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転生王女の国家大改造 ~無敵な国を作りましょう~  作者: 窮鼠
激突アーランド王国VSグランスール帝国
235/377

219 陥落

 度重なる発砲音は絶える事は無い。

 馬は驚き苦痛に呻き騎兵を振り落とす。或いは臓腑をまき散らしてこと切れる。

 地獄の惨状だった。

 帝国の誇る騎兵は塹壕陣地にたどり着く前に多大な犠牲を払う。

 重厚な鎧は無意味だった。これまで自身を守ってきた鎧は銃弾に対して殆ど無意味だ。

 一人の騎兵が叫び声を上げて失った腕をもう片方の腕で押さえていた。


「突撃だ! 怯えるな! 」


 伯爵はそれしか言えなかった。ここで下がれば被害は広がる。ならば目の前の陣地に雪崩れ込むしか道は無い。

 しかし、陣地の近くにたどり着いた騎兵に今度は鉄条網が立ちふさがる。執拗なまでに張り巡らされた鉄条網が馬の侵攻を阻み、立ち止まれば殺される。

 遅れてきた歩兵が目の前の惨劇に士気が崩壊する。中には狂乱して暴れる者が居る程であった。

 見た事も無い惨劇が戦場に広がっていた。胴体が千切れた男や、首が無い騎兵。混乱した帝国軍はもはや組織だった攻撃ではなくなった。

 突撃だ。目の前の悪魔は滅ぼさなければならない。誰もが叫び声を上げながら塹壕に向かい、銃弾に倒れ、鉄条網に阻まれる。

 狂乱の帝国軍とは裏腹にアーランド軍は冷静だった。多くの機関銃が連携し、突破されそうな場所に制圧射撃を行う。

 外す方が難しい突撃を彼等は口笛を吹きながら蹂躙した。

 そして要塞から出撃した騎兵1万と歩兵1万の半数を失った時、帝国軍の心が折れた。


「撤退だ! 」


「もう駄目だ逃げろおおお」


 先ほどまで恐怖のままに突撃していた帝国兵が冷静さを取り戻した時、多くの仲間を失っていた。そして抑えきれない恐怖が体を駆け巡り、逃げる事を選んだ。

 指揮官の伯爵は生き残っていた。


「ふざけるな、こんな物が……こんな物が戦争であるか! 」


 騎士の誇りも何もない。彼の常識には無い地獄の戦場。ブローニングM2重機関銃は人間に当てれば甚大な被害を与える。

 手足は千切れるし、頭は吹き飛ばす。彼はこれほど悲惨な光景を見たことが無い。

 伯爵は思わず吐いた。吐きながら撤退した。

 しかし、アーランド軍も追い詰められていた。帝国軍はこのまま強引に押し込めば塹壕にたどり着けたのだ。

 全ての帝国兵が逃げ去った後は、アーランド軍が塹壕から出てきて生き残りを殺した。捕虜は必要ない。全てを殺すのだ。


「ヤバかったな」


「後10分も突撃されてたら入り込んで来ただろうさ。っま、あれだけ殺されても突っ込んで来る勇気が有ればの話だがな」


 犠牲を気にせずにそのまま進めばアーランド軍にも多大な被害を与えられたであろう。しかし次は無い。空には航空機が飛んできた。


「おせーよ」


 兵士の呟きと同時にグランスール要塞は空爆を受ける。遠目に見える爆炎と煙を見た王国兵に歓声が上がる。中には飛び上がっている者もいる程であった。


 一方撤退した伯爵が見たのは空爆される要塞であった。

 堅牢で大陸最大の要塞は結界を失ったせいで空からの攻撃には極めて脆くなった。城壁に取り付けられた大型のバリスタが空に矢を放つが当たる事は無い。当然だ。高速で飛び回る戦闘機にバリスタを当てる訓練など行っていないのだ。

 戦闘機は当初の予定通り武器庫と食糧庫を破壊した。更に適当に落した爆弾は通信用の魔導具を破壊した。更にグリフォンの畜舎を破壊された。

 帝国の国旗にも記されたグリフォン。帝国が誇る最強の航空部隊はアーランド戦では温存されていた。それは嘗てシンシアナに投石で全滅させられた事があるからだ。遊撃戦力としてグランスール要塞に待機していたのだが、肝心のグルフォンが全滅してしまったのだ。

 炎に包まれる要塞。爆弾を落した戦闘機はついでとばかりに城壁の将兵に機銃を放つ。悲鳴と共に真っ赤な肉片が飛び散る。

 攻撃は1時間程続いただろう。エルタール伯爵は生き残った。要塞の個室で頭を抱えて震えて隠れていたが生き残ったのだ。

 悲鳴と銃撃音が消え、暫くして彼は外に出た。多くの将兵が力なく座り込んで居たり、瓦礫の下の仲間を助けようとしていた。一応消火活動も行っているが、士気は最悪だった。


「どれだけ生き残ったのだ」


「参謀は全滅です。運悪く悪魔の落とし物(爆弾)が指揮所に直撃しました。食糧庫及び武器庫にも甚大な被害が出ています

 グリフォンも壊滅状態です」


 指揮官は彼しか残らなかった。


「直ぐに前線に救援を要請しろ」


 最初の攻撃で油断せずにグリフォンを出していればと今更後悔するが、帝国の象徴たるグリフォン隊は皇帝の命令でしか軍事行動が取れなかったのだ。組織的欠陥が被害を甚大にした。


「通信機も破壊されています」


「だったら伝令を出せ! 明らかにこっちが主力部隊だろう! 」


 直ぐに伝令が送られた。彼は震えながらその日を過ごした。

 一方アーランド王国軍はその間に増援が何度も送られ、陣地は拡大される。

 そして送られてきたのだ野砲が。

 土で出来たゴーレムが輸送船の中から野砲を引きずってくる。そして指定の場所に固定されていく。陣地構築は夜も続いた。

 そして次の日、エルタール伯爵は爆音で飛び起きた。顔は青褪め、震えが止まらない。


「伝令! 敵が大砲をこちらに撃ち込んでいます」


「だったら撃ち返せ! あの悪魔共を追い返せ! 」


 伯爵の叫びに伝令は首を振る。


「敵の砲撃は敵陣地からの物です。こちらの大砲の射程圏外で反撃できません」


 アーランド軍の大砲は所謂重砲と呼ばれる物だ。一方帝国は原始的な前装填式の物であり、更に火薬が戦国時代の日本以上に高いので数が無い。そして前日の爆撃で半数以上の倉庫が燃え、火薬の残量も少なかった。

 雨のように降り注ぐ砲弾は脆弱なグランスール要塞を打ち砕く。石材を積み上げた分厚い城壁がどんどんくずれ落ちる。

 そして一たび砲撃が止まれば今度は空爆だ。残っていた倉庫や宿舎も炎に包まれる。最悪な事に空爆は2~3時間に一度の割合で行われる。

 エルタール伯爵は残存していた騎兵を帝国側の城門から出撃させ、塹壕陣地の後方から叩かせる作戦を行った。

 しかしそれは失敗に終わる。

 アーランド軍の後方には量産された戦車が待機しており、彼等を待ち受けていた。更に言えば航空機が監視しているので騎兵の接近も察知されていたのだ。

 戦車砲と搭載されたガトリングガンが無残に騎兵を引き裂いた時、帝国の敗北は決定した。この無理な反撃でグランスール要塞の迎撃戦力である騎兵は壊滅。歩兵や重装歩兵も砦に降り注ぐ砲弾や爆弾で大打撃を受けた。

 大陸最大の要塞は僅か2日で陥落する事になる。しかしアーランド軍は降伏を受け入れない。


「我々は捕虜を取る事は許可されていない。そして降伏を受け入れる事も同じだ」


「捕虜の扱いは条約で……」


 エルタール伯爵が送った使者が汗を流しながらアーランド軍将校と協議を行っている。その間は攻撃を止めているが、不穏な動きが有れば即攻撃を再開すると脅してある。


「我々は中央および帝国とは如何なる条約も結んでいない。中央のルールを我等に適用できると思うなよ? 」


 そもそも中央のルールを守らない事に定評のある帝国がルールを持ち出しても無意味だ。

 中央国家連盟において戦争とは一種のスポーツに近い。

 まず当事国同士が協議を行い、妥協案を模索する。その結果、交渉が決裂した場合に戦場と兵数を決める。場所は市街地などは基本的に認められず平原などを使う。兵数は国力差もあるので上限は無い。

 しかし、これらのルールを帝国が守った事は一度も無い。そして、それが黙認されるのは地球と同じだ。帝国が強大な国力を持っているからだ。

 この世界には列強と呼ばれる国が存在する。魔法王国・皇国・帝国。この3つの国はルールを余り守らないが帝国が一番守らないのだ。

 最も皇国は相手国の信者を使って内部から国を崩すので更に悪辣なのだが。信者を密かに動かす事は駄目だと条約に記載されていないのだ。


「自分達が守りもしないルールを持ち出すのが帝国の流儀であるか? ならば灰燼に帰しても問題あるまい。

 しかし我々にも慈悲がある。降伏は認めないが、1時間だけ猶予をやろう。その間に要塞を去れ。我々は貴様らのちっぽけな要塞を粉砕するだけだ」


 指揮官はそう言うと使者を追い返す。

 涙が溢れた使者は急いでグランスール要塞に戻る。少し前までは安心を齎した要塞は黒煙が上がり、城壁は至る所で崩れている。

 援軍など間に合わない。間に合っても既に物資は焼かれていた。これ以上の戦闘が出来ない。

 使者はエルタール伯爵に交渉の結果を報告する。


「……無理か」


「聞く耳を持ちませんでした。後数十分後に再度攻撃を行い、この要塞を完全に破壊するようです」


 エルタール伯爵は疲れ切った表情で立ち上がる。


「撤退だ。急いで帝国内に戻るぞ」


 その日、帝国軍は大陸最大で最強と言われたグランスール要塞を失う。彼等は殆ど物資を持たず、僅かな食料を持って逃げた。

 その後アーランド軍は砦内部に侵攻し、残っていた物資を奪えるだけ奪い去る。その後要塞各所に爆薬を大量に設置し、グランスール要塞はその原型も留めない程に破壊された。残ったのは既に砦としての機能すらない廃墟だけだった。

 一方その頃のアリスティアさん


「おかしいよクート君。王都が目の前にある」


 3日ほど前に王都を出た筈のアリスティアの前方に王都が見えた。アリスティアは道を間違えて戻ってきてしまったのだ。


「主よ、だからあの道はまっすぐで良かったのではないか? 」


「違うよ。私の本能が曲がるべきだって言ってたもん」


 その本能は帰巣本能であった。

 アリスティアは無表情で地図を睨む。

 王都から国境までの道は一本道であり、街道をまっすぐ進むだけだ。しかし、途中に幾つかの道が合流している。それでもまっすぐ行けば良いのに帰巣本能が働いたのだった。

 この2日間アリスティアはクートやヘリオスと帝国戦での作戦をたてていたのと、帝国軍と戦うまで時間的余裕があるので焦ってはいない。一応の対策として、1週間ほど早めに出陣しただけだ。

 現に王都に武装飛空船が戻ってきた所であり、彼等が補給を受け、帝国軍へ落す魔導炉を積むまで時間的にはまだ数日有った。


「もしかしたら王都が動いてるのかもしれない」


「動くのか? 」


「剣と魔法の世界だし不可能ではないと思うよ」


 その剣と魔法の世界を科学とモフモフで浸食しているアリスティアなのだが、そこら辺は関係ない。

 ※空飛ぶ島は現存します。


「吾輩が思うに、やはり道を間違えたのだろう。今度は吾輩が案内しよう」


「うん。お願い」


 その後ヘリオスは街道を外れ、オークの巣穴へアリスティアを導いた。怒り狂ったクートが野生のオークを肉に変え、ヘリオスをボコボコにして土下座させたのは言うまでも無かった。ヘリオスはアホである事が露見してしまったようだ。

 そしてアリスティアがヘリオスの背に乗って行けば分かり易いと気がつくのに数日かかったと言う。

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