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転生王女の国家大改造 ~無敵な国を作りましょう~  作者: 窮鼠
激突アーランド王国VSグランスール帝国
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224 託される者。諦める者①

待たせたな! いや、マジで遅れてすみません。仕事が忙しいんです。毎日残業で土曜出勤なんです。

 決してエタるとかネタ切れとかではないのですよ。いや、ネタはいくらでもあるから時間と体力が無いだけです。

「クソ、出せ! ここから出せ! 」


 拓斗は扉に体当たりを行う。しかし扉はアリス鋼製だ。そしてこの塔の内部では魔法の発動が極めて難しくなる対魔結界が張られている。アリスティアの様な膨大な魔力で無理やり破壊でもしなければ魔法の発動は困難だ。

 拓斗が気を失う時に見たアリスティアの表情。それは嘗てのアイリスとの別れ際の表情だった。もう戻れないと言う決意の表情だ。拓斗はあの後にその表情の意味を知った。

 二度と失わまいと心に決めたのに。その為に世界を越えたのに、彼女は再び目の前から消えかけている。拓斗が扉を殴る。血飛沫が飛び散るだけだった。

 拓斗の手を舞が押さえる。


「拓斗、拳を痛めたら助けに行けないわよ」


「だけど! 」


 舞が拓斗の頬を叩く。


「殴って壊れるなら止めないわよ。でもあの子の作った扉よ。流石に難しいわよ。役立たずのカズはこの通りだし」


 舞が和仁を見る。彼にはドラコニア拘束用の手錠が着いている。それは対象の身体能力を低下させる物だ。故に彼は座り込んだまま動けない。


「す、すまん」


 和仁は力の無い声で謝る。その言葉に拓斗は少し冷静さを取り戻した。


「暫くは大人しくしましょう。もしかしたら流れが変わるかもしれないわよ」


 舞の言葉に拓斗は床に座り込むと、床を叩いた。しかし先ほどの様な拳を痛める物では無かった。


「何で頼ってくれないんだ……」


「あの子は誰も頼らない。頼る方法も知らないのよ」


 アイリスは確かに天才だった。しかし彼女は多くの才能に恵まれ過ぎた結果、誰かを頼ると言う事を理解出来なかった。自身の望む物を叶えるのは自身の才能と努力だけで十分だったからだ。

 だから容易く歪んだ。誰にも相談出来ない事は彼女を蝕んだ。結果としてアイリスは死んだのだ。

 しかし拓斗は女神に聞いたのだ。この世界で生きていると。しかし彼女の状態は極めて不安定で世界に対して猛毒にもなりえる劇薬だった。

 テトはその劇薬に期待した。毒を用いなければ、この世界は確実に崩壊する事を知っていたから。もはや女神に世界を護る力は残っていない。悪魔は自己中心的生命で纏まって動けない。精霊はその頂点の精霊王を失っている。

 この世界は守護者を失っているような物だ。そして女神が力を失えば邪神が隣接世界から攻め込んで来るだろう。それを防ぐために女神は勇者を呼び、テトは世界を滅ぼしかねない猛毒を転生させた。

 女神は世界を護りたい。しかし、テトは違う。テトは人間が抗うべきだと判断したのだ。何故ならこの問題は人間の不始末が原因だから。だから世界を滅ぼしかねない猛毒を送り込んだ。世界を救うか滅ぼすか選ぶのは人だと言っているのだ。


「最悪の状況だ。もしアイがキレたら……」


「あの子何で怒るか全然分からないのよね」


 舞も和仁もアイリスが激怒している所を見た事は無い。ゴミを見るような目でパソコンを弄っている事はあるし、拗ねている所も見た事がある程度だ。因みにゴミを見るような目でパソコンを弄っている時は大抵誰かを破滅させている時だ。敵には一切の慈悲は無かった。国によっては運用している衛星が官民問わず全て太平洋に落とされる事も有った程である。素でえげつない事をする子供であった。カールすもそれを見てケラケラ笑う男なのだが。

 拓斗が大人しくなってから暫く時間が経つ。日に日に焦りの浮かぶ拓斗達は機会を待つ。しかし待てども待てども機会は来ない。

 焦りが限界に達しようとした時、扉の外が騒がしくなる。


「お待ちください王妃様。この先は姫様の命令によりお通し出来ません」


「そうも言ってられないのよ。それにあの子が死んでも良いの? 責任は私が取るから通しなさい」


 暫く言い争いが続いたが、警備の騎士が諦め扉を開ける。彼もアリスティアの死を望んでいないのだ。

 扉が開くと一人の美女が現れる。シルビアだ。お腹の大きさが目立ってきたが、その美しさは際立っていた。


「始めましてと言うべきかしら勇者様? 」


「……貴女は? 」


 拓斗の問いにシルビアはクスクスと笑う。


「あの子の母よ。助けるのが遅れて申し訳ないわ。あのここの警備にかなりお熱を入れて居たみたいで私でも説得するのが大変だったのよ」


「成程、では俺達を出して貰えるのですか? 」


「ええ。貴方達の事は報告を受けてるのよ。あの子を助けたいのでしょう? だったら私は貴方達の味方よ。

 誰が娘を見殺しにするものですか」


 シルビアは現在、魔法が使えない。女性魔法使いは体調の影響を受けやすいのだ。アリスティアの時は妊娠中でも割と魔法が使えたのだが、今回は殆ど使えない。故にシルビアは王権代行になれない。戦えない王族は戦場に出れないのだ。

 そしてシルビアが何かを話そうとした時に、勢いよく扉が開く。扉を開けたのはアリシアだ。肩で息をする程息を荒げている。恐らくシルビアがここに来た事の報告を受けて慌ててやってきたのだろう。


「王妃様! 」


「あら見つかっちゃたわ」


「見つかっちゃたわ、ではありません! 彼等を出すなと姫様に厳命されているのです! 」


 アリシアの言葉にシルビアは眉を顰める。


「そうでしょうね。でも貴女は納得しているの? 」


「……」


「本来なら貴女もあの子と行くべき立場でしょう? 本当に納得出来たの? だって連れて行かないと言う事は、あの子は帰れない事を想定しているのよ」


 生きて帰れないかも知れない。だからアリシアは置いていかれた。

 アリシアもそれを理解している。しかし彼女はアリスティアの部下なのだ。王都を民を護って欲しいと懇願されれば折れるしかなかった。

 アリスティアの真意を知りつつも後を追えないアリシア。彼女は歯を食いしばる。本来なら自身の命に代えてもアリスティアを護るべきなのだ。

 護るべき自分が守られるべき主君に護られる。自分が情けなくなった。


「私は……姫様の命令に……」


「納得出来ないのでしょう? 分かるわよ。貴女はあの子を大切に思っているのだから。

 だからここからは私の我儘よ。この者達をあの子の元に連れて行きなさい。若しかしたら助けになるかも知れないわ」


 シルビアの言葉にアリシアは首を振る。


「既に姫様は出撃しました。それに武装飛空船は積み荷を積んで出撃しました。間に合いません。それに彼等でもどうしようもありません」


「私はあの子の計画を知らないのだけど……」


「姫様はご自身を餌に帝国軍を釣り上げるのです。そして砦から引き離し、そこに臨界暴走状態の魔導炉を落して帝国軍に甚大な被害を与えると聞いています」


 その言葉に拓斗達が立ち上がる。


「止めなかったのかよ! 」


「止めれますか? 放置しても勝利出来たでしょう。帝国軍の後方は既に遮断され、補給は完全に途絶えています。物資集積地を兼任していたグランスール要塞も既に陥落しているのですよ。

 私も止めました。補給の無い帝国軍は既に瓦解する事が確定しているのです。でも……」


 アリスティアは止まらなかった。

 これは復讐と報復だ。家族を傷つけた者をアリスティアは絶対に許さない。

 更に言えば、完全に補給を失った帝国軍が大人しく帰れば良いが、生まれたばかりの蜘蛛の子供の様にアーランド内に散らばる事も困るのだ。

 更に補給線を潰せば帝国軍はいずれ撤退の決断をしなければならない。しかし、それだけでは帝国の心が折れない。補給が潰されただけで自分達は勝っていたと思うだけだ。補給網を強化していずれ再び攻め込んで来るだろう。

 確実な勝利こそが帝国の心をへし折るのだ。それこそがアーランドへの野心を打ち砕く事が出来るとアリスティアは確信していた。

 事実シンシアナの死後数年はシンシアナの死を帝国は信じ切れず小規模な小競合い程度の争いしか起こさなかった。それ程シンシアナを恐れたのだ。

 そしてアリスティアを恐れ、帝国が動きを止めれば、もう大陸の覇権は握れない。アリスティアを失ってもアーランドにはアリスティアの遺産となる技術の多くが芽吹いているのだ。現在建設中の工場が完成すれば数世紀程の技術格差が生まれる。そして魔法技術は科学技術と違い模倣が極めて難しい。

 本来なら鹵獲や横流しの物から劣化コピーを作り、それの精度を上げて本物を超える物を作るのが流れだろう。しかし、アリスティアの持つ魔法技術は劣化コピーですら採算が取れない程に高価になってしまう。何故なら他国は魔法使いが魔導具を作るのだ。そして魔法使いはピンキリであるのに対し、アーランドは魔法付与技術を獲得した。これにより、魔法の付与は魔導具で行える。魔法使いは付与する魔法を開発に専念出来る。

魔法使いが開発と生産を行う他国と、魔法使いは開発に専念できるアーランド。どちらが有利かは言わずとも分かる事だった。


「そうね。だから、託すのよ。ついてきなさい」


 アリシアが止めるのを聞かずにシルビアは拓斗達を謁見の間の地下に連れて行く。そこにある精神剣を授ける為に。


「貴方に資格があるのならば、この剣は貴方に力を与えるでしょう。世界の理を超える聖の名を冠する武器の頂点に位置するこの剣が運命を変える力を貴方に与えてくれるかもしれないわ」


 シルビアは決断した。アリスティアを救うために王国の秘するべき至宝を拓斗に託すと。

 その結果新たな敵が生まれる事も理解している。

 本来聖神剣は聖教の所有物だった物だ。それをアーランドが保有していると分かれば問答無用で奪い取りに来るだろう。

 それでもアリスティアを失うよりは良いと考えた。

 シルビアはアリスティアの価値を理解している。アリスティアは自身の価値を理解していない。アリスティアは失ってはならないアーランドの至宝なのだ。

 アリスティアは自身が死んでも残した技術がアーランドの助けになると考えた。しかし、残された国民の慟哭は凄まじいものになるだろう。

 報復の為に世界中を攻撃し始める可能性もある程慕われているのだ。国が滅びても自分達の命を失っても後を継ぐべき命が途絶えても王国民は復讐を誓うだろう。

 王国民の我慢も限界なのだ。自分達が何をした。何故迫害される。何故自分達の大切な人を奪い続ける。アーランドには中央への憎悪が渦巻いている。

 己の血脈を削りながら滅びの道を進みながらも王国を護ってきたアーランドの王族は国民の支持が強い。何故なら本来守られるべき王族は常に戦場で王国を国民を護る為に死んで来たのだ。


「あの子が死んだら、もう国民を止めれないかも知れないのよ。だからお願い。あの子を救って」


 シンシアナが死んだ時も王国民は立ち上がりかけた。しかし病弱な新王を見た国民は耐えた。自分達が立ち上がれば弱き王も立ち上がるだろう。そうなれば王国の為に血を流し続けた大事な王族の血が途絶えてしまう。

 自分達が耐えれば王家の血が守られると耐えた。しかし、王国の為に頑張るアリスティアを失えば耐えれないだろう。人望が強すぎた。それこそシンシアナを超える程だ。


 拓斗が精神剣を握る。


「これは……」


 精神剣は容易く拓斗を所有者と認めた。鞘から剣を抜くと、拓斗の体に力が漲る。そして、その剣の力の強大さが理解出来た。

 拓斗の居合刀は地球から持ってきた物を女神が残りわずかな力を注いで強化したいわば準聖剣と呼べるものであり、聖剣の劣化版だ。しかし、それで尚強い力を感じていた。

 しかし、精神剣はそれすら凌駕していた。何故なら邪神を滅ぼす為に女神と精霊王が協力して作り上げたものなのだ。最も所有者を中々選ばない気難しい聖剣でもあった。結果として作り上げられた最強の聖剣は自身を振るえる者を見つける前に精霊王が命を懸けて邪神を押し返したせいで長らく持ち主が居なかった。

 選ばれたのは歴史上でも僅か数人だ。そして、この世界に新たな選ばれし者が生まれる。


「悪巧みはそれまでにして貰おう! 」


 拓斗が精神剣に見とれている時に聞きなれた声が響く。

 誰もがその声の方向を見るが、何も見えない。


「拓斗達は大人しく塔に戻ってもらう」


「誰も居ないのだけど」


「いえ、居るようね」


「今の私は完璧に隠れている。例えお母様みゃあああ何故見つかったあああああああああ」


 シルビアは何もないところにしゃがみ込むと、何かを持ち上げる仕草をする。すると四つん這いになったアリスティア分身が現れた。


「居ると思ったのよ」


「馬鹿なステルス段ボールで完璧に偽装していたのに……魔法技術一切使ってないのに……」


 アリスティア達は考えた段ボールの隠蔽性に疑問を持ったのだ。しかしカロリーメイトを持ったおっさんはこれがあれば隠れるのは容易だと断言していた。

 故に段ボールの材質が悪いと考えたのだ。その結果、科学技術をふんだんに使った光学迷彩を作り出し、段ボールの表面を覆ったのだ。魔法を使っていない為に魔力感知は難しいだろうとの判断だ。

 悔しさから床をポコポコ叩き続けるアリスティア分身の肩をシルビアが掴む。


「貴女達にも協力して貰うわよ」


 シルビアがとても良い笑顔でアリスティア分身の顔を覗き込む。もし若い男がそれをされれば見惚れてしまう笑顔だ。しかし…


「…………」


 アリスティア分身は泣きそうな顔をしていた。

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