215 グダグダな反乱
「何事だ! 」
「これは城内に侵入者が入ったようです」
このサイレンは侵入者警報だ。非重要区画に侵入者が入り込んだ警報である。
「これより我々議会がこの国の未来を決めさせて貰おう」
議員達が勝ち誇るように宣言する。いや、お前達に国の運営能力は無い。あれば収容所(貴族議会)に隔離されていないから。
どうやら後手に回ったようだ。軍議が終われば王権代行の強権で貴族議会を拘束する予定だったのに。
「させると思ってるの? 」
「既に手勢が王都内で盛大に暴れているでしょうね。良いのですか? 大事な大事な国民が犠牲になってますよ」
「……」
もしかして、こいつ等アホなのだろうか? 王都の住民が殺気立ってる状態で反乱? 返り討ちの未来しか見えないよ。
まさか議員がこれほど国民に興味が無いとは思わなかった。実際この場の貴族達も呆れ顔だ。この状況での反乱は国民のストレス発散で終わるのは分かりきっている。まず王都は落ちない。
「まあ、それは置いといて、どうやって入城用のカードを入手したの? 」
「裏門を手勢を率いて落としたのだ! 」
問・最高レベルの警備システムを導入しました。完璧な警備は可能ですか?
答・運用は人なので何とも言えない。
警備の騎士を少しお父様に預け過ぎたようだ。まさかカードを奪われるとは……いや、管理は私じゃないから実際どうなのか知らんけど。流石に横流しは無いだろう。城の警備を行ってる騎士は『大丈夫』な人達だ。但し少なすぎた。
後でお兄様が何とかするだろう。運用は私の管轄外だ。
「それで? この程度で私が負けるとでも思ってるの? 」
「これを見てもそう言えるのでしょうな? 」
あれ、この人確か元貴族議会の議長じゃなかったっけ? 確か逮捕後行方不明だった気がする。でも名前も知らないし、顔もおぼろげだ。もっとこう…牙が生えてて贅肉で覆われてて腰巻してる豚顔…オークだったような?
そして何故か謁見の間にお母様が入ってくる。当然捕まっている。
「何で捕まってるの? 」
「ごめんなさい。散歩してたら捕まっちゃったわ。今日は魔法が使えないのよね」
お母様は本日魔法が使用出来ないらしい。いや、それは分かるよ。使えれば今頃消し炭にしてるだろうしね。
それにこいつ等アホ過ぎる。お母様の手には猫(魔獣)が抱っこされてる上に、マフラーに魔獣が擬態してるんだぞ。
と言うかクロとモフコは警護の仕事してよ……寝てるな。そうか、それほど相手に成らんのか。あ、起きた。お母様に向けられたナイフの刃を食べている。そうだよねマフラーに擬態してるモフコの主食は鉱物だもんね。一瞬で食われたのでお母様にナイフを向けている男は刃が無くなった事に気がついていない。
「ふっふっふ漸くだ。漸く我等の時代が訪れる。
長かったぞ。高貴な生まれの我々をよくも愚弄し続けたな! 」
「仕事すれば良いじゃん」
愚弄されるのは仕事しないからだよ。
「我々の5分の1も生きて居ない小娘が生意気な事を言うな!
我々こそが選ばれし者達なのだ。何故我らが働かねばならない。そんな事は下賤な平民を使えば良いのだ」
それって貴族要らないって言ってる事に気がついているのかな? なに、アーランド民主化しちゃうの? それはちょっとお父様やお兄様に他の貴族達と相談しないと難しいと思うんだ。
第一他の貴族はともかく、民主化したら議員は恐らく死刑にされると思うよ。自分達が平民から如何に嫌われてるかも知らないのか。
「このごく潰しめ」
「そんな事を言っても良いのか? こっちには人質が居るんだ。
それに貴様の作った飛空船も今頃我々の手に落ちているだろう」
「ああ、武装飛空船の事? とっくに反乱は察知してるからね。今頃捕まってるんじゃない? 」
船内に持ち込める可能性があるのはナイフ程度だろう。まず捕まるね。と言うか銃で武装して待ち構えてるよ。
「っ口が減らないガキめ」
「艦内の通信機を使って敵国と通信するとか馬鹿なの? バレバレだよ。既に船員が武装して決起待ちかな? 」
「…………まだ人質が……」
私は転移でお母様にナイフ(柄だけ)を向けている男の後ろに回ると、グラディウスでは無く魔杖刀ベルゼバブを取り出して結界を食らう。対魔法ではグラディウスを超える刀だ。
魔杖刀ベルゼバブ。それはお兄様に渡した時に話した失敗作だ。お兄様の持ってる吸魔の宝珠の行きつく先。遊んでいたら完成した謎物質で作られた刀であり杖である物。
効果は暴食だ。魔力は食らうし、魔力が無ければ生命エネルギーなども食らい尽くす暴食の刀だ。万が一地面に突き刺せばその地を砂漠にする事も出来る。
当然自身の魔力の少ないお兄様は使えない。魔力を奪い尽くせば、今度は命を食らうのだ。
大きさは小太刀と太刀の半ば程度。刀身が血のように赤黒いのが特徴だ。魔力が満ちれば竜杖を遥かに上回る至高の杖になるだろう……何時魔力が満たされるのかは私も知らないけど。
「ほい転移」
私は転移でお母様を宰相さんの所に飛ばす。直ぐに武官達が庇うように前に出た。
「で、人質が何だって? 」
「クソ、ならば貴様を捕まえれば! 」
男達が私を捕まえようと手を伸ばす。そうだね。私も覚悟を決めたんだ。だからこいつ等から殺そう。
「お前達は殺す。それが私の覚悟の証明だ」
最初に突っ込んで来たのはお母様にナイフを突きつけていた男だ。手のナイフに刃がない事に気がつくと直ぐに投げ捨て、闘気を纏う。多分驚いては居るのだろう。しかし、目的を優先したようだ。
私はベルゼバブを振るう。私のぬるい剣筋に脅威を感じないらしく、顔がニヤついている。
ベルゼバブが男の拳に当たった瞬間、男は腕を抑えて悲鳴を上げた。
「ぎゃあああああ何故、何で俺の腕があああ! 」
男の腕はミイラのようになっていた。そして魔力は一瞬で食いつくされ、闘気も消えている。まあ、短期的にはグラディウス以上の性能なんだ。物凄い勢いで私の魔力が減っているが、1時間程度は問題ない。
ゴロゴロと朽ちた腕を押さえて転げる男の様子に他の男達や議員が狼狽える。
「それでどうするの? 」
血すら着いていないベルゼバブを議員達に向ける。
「お前達、増援が来るまで耐えるんだ。直ぐに増援が来るはずだ」
来ないと思うけど。
「サイレンが鳴ってる以上は隔壁も落ちてるから、外からの増援は来ないよ」
実際警備に引っかかっているのだ。カードが有るから本格的に迎撃モードにはなっていないが、多分裏門の扉を破壊したのだろう。非重要区画への侵入は隔壁閉鎖程度だ。
と言うか警備は何をやっているんだ……って責任者ここに居るじゃん!
「警備の騎士達は? 」
「今朝避難民の間で騒ぎが起こり、少し鎮圧に向かっていました」
「ふん、容易く引っかかりおって。避難民の中にも我等の仲間が居たのだ! 」
「オークの仲間? 」
今晩はオーク肉のステーキかな?
まあ冗談は兎も角、本当にもう少し……100人程警備を残すべきだったよ。
その時、警備担当の騎士の携帯が鳴り響く。私が頷くと彼は電話に出る。多分王都の状況だ。数秒で彼は電話を終える。当然その間も隙はなかった。
「王都で500人規模の反乱が起こっています」
「勝ったぞ! 」
「……だから貴様らは愚かなのだ。既に反乱は市民による掃討戦へと移行しています。長老衆が捕まえた連中を火炙りにしようとしてる模様です」
「取り敢えず止めておいて。後で鉱山送りにするから」
反乱即掃討戦って相変わらずの市民だった。
恐らく避難民に紛れて帝国兵が王都に入っていたのだろう。実際避難民が多すぎて確認しながら避難してる余裕は無かったと思う。
「死者は出てないよね? 」
「姫様のゴーレムを盾に使ったそうです。怪我人が出た程度です」
まあ、あれもゴーレムの一種と言えばそうだね。そうか盾に使われたか。無駄に王都中に仕込んだからね。
さて、残りはこいつ等だ。既に反乱は失敗。人質も居ないし、逃げ場も無い。
私がベルゼバブを握りながら前に出ると、男達が下がる。流石に追い詰められたと言う事は理解出来るらしい。
「お前達を国家反逆罪及び敵国との内通で処刑する」
戦時での裏切りは死刑だ。例外は無い。私は刀を構える。当たれば殺せる刀の威力は先ほど理解しただろう。鎧を着ていても鎧も朽ちさせる。防御は出来ないぞ。
「なにが反逆だ! 帝国に勝てる訳ないだろうが! お前達だって理解している筈だろう? 今なら間に合う。我々と手を組め。アリスティアを捕まえて帝国に捧げれば王国の存続が出来るんだぞ」
「国民を捨てて生き残るのがそれ程大事? 国民有っての貴族だよ」
「黙れ! 我々が管理しているからこその民だろう! 」
だからお前達は管理能力ないじゃん。それに貴族が居なかったら平民から新しい貴族が出来るだけだ。全ての貴族の大元は平民である。貴族なら義務を果たすべきだ。だからこそ平民よりも良い暮らしが出来るのだ。
だからこそこいつ等は確実に殺す……と思ったら何人かの議員達がカードを床に投げ捨て踏み始める。
「何が、何が貴族の務めだ。クソが! こんなカードなんて」
「おい馬鹿止めろ」
パキンとカード割れると、壁から部屋が一瞬だけ赤くなる。部屋全体がサーチされた。
こいつ等の武装は小さいナイフだ。それ以上の武器を持ち込むと警備レベルが上がる。流石に警備レベルが上がるのは不味いと理解していたのだろう。
城内での武装は基本禁止だ。許可されたカードは一部しか持ってないし、正門裏門に置かれてるのは限定的な許可カードである。
何故小さい刃物はOKかって? いや城内でもそう言うのは使うからだよ。でもカードなしだとアウトだ。
『重要区画に武装勢力の侵入を感知しました。職員及び非戦闘員は指定の非難区画へ退避、或いは防毒マスクを着用せよ。
30秒後に鎮圧ガスを投入し、ゴーレムを放ちます。繰り返す職員及び非戦闘員は指定の非難区画へ退避するか防毒マスクを着用せよ』
私はお母様を私の自室に転移させる。見ないで送れるのはそこだけだ。そして王族の自室は避難所にもなっている。特に私の部屋は表向きは旧自室だ。今の自室は王族に相応しくないので秘密である。
大臣や貴族達は城内勤務なのでガスマスクを腰の収納袋に持っている。但し議員には渡していない。だって城内勤務じゃないし。議会は王都の端だ。
私もベ○ダー卿のマスクをつける。カッコいいだろう?
そして直ぐにガスが噴射されると、襲撃者達は目を押さえながら咳き込む。そしてゴーレムが召喚された。形状はソルジャーゴーレムじゃない特別製だ。多分ジ○リに殴られる形状である。空から畑に振ってきそうな奴を小さくした感じ。
「何でカードを壊したのかそれが分からない」
この人達謎の行動しかしないよ。何で増援を待てって自分達で言っているのに自爆するの?
ゴーレムは抵抗しなければ抑え込むだけ。そして催涙ガスの充満した部屋で抵抗出来る奴はいない。魔法使いも居ないのか。
暫く打撃音が響き、醜い悲鳴が上がった。そして全員がゴーレムに拘束されると私が魔法でガスを集めて宝物庫にポイする。分身なら大丈夫だろう。
そして謁見の間には床に押さえつけられた連中が転がっていた。何だろうこの人達相手にすると物凄い疲れる。何故ここまで侵入出来たのにこんな事になるんだ?
もう滅茶苦茶だよ。疲れたので終わらせる。
「じゃあ死ね」
「ッグ、グフ」
取り敢えず元議長をベルゼバブで貫く。彼は一瞬で朽ち果てた。
ああやっぱり何も感じないや。これなら帝国兵も殺せそうだ。私は宝物庫を開くとベルゼバブを投げ捨てる。いい加減魔力食われ過ぎだ。投げ捨てられたベルゼバブが宝物庫内の分身に突き刺さり、分身を食らったがどうでも良い。
「残りは拷問して情報を聞き出して。この混乱でも動いていない連中が居るかもしれないからね」
「分かりました。申し訳ありませんでした」
警備の責任者が頭を下げる。
「警備を手薄にし過ぎた私の責任だよ。それともう一度話し合って警備体制の改めを行って。今のレベルじゃ装備を使いこなせていない」
「罰は如何様にも。その前に必ず使いこなせる体制を構築します」
実際運用は私の分野じゃない。こう言うのは向こうの世界にも有った。じゃあ付けようってやっただけだ。本来の警備騎士が居ればここまで入り込む事も無かっただろうから、戦後私が責任を取ろう。技術開発局局長の地位か空軍元帥の地位でも降りれば責任も取れるだろう。
はぁ、頭が痛くなる。このまま自室で寝たいが、今はやる事がある。次は……ああそうだ。拓斗を監禁しないと。




