220 帝都空襲
ちょっと短いです。
グランスール帝国。それはグラン王国の後継国である。
人魔大戦でグラン王国は甚大な打撃を受けた。しかし、周辺国の被害も甚大であった。
グラン王国は魔王が討伐されると即座に周辺国を併合し、グランスール帝国を樹立した。グラン王国は戦後も僅かに戦力を残していたのだ。そして周辺国に抗う戦力は残ったおらず、また、併合されなければやっていけない程の被害が出ていた。
そして生まれたグランスール帝国。しかし、彼等にとって魔王への敗北はプライドを傷つける以上の問題であった。
普人最強の国家であり、人類の英知を結集して作れた魔導戦艦。それを復活させた国だ。最も古代魔法王朝時代の遺跡から発掘して整備しただけだが。
しかし普人最強の国家は魔王に蹂躙され、古代でも最強と言われた魔導戦艦も全部……一隻を覗いて撃沈された。
勝てると思った戦争は魔王の出現で実質敗北と言える状況になったのだ。
これを契機にグランスール帝国は拡大主義に走る。国土を広げ、人口を増やす。嘗ての敗北を屈辱を繰り返さない為に。
その結果、グランスール帝国は歪んだ。
グランスール帝国は国民に階級がある。第一から第四帝国人と言う階級だ。
第一帝国人とはグラン王国の末裔である帝国人だ。帝国の主要な地位にある。
第二帝国人はグランスール帝国建国時に恭順した者達の末裔だ。この2つの階級にはそれ程違いは無い。
しかし第三と第四は違う。
第三帝国人とはグランスール帝国建国後に併合された国の国民だ。まだマシな扱いだが、殆ど権力者にはなれない。
第四帝国人はグランスール帝国の併合を拒み抵抗した者達だ。奴隷よりはマシと言う厳しい扱いだ。
そして奴隷。これらの5種類の地位にある者達で構成されるのが帝国だ。
そしてグランスール帝国の首都である帝都グリフィス。この地こそ帝国の中心。居住権は第一と第二帝国人だけであり、他は一時滞在しか認められない帝国繁栄の象徴。
都市を覆う外壁には緻密な模様が彫られ、繁栄の証であった。
現在その都市は歓喜で溢れていた。長年の仇敵であるアーランドの主力軍は瓦解し、既に主力部隊は砦に包囲され、迎撃戦力は無いと帝国が発表したのだ。
その発表に帝国民は歓喜。毎日お祭り騒ぎであった。
しかしそれは今日で終わる。
「歌え歌えアーランドは終わりだ! 帝国万歳! 」
「ざまぁみやがれ! 」
多くの国民が動員され、知り合いが戦場に送られた不安を隠すように残った帝国人達は歌う。
肩を組み町中で酒を飲む帝国人。しかし、数人が聞きなれない音が空から聞こえると訴える。
その音は次第に大きくなる。
「何だあれは? 」
「魔物か? 」
空を高速で飛ぶ謎の物体。それは高度を落すと、帝都を飛び回る。
そして帝都中に紙をばら撒いた。
落下して来た紙を市民達が拾い読み上げると……次第に顔を青褪めた。
内容は帝国の侵攻を批判する物だった。
『我々アーランド軍は此度の侵攻の報復として帝国の首都であるグリフィスを空から攻撃する事をここに宣告する。
しかし我々は帝国を名乗る『蛮族』と違い『文明人』である。故に貴国の民に一応の慈悲を与える。
これより30分後に張られるであろう都市防衛結界を破壊する。その後、30分後に帝都を空爆する。巻き込まれたくなければ帝都の北側に逃げるが良い。慈悲深い我々は北側だけは見逃してやろう』
余りに一方的な宣告。先ほどまで浮かれていた殆どの帝国人は信じなかった。避難したのは貴族と商人だけだ。彼等は一応の判断として警戒しただけで、本当に攻撃されるとは思わなかった。
そして帝国中に鐘の音が響く。敵襲の鐘だ。それと同時に魔法王国から購入した都市防衛結界が帝都グリフィスを覆う。それを見た帝国人達は歓声を上げる。先ほどの紙は追い詰められたアーランドの安い脅しだと思ったのだ。
しかし宣言通り30分後に10機程の爆撃機が飛んできた。彼等は編隊を組み、帝都上空から特殊な対結界爆弾を落す。
この爆弾の中身は爆薬では無く魔晶石であった。この爆弾が結界に触れた瞬間爆散。中の魔晶石に込められていた魔力が結界の術式を伝って結界を生み出す魔導具を吹き飛ばす。
それは家電に高圧電流を流すような物だ。魔力量が多すぎて帝都に設置されていた魔晶石諸共吹き飛ばしたのだ。
一瞬で消え去った結界に今度こそアーランドは本気だと理解した。理解出来てしまった。
帝都に住む帝国人は我先にと北側に殺到する。あるいは帝都から逃げようと走り出した。
そして事前の警告から1時間後30機の爆撃機は宣言通り現れる。
「計画通りだな」
編隊長機に乗る隊長が呟くと機内で笑い声が響くこの4発爆撃機はアメリカ軍の爆撃機であるB-29をモデルに作られている。性能もまあ同等くらいだとアリスティアが話した一品だ。最もこの爆撃機の運用……と言うか空軍全体が慢性的な整備不良の問題を抱えている。今のところ最悪の事故は起きていないが、整備ミスでエンジンを壊された機体も少なくなかった。
当然だろう。行き成りオーバーテクノロジーの塊を渡されても運用は難しい。現在は出撃前にグランツが最終チェックを行う事で運用されているのだ。
最もこれはアリスティアも問題にしていなかった。整備員の育成には莫大な金をかけているのだ。時間が解決する問題であった。更に言えば現物を見ながらグランツから直接指導されて訓練出来るのだ。
しかし突然の帝国戦。それによりグランツは訓練部隊の基地から滅多に出れない程忙しくなった。
「俺達が帝国への反撃の狼煙だぞ。ノーチスの奴の分まで手柄を上げるぞ! 」
隊長の言葉に全員が頷く。整備不良で出撃できずに大泣きした同僚は余りにも不憫であった。その分の手柄は自分達で稼ぐのだ。
この爆撃機にはノルデン爆撃照準器と同等の物が積まれているので爆撃精度もそれ程悪くない。
先ほどの歓声から一転して帝都が近づくと無言になる乗組員達。ゴクリと喉を鳴らす。
「爆弾降下! 」
暫くして爆弾が降下されると、ふわりと機体が浮くのを操縦桿を用いて制御する。
「当たりです! 帝都が燃えています! 」
「我々は歴史に名前を刻んだぞ。帝都を初めて攻撃した部隊としてな! 」
この日、帝国は建国史上初の首都攻撃を受けた。そして、その報告が大陸中に届いた時、権力者だけでなく、多くの人間が恐怖した。
帝国人も他の中央の国家も、この日、アーランドが大陸の何処でも攻撃出来る武器を持っている事を知ったのだ。それはどれ程の戦力を持っても支配出来ない空からの攻撃。
当然帝都も帝都防衛隊に配属されたグリフォン隊を出撃させた。しかし、グリフォンでは爆撃機の飛ぶ高度に届かず、乗っている騎手の魔法やクロスボウも射程圏外であり、一切の反撃も許さなかった。
この日、帝国はアーランドに反撃の狼煙を上げられた。多くの帝国人が燃える帝都を眺め呟く。
「……俺達は勝ってるんだよな」
先ほどの高揚感は消え、震え出す帝都の住民達。それは貴族や軍人も同様であった。
あの攻撃を防ぐ手段は無いのだ。都市防衛結界はなんの役にも立たないと思ってしまった。
本当に自分達は勝っているのか。その疑問は帝国に対する不信感とアーランドに対する恐怖の種をしっかりと植え付けられた瞬間であった。
そしてその後帝国はアーランドとの国境に物資を送る為の施設を空爆される事になる。
多くの砦は反撃出来ずに空爆され、粉砕される。何処の砦も空爆と言う危険に備えて居ない為、物資等は地下に貯蔵する事は少ないのだ。
建物毎物資を焼かれ、それは前線への補給の完全停止と言う悪夢を生み出した。




