204 私ボッチじゃないし
現在午前3時。多くの国民はベットで休んでいる時間だ。定時連絡によるとアーランド軍は帝国軍野営地を襲撃している頃だろう。
私はベットから抜け出す。ちょっと城の外に用事があるのだ。私は部屋にある本棚の一番下の棚の板を外すと抜け道から外に出ようとする。頭を突っ込んだ瞬間足を掴まれる。
「あ、あああああ! 」
少し後、謎のパンツ焼失事件により、新しいパンツに履き替えた私は目の前に居るアリシアさんを睨んでいた。
「こんな時間に何処に行くつもりですか? 」
「その前にアリシアさんは私に謝罪するべき。断固として抗議する」
「勝手に抜け出すよりはマシです」
「何処に居たのさ! 」
「最初から部屋で監視してましたよ。カーテンに隠れて」
最初から居たのか。魔法使ってないから気がつかなかった。
「そ れ で 何処に行こうと言うのですか? 」
「夜の散歩」
私は誤魔化す事にした。
「散歩ですか? こんな時間に抜け道を使って? 」
「ちょっと友達に会いに行くんだよ」
「……こんな時に逢引ですか? 姫様には絶対に早すぎます! 後、あの何処の馬の骨とも知れない男など許しません! 」
「? 何言ってるの」
アリシアさんが鼻息荒く主張しているが、何のことか理解できない。
「へ? この時間に男性と会うのですよね? 」
まあ、性別は男だよ。
「うん、そうだけど」
「逢引じゃないですか! 」
「違うけど」
性別以外に問題があるんだよね。どう考えても逢引ではない。
「あの拓斗とか言う男の元に行くのですよね。確かに今ならば邪魔をされることは無いでしょう。
し か し 国の状況を考えて欲しいと願います」
成程。拓斗のところに行くと勘違いしていたのか。
「違うよ。私が会うのはニャムラス大統領だよ。これから集会なんだよ」
「………誰ですか? 」
「ニャンコによる統一国家ニャルベルデの大統領」
猫と逢引は流石に無いよ。
「……これから異世界に行くつもりなのですか? ニャルベルデと言う国なんて聞いた事がありませんが」
仕方ないので無知なアリシアさんに説明する事にした。
ニャルベルデはアーランド王国の王都に居る猫の国家だ。ニャムラス大統領が熾烈な縄張り争いに勝利し、王都の猫社会を統一する事で出来た国家だよ。
「えっと、ここはアーランドなのですが……」
「残念だけど如何にアーランドでも猫に国民権は無いからね。それに人間的な国家じゃなくて、猫の社会だから」
人間社会的には問題ない。人の領土感覚とは全く違うからね。簡単に言うと王都のボス猫だから。
最も血筋では無く強さでの統治なので定期的にクーデーター(縄張り争い)が発生するので治安は良くない。
「と言う訳で今日は集会なんだよ。私が招集した」
「姫様は……そのニャルベルデでどのような待遇なのですか? 」
「私? 普通に友達だよ。皆陰で私は友達少ないとか言ってるけど、私ボッチじゃないし」
友達100匹どころじゃないよ。いっぱい居るんだよ。
と言う訳で再び本棚の一番下の棚に顔を突っ込んで抜け道から出ようとすると再びアリシアさんに捕まった。
「ちょ、ちょっと待ってください。私も一緒に行きます。一人での外出は認めれません! 」
「えぇー説明面倒だよ」
「と言うか何処でそんな繋がりを作ったのですか? 」
え、知らなかったの? 普通にニャンコになって猫と会話してたじゃん。変身薬が有れば簡単なんだよ。
と言う訳でアリシアさんもついてくる事になった。最も今回の抜け道は猫用なので変身薬弱(効果数時間)を使って王都に出た。
現在王都は開発ラッシュで空き地が結構存在する。その一つが猫の集会場とし今回使われているのだ。
私が到着すると、既に1000を超えるニャンコ達が待っていた。
「彼がニャムラス大統領だよ」
「ニャムラス大統領だ」
偉そうに捨てられたソファーに座り、足を組んでる猫がニャムラス大統領だ。両隣に雌猫が座っている。そして、ソファーの前にはボロボロの猫達が10匹程積み上げられていた。
因みに名前の由来は10万ドルPONとくれそうな顔だからである。そんな物貰っても嬉しくないけど。
「またクーデーター? 」
「小物だ」
どうやら身の程知らずがクーデーターを企んで返り討ちにされたようだ。
「今回は招集をかけてくれてありがとうね」
「友の頼みだ、構わんよ。干物食うか? 」
肉球で挟んだ魚の干物をこっちに向けるが、私が首を横に振るとタバコのように口に銜えた。
さて、私は木箱の上に乗ると、ニャンコ達に演説を始める。
「王都に住まう親愛なるニャンコ達よ、よくぞ私の招集に集まってくれた。
今日集まって貰ったのはこの王都、いや、王国に危機が迫っている。グランスール帝国がアーランド王国に宣戦を布告したの。
君達の力を借りたい」
私の演説に一匹の猫が前に出る。
「ニャァ達猫に人の戦争は関係ないニャァ」
「成程、確かに関係ないかもしれない。でも君が普段通ってる肉屋の小父さんが居なくなっても良いの? 」
このニャンコは肉屋の小父さんから余ったお肉を貰う事があるのだ。
「! 小父ちゃんは関係ないニャァ!」
ペシペシと地面を叩く猫。でも関係無い訳じゃない。あの小父さんは獣人だ。下手をすると奴隷にされて帝国に連れて行かれる可能性があるのだ。
「それに、そこの君も同じ。干物屋さんのおばあちゃんは可愛い娘さんが居る。もし帝国がこの王都を襲撃すれば確実に守ろうとするよ。
もし怪我したり死んじゃったら、もうおばあちゃんの膝に乗せて貰えなくなるよ」
最もあのおばあちゃんは負ける事が想像出来ない女傑だけど。棒術が騎士くらい強いし。
私が他のニャンコに肉球を向けると「それは嫌だニャァ……」と呟く。おばあちゃんは猫好きなので可愛がって貰ってる猫は多いのだ。
すると私の背後で偉そうに座ってるニャムラス大統領がタバコを吹かすように干物を肉球に挟んで口から離す。
「猫は人間と共存するのが最も楽な生き方だ。俺はアリスの手伝いをしよう。お前等も手伝え。断れば粛清だ。こいつらのように、な」
ニャムラス大統領が干物を倒れているニャンコ達に向けると、集まっていたニャンコは耳をペタンと下げてしまう。
「怖がる必要はない。ちゃんと私は報酬を持ってきた。手伝ってくれるニャンコには、この干物をプレゼントしよう」
私が宝物庫を開けると、中から分身達が私の買い集めた大量の魚の干物をその場に山積みにする。そしてニャンコ達の歓声が上がる。
「お願いは王都中にこの紙を隠してほしい。ただそれだけで、君達はこの干物をお腹いっぱい食べられるよ」
「ニャァ! 今すぐ隠してくるニャァ! 」
「早く食べたいニャァ! 」
「御馳走ニャァ! 」
ニャンコ達は分身から紙で出来た人型を数枚受け取ると、ダッシュで王都中に散っていった。
「ありがとうねニャムラス大統領」
「俺の報酬も忘れてないだろうな。早く、早く! 」
ニャムラス大統領がブンブンと二本の尻尾を振る。
「無論持ってきた。高級鰹節を使った高級ネコまんまだよ」
分身がお椀を置くと、ニャムラス大統領はむしゃぶりつくように食べだした。野良猫だからね。偉くても良いごはんが食べれる訳じゃない。でも飼い猫になるつもりも無いらしい。
「じゃあ残りの紙もお願いね。それと次の集会も誘ってね」
「……ふん、良いだろう。次の時も誘ってやろう」
偉そうだが、口の周りが鰹節だらけになってるよ。全く私を見習って威厳をつけるが良い。
こうしてニャムラス大統領と別れ城に戻る。余り長居すると城内に私が居ない事を察知される可能性があるからね。感の良い人が多すぎるから。
自室に戻ったが、未だに変身薬弱の効果が切れないので暫く起きてる事にした。
「ところであの紙は一体何ですか? 」
「ん~保険かな? 」
「保険…ですか? 」
「うん保険。王都になんか嫌な匂いがするからね。その対応策かな?
多分必要ないと思うんだけど、一応、ね」
王都防衛を任されたけど、内部から嫌な匂いと言うか予感的な感じがするんだ。
物凄く不快な匂いだ。私の大事な物を踏みにじろうとする匂い。私はこれが大っ嫌いだ。殲滅したくなる。でも、流石に何処からなのか分からない。だから一応の対策だ。
「ふむ、少し調査が必要かも知れませんね」
「あれ、疑わないの? 」
「どうにも静かすぎると暗部から報告が来てます。普段なら隠れている敵が全く動いてる気配がありません。普通なら一人二人は捕まるのですがね」
どうにもアリシアさんも少しは疑問を持っていたようだ。
「取り敢えず可能な限りの保険は容易したけど、私の親衛隊を2つに分けて必ず1部隊は即座に動けるようにして」
取り敢えずアレと国民で対処出来ると私は判断した。その予備は私の親衛隊で十分だろう。一応副王家警備隊も副王商会連合の施設防衛を命じている。向こうも私と同じく何か感じ取っているようで、警備レベルは問題ないだろう。拳銃も持ってるしね。
「これで私のボッチ疑惑も解消出来ると思うよ」
「姫様……………人間の御友人も増やしましょう」
解せぬ。




