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178 ポンポコ

 アリスティアがオストランドで盛大に魔物を駆逐して荒稼ぎしている時、ポンポコは己の職務を全うしていた。

 彼にもそれなりにプライドがある。ポンポコは副王商会発足時の営業で本職でないアリスティアに負けたのだがどうしても解せなかった。

 自分は生まれながらの商人だ。一方アリスティアは生まれながらの王族だ。故に商売と言う土俵では自分が勝者であるべきなのだ。出なければ己の人生が無駄だと言える。

 彼は無能ではない。代々受け継いだ商会は彼の代で規模を3倍程まで広げた。最も息子に裏切られるというポンポコも予想だにしない出来事があっただけだ。

 彼も商会を継がない息子にそれなりに配慮して、支店の番頭等にする事を決めていた。彼の理念にそぐわない息子でも手塩にかけて育てた商人だからだ。しかし裏切った。

 現在彼の息子はロイを除いて行商人からやり直している。一切の援助は無い。死なないだけマシな処罰だ。

 最もポンポコは気にしない。彼らは彼らでそれなりに成功を収める商人になると確信してるからだ。

 息子の心配をしながらもポンポコはとある貴族領に来ていた。相手はそこの領主だ。

 彼がここに居るのも理由がある。ここの領主はアリスティア側ではないのだ。

 敵ではない。下手にアリスティアに敵対すると周囲の貴族に嫌われるからだ。しかし、彼の領地はそれなりの職人を抱えている。彼はこの地に魔導具の部品を作る工場を作る交渉に来たのだ。

 彼は工場の設置に伴う税収の増加と雇用の増加を説明する。予想される環境の悪化と、アリスティアが作り出した対応策を説明するとあっさり許可が出た。何処の領主も税収が増えるのを嫌う事は無い。


「では今後もよろしくお願いします」


「うむ」


 彼は熟練の商人だ。大規模な工場を作れば魔導具は値下がりし、国民に普及する。それだけで利益は莫大だ。彼は砂糖を貴族や豪商の趣向品から国民の趣向品にすることで莫大な利益を上げた商人である。その経験は無駄ではなかった。

 そしてアリスティアは彼にとって最高の主だ。自身と同じ理念を持っている。彼は砂糖は庶民に広まるべきだと考えた。アリスティアは魔導具は庶民に広まるべきだと考えた。同じベクトルの人間だ。

 そしてポンポコはアリスティアから膨大な利権を預かっている。それは資金だけではない。アリスティアの部下と言う身分はアーランドで商売するには最高の称号のような物だ。誰でも彼の話を無下に出来ない。

 彼はそれを上手く使ってアリスティアに迎合しない貴族を囲い込もうとしている。副王商会連合に利益を出しながら、中立貴族の領地に工場を建て、彼らに税収増加と言う恩を売る。

 アリスティアは基本的に甘い。特に身内には一切警戒心を持たない。しかし貴族とは難しい生き物だ。そして貴族社会は魔窟だ。アリスティアが困難に直面した時、彼らがアリスティアを支えてくれるように陰からアリスティアの味方を増やしているのだ。無論利益を出しながらである。出来る商人はそこら辺を両立出来るのだ。

 更にアリスティアから齎された技術は魅力的だ。特にポンポコを熱狂させたのは建設機械だ。今までにない効率的な工事が出来、少数だが生産も始めてるし、既にアリスティア監修の大規模工場の建設も始まっている。


「しかし魔導炉とは便利ですね。

 アレがあれば魔導具が使いたい放題……国民から魔力使用料を取ることで国にも利益を送れる。既に王宮には姫様に仇なす者はそれほど残っていないでしょう」


 既に貴族領の領都と呼ばれる都市にも魔導炉を設置する事が決まっている。国民にはまだ知らされない情報もポンポコは知っているのだ。お陰でポンポコから情報を得ようとする愚か者も多い。

 しかし命を救われたポンポコのアリスティアへの忠誠心は裏切りと言う言葉が存在しないほど強い。

 だからアリスティアの邪魔をする貴族を減らすためにポンポコが動いているのだ。

 副王商会連合の規模も急激に大きくなっている。傘下に収めた商会も毎月のように増えている。しかし、中小商会を先に傘下に収めた関係で、貴族を相手に出来る商人が少ないのがネックだ。

 しかし大商会も既に副王商会連合と業務提携を行う事を決めている。副王商会連合は既に魔導具産業を興した。つまり産業革命だ。それを乗り切る為に国中の商会は改革を求められた。

 効率的な産業は雇用を奪い、暴動を引き起こしたイギリス発の産業革命。アリスティアは同時に公共事業。それも国中を巻き込んだ大規模な公共事業を発令させた。

 潰れた商会もそれなりに出ている。しかし台頭する商会も多い。

 更に商会が潰れると大手商会の採用担当者が揉み手で現れる程人手不足だ。

 アリスティアパレードは失業者を量産するのではなく、景気が良すぎて人手不足を引き起こした。現在の商会の悩みは人だ。人が足りないのだ。

 なのにアリスティアはポンポン発明品を生み出し、それの生産工場を設置し、大規模に生産せよと命じてくる。


「別に構いませんよ。でも自重を覚えて頂きたい」


 彼は無表情で呟いた。建設機械の製造に熱中してるのも、これのせいだ。少しでも工場建設を効率化して、人材を他の部分に回したいのだ。それと工場作りすぎて副王商会連合の資産がマッハで溶けていく。尚、同速で補充される模様。

 アリスティアの個人資産は本人が把握してないだけですさまじいのだ。同盟国でも今世紀最大の散財だと噂されるほどである。多くの資金を王国に流して尚、アリスティアの資産は増え続けているのだ。発明し過ぎである。

 さらに国防と経済的事情で王都以外の各領都にも工場を建てている。王都だけに建てると貴族の嫉妬もそうだが、自然災害や戦火等でダメージを受けたら、それが経済の致命傷になるからだ。リスクの分散である。ポンポコはこれらを円滑に進めるために貴族領を回っているのだ。ついでに売れそうな名産品もしっかりチェックし、アリスティアへの甘味のお土産も忘れない。

 ポンポコは数日かけて王都の副王商会連合暫定本部である嘗ての自身の店に戻った。

 現在ここは本部としての機能しかなく、品物の販売はしていない。多くの商人達が慌ただしく走り回って己の職務を熟している。

 ポンポコは今月の採用者のリストを見る。直ぐに秘書に就任した元番頭を呼ぶ。


「人材採用の担当者を呼べ」


「かしこまりました」


 秘書は一礼すると部屋から出ていく。数分で一人の男が入ってきた。

 男の顔色は悪い。しきりに汗をハンカチで拭っていた。


「お、お呼びでしょうか」


「当然だろう! この数字は何だ。今月の採用者は120人程度ではないか! これでは全然足りん。工場の建設に道路や橋に鉄道、それ以外にも多くの仕事が有るんだぞ。最低でもこの倍は採用しなさい! 」


 机を叩くと採用担当の男が震え上がる。


「し、しかし他の商会も既に大規模な人員募集をかけ初めまして……」


「ならばもっといい条件を出せばよい。それでも十分利益が出せます。それと他の領地にも人を送り、人を集めなさい」


「分かりました。直ぐに人材確保部隊を作り、国中から人材を集めてまいります」


「最低でも1000人程集めるまでは戻ってこなくて良いですよ」


 ピクリと男の肩が動いたが一礼すると慌てて部屋から出て行った。ポンポコが1000人集めるまで戻ってくるなと言った以上は、それまで王都には帰れないのだ。

 その後彼は寝る間も惜しんで国中を駆け回り人員を集めるのだった。

 ポンポコは椅子の背もたれに背を預けると、一息吐く。

 気分転換に飴を舐めながら事業の現状を記す書類を見ると、思わずニヤリと笑った。副王商会連合の売り上げは毎月のように増え続けている。既に商会と言うより大企業だ。

 鉄道・道路・橋。主な仕事はそれだが、他にも各省庁として拡大された組織の建物も建設予定だ。今までは王城内に部署が存在したが、今後は専用の官舎が用意される。当然副王商会連合が建てるのだ。

 他にも学校が数十程建てられるし、病院もある。更に王都自体も拡張中だ。

 売り上げ爆上げで副王商会連合ではボーナスも出す予定だが、社員は忙しすぎて休みが欲しいと嘆くのだった。唯一の癒しは3時に休憩がある事だ。

 ポンポコも収益が下がると難色を示した3時のオヤツ法と言う社法(アリスティア命名の社内規則)は職員達の労働効率上昇に繋がっている。

 あらゆる分野に手を出せるのは必要な技術提供をアリスティアからされているからだ。技術的手法などを記された本が定期的に送られてくるので、それを研究させ、多くの技術者育成も始めている。

 全て用意された舞台で自分の手腕を如何なく発揮出来る現状にポンポコは大満足だ。自分の商会を失ったが、彼は更に大きな商売を行っている。

 暫く書類を見ながら悦に浸るとポンポコは部屋を出る。己のなすべき事は多い。唯でさえ癖の強い商人を纏めているのだ。自分が一番有能でなければ、今いる椅子は他の誰かに奪われるだろう。まずは最優先である動力塔と言う新王都外縁部に作られる塔の建設を視察しなければならない。ここが王都に魔力を供給するのだ。先に作らなければ、魔導具を動かす魔力が足りなくなる。


「私が姫様の2番目の家臣だ。これは絶対に誰も譲りませんよ。

 姫様に拾われた恩は絶対に返して見せます。姫様の名を大陸に刻みましょう。大陸一の投資家であると。

 このポンポコを拾った姫様は投資家としても天才である事を示して見せます。それが私に出来る忠誠の証です」


 一番はアリシアだ。だから自分はその次で良い。あの主従の間に入る程無粋ではない。しかし、2番目の家臣と言う座は絶対に自分が獲得する。

 自身が命の危機の時に拾い上げ、救ってくれたアリスティア。それが決して間違いではない事を証明する為にポンポコは副王商会連合を更に盛り立てる決意をたてる。

 だからだろうか。数十年後にポンポコはアーランドの経済に大革命を起こした主要メンバーの一人としてアーランドの経済史に名を遺すのだった。

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