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192 王子と幼馴染①

 拓斗達はまず宿を取った。そして拓斗は城への登城許可を取る。皇国に居た異世界人が持つ情報は有用だ。直ぐに許可が下りた。


「城内では、このカードを絶対に手放さないでください。それと指定区画以外の立ち入りも出来ません」


「このカードは? 」


 拓斗は銀色のカードを眺める。複雑な魔法陣が描かれている。


「このカードが無いと不法侵入として防衛システムが作動します。命の保証が出来ません」


 アリスティアの作った警備システムは侵入者に容赦しないのだ。無論直ぐに攻撃してくる訳ではない。まず警備室に警報が鳴り、カードを持たない者が何処に居るのか表示される。更に城内の多くの場所に監視カメラなども設置されているのだ。このシステムのお陰で王城の警備はかなり高くなっている。

 そして自動で動く城門を超えると拓斗は城内に入る。


「現在国王陛下は魔物の領域解放の為に不在です。よって謁見は王太子殿下が代わりに行います」


「優秀な人だと聞いてます」


「……確かに優秀な御方です。あの方なら命を懸けても良いと思ってます」


 一瞬の間はギルバートの癖の強さだ。確かに有能だ。しかし無能の扱いは相応どころではないし、とんでもないシスコンだ。唯、命を懸けれる人物だ。実力を認めれば相応に評価されるし、地位も上がる。上司には良いタイプだ。無能でなければ。


「他に何か……姫様! そんな所に巣を作らないでください」


 歩いていると一人の少女が袋を引きずりながら床下に潜ろうとしていた。床板が上がり、内部に階段が出来ている。騎士が駆け寄る前にアリスティア分身は地下に潜り、扉を閉鎖する。ロストナンバーズの巣である。そして研究室だ。


「直ぐに来てくれ! 姫様の巣を発見した」


「了解、直ちに援軍を送る」


 比較的常識的な? 研究を行うアリスティアだが、ロストナンバーズと呼ばれる脱走した分身は危険物を生み出す研究を行っている事が多い。多くは誰も理解できないが、アリスティアに聞くとそっぽを向く程危険な物だ。

 直ぐに数人の騎士がやってきて床板に偽装された扉をこじ開けようとするが、物凄い強度で破壊出来ない。暫くすると、廊下の先の床板が開き、アリスティア分身が顔を出す。


「……………駄目? 」


「駄目です! 」


 騎士が駆け寄るとパタンと閉まる床板。そして更に先の床板が開いて再び分身が顔を出す。


「私は忙しい」


「城内を勝手に改造しないでください! 」


「お父様が好きにして良いって」


 城内の改造の許可は確かに出ている。しかし、勝手に研究室を量産しても良いとは言われていないのだ。拡大解釈である。

 アリスティア分身は拓斗に気が付いていない。

 騎士が諦めずに床板を破壊しようとするが、分身はそのまま出てくる事は無かった。


「拓斗拓斗」


「なんだ? 」


 拓斗の頭の上で寝ていたリーンが拓斗の髪を引っ張る。


「あれ、生物じゃないのです。魔法です」


「そんな魔法あるのか? 」


「リーンは妖精族でも変わり者ですけど知らないのです」


 妖精族は人と関わろうとしない。その希少性から愛玩用に捕まる事があるからだ。しかしリーンは幼い容姿だが、既に1000年近く生きている。そして人に興味津々だ。しかし分身魔法は知らないのだ。


「じゃあ何で分かるの? 見てる限り人っぽいけど」


「魂が無いのです。あれは多分本体と似た動きをする分身を作る魔法なのです。人間に使えるレベルを超えてるのですよ! リーンだって頑張れば一人くらい作れるかもしれないけど…」


 妖精族に伝わる魔法に類似の魔法は幾つかあるが、どれも上級を超える魔法だ。リーンの制御力でも難しいらしい。

 因みにアリスティアの使う分身は中級程度である。しかし、既にロストした魔法なので知る人は殆ど居ない。


「因みにここに代行者の反応はある? 」


 アイリスが作った代行者――モモニクⅢを世界の異物として認識出来るリーンは首を振る。


「活動してないとよく分からないのです。でもこの国に居るのは間違いないのです! 」


「範囲広いな~」


 防衛システムであるモモニクⅢは基本的に活動しない。アリスティアに生命の危機が無ければ休眠状態で待機しているのだ。故に反応が鈍い。


「でもでも、この国良い国なのですよ。精霊様がいっぱい居るのです! 他の国じゃもっと少ないのです」


「見当たらないんだよなぁ…」


 拓斗も勇者の力で顕現していない精霊も視認に出来るのだが、この国で精霊を目撃していない。


「それは拓斗を嫌って近寄らないだけなのです」


「嫌な理由だな」


 拓斗は精霊に嫌われているので近寄ってこないだけである。

 実際はアリスティアが稀に精霊王の力を使うので大陸中の精霊がアーランド目指して集まっているのだ。それらはアーランドにもしっかり影響を与えている。

 一例としては、農業の豊作などだ。土の精霊が大地を活性化させるし、風と水の精霊が水害や嵐が無いように独自に動いているし、火の精霊も少し暖かい気候を作っている。

 騎士がため息を吐くと、拓斗を謁見の間に再び案内する為に歩き出す。

 城内は異様としか言えない。隔壁と思われる物が天井に収納されていたり、監視カメラも多い。そして中庭には魔獣がたき火を囲んで盆踊りしている。近くには春祭りの為に芸を仕込んでいると看板が建っていた。


「あれは? 」


「ああ、わんこーずですね。姫様のペットです。

 春の祭りに向けて芸を仕込んでいるようです」


「高位の魔獣だと思うんですが……」


 拓斗から見ても、全て脅威に見える魔獣が盆踊りを踊っているのだ。


「心配ご無用です。姫様の使い魔であるクートの支配下にありますし、暴れても対処出来ますから」


 騎士は高位の魔獣を放し飼いにしてる事を心配してると勘違いしているようだ。

 拓斗もそういう国なのかと納得すると、謁見の間にたどり着いた。


「一応無礼な事は無いようにお願いします」


「分かってます」


「ではどうぞ」


 拓斗が謁見の間に入ると好奇の視線が向けられる。手の空いた貴族が集まっているようだ。当然のように壁際やギルバートの周囲にも騎士が配置されているが、その騎士達の練度は高く、拓斗でもギルバートを暗殺するのは難しいだろう。


「よくぞ我が国を頼られたと言っておこう」


「出来れば保護して頂きたい人たちが居ます」


 拓斗は頭を下げる。


「無論構わんよ。但し条件がある」


 拓斗は頭を下げたまま顔を強張らせる。

 それは異世界人の強さだ。平均しても魔力も身体能力もこの世界の人間より高いのだ。


「それは軍に入れと言う事ですか? 」


 その言葉にギルバートが噴き出す。むっとした表情になる拓斗。


「いや、君達がどういう扱いをされてきたか良く分かった。しかし、軍に入るのならば王国に忠誠を誓う事が最低条件だ。

 無理やり軍に入れてもいざと言う時に裏切る者は要らん」


 その言葉に多くの騎士が頷く。


「では条件とは? 」


「仲間になる事だ。

 我々は仲間を絶対に見捨てない。無論無能な奴は例外だがな。いや、無能であり、仲間の足を引っ張る屑と言うべきか。本人の才能が低くても上手く仕事をする奴もいるからな。

 君達に何かを強制はしない。この国で好きに暮らして構わない。しかし、有能であれば、我々は中央が何を言っても君達を引き渡す事は無いだろう。実力を示すが良い」


「なんでも良いんですか? 」


「構わんよ。冒険者でも商人でも大工でも構わんさ。この国が好きになってもらえれば助ける意味はあるだろう? 」


 拓斗は他の国とはこうも違うのかと感心した。中央の国家では異世界人は都合の良い道具でしかない。人として扱われないのだ。

 アーランドは異世界人に無理やり何かをさせるつもりはないと理解して拓斗はようやく安心した。

 そして求めていた事を、ずっと探している人の事を聞く。


「ありがとうございます。それと、自分は一人の人を探しているのですが」


「他の異世界人か? ん~数人程、国で保護しているぞ」


「転生者です」


 その言葉にギルバートの顔が一瞬だけ歪む。しかし、一瞬で元に戻った。


「……転生者か。それが実在するのならば探すのは容易ではないぞ」


「その娘は自分を偽る事が出来ないので直ぐに分かるはずです。その人の名前はアイリス。

 アイリス・フィールドです。そして科学者です。これの意味が貴方には分かるのではありませんか? 」


 その言葉にギルバートが本格的に驚愕した。その条件がピッタリ合う人物がギルバートの脳内でサムズアップしている。


「この国には俺の世界の技術が多大に使われています。機材も人員も無いこの世界でそれらを可能とする人物を俺は一人しか知りません」


 その言葉に周囲の貴族達も拓斗が何を言ってるのか理解出来た。

 それは納得の出来る情報だ。アリスティアの前世が異世界人なら…異世界で名をはせた科学者であるならば、アリスティアの非常識っぷりに説明がつく。

 しかし、断固として認められない人達も居る。一人の貴族が拓斗に問いかける。


「つまり我が国の姫が転生者であると言うのか? 」


「もしくはそれに近しい人物がそうなのではないかとこの国を訪ねました」


 アリスティアの近くにそんな人物は居ない事を全員が理解している。しかし…


「あり得ん、仮に姫様に前世が有ったとしても、天使であった筈だ! つまり君の理論は最初から破綻している! 」


 その男は似合わないロン毛であった。

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