18 君の名は
戦いはあっけなく始まった。多分アリシアさんを危険視したのだろう。だってアリシアさんしか狙って無い。だけどアリシアさんには当たらない、当然だろう。だって攻撃対象にするとアリシアさんは消えるからねいくら早い攻撃でも攻撃をする態勢を取った瞬間にアリシアさんは隠形で居なくなる。これでは攻撃を当てる事など出来ないだろう。
「遅いですね。その程度の攻撃を避けるなど造作もありません。お嬢様‼見てますか?私の方が強いですよ」
余裕だねこっちを見ながら銀狼の切り裂きや噛みつきを避けてる。ブラッドウルフは何処行ったって?私とアリシアさんにより殲滅済みです。何やら国に居たゴブリンより弱く感じます。
「余所見してると怪我するよ」
「このくらい騎士の訓練より優しいですよ?おっと、考えましたね。でもまだまだ私に当てるには程遠いですよ」
直線的な動きを辞め牙と爪で連携を取り始めた銀狼。でもアリシアさんには当たらない。スピードは変わらないようだけど技術かな?アリシアさんの方が洗練された動きで躱してる。銀狼に攻撃しないのは私に配慮してるのだろう。
「こっちは全然当たらない…アリシアさんの回避性能を信頼して一緒に燃やしてみようかな」
「お止めください。尻尾が燃えてしまいます」
「さっきのは無し‼」
危うく世界の至宝を燃やす所だった。余りに避けられるから頭に血が上ってたんだろう、少し頭を冷やさないと…ん?何で私は燃やす事しか考えて無かったんでしょうね?火魔法以外も使えるんでした。
「アリシアさんは離れて‼【ウォーターボール】【ファイヤーボール】」
私の出したいくつもの火と水の球体は2組1つで銀狼を囲む。銀狼は警戒すらしない。何故ならこの程度の魔法では傷つける事すら出来ないからだ。だがその慢心は死を招くと思うよ殺す気は無いけど。そして私の出した火球と水球は銀狼では無く互いにぶつかり合う。
銀狼を中心として激しい轟音が響く。爆風と閃光で前が見えないし、また力加減を間違えたみたいで予想以上の威力に成ってしまった。そのせいで私は現在、空の旅……ちょ!落ちる落ちてる!
「お嬢様って何も考えずに行動する事がありますよね…」
嗚呼差さようなら新しい人生…と諦めながら空中の旅を終えようとした私は地面に激突する寸前にアリシアさんにお姫様抱っこでキャッチされた‼助かったけど私はこの抱き方が嫌いだ‼お~ろ~し~て~
「っと!暴れないでください」
「ありがとう…でも降ろして~」
思考が子供だって?私は子供だ!何故か知らないがお母様以外に抱っこされるのが大嫌いなのだお父様なら少しは我慢出来るが例えアリシアさんでもお姫様抱っこは駄目‼バタバタ。
「降ろしますから落ち着いてください。よいしょっと。もう少し考えて魔法を使ってくださいよ危うく燃える所でしたよ。所でこの惨状は何でしょうか?使ったのは初級魔法ですよね?こんな威力になるほど魔力を込めたのですか?」
降ろしてくれたのは嬉しいけどようしょっとってまるで私が重いみたいな言い方…助けてくれたので文句は言いませんとも。でも確かに惨状と言えるだろう。騎士達からは少し離れてるのと咄嗟に防御態勢を取ったようで無傷ですが盗賊の人達は衝撃で転んでるし爆心地とも言える銀狼の居た場所は未だに煙をあげている。
「グルㇽㇽゥゥゥゥ」
ちょ!まだ元気ってどれだけ耐久力あるのさ‼ゲームで言うボスキャラじゃん。
「しつこい犬ですね。これだけの戦力差でまだ諦めませんか」
「硬すぎる。それに次は当たるか分からない」
あれは所詮奇を狙った技ですから魔物相手でも2度目が通じるか分からない。それに銀狼も今度はこっちを見てる。さっきのように避けるだけじゃなく私も脅威として排除する気なのだろう。でもこれで分かった。予想出来ない攻撃をすれば対処が出来ないんだね。ならばあれをやってみよう。
「【ラピットピット】×3…合成【兎の気持ち】&【プロテクト】」
ラピットピットは跳躍力の強化だ。それを3つ合成した魔法で兎の気持ちはラピットピットの限界突破版だ。プロテクトは着地方法が未だに無いので落ちても大丈夫だと言う力技…何をするかって?
「くらえ、ライダー的なキック!」
100mくらいジャンプしてから風の魔法で勢いをつけると急落下。プロテクトが失敗すると死ねる高さですがまあプロテクトだけは自信を持ってるので大丈夫だろう。ついでに土と火の精霊にお願いして私の靴に属性も付与してると言うオマケ付きのキックだ。まさに某ライダーキックと言えるだろう。やってるのが変身もしてない幼女だけどね。
「お嬢様~~~」
「ギャウン‼」
背骨を砕く勢いで落ちてきた私を銀狼は避けなかった。魔物の考えは分からないが銀狼が今まで戦ってきた人や魔物はこんな事しなかったのだろう。私だって2度目は勘弁してほしい。ノリと勢いだけでやったが怖かった…今後使う事も無い無駄魔法だろう。
「靴が壊れた~(泣)」
「あの高さから落ちれば当然でしょう…どうしましょう我が国の姫様はお転婆でした…私の知らない一面がいっぱいです」
「グスン…うぅ……」
靴が…お気に入りが…調子に乗りすぎた。何か戦ってて面白くなって調子に乗りすぎたんだ。だから私の靴が壊れちゃった。左の方だけ。
「っちょ‼落ち着いてくださいお嬢様、靴ならまだ予備とか持ってきてますから」
「これが良い…お気に入り…ぐす…」
涙が出そうです。自分が情けないよ勢いで戦うとか姫のやる事じゃなかったし大人しく馬車で待ってれば良かった。
「お嬢様。一体どうすれば…そうだ‼お嬢様、あっちに犬っころが居ますよペットにするのでは?もう動けないようです」
そうだった‼私が戦ったのは銀狼をペットにするためだった。靴は…仕方ない銀狼をペットする方が重要だ。銀狼は私が落ちてきた場所から動かない、背骨が逝ったのかな?まあ後で治療魔法で治せるから大丈夫‼魔物でも犬だからね私が主で偉いって実力を示しただけです。
私は銀狼の方に走っていく。少し離れた所に移動してたしね。私の足が遅いのは幼いからだ、決して運動不足では無い。ただ全力で走っても大人の早歩きくらいしか出ないだけだ
「私のペットになりなさい」
「グルゥゥゥゥゥ」
まだ諦めて無い銀狼は私を拒絶するように唸るが最初のような威圧感も無ければ前足すら動かす力も残って無い。
私は銀狼の目の前に杖を立てる。だってこれ威圧感とか有るらしいし偶に竜の装飾が動いて正直キモイ。見た目はカッコいいけど使うにはキモイ杖…何でこうなった‼
「グルゥゥゥゥゥ」
―ギャオォォォォ―
「キャイン‼」
「杖が唸った‼」
何これ?私こんなの使ってたのか全く気が付かなかったよ…地の精霊の悪戯か?とにかく怖すぎる。今まで唸った事なんてなかったよ。
「杖をこっちに投げないでください。陛下のように耐えれないんですから。それにその杖でしたらお嬢様が寝てる時とか偶に唸り声を出してますよ何時もの事ですから」
「何で教えてくれなかったの?私こんな怖い機能なんてつけて無い。うわ~ん」
泣きながらも杖は銀狼の前に突き刺しておく。だって銀狼はこれに怯えてるし私は泣いてるのでアリシアさんと馬車に戻る。もうヤダ…こんな怖い物と一緒に生活してたのか…
「お嬢様…あの尻尾触りますか?それともクッキーありますよ?」
「グス…どっちも貰う…」
もうヤダあの杖…怖すぎる…後で違うのを作ろう…でもあれを作った程の材料が無いや…とにかく落ち着こう。普段なら間違ってもお菓子を食べながらモフモフするなんて出来ないからね。
結局私が落ち着いたのは次の日…ええどうせ子供ですよ‼一晩寝たら持ち直し真下とも。泣き疲れてそのまま寝ちゃったようです。取りあえず身支度をして馬車を出ると銀狼は縛られてた。ありったけのロープでぐるぐる巻きで杖はそのまま。銀狼も杖と怪我のせいで抵抗も出来ないみたいです。
「死んじゃったかと思ってた」
「恐ろしいくらいの生命力ですね。あの傷で死なないとは」
取りあえずロープを解いてもらう。銀狼は既に抵抗するつもりは無いけどロープを解くと騎士達が私の周りで抜刀してるね。
「もう一度言うけど私のペットになりなさい」
「……」
銀狼は返事もせずに私を見てる。するとまた杖が唸った。怖いから捨てたくなるね。取りあえずアリシアさんに抱き付こう。杖が唸ると銀狼は耳をペタンと垂れ頭を下げた…きっとOKって事だよねじゃあ契約しなきゃね。
契約は捕獲した魔物や原生生物と人との繋がりを作る事でこれを行うと町に入れても大丈夫になる。方法は簡単で魔物や動物を屈服させ自分の魔力を食べさせるだけだ。
「これ…これを食べて」
魔力を手に放出したら一気にブワーって出たのでやり直した。やはり魔力制御は難しい。
「わふ」
パクんと私のてのひらの上に浮いてる魔力を銀狼は食べました。すると額に紋章が出てきたので契約は完了でしょう。後は名付けで完了です。
「じゃあ君の名前はね……」




