227 決死の戦い①
待たせたな!
ヘリオスは案の定、役にはたたない。少なくとも帝国の魔法師団が居る限りは魔法障壁でブレスは防がれるだろう。
同時に帝国軍の魔法師団のレベルは低いと判断する。アーランドの魔法師団より多少はマシと言うレベルだろう。
最もアーランドの魔法師団は脳筋と言う病が蔓延しているので、最前線でも戦える者しか居ないので数が多ければアーランドの方が強い。魔法で防ぎながら走って突撃してくると言う魔法師団の常識を覆す戦術を使うようになっているからね。
但しレベルは低いが数が多い。ソ連式や嫌だよ。だって倒しても倒しても人の津波となって押し寄せて来る。実際帝国の強みはそれだ。どれだけ被害を与えても帝国と言う国家に属する人間が多すぎて補充が容易なのだ。
最も魔法使いの補充は容易ではないだろう。つまりここで魔法師団を殲滅出来れば帝国の魔法技術を衰退ないし停滞を引き起こせる。
「違うよヘリオス。ブレスはこうやって撃つんだよ【オルタナ・スーパードラゴンブレス】」
私がヘリオスにブレスの撃ち方を教える事にした。
膨大な魔力が圧縮され、ビー玉程度になったブレスを帝国軍に撃ち込む。
「防げええええええ! 」
先ほどとは違い、魔法師団が絶叫をあげて魔法障壁を展開するが、撃ち込んだブレスを一瞬たりとも防げず、障壁を貫通する。そして走りこんで来た前衛部隊の中心でブレスが巨大化した。
爆発音も何もなく膨れ上がる火球は帝国兵を飲み込んで一瞬で消え去る。そして火球の弾けた跡には人は残っていなかった。地面はガラス化し、完全に炭化した死体が転がるだけだった。
「これがブレスの効率的な使い方。ヘリオスは圧縮が足りない」
「ブレスは吾輩達ドラゴンの専売特許なのだが、な」
ヘリオスは首を振ると、再びブレスを放つ。先ほどとは違い、魔法障壁を貫き、前衛部隊に再びブレスが撃ち込まれた。但し魔法障壁に大分威力を食われたので私の半分程度の威力だ。具体的には私のブレスが膨れ上がったドームの直径が100m程度なのに、ヘリオスは50m程度である。何で私の模倣したブレスの方が高威力なんですかねぇ。
前衛部隊は完全に混乱している。時折後ろを向いて罵倒している様子から、魔法師団を罵っているのだろう。仲悪いな。
同時に私は完全に準備完了だ。ゴーレム・レギオンは既に展開を完了している。
「戦列にて敵を打ち砕け」
「りょうかーい」
ソルジャー・ゴーレム300体を一つの連隊として私の分身が指揮を執る。重装突撃仕様も連隊として動く。
連隊。それはアイリスの居た時代にはとっくの昔に廃れた戦術だ。隊列を組み、敵に向かう戦術だ。
何故この戦術を使うかと言えば一言だ。私に軍事的才能は皆無だから。ならば運用出来る程度の数で連隊を組めばいい。なに、同じ私だから連携くらいできるだろう。出来なくても消耗品なので時間を稼げれば問題ない。
ゴーレム・レギオンが横列陣形で前進を始める。さあ、時間を稼げ。そして主力を引き寄せろ。私は背後からビシビシの草原地帯に隠された魔法陣をチラリと見る。
この程度の隠蔽じゃ無いも同然だ。一見魔法陣は見えないが、魔力を纏った魔法陣を魔法使いに見破れないようにする程度の技術も無いのか。最もお父様とお兄様を傷つけた第二騎士団? とか言う連中が釣れる事を期待する。アイツ等は私の手で皆殺しにする必要があるのだ。
ダッテ、ホウフクハヒツヨウダモンネ。
暫くすると射撃戦が始まる。私の前に出陣した連隊がAKモドキで歩兵を蹴散らす。連射能力が高い上に、戦列で密集しているせいで制圧射撃で歩兵がハチの巣にされているのだ。
当然攻撃魔法が飛んでくるが、指揮官の分身がそれを迎撃する。兵士が纏う粗末な鎧どころか重騎兵の鎧だって貫ける銃弾から身を護るのは難しい。慌てた帝国軍が大楯を持った部隊を前に出すが、それすら貫き、その後、大楯を持った重騎士の鎧も貫いている。
当然大楯はなんの役にもたたない。しかも最前列で兵を入れ替えたせいで陣形に乱れが出た。本来ならば大楯を持った重騎士が足止めを行い陣形の乱れを立て直す時間が出来る筈だったのが、重騎士が一切役に立たなかったせいで立て直せなかったのだ。
「ふむ、重砲は無くても問題なさそうだね。メディック部隊も投入しよう」
ゴーレム・レギオンを開戦から今まで投入出来なかったのは改良を行っていたからだ。
ソルジャー・ゴーレムと重装突撃仕様のゴーレムの各パーツを分離出来るように改良する事で、破損した部位を戦場で交換出来るように改良した事で、兵数の低下を抑える事に成功した。これまでのゴーレムは腕などが壊れると戦力がかなり低下してしまうが、今回投入するメディックゴーレムはゴーレムのパーツを大量に収納袋に持っており、破損したゴーレムの修理が出来る。
更に改良されたゴーレムは修復不能なダメージを受けると敵陣に突撃して自爆するように爆弾もつけた。これは一種の機密保持の為だ。故にコアを破壊されてもゴーレムは暫くサブのコアで動ける。但し、サブのコアは自爆させるか下がるか程度の判断しかしない。
そして今回投入したゴーレムはソルジャー・ゴーレム2万5000体。重装突撃仕様ゴーレム1万体。メディック・ゴーレム2000体の計3万7000体。十分な戦力である。
「さて、案の定迂回してこっちに来てる騎兵だけど……私の想像してた騎兵じゃないんだよね」
グランスール帝国は騎馬民族ではない。しかし、重騎兵の運用にたけた国家だ。当然凄い数の重騎兵を持っている。
私は城に居る騎士達に帝国の騎兵の事について質問した事が何回かある。
私の「帝国って騎兵いっぱい居るらしいけど、アーランドって騎兵少ないよね? どうやって対処するの? 」と言う質問に騎士達はこう答えた。
「片手で受け止めて空いた手で騎手を殺すか、突撃して来た騎兵の馬を蹴れば問題ない! 」
どうやら片手で受け止めれるか、蹴りで止めれる程度には脅威ではないと笑っていたので、ポニー程度の小さめの馬に乗っていると私は思っていた。
しかし実際は地球では既に絶滅したデストリアと言う軍馬と大して変わらない巨馬に乗っているのだ。我が国の兵士達はこれを今まで歩兵で迎撃していたのか……まあ、あの人達ならあり得なくもないし、お金の無いアーランドが騎兵を運用できる訳もない。
ちょっと歩兵が強いだけだよ。本気で走れば騎士の人達馬より早そうな感じだったし。
別におかしい事ではないよ。おかしい人って少数なんだよ? 全員が出来ればおかしい訳じゃない。それが普通なんだ……そう、私はあの騎兵に突撃されれば死ぬ自信があるから、おかしいのは私なんだよ。王都の住民だって暴れる馬を受け止める事が結構あるし。出来ない私が悪いんだ。
まあ良いもん。私だって魔法使えば騎兵なんて余裕だし悔しくないし。タックルで馬を受け止める国民見てもカッコいいとか思わないし。
「行くよ【地爆破】」
私が竜杖を地面に叩きつけると、地割れが起こり、一直線に重騎兵の元に向かっていく。
重騎兵はそれを躱そうと進行ルートを変えようとしたが遅い。重騎兵の足元で地面が砕ける。足場を乱された馬が転び、重騎兵を地面に叩きつける。
重騎兵は確かに厄介だ。重厚な鎧を着ているのに高い機動力を持っている。先に潰すべきだ。そして重騎兵の弱点は重すぎる事だ。馬からの落馬は死ぬことも多い。
「集中運用が仇となったね」
騎兵の集中運用による大量の騎兵での突撃効果は高いと言える、しかし私からすれば邪魔な騎兵が集中していれば、それだけ対処がし易いのだ。しかし一気に殲滅しないと、こいつ等は危険だ。私の軍は歩兵しか居ないからね。AKモドキ持っていても騎兵の機動力は侮れない。
案の定重騎兵は馬からの落馬で甚大な被害を受けたようだ。そして馬の方も転んだりして起き上がらないか、起き上がれない馬も続出した。馬が可哀想だが、これも戦争だ。助ける訳にはいかない。
邪魔な騎兵が消えれば後は暴れるだけだ。
「ゴーレムはそのまま前進。クート君、ヘリオス殺して……あいつ等全員殺して! 」
「グオオオオオオオ! 」
ヘリオスから降りると、ヘリオスが雄叫びを上げて空を飛んでいく。ヘリオスは魔法師団の殲滅だ。
そしてクート君が遠吠えすると、地面に魔法陣が浮かび、わんこーずが召喚される。数は50。連携の取れる狼型の魔獣を召喚した。猫型はお仕置きして改めてお母様の護衛を行っている。次は無いとクート君が調教したのでお母様は安全だろう。
そしてクート君は敵のかく乱の為に出撃する。いわば騎兵の代用だ。AKモドキも効かないから巻き込まれても問題ないだろう…多分。
「私達も出るね」
「指揮官の始末をお願い」
「分かった」
宝物庫内に居た分身達が隠蔽魔法で消えていく。こっちは前線指揮官を潰す為に動く。
本陣に残ったのは私と少しのゴーレムだけだ。
私は【クイック・ドロー】で一冊の本を宝物庫から取り出す。
アリスティアの禁術書
私の作った魔法でも危険だったり倫理的に不味い魔法を記した私が作った禁術書だ。そして、それらの魔法の発動媒体にもなっている。
「お父様とお兄様を倒した部隊……多分負けるんだろうな……でもお前達だけは道連れにする。
それに保険は、手札は多い方が良い」
禁術書が浮かび上がり、私はグラディウスで指を切ると、本のとあるページに血をつける。
すると本はパタンと閉じ、一本の短剣に変わる。
「出来れば使いたくはない。これは生きてる私達が何とかしないといけないと思う。でも、もう一度協力して欲しい。アーランドを護る為に」
私は短剣を地面に落とす。地面に落ちた短剣は、そのまま地面に吸い込まれた。そして地面に波紋が広がる。
何人反応してくれるだろうか。そして何人が助けてくれるだろうか。それは私にも分からない。発動にも暫く時間が掛かるだろう。これは準備だ。もし私が時間稼ぎに失敗すれば使う為の物だ。
全てが終わると私は腕を組んで敵が来るのを待つのだった。




