200 王家の歴史 ②
「アバロン王国は国土こそ中堅だったが、その軍事力は常夜の国に匹敵するとうたわれた国だ」
「でも、あの国って確か魔王が生まれた国じゃ……」
アバロン王国の貴族であったナイトオブナイツ。騎士王と呼ばれたアーサーが先代の魔王になり、大陸に災禍をばら撒いた筈だ。
「……確かにあの国で魔王が生まれた…」
「そうだな。確かに、あの国で魔王が誕生した」
3方面作戦を行って尚勢力を衰えさせないアバロン王国。但しそれは外から見た結果だ。実情は既に崩壊寸前だった。世界を相手に出来る国では無かったのだ。
そして有力な同盟国である常夜の国が滅びを迎えた時、アバロン王は決断した。
この国はもう終わりだ。
アバロン王はわずか10歳で王位を継ぎ、当時は15歳であった。従いしは最強の強者である円卓に集いし者達。筆頭であるアーサー他にもエイボンも居た。全員が一国に匹敵するとまで言われた最強の者達だった。
但し、既に円卓に集いし者達の3分の1は戦死。アバロン王国も追い詰められていたのだ。
「そしてアーサーは王命によりグラン王国と戦う為に国境に出向いた……そうだろうエイボン」
「やはり気が付きましたカ」
階段を降りると、お父様が背後を見つめる。私達の後ろをエイボンが付いてきていたのだ。私が気が付かないとは……
「単に後方を気にしてなかっただけであろうが」
お兄様は人の心を読むのを止めた方が良い。
「お前は何故アバロン王を守らなかったのか。それが我が国にも伝わっていない。他の者なら兎も角、お前とアーサーだけは絶対に国を裏切らなかった筈だろう? 」
「私は裏切りなド! 」
そしてエイボンも語りだす。
当時エイボンは大魔導士であった。魔法王国も存在しない時代だ。まさに最強の魔法使いだ。しかし、当時エイボンは200歳を超えていた。歩く事はおろか立つことも殆ど出来なかった。
アーサーは首都防衛をエイボンに託し国境を守っていた。歩けなくてもエイボンはかなりの魔法が使える。当時は既に車いすのような物でしか移動してなかったので、王都の外に行けなかったのだ。
「後10年。後10年動ければアバロン王国が亡びる事は無かったでしょウ。ワタシが全盛期の力を取り戻せれば如何なる国家であろうと敵ではない。しかし、ワタシにも限界があったのでス。
故にワタシは延命を試みましタ。古代の魔導書を解析した結果、延命の秘術を発見したのでス。それには心を通わせた者を生贄にしなければならなかっタ」
エイボンには当時一人息子が居たらしい。但し血の繋がりは無い。戦場で偶然拾った赤ん坊を気まぐれで育てた子供。
魔法の才能に乏しく、どれほど努力しても魔術師以上にはなれないのに、義理の親であるエイボンと比較され、他人に貶されてもまっすぐ育った大事な子供だった。
「あの時の事は今でも覚えていまス。息子が言うのでス「親父、俺の命を使ってくれ。俺が生き残るより親父が力を取り戻す方が多くの人を救える」ト。
有象無象の命なら幾らでも儀式の材料に出来るワタシでも出来なかっタ。しかし息子の決意は固イ。ワタシは決断しましタ」
他の人なら良いのか……
それは決して行ってはならない禁術。代償に使われた者は魂すら消え去り、転生すら出来なくなる。時間の無いエイボンには他の魔法を作る時間すら残って居なかった。
そしてエイボンは他の円卓に集いし者に王都の防衛を任せ地下で儀式を行った。儀式中は誰も入る事は出来ない。誰かが入ってこれば魔力バランスの崩壊で儀式は失敗するからだ。
そして儀式は成功した。しかし国は滅びた。
エイボンが首都を王の守護を頼んだ者は最初から敵だった。
嘗てグラン王国は古代の魔導兵器を使った事がある。それは町の住民を生贄に戦略級魔法を発動する物だった。
当時のエイボンは全魔力を持って【リフレクター】と言う魔法を跳ね返す魔法を使った。そうしなければアバロン王国の首都が消え去るからだ。恐らく弾道弾的な魔法なのだろう。
結果としてエイボンは戦略級魔法を跳ね返す事に成功。しかし、彼を持ってしても跳ね返す場所を選べなかった。
跳ね返って着弾した場所はそれを発動した都市だった。当然都市は崩壊。生き残っていた僅かな支配層と貴族軍を消し去った筈だった。
しかし、領主の息子は生き残っていた。それから30年、アバロン王国にその息子は暮らしていた。全く別人として。
そしてその男は成り上がり、円卓に集いし者になっていた。全ては復讐の為に。
「逆恨みじゃん」
「そうですネ」
戦略級魔法を使う為に国民の命を使い、挙句に返されただけの話だ。
しかしその男はエイボンが地下に潜ると即座にアバロン王を殺した。優れた王であり、戦士でもあった。アバロン王も円卓に集いし者には勝てなかった。誰も警戒して無かったので王城の内部に普通に入れたのだ。
そして、その男はアーサーの娘まで殺した。アバロン王の妻だったからだ。
しかしアーサーの娘であるリコリスは生き残る。アーサーの友人の残した子供。獣人であること以外それなりに似ていた少女が代わりに死んだのだ。自身の誇りである耳と尻尾を切り落とし炎に包まれ、リコリスの死を偽装した。エイボンは荒れ狂い復讐者の四肢をもぎ、Gの住処に捨て去ったようだ。
そして首都炎上を聞きつけ慌てて帰ってきたアーサーはリコリスが死んだと勘違いした。リコリスは既に王都を脱出した後だったのだ。エイボンもその時は生きているとは思っていなかった。
アーサーは己の怒りを抑えきれなかった。その身に宿した精霊王の力は暴走し、彼は親友であった精霊を取り込みし、魔王になった。
「つまり精霊王の力って……」
「それが暴走した者が魔王でス」
先代の精霊王だったアーサーは魔王になり、破壊の限りを尽くした。多くの町を国を焼き払い、魔物の軍勢を持って多くの国に攻め込んだ。
「ワタシも彼を止めようとしましタ。しかし、彼には自我が残っていたのでス。そして王宮が燃えた時に生き残った者がアバロン王の遺言をワタシに届けましタ」
王国はお終いだ。しかし、国民を逃がさねばならない。最後の王として生き残った全ての円卓に集いし者に告げる。国民を北に、未開の北に逃がすのだ。もう中央はどうしようもない。
エイボンは一度だけ魔王化したアーサーと会った。アーサーは力に飲み込まれていたが、アバロン王の最後の言葉を理解した。彼は暴走する力を押さえず、向ける方向だけ変えた。逃げる多くの多種族を邪魔するであろう国家を悉く滅ぼしたのだ。
全盛期の力を取り戻したエイボンは、その魔導の力でグラン王国が保有していた魔導戦艦を全て撃沈させた。たった一人でだ。
そして一人の生き残りの円卓に集いし者が北の地にて多種族連邦を作り上げる。しかし、人魔大戦のきっかけを作ってしまった魔族は当時発見されたばかりの新大陸に逃がす事になった。
魔族をこの大陸に残せば必ず争いが起こる。苦渋の決断だった。
こうして殆どの魔族はこの大陸から姿を消す。一部の残った者は悉く殺されたようだ。実際ここ100年は魔族の目撃情報すらない。
「そして悪夢は始まった。アーサーもついに暴走した力に取り込まれ、誰彼構わずに殺し始めたのだ」
既にアーサーに魔王の力を押さえる精神力は残っていない。魔王を放置すれば大陸中の生きとし生ける者を殺しつくすだろう。
その時既に聖教本部も魔物に蹂躙され、陥落。現在の皇国を占拠していた聖教が勇者誕生を発表した。
聖の名を冠する武器。その頂点である精神剣が所有者を選んだのだ。
精神剣は聖剣の頂点である。精霊王と女神の両者が力を与えて作った剣。他の聖剣は精霊王か女神のどちらかが作っただけであり、どちらも魔王には有効であるが、決定打にはならない。
女神と精霊王は同格だからだ。
そして勇者は多くの戦いに勝ち、ついに魔王を討ち果たす。
「しかし実情は違う。魔王は封じられただけだ。
何故なら魔王の元である精霊王は決して消えない。世界の根幹に位置するからだ。死んでもいずれは他の者が力を受け継ぐ。そうすれば同じ悲劇が生まれる。
だから勇者は魔王を己の魂に寄り添う形で封印した。封印された魔王は勇者が死ねば自動的に血縁者の魂に封じられる。あるいは自身の子にな」
「ですが父上、アリスは普通に精霊王の力を」
「封印が壊れたのかも知れん。何せ管理方法すら無いからな。唯血統を絶やさなければ問題ないとしか伝わっていないし、何故シルビアからアリスティアに封印が移動してるのか分からん。
そもそも王族の誰かに封印されているとしか知らされていない。」
ずいぶん謎な封印を施したらしい。そして私が精霊王なのは理由がある。
「多分前世の私が勝手に封印された魂を使ったからだね」
アイリスが転生の際に自分を少しでも残す為に転生先の体に存在していた魂の残骸を流用していた筈だ。その際の記憶はアイリスも本能的に行っていたので曖昧だ。
「……詳しく聞かせて貰おうか」
私は転生の際にアイリスが拒否していた事を話す。そして無理やり転生させようとした際にキレて自分で転生を行った事も話した。
「そんな事を仕出かしていたのか……自分で魂を作るなど人の業ではないな。まさかアリスティアも出来るのか? 」
「可能か不可能かで言えば可能だと思う。但しやりたくない」
アレは流石に二度と……と言うか私はやっていないが、やりたくはない。テトを敵に回すと面倒なのと、自分を壊すとか正気じゃないしね。
「つまりはアーサーの魂は……」
「言っておくけど、魂にも寿命はあるからね。長年放置されたせいで既に崩壊して残骸だったから」
普通なら天国か地獄に行き、魂を洗浄される。違いは苦痛があるか無いか程度だろう。それを行わないで放置すれば魂でも風化する。例外はエイボンみたいに自分で魂も手入れしてる奴くらいだろう。
そして、完全に魂が朽ちれば精霊王の力は別人の元に行くだけだ。
「………」
「一応アーサーと思わしき魂も残ってるけど、変な力と一緒に封印されてる筈だよ。私もアイリスから全部引き受けた訳じゃないから」
あの頃の憎悪も全て一緒に封印された筈だ。実際私は当時の憎悪がこれぽっちも受け継がれていない。
「まあ、良いだろう。アリスティアに言ってもどうにもならんしな」
「そうですね」
お父様もお兄様も言いたい事はあるが、私に言っても仕方のない事だと理解したようだ。
エイボンは何処となく寂しそうだった。いや、お前はアーサーの魂が風化してる事は大体察していたでしょう。ある意味同じ状態だし。
「アリスティアが無駄なところで男らしい理由も理解出来た」
「アイリスの魂主体で作られてるから女の子なんだよな……」
失敬だな。
「取り敢えず魔王の事は大丈夫という事なのか? 」
お兄様は魔王復活を気にしている。
「精霊王の力は精霊の魔力が根源として必要。話を聞いた限りは精霊を取り込まないと力が出せないから、精霊との契約を弄れば問題ない。
仮に魔王化しても精霊の魔力が無ければ暴走する力も無い」
後で精霊と話し合って契約を弄ろう。具体的には魔王化の兆候が起これば一時的に繋がりを切断するとかかな?
それならエネルギー不足で何も起こらない筈。普段は繋がりから魔力の行き来があるしね。そこら辺も何とかしよう。私も魔王になるつもりなんてないから。
取り敢えずお父様が咳をして話を区切る。
魔王を倒した勇者。それこそアーランド王国の始祖であるリコリスであった。
彼女は逃走先でアバロン王の子供を産むと、息子をリコリスを匿っていた仲間に預け父を止める為に旅に出たのだ。そして何故か精神剣に選ばれた。その際に何が有って、どうやって手に入れたかは不明だ。
そして魔王の真実を知ったリコリスは魔王討伐の祝賀会で教皇を殺して逃走。ついでに精神剣もかっぱらってきた。
「因みに、教皇なら何度か殺した事がありますが、あれって死なないんですヨ」
「え? 」
まさかの教皇不死発覚。
「教皇はワタシの知ってる限りでは常に一人でス。あれは殺せませン」
どうやら教皇にも秘密があるようだ。ちょっと細胞サンプル欲しい。




