19 王女は狼と駆ける
「君の名前は雄みたいだからクートにしよう」
私は使い魔になった銀狼君に名前を付けました。由来はこの世界の英雄ですね。何代か前の文明で300年戦争を終わらせた人らしいです。
「魔物に付ける名前じゃ無いのですが…」
「気にしたら負け……?」
何やら銀狼が光だしました。眩しいですね、いきなり発光するのは近所迷惑です。今後はやらないように教育しなくては。
「お嬢様‼これ進化ですよ」
「それより眩しいから止めて欲しい」
別に進化とかどうでも良い。進化自体ゴブリンでもするらしいですから兎に角発光しないで。
そういう願いが届いたのか30秒くらいで終わりましたがこれは…
「大きくなってる」
「お嬢様は後ろに下がってください」
アリシアさんは私を後ろに庇うとククリ刀をクート君にむけるが…
「グルァ‼」
「ッツ」
元銀狼?やオーガ等の放つ咆哮は弱者への威圧だ。アリシアさんや騎士団の人達はこれを受けて硬直してるのだが、私は何とも無いんだけど?これは私に対して攻撃の意思が無いだけなのかな?ならば愛でようクート君を使い魔にしたのは愛玩と移動用の為なのだ。進化して大きさは2mから約3m位に大きくなり銀色の毛もさらに綺麗でスベスベになってる。種族は知らないけど多分強い。今の私じゃ勝てないだろうな。当てられれば倒せるけど当てれる気もしない。だけどクート君はアリシアさんの後ろから私が出てくるとじっと私を見つめてる。
「お…お嬢様…」
「大丈夫。クート君は私の使い魔」
私はクート君の前に立つと変化を解く。元々銀髪に翠色の目だったがお兄様と同じ赤毛に金眼に変えていたのだ。これはアリシアさんが使う変化の術だがこれを掛けると目の刻印も隠せるので覚えました。ついでにギルド登録では黒目の黒髪に変えますが顔は変えません。何故なら髪と目の色を変えるとかなり印象が変わるうえ仮面をつけるからです。まさに厨二!まだ早いはずなのに私の中の厨二がうずうずしてます。
「…お手」
「わふ」
何という事でしょう。クート君は最初からお手が出来ました。しかも私に負担を掛けないように手に体重を一切掛けないと言う心使いまでしてくれます。
「良い子良い子」
勿論こんな良い子にはハグをしますとも。おおモコモコなのにスベスベ、冬とか温かそうだな冬はこの子と一緒に寝ようアリシアさんさえ封殺すれば可能の筈(殺しません少し大人しくして貰うだけです)
なでなでしてると騎士団の人やアリシアさんの硬直が解けたようですね。クート君もアリシアさんが私を後ろに隠そうとしたから怒ったぽいし。何で分かるって?何となく思考が読めるのだ。多分使い魔にした事で何かのラインが通った感じがします。
「……危険は無さそうですね」
「最初から無い」
「ですがこんな事はもうしないでください。もしお嬢様にもしもの事があったら陛下に顔向けが出来ません…と言うか何かあれば私は自害しますよ」
やば…アリシアさんがガチで落ち込んでる。これは後でフォローしとかないと。
「……もうしない」
「間が開きましたね…反省が足りません!もっと自覚と言う物を持ってください。いい加減好奇心の赴くままに行動してると本当に怪我をしてしまいます。本当に何も無くて良かったですがこれは王妃様にしっかりと報告しますからね」
ぬぐぐお母様に怒られるのは嫌すぎる。めっちゃ怖い…何とかして…無理か既に詰んでる。
「分かったら馬車に戻ってください。もう移動しますよ。そこの犬は馬車いついてきなさい」
「グルㇽㇽㇽ!」
「やる気ですか?私に手を出せばお嬢様に嫌われますよ?言葉くらい理解出来るでしょう?」
クート君は賢いので人の言葉が進化する前から理解出来てるらしい。つまり魔人?人型じゃないのでよく分からないけど私に嫌われたくは無いようで大人しくなった。かわいい子だな、後でモフモフしよう。
「その前にクート君に乗る!」
「早い~もっと早く走れるって!」
「お嬢様~~これ以上のスピードを出されると落ちます、落ちちゃいますってば~」
素晴らしい乗り心地だ私とアリシアさんを乗せてるのに凄いスピードで走ってるのに余り揺れないし振動も全然ない。これなら馬車の代わりにこの子に乗っていきたくなるね。いやもうこの子に乗っていこう。
そして私は一時間程クート君の背中に乗せて貰った。もう馬車要らなくね?絶対こっちの方が良いと思ういますよ。
「馬車じゃ無くこっちに乗る」
「絶対駄目です」
アリシアさんはケチだ最初に乗るのだって反対して結局一緒に乗る事になったし、そもそもクート君は私を落とさないよう気を付けて走ってた。危ない事なんて無いんだけど…それとクート君はこのあたりのボス的な魔物だったらしく私達の前に出たゴブリンとかはクート君を見るとダッシュで逃げて行った。便利すぎる。
「絶対クート君に乗っていく」
「絶対に認めませんよ。そんな事言ってると王妃様のお説教が長くなりますよ?またお尻を叩かれますよ」
「うぅ…でも嫌、馬車は乗り心地が悪い。クート君は余り揺れない」
「それは最初から分かってた事でお嬢様も納得した事です。何処の国の貴族令嬢が使い魔に乗って歩くのですか?」
「使い魔に乗らなかったら竜騎士にはなれない」
「お嬢様は竜騎士ではありませんしこれは狼です!」
「これじゃないクート君」
アリシアさんはクート君と仲が悪い。ハーフとはいえ狐の獣人だしね。本能的に苦手?いや相容れない何かがあるのだろうさっきら睨み合ってるし。
よし強行突破だ。このままじゃ埒が明かない。クート君に乗って出発してしまえば問題ない。
「させませんよ」
はい無理でした。身体能力に差がありすぎます。こっちは6歳…まだ幼女ですアリシアさんに魔法を向けるわけにはいかないしかと言って走ってクート君の所に行こうとしたら両脇を掴まれ持ち上げられました。
「やぁ~~~」
バタバタ
持ち上げられた‼私は子供じゃない‼この抱き方は駄目だ。いや子供だけどこれは駄目だ。
「はいはい戻りましょうね」
「絶対に嫌‼」
「ならば私と勝負しましょう」
何と‼そんな危ない事出来るわけないでしょう。
「…無理」
「お嬢様が勝てればその犬に乗って良いですよ。でも負けたら大人しく馬車に乗ると約束してください。ルールは死ななければ何をしても良いです。お嬢様なら大抵の怪我は治せますから」
危ない事はしたくない…でもアリシアさんを倒せればクート君と言う快適な移動手段…ここは心をオーガにしてアリシアさんを倒そう。アルバートさんの時の封殺技で止めればアリシアさんも私には勝てないしあれなら一度やってるから問題は無いだろう。
「では始めます」
アリシアさんはククリ刀をしまうと無手で構えを取る。
「グラビティ…‼」
グラビティプレスで封殺しようとしたらいきなりアリシアさんがナイフを取り出し自分の尻尾に向ける…ちょ!危ない毛が切れちゃう。
「もし私が負けたら尻尾の毛を剃りますしもう二度と出しません。服の中にしまいます」
まさか…これは。
「………脅迫はズルい」
「どうしますか?もしお嬢様が私に勝つのならもう二度と尻尾は触らせませんよ?」
「ぬぐぐぐぐ」
どうする。アリシアさんは若干だがクート君より毛並が良い。これを触れなくなるのは嫌だ。だが馬車も嫌だ。私はどうすれば…
「時間切れです」
アリシアさんが自分の尻尾の毛を切ろうとする
「待った!私の負けで良いからそれだけは駄目!」
アリシアさんは私の宣言を聞くと上機嫌でナイフをしまう…この結果を読んでいたのでしょう。最初から私に勝ち目は無かった。私はアリシアさんの手のひらの上で踊らされてたのだ。私は地面に膝と手をつくと恥ずかしくも泣いてしまった。
「グス…卑怯・・・もの」
「勝てばいいのです。お嬢様に勝てる条件を出すわけがないじゃないですか。さあ馬車に戻りますよ。抵抗しないでくださいね。お嬢様は約束を破るような人じゃないですよね?」
こうしてアリシアさんに荷物のように馬車に放り込まれた。
「…卑怯者」
「本気で来られたら勝てませんしお嬢様に刃を向けるとか反逆罪で捕まるんですが」
確かにアウトだね。普通は一国の王女を脅迫しないと思うけど。
「それと王妃様から指示が出てます。『言う事を聞かない場合は縛っても良い』と。普通ならあり得ませんがお嬢様は割とフリーダムな時がありますからね。ある程度の罰を与える権限を頂きました」
「今日から一人でお風呂に入る。監視者とは生活出来ないから」
当然ですよね、例えアリシアさんでも監視されながらの生活などごめんです。
「却下ですトイレ以外は常に行動を共にせよとの勅命ですので。逃げたら国に強制送還の上、王妃様のスペシャルお説教コースだそうです」
怖すぎる。私は市民に生まれたかった。自由は何処に有るのでしょう?ダンジョンの最深部ですかね、ならば速攻で突撃したいです。それにアリシアさん偶に変な事言ってくるし離れたくはないけど24時間ずっと一緒は疲れるよ。
「自室に居る時は外で待機しますしそこまで視界に入る事はありませんよ」
「…ならいいけど」
そして私は少し前から思っていた疑問をアリシアさんに聞いてみた。
「何で私はもう縛られてるの?」
「趣味と練習です」
「職権乱用はいけない」
アリシアさんに特権は与えてはいけないんだろうな…速攻で職権乱用だよ、普通なら死刑だよ。まあアリシアさんが死ぬのは嫌だから誰にも言えないけど。




