201 王家の歴史 ③
「まあ、教皇の事はどうでも良いでしょウ」
「良くないだろ! 」
取り敢えず再び話を戻す。教皇の首を何故刎ねたのか。そこら辺も今は伝わっていない。アーランドの歴史でも暗愚な国王の時代があり、一部伝承が途絶えているのだ。
リコリスが多種族連邦より北に国を作ったのはしっかりとした理由がある。
国家にも寿命があるのだ。栄える国もあれば滅びる国もある。一国に全てを託す事は危険であるとアーランドを建国した。
実際多種族連邦は腐敗により崩壊したのでリコリスの予測通りであった。
そしてお父様が凄く頑丈そうな扉を開ける。
「ここに始祖であるリコリス様の墓がある」
そこは小部屋のような場所だった。どうやら謁見の間に細工がされているようで光も入っている。
一つの小さな墓標の横に剣が突き立てられ、そばには全身鎧が立っている。多分リコリスの鎧だろう。かなりの魔力を感じる。しかし私の視線は剣の方に向いている。
鞘に納められ、地面に突き立てられた聖の名を冠する武器の最高峰。凄まじい気配だ。グラディウスもかなりの威圧感を持っているが、間違いなく上回っている。
「精神剣は他の聖剣よりも人を選ぶ。歴代の王族のでもリコリス様だけが使えたのだ。これを中央から守るのも我が王家の務めだ」
「中央に有っても使えなければ意味がないのでは? ……いや、象徴か」
お兄様の言葉にお父様が頷く。持っている事に意味があるのだ。
「そして精神剣は世界の危機には絶対に所有者を選ぶ。但し、それが我々に向けられない保証は無い。いや、確実に向けられるだろう。
これほどの威圧を放つ剣だ。生半可な力ではないだろう」
「持ってみても良いですか? 」
お兄様は私の作った刀よりそっちが良いんだ…ふーん。
「一応だ! 」
心は読まなくていいよ。
お兄様は精神剣の柄を握る。その瞬間手を弾かれた。
「駄目そうだな」
痛そうに手を押さえながら後退るお兄様。つまり、私が勇者になるという事か。勇者にして大魔導士アリスティア。私に相応しいと思わないかね? また二つ名候補が増えちゃうよ。
私も柄を握る。その瞬間、凄まじい拒否感を精神剣が放ち、私を弾いた。
慌てた風の精霊が風のクッションで受け止めてくれたので問題ない。但し柄を握った右手がズタボロになった。
「【エクストラ・ヒール】」
私は一応上級治療魔法を使う。直ぐに腕が治る。疲れるから上級魔法は使いたくないんだよね。
この聖剣嫌いだ。いや、聖剣全体が嫌いだ。たかが剣の分際で使用者を選ぶなんて生意気だ。解析して量産してやる!
私は生意気な精神剣に拳銃を向けると発砲する。普通に当たるが、鞘に傷すらつかない。
「お、おい国宝だぞ! 」
「この生意気な剣には教育が必要。大丈夫私が誰にでも使える従順な剣にして量産してみせる」
宝物庫内の聖剣だって少しは大人しくなってきたぞ。もう剣の形してないけど。あれは調教が終わり次第修理が必要だ。モアイの置物になってしまった。
すると、精神剣の背後に飾られていた全身鎧が動き出す。全身鎧は精神剣を握ると、鞘から剣を抜く。凄まじい覇気を放つ刀身が私達を吹き飛ばそうとする。
お兄様とお父様が黙って見てたお母様を庇うと、じりじりと下がる。
私のせいじゃないよ。あの鎧私が弾かれた時には起動してたからね。あれリビングアーマーだ。魔導具化させ、自立起動出来る魔法の鎧だ。魔物の方のリビングアーマーではない。
全身鎧は剣を構える。その瞬間私はのけ反る。銃が切り裂かれたのだ。早すぎるよ。
私は漏らしていないか確認する。大丈夫だ。私のプライドは健在だ。しかし、拳銃は切り裂かれた。
「お父様、あの鎧って……」
「動くなど聞いたことも無いぞ! 何故アリスティアを襲う! 」
お父様が全身鎧を殴る。全身鎧は猛スピードで壁に激突するが、何事も無いかのように立ち上がる。流石先代勇者の鎧だ。
全身鎧はお父様を無視するように私に突っ込んでくる。
私は宝物庫からグラディウスと取り出し、【ドレスアップ】で防具を着る。そしてドレスアーマーにつけられたパワーアシスト機能を持って精神剣を受け止める。
「お、重い」
一撃が強力過ぎる。即座に全身鎧が蹴りを入れてきたが、私はぎりぎり躱す。二度目は無理!
そして躱した瞬間私の胸のプレートが変形。針のように伸びて全身鎧を貫こうとするが、精神剣で切り裂かれる。
「アリス鋼を真っ二つ……」
「ギャハ! ギャハハハ」
グラディウスが高ぶる。私は直感的に理解した。私をグラディウスが浸食し、支配しようとしてる。
グラディウスが私じゃ無理だと判断したのだ。当然デフォではそんな事は不可能だ。精霊王の力がグラディウスの支配を許さない。しかし、何故か今回は機能しない。
私の意識はそこで薄まった。
グラディウスを構えたアリスティア。対峙するは勇者の鎧と精神剣。
「父上、あの構えは」
「同じ構えだと」
勇者の鎧はリコリスの動きを完全に模倣しているようだ。
アリスティアと勇者の鎧は同じ構えを取っている。グラディウスの所有者で最も優れた剣士がアーサーなので、自然と同じ構えになった。
そして斬りあいが始まる。パワーで圧倒的に劣るアリスティア。しかし受け流す事で対処する。
この時ようやくドラコニア達は理解した。グラディウスが戦っている事を。
グラディウスは高ぶる。あの女を絶対に許さないと。
精神剣を持った勇者の鎧は魔王を滅ぼさんと精神剣を振るう。
嘗てグラディウスは聖剣であった。精神剣に次ぐ二位の聖剣だ。その権能はアーサーを最強の騎士にした。
その能力は強大であり、多くの争いを生んだ聖剣。しかし、グラディウスと今は呼ばれている魔剣はアーサーを想い過ぎた。己の長い歴史の中で、彼の腰に下げられている時が一番幸せだった。故に誰よりもアーサーに力を貸した。
しかしアーサーは魔王に堕ちた。その時グラディウスも一緒に堕ちた。例え自身の存在意義を捨てても彼の剣である事を望んだのだ。
リコリスはそれを知っていた故に魔王との死闘の際にグラディウスを責めた。
「何故お前は父を止めなかった。お前なら……お前がしっかりしていれば! 」
グラディウスからしたら戯言だ。何故人間同士で争うのか理解できない。そして、何故お前等人間はアーサーを悲しませるのかと。
既に壊れたアーサーと終わらせるための勇者。グラディウスは抗った。まだ何とかなるはずだと。自分は剣だが、何か手があるはずだと思っていた。そんな事は無いのに。
そして敗北。グラディウスはリコリスの攻撃でどこかの山まで飛ばされた。その後は知らない。
そして多くの人の手を渡り、アリスティアの元に『戻ってきた』。
グラディウスはアリスティアにアーサーの気配を感じた。これは再会だ。たまらなく楽しかった。悠久の時をアーサーの帰りを待った。多くの弱き者が自分を握り身を滅ぼした。この身は既に穢れた魔剣だが、再会できた。
新しき主は剣の才能が無い。全くない。しかし自分は嘗て聖剣だった。問題ない。魔剣に堕ちた際に精神に干渉する力は強くなった。
しかし目障りな精神剣とリコリスの鎧に再会した。あれは駄目だ。魔王をうち滅ぼす為の鎧だ。アリスティアの中の魔王に反応している。
起動した以上は鎧を破壊するしかない。
グラディウスが剣を振るう。忌々しい精神剣に弾かれる。グラディウスは魔剣に堕ちた事で格が落ちている。打ち合いは不味い。しかし、アリスティアボディーは既に悲鳴を上げていた。脆弱過ぎる。
(良く分からないけど、私が強力してあげる)
アリスティアがグラディウスに強力すると言い出す。それをグラディウスは了承し、アリスティアは意識を鮮明にした。
アリスティア視点
どうやらグラディウスの出自にも因縁があるようだ。そして勇者の鎧が本気で私を殺しにきている。
流石に死にたくはない。なので抗う事にした。全身に魔力を流す。瞳の刻印が動き出し、周囲の魔力が私に流れ込む。
そして私は勇者の鎧の解析を始める。
「流石に放置できんな。例え始祖の鎧であろうと娘を傷つけるのならば容赦はしない」
「無論です父上」
お父様とお兄様も参戦するようだ。一応お母様にはエイボンが付いている。セクハラしたら消滅させると視線を向けるとコクコクと頷いた。流石に空気は読めるらしい。
それと同時に解析が終了。魔法王朝時代から1000年程後に作られた魔導鎧だ。恐らく魔王に対する兵器として開発された物が改造され、リビングアーマーになったのだろう。
「お父様、バラバラにすれば動かなくなるタイプみたい」
「それは少しは希望が持てるな」
一撃でお父様すら真っ二つにする斬撃を素手で剣の腹を殴る事で受け流すお父様。愛用の戦槌は持ってきていないのだ。
お兄様は普通に刀で打ち合っている。どうやら壊される事はないが、鎧の動きに翻弄されているようだ。
「動きを止めてくれれば私が【クラック】で術式を弄れる」
「よし任せろ! 」
お父様が精神剣を弾くと、勇者の鎧にタックルを入れる。その瞬間に私は勇者の鎧に取り付く。グラディウスの補助が無ければ間に合わなかったよ。
「【クラック】ッツ!」
私が鎧の術式に干渉しようとした瞬間に腕が弾かれる。どうやら干渉妨害系の魔法まで搭載されているようだ。お父様は殴られ吹き飛ばされた。勇者の鎧が精神剣を私に突き刺そうとする。しかし私は前進する。
術式を弄るのは後だ。あの鎧をバラバラにすれば動かなくなるのは間違いない。
密着するように勇者の鎧に近寄れば剣で攻撃できない。即座に右手を精神剣から話して殴ろうとするが、私はバイザーを上げると、【クイック・ドロー】で手榴弾を取り出し、鎧の中に入れるとバックで逃げる。今の私はヤブ犬だ。なふー
そして私が下がった瞬間鎧が弾けた。
使ったのは爆風でダメージを与えるタイプの手榴弾だ。内部の圧力で鎧をバラバラにしたのだ。
「ふう疲れた」
「とんでもねえ鎧だったな。二度と動かないように縛っておくか? 」
「もう抵抗できないからリビングアーマーの術式を破壊するだけで十分だよ」
鎧が全部繋がっていないと魔力がうまく流れないので不具合を起こして止まっているのだ。この隙に術式を破壊する。
どうやら干渉妨害も止まっているようですんなり破壊出来た。これで少なくとも勝手に動く事は無い。それとリビングアーマー化させた魔法使いが二流で助かったよ。古代魔王王朝期の物だったらバラバラでも動くだろうね。
「しかし鎧が動くなんて聞いてないぞシルビア」
「私も初耳よ」
エイボンを盾に使ったお母様は怪我が無いようだ。エイボンも問題ない。
「しかし頑丈な鎧ですね。バラバラになっただけで破損していない」
まあ戦乱期の作品ぽいからね。
さて、無駄に頑丈な勇者の鎧を詳しく解析しよう。未知の物はまず解析するんだよ。
私は解析用の魔法を付与した眼鏡で隅々まで解析する。
「周囲の魔力を集積する術式発見。これは当たりだね。他には……う~む魔法防御の術式は私の物より上だ。これもあれも参考にしよう」
古代の作品は良い参考書になるね。私とは違うコンセプトなので、参考になる。やはりリビングアーマーの術式の年代は違うね。もっと後の時代に使われた物だった。
「素材はダークマター合金だね。現存してないと思ってたけど」
「ダークマターだと! 伝説の合金じゃないか」
「ちょっと貰っても良いですカ? その右手部分だけで良いのデ 」
「「駄目に決まってるだろう! 」」
エイボンもダークマター合金には興味津々の様だが、流石に移動させるのはね。
「大丈夫だよエイボン。必要な金属は解析したから、もう作れる」
「マジかよ……」
私の作ったアリス鋼よりも遥かに軽く頑丈で魔法耐性もオリハルコンより高い理想の合金の製法を覚えたよ。戦争が終わったらアーランド騎士の鎧はこれで統一だね。欠点は漆黒で染める事が出来ない事だから、アーランド騎士が魔王軍みたいになりそうだね。この世界の魔王って魔族の王とか漫画みたいな奴じゃないけどね。
「取り敢えず鎧は元に戻したとして……精神剣をどうやって台座に戻そうか? 」
鞘に入れるのも不可能っぽい。
「流石にこのまま床に放置は不味いよな」
仕方ない。他の聖剣同様説得してみよう。グラディウス曰く自我があるらしいし。
「精神剣にも自我があるから私が説得してみるね」
「大丈夫か? 」
「剣単体で動くわけじゃないしね。
じゃあ、こうなりたくなければ大人しく鞘に入って台座に戻れ」
私は精神剣の前に金属製のモアイ像を置く。その瞬間明らかに精神剣が動揺した。覇気が揺れているのだ。
「アリス……その覇気を放っている置物は何だ? 」
「聖剣……かな? 」
「何故お前の邪神像になっている」
「邪神じゃないし。
ヘリオスに貰ったんだけど、私に使われるのは嫌、構造を解析されるのも嫌って我儘言うから説得したらこうなったんだよ」
生意気だよね~って話すと、エイボンを含む全員がため息を吐いた。
「お前……聖剣だぞ。何壊してるんだ」
「もう私のだし。それに聖剣の力は消えてないよ。聖なるモアイ像に形が変わっただけで、聖剣の力はそのままだし」
この聖なるモアイ像は装備すると体がダイヤ以上の硬度になるんだよ。しかもダイヤと違って砕けやすいとか燃えると無くなるとかも無い。防御力特化の聖なるモアイ像だよ。
「…………まあ、良いか。アリスティアが持ってるなんて誰も知らないだろうしな。
取り敢えず王家はこの精神剣を守護してる事を伝えたかった。もしかしたらこの中の誰かは帝国戦で帰らなくなるかもしれない。だが、生き残った者は必ず後世に伝えろ。決して中央に精神剣を渡すなとな。
他の伝承は俺の部屋の隠し部屋に資料がある。鍵の場所は……」
無理やり話を終わらせるつもりの様だ。凄く疲れた顔をしているお父様。
因みに、その精神剣は聖なるモアイ像と会話してるらしく大人しくなった。そして私が聖なるモアイ像を握ると大丈夫だと伝えられた。使うのは許さないけど、鞘に入れて元の場所に戻す分には我慢すると。
生意気だな。
「今は暇がないから我慢するけど、お前もいずれはこうなる事を覚悟するが良い」
「止めろ! 」
私が精神剣を元の場所に戻してピシっと指をさすと、お父様に後頭部を叩かれた。
「お父様にも殴られた事ないのに……」
「お前が洒落にならない事を言うからだ! それに俺が父親だ」
良いじゃん。生意気な精神剣をモアイにしたって。それに、どうせ誰も使えないんだから剣でもモアイでも違いは無い。寧ろモアイに変えておいた方が奪われた時のダメージが少ないんだよ。剣としての価値が無くなるし。
聖の名を冠する武器は尋常じゃなく頑丈だ。溶鉱炉に入れてもプレス機に入れても壊れないんだよ。私以外には直せるとは思えないね。
それと、今更だけど、グラディウス……お前聖剣だったのか。魔剣にしては店売りはあり得ない程強いとは思っていたけど。と言うかどういうルートであの店で安売りされていたのだろう。
グラディウスも「敬っても良いんだぜ? 」と言わんばかりに私を見ている。
しかし今のグラディウスを尊敬する気持ちは沸いてこなかった。まあ、私の一部であるアーサーの魂に気が付いていただけだ。そして私はアーサーではない。記憶すら受け継いで居ない魂の一部だ。
但し、妙にしっくりくる感覚が有ったのは事実だった。だから五月蠅くても私の愛剣だったのだ。
「よろしくねグラディウス……いえカリバーン」
聖剣カリバーン。それがグラディウスの最初の名前だった。




