。このまま無策に突撃すれば帝国と言う土台が傾きかねない。しかし皇帝はアリスティアさえ確保出来ればどれだけ被害が出ても得の方が大きいと確信していた。

 アリスティア軍は明らかにゴーレムを主力としている。その性能は遠目では余り分からないが、平凡と言える。但し、持っている武器が異常であった。

 魔法銃は大陸にも存在する。しかし、ライフリングも無い原始的な物だ。性能的には少し装填の早い火縄銃的な物である。性能も悪い上に魔法銃は値段が高い。そして生産性も劣悪だ。実用性は無いと何処の国も興味を持たなかった。

 しかし、その全ての欠点を埋めた魔法銃を主力としているのだ。あの部隊を生み出せるのならば、どれだけ兵士が死んでもゴーレムと言う新しい兵士が量産出来れば何ら問題は無いのだ。 

 魔導炉・飛空船・そしてゴーレムに魔法銃。どれも欲しい。アーランドとか言う蛮族の国には過ぎた人材であった。帝国の様な強大で優れた国家こそが保有するべき人間だ。

 幸いアリスティアは普人なので自分か息子の嫁にすれば帝国内でも受け入れられるだろうと考えた。

 アリスティア軍は当初こそ勢いが有ったが、ジリジリと後退を始めている。つまり帝国軍は押している。そして後方の草原地帯には第二騎士団が設置した転移用の魔法陣が隠されている。


(儂の勝じゃ)


 皇帝は自身が大陸の全土を征服する未来を予感し、微笑むのだった。

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