187 魔法王国からの使者 後編
頑張ったら長くなりました。
彼は言ってはならない事を言ってしまった。アーランドは寛容だ。如何に無礼千万な輩でも他国の使者に無礼は働かない。しかし己の認めた主を侮辱する事は絶対に許さない。
ノーマンはアリスティアを盗人扱いした。してしまった。それだけで謁見の間に居る全ての人間が敵になる。
騎士達は舌で唇を舐める。どうやってこの痴れ者を無残に残酷に殺そうか思案している。貴族はどういう拷問を行うか考えていた。そしてアリスティア分身は木箱を被りながら壁を歩いて天井を目指していた。
「何だ? 我が国から盗んだ技術を返せと言うのがそれ程可笑しな事なのか? 身の程も知らずに他人の研究を盗む事すら恥じる事も出来ないのか」
その言葉が終わった時、ノーマンの首筋には幾つもの剣が突きつけられる。20を超える結界魔導具が発生させた全ての結界を当たり前のように貫いて。
何故ノーマンがこの場に居れるのか分かっていなかった。如何に魔導師と言えど、この場は騎士の領域だ。詠唱も無詠唱も許さずにノーマンを殺す事など造作もない。この場に居るのはアーランドの精鋭なのだ。精鋭以外の騎士は城にはいない。王宮勤めの騎士とはそれほどの実力者なのだ。
当然全てはアリスティアを守るためだ。時代を変える異端児を全ての害悪から守る為に王宮は精鋭の騎士しか居ない。尚、アリスティアの悪戯は彼等の実力を上回るので止める事は出来ない。如何に精鋭であろうとアリスティアは彼等の能力を元に悪戯の計画を立ててくるのだ。止める術がない。
「な、何の真似だ。私に掠り傷の一つでも作れば本国が」
「黙れ下郎。貴様が口を開くときは姫様を侮辱した事を懺悔するときだけだ」
ノーマンの額に汗が流れる。結界魔導具が20個もあれば何の問題も無いと思っていた。仮に問題があっても詠唱か無詠唱で周りの騎士達をせん滅するのは容易である筈だった。
ノーマンにとって生まれて初めての屈辱だ。風の一族と言われるフォード家の当主である自分が指先一つも動かせなかった。彼の命は最初からアーランドが握っていたのだと。そして分身は天井で何やら操作盤を弄ると、ギルバートの背後の壁が動きだす。慌てた騎士がギルバートの背後に回り守護するが、天井から壁を伝い降りてきた木箱がのそのそと動いた壁に向かう。
それを呆れ顔のギルバートが木箱を持ち上げる。流石に気が付いたようだ。
「何をしているんだい? 」
「私の完璧な偽装を見破るとは……流石お兄様鬼畜太子の名は伊達じゃない」
「鬼畜じゃなくても気が付くからね」
馬鹿な! と言うように分身が驚愕する。やはり木箱では駄目なのだ。眼帯付けたおっさんも段ボールを称賛している。つまり木箱ではなく段ボールを作るべきだったと分身は考えた。
「それで、今忙しいんだけど何してるのかな? 」
ギルバートの問いにアリスティア分身は子犬サイズの魔獣を持ち上げる。一見可愛らしい子犬に見えるが、実際は危険極まりない高位の魔獣だ。しかし腰の辺りが剥げていた。
「この子喧嘩に負けて禿げちゃったの。だから城の何処かにある救急箱に入れっぱなしの育毛剤を探してるの。
作った奴は全部オストランドの王様にあげちゃったから」
アリスティアのペットであるわんこーずは序列制だ。そして序列は強さで変動する。つまりこの一見子犬のような魔獣は負けて序列が下がったのだ。そしてストレス性の禿げが出た。
このアリスティア分身は魔獣の管理を担当しているので治療薬を探し回っていたのだ。何せ城中にいざと言う時の救急箱が隠されている。但し、何を入れてるのかは本体も把握していないのだ。適当に気まぐれで薬品を仕舞ってるので仕方ない。
アリスティア分身は躊躇いくなく育毛剤(生命の秘薬)を魔獣に使う。すると禿げは無くなりモフモフが戻ってくる。そして魔法の櫛で復活したモフモフを更に昇華させる。育毛剤で生えた毛は普通の状態だ。だから魔法の櫛で最高の毛皮にしてしまうのだ。
その光景に獣人はため息を吐く。自分たちにとっては秘宝である魔法の櫛が魔獣に使われているのだ。ちょっと勿体ないと思った。
普人は何故魔獣にその秘薬を使うのか! と涙を流していた。
「それで何の騒ぎ? 」
「君を魔法王国に引き渡せって言われてるだけだよ。無論渡す気はないけどね」
「お前が我が国の技術を盗んだ大罪人か。我が国に同行して貰うぞ」
アリスティア分身は少し考える。本体にとって魔法王国へ行くことになんの利益があるのか検討しているのだ。
そして玉座の横にあるアリスティアの椅子に向かうと、背もたれの中に隠された大陸お菓子全集を取り出して魔法王国のお菓子を調べる。
「私が魔法王国に行くことは無い。だって食べたいお菓子無いし」
「旅行ではないぞ! 」
そう、魔法王国が盗まれたのは魔法技術ではない。お菓子のレシピであったのだ。暗部はアリスティアがアーランドに少しでも好感を抱く為に大陸中のお菓子を調べ、レシピを手に入れると王都のお菓子屋にばら撒いたのだ。当然大陸中のお菓子はアーランドで食べられる。つまりアリスティアは他国に興味を持たないのだ。
今では諜報員がお菓子屋の店員として多くの国で諜報活動を行っている。お菓子屋さんは隠れ蓑になるらしい。
「糞、どれだけ私を馬鹿にすれば気が済むのだ。私は風のフォード家の当主だぞ。外血の魔術師風情がいい気になるなよ! 」
「子供みたいな言い分。それとその家知らないよ」
アリスティア分身はギルバートを見る。
「まあ風魔法の使い手の家柄だね」
「ふふん、私の方が凄い魔法使いだから問題ない。クート君を見れば一目瞭然」
クートの何を見ればアリスティアが魔法使いとして優れているのか不明だが、無駄に自信たっぷりであった。
「き、貴様……」
「面倒だから決闘で決着をつける。私だって忙しい。次はにゃんこ達の検診があるんだから」
アリスティアは面倒が嫌いだ。決闘は良いぞ。勝てば全てが終わりだ。直ぐに終わる。
「上等だ。貴様の伸びきった鼻をへし折ってやる」
完全に理性を失ったノーマンは杖を握りしめて叫ぶ。純血の魔導師であり、風の一族の当主である自分をここまでコケにしたのだ。アリスティアが如何に驕り高ぶっているか見せつけなければならない。
そして場の全員が青ざめた。負けたらアリスティアが魔法王国に奪われるのだ。しかしアリスティアがギルバートに耳打ちする。
「私は約束したが本体が行くとは言っていない。私は魔法王国に着く前に消えちゃうからリスクは無い」
そう、これはあくまでアリスティア分身が言い出した事だ。本体は今頃ケーキを頬張っている。
その言葉にギルバートは少し反発した。
「魔法王国に行くくらいなら私のものになるんだ」
「お兄様は、お兄様枠だから無理」
懲りないシスコンはこうして撃沈した。そして決闘のルールを決めている間に他の貴族に裏事情を話すと全員が一応の納得をした。この決闘に負けてもアリスティアを失う事は無いのだ。それと面倒だからさっさと帰って欲しくなった。
アーランドは直接魔法王国との交流が無い。これ程傲慢な国である事を余り理解していなかった。ギルバートも報告は聞いていたが、まさか謁見の間での無礼千万な物言いをするほどの馬鹿だとは思ってなかったのだ。次から入国拒否だなとギルバートは心に決めた。
ルールは簡単だ。殺さなければ何でもOK。使い魔を使おうが魔導具を使おうが自由である。
そしてアリスティア分身は本体との交渉の末にわんこーずのNo2タイタンを使い魔として呼んだ。クートは貸し出してくれなかったのだ。それと宝物庫の鍵を借りる事に成功。
その鍵がチート満載の物を収容した悪魔の鍵である事は誰も知らない。既に宝物庫の中にアリスティアの秘密軍事工場が作られ、ゴーレムが兵器生産を行っているのだ。
「私が勝ったら魔導師を名乗れそう」
「……そうだね」
ギルバートが呆れ顔で同意する。勝てばアリスティアは魔導師に相応しい。
最も今まで魔導師じゃなかったのは年齢もあるが、これ以上結婚の申し入れが入ると面倒だからだ。アリスティアの性格上、いきなりコイツと結婚すると言い出す可能性も否定できないので仕方ない。
「ふん、魔獣か。しかし私の使い魔は地を這う獣では勝ち目のないぞ」
ノーマンが詠唱を行う。地面に魔法陣が現れ、そこから一匹のドラゴンが出てくる。彼はプライドの高いドラゴンをテイムしているのだ。これだけでノーマンが優れた魔法使いである事の証明だ。最もドラゴンは新生竜から成体竜になり古竜神竜へと分けられているが、ノーマンのテイムしたドラゴンは生後100年程の新生竜だ。
それを見たアリスティア分身は鼻で笑う。今頃本体の横で肉を食べてる暴食竜に比べれば雑魚に等しい。そしてヘリオスを知ってる貴族や騎士も同じように鼻で笑っていた。
「タイタン、クート君の副官である君の強さを見せてほしい」
「ウォン」
重々しく鳴くタイタン。その体が急速に膨れ上がる。その本来の姿を見せるのだ。
それは全長10mを超える巨狼であった。体中に傷跡が残り、歴戦の獣だ。そしてその身から溢れる王者の風格は新生竜を怯えさせる。
新生竜は風竜だ。名前をリーフと言う。雄である。彼からしたら最悪の展開だ。主の呼びかけに応じて出てこれば、目の前にどう足掻いても勝ち目のない獣が佇んでいる。
だが、リーフもノーマンにも勝てるという確信があった。リーフ一匹なら蹂躙されるだろう。しかし主であるノーマンは風属性の魔法の使い手だ。自身の力は相乗的に強化される。そして空へ飛び立てば自身の領域だ。目の前の恐ろしい獣は飛べる様子は無い。
「始め! 」
一人の騎士が開始を告げる。ノーマンはリーフに飛ぶように命じる。
リーフが周囲に爆風をまき散らして空に飛びあがる。ノーマンの補助を得て行き成り上空に飛んだのだ。しかしリーフが見たのは自身の顔に到達する爪だった。
リーフが飛んだ時、既にタイタンはジャンプしていた。余りに一瞬の出来事だ。リーフもノーマンも気が付かなかった。そしてタイタンの犬パンチがリーフの顔に当たった瞬間にリーフは頭部を吹き飛ばされ即死した。
行き成り地面に落下し始めたリーフに驚きながらもノーマンは平然と風を纏って降りてくる。そして自身の使い魔が瞬殺された事を理解した。
「馬鹿な! 」
タイタンは死んだリーフの足を銜えると木陰に持っていく。そして聞こえる咀嚼音。おやつ感覚であった。
そしてタイタンはアリスティア分身との契約が終了。決闘の為と言うより、ノーマンの使い魔対策で呼んだだけだ。因みに「珍しい魔物食べたくない? 」と呼んだだけなので、もう戦力にはならない。アリスティア分身は主認定されていないのだ。あくまで分身は尊重されているだけ。
「そんな弱っちいドラゴンじゃタイタンの敵じゃない」
「舐めやがって! 」
ノーマンの杖には風刃と言うウィンドカッターの上位版の魔法が封入されている。それを即座にアリスティア分身に放つ。慢心してるアリスティア分身は対処できずに首を刎ねられる。
「へ? 」
流石のノーマンも驚いた。一切防御を取らなかったのだ。宙を舞うアリスティア分身の頭部を体が掴むと首に乗せる。血は流れていない上に直ぐに繋がった。
流石に周囲の全員が口を開いてポカーンとしている。
アリスティア分身はそれをキョロキョロと見渡すと、慌ててポケットをまさぐると一枚のメダルを取り出す。
「こ、このクート君メダルが無かったら即死だった」
「嘘をつくな! 」
どう見ても唯のメダルであり魔法は込められていない。コインの表面には狼の頭が刻印されている。因みにモデルは真剣な顔をしたクートである。これが100年後にアーランド通貨になるのは別の話だ。
実を言うと分身は首を落された程度では消えないだけだ。生物ではなく存在自体が魔法なので仕方ないとしか言えない。
余りに周囲がドン引きしてるのでアリスティア分身はさっさと終わらせる事を決断する。
「今度はこっちの番」
【クイック・ドロー】で幾つもの発煙筒を取り出すとポイポイ投げ出すアリスティア分身。ノーマンは当たり前のように風魔法で払おうとするが、周囲に結界が張られ煙の逃げ場がない。ノーマンは即座に探知系の魔法を使うが、それは悪手だった。生体を探す魔法を使ったのだ。当然それではアリスティア分身は反応しない。直ぐに魔力探知の索敵を行うべきであった。しかし魔力探知は誤魔化す方法が多い。だからノーマンは生体探知を使ったのだ。それが仇となった。
暫くするとパラパラと言う轟音が響き出す。そして結界が解除されると風が吹き荒れ煙を吹き飛ばした。
「……何だ…なんだそれは! 」
「私の作った試作品。正確に言うと他の私が作っただけどね」
スピーカーから響くアリスティア分身の大音量の声が周囲に響く。
アリスティア分身はアパッチに載っていた。前方の操縦手はマリオネットのような人形だ。ゴーレムよりも細かい操作が得意な傀儡術で機体を操作し、分身が射撃手の席に載っていた。
「さっきはそっちが飛んだから、次は私が飛ぶ番だよファイヤー! 」
機体下の丸い筒が幾つもついた20㎜ガトリングガンが回転を始める。ノーマンは本能で、それが死を招く咆哮だと気が付いた。全ての魔力を込めて結界魔導具を起動。更に自身が張れる最硬の結界を張るが、同時に結界が軋む音が響く。
「クソが! 」
結界を発生させている魔導具が一つずつ砕けていく。負荷に耐えきれないのだ。結界を作る魔導具は過剰な負荷で破壊されてしまう特性がある。ある程度の負荷が掛かれば自動でオーバーヒートを避ける為に機能を停止させる事も可能だが、ノーマンはそれを選ばない。いや、選べない。この場でそんな事をすれば待っているのは死だ。
そして最後の魔導具が砕けると一気に負荷がノーマンに掛かる。
「こんな……こんな筈では」
ノーマンにとってこれは簡単な話だった。蛮族の収める蛮国へ赴き、王女の身柄を引き取るだけだ。その後は自分の弟子にすれば自分の権力が強まり、大魔導士への道も開けるかもしれない。
魔法王国は大魔導士を神聖視している(エイボンの存在は否定されている)故に大魔導士になるのは恐ろしいまでに高度な基準があるのだ。それこそ未だに魔法王国から大魔導士が生まれない程だ。
大魔導士は魔法使いが至る極致だ。大魔導士になるには、最低でも3か国が同意しなければならないが、大陸中に魔導具を供給する魔法王国にとって造作もない事なのに大魔導士が存在しないのは魔法王国が大魔導士の名声をそれだけ神聖視してる証拠である。
たかが魔法後進国の魔術師でしかないアリスティア。自身は魔法の本家本流である魔法王国の純血の魔導師。自分が命令すれば王女は跪きながら涙を流してついてくる筈だった。しかし実情は違う。食べたいお菓子が存在しないと無下にされ、実力では敵わない。
魔法王国でも属性持ちのドラゴンを従えているのは彼だけだ。いや、大陸でも自分だけの筈だった。風竜のリーフと風の魔法の使い手の自分が揃えば負ける訳がない。彼はリーフと組む事で第一位魔導師の1席に匹敵する実力を出せる。それなのにリーフは視界の端で食べられている。自身はまるで魔法を使う価値も無いとばかりに謎の魔導兵器に蹂躙されている。
屈辱だった。目の前の王女は自分なんて興味のかけらも持っていない。邪魔だから排除する。目の前を飛ぶハエを追い払うが如く。
そしてノーマンはついに魔力が尽きて倒れた。
「私の大勝利! やっぱり私が大魔導士になってお母さまとマダムの脅威から逃れられるんだ」
薄れゆく意識の中でノーマンは確かに聞いた。
「そんな……事で大魔導士を……望む者が……居たのか」
多くの魔法使いが望む極致をそんな理由で求める変わり者が居た事に呆れながらノーマンは気絶した。
それと同時にヘリ内部でアラームが鳴り響く。機体が突如安定を失い後ろのテイルローターが弾け飛ぶとアパッチは墜落する。しかしアリスティア分身は平然と出てくる。燃料は化石燃料を用いていないので爆発する危険は少ないのだ。
「……本体だったら死んでたかも知れない。でもこれを壊したってことは……」
騎士がアリスティアの勝利を告げ、ノーマンの弟子達が驚きの声を上げる時、奴らはやってくる。
ピッピッピと笛を流しながら歩いてくるは騎士の恰好をしたアリスティアの他の分身達。先頭には付け髭を付けた裁判官のようなアリスティア分身。
付け髭を付けたアリスティア分身は決闘に勝利した分身の前に来ると丸められた羊皮紙を広げて告げる。
「汝を試験中の試作機を大破させた罪で拘束する」
「あれを作るのに24時間も掛かったのに勝手に持ち出した死刑! 」
「あれを壊した死刑! 」
勝手に試作品を持ち出した分身を騎士の恰好をした分身が両脇から拘束して連れていく。
「あらあら逃がさないわよ」
「総員撤退! 」
あっけらかんとしている現場から試作品を持ち出した分身を連行しようとする時、散歩していたシルビアが爆音に釣られて現れる。分身達は蜘蛛の子を散らすように逃げ去った。
「また変な物を作っていたか」
呆れるギルバートと、あのヘリを量産された時の軍事費の増加に顔を青ざめる財務大臣だった。今は大丈夫だ。ヘリまで量産してるとアリスティアのキャパステーが大変な事になる。明日は保証しない。
その後城中の抜け道を用いてアリスティア分身が逃げきったので、何も知らずに上機嫌でケーキを頬張っていた本体が怒られるというとばっちりが発生したが些事なので省くとしよう。
ノーマンが目を覚ましたのは王城から追い出された馬車の中だ。既に今後使者の受け入れは行わず、今後魔法王国の人間は入国拒否だと弟子達に伝えられていた。
流石の弟子達もノーマンがなすすべなく返り討ちにされた事で意気消沈しており、無駄な争いは起こらなかった。
ノーマンは少し冷静だった。幼い少女に負けた事実はノーマンを冷静にさせた。そして、それはノーマンの視野を広くさせた。
冷静に馬車の外を眺める。多くの魔導具を用いて魔法も使えない人間が楽しそうに己の仕事を全うしている。
「恥じ入る気持ちだな。我が国は間違った事を発表していたようだ」
ノーマンはアリスティアが魔法王国から技術を盗んでいない事を理解出来た。あの魔導兵器とも言える魔導具は魔法王国には存在しないのだ。そして魔法王国では作れない。それ程の技術の結晶だった。大破した事を知ったら失神するだろう。
そして如何に自分達が傲慢になっていたか理解してしまった。
「師よ……」
「魔法王国は魔法使いの保護から始まった国だ。戦争に道具として利用される同胞を保護し、我等魔法使いの国を作ろう。それが始まりだった筈だ。何処で間違ったのだろうか」
馬車の外にはかつて魔法使い達が夢見た世界が有った。ローブを着た魔法使いがドワーフと肩を組みながら笑いあっている。魔法王国では見られない光景だ。
魔法王国では魔法使いに向けられる視線は恐怖と畏怖。自身に害が及ばないように視線を合わせる非魔法使い達。
未だ混乱する弟子を落ち着けると彼は帰途に就く。もう暫くこの国を見たかったが、アリスティアを盗人呼ばわりしたノーマン達を泊める宿は無い。全ての宿で断られた。そして自分達に向けられるのは憎悪の視線だ。
ノーマンは帰国後、魔法王国は変わるべきだと主張し……………危険思想につき粛清された。
魔法王国は変わらなかった。そしてアーランドに対し、魔導具の禁輸措置を取った。解除条件はアリスティアの引き渡しである。
これは魔法王国の常套手段だ。魔導具の一大生産国である魔法王国に逆らえば魔導具の禁輸が待っている。しかし、それを国境で告げられた(入国拒否されたので入国できなかった)アーランド側は鼻で笑うだけだった。過去は第三国を通して密輸していたが、既に輸入していないのだ。
これに激怒した魔法王はアーランドの同盟国にも禁輸措置を取ったが、同じく鼻で笑われた。品質・価格・性能全てにおいてアーランド製の魔導具が上回っているのだ。更に生産性もずば抜けている。今更高いだけの魔導具に用は無い。




