177 騒動の終わり
決闘騒動から1週間程たった。私はオストランド内がゴタゴタしてるようなので、過労死寸前でゾンビのように働いてるお兄様と執務室で政務を行っている。
「あ~予算が増えたのは良いが、やりたい政策を続けると数年で使い尽くしそうだな。他に産業を考えようにもアリスが大々的に行ったしな。これ以上短期の輸入は勘弁してくれって同盟国から泣きが入ったよ」
お兄様が書類に判子を押しながらぼやく。確かに置き去りな政策は多く、予算が出来たから一気に大規模な改革をお兄様は反対派を抑え込みながら行ってるのは凄いよね。普通は利害関係で不可能じゃない? と言える政策も普通に行ってるからね。
ちなみに副王商会連合はこの度家庭用魔導具の販売が決まった。
主な商品は冷蔵庫・掃除機・照明・洗濯機・ラジオ・テレビだ。これらは魔晶石も魔玉も使われていない為に価格はそれほど高くない。つまり魔導炉を用いた都市のエネルギー環境が整い始めた結果だ。最も辺境の村に魔導炉は設置出来ないし、電線の代用品である魔力線も引けない。魔力に魔物が引き寄せられるためだ。
お兄様は村の防衛力を高めて大容量魔晶石を村に設置する予定だ。非効率的だが、魔物が存在する以上は仕方ない。
更に副王商会連合は腕輪シリーズの販売も開始している。
商品は癒者の腕輪だ。これはヒールなどの治療魔法を魔法使いが適正が無くても使えるお兄様にあげたライターモドキの同じ術式を使って作った物だ。
魔力コストもそれほど高くない。唯、使うには人体に関する深い知識があると効果が高いので神官や町医者に人気になった。魔晶石を埋め込んだ物なら魔法使い以外でも使えるからだ。ちょっと価格が上がるけどね。
次に躁者の腕輪(岩人形)だ。これはゴーレムを作って操れる。子供に護身用に持たせる親が多いらしい。
因みに貰った子供はゴーレムを用いてゴブリン退治で小銭を稼ぐのがブームだ。それとゴーレムバトルが流行ってるらしい。親の心は子供は理解しないらしい。
そして同盟国が泣いた。家庭用魔導具はエネルギー関係で輸出されていない。魔晶石と魔玉がついていないからだ。但し、腕輪シリーズは超欲しいらしい。特に癒者の腕輪は物凄い売り上げだ。
因みに私製の解体新書も売っている。出所を聞かれたが、地球で出てる解剖学の本から有用な物を抜き取った物だ。人体の構造は基本的に同じなので結構流用出来た。
まあ、それらの有用な商品がどんどん出るので、同盟国の国富が無くなりそうだと泣きつかれたのだ。最もお兄様はそこら辺でも配慮出来る人だ。同盟国で無名だが、アーランドに有益な物を探して輸入を増やす等を行っている。美術品の関連も相互貿易で互いに荒稼ぎだ。そこは和の国が盛大に稼いでるらしいけどね。兎に角貿易を活性化させて隠れた市場もハイエナの嗅覚で探し回ってお互いに儲けられる環境の構築を行っているのだ。そして、それと同時にアーランドでも改革を行ってるせいで過労死しそうな顔をしているのだ。
因みに副王商会での開発は主に私の分身達の仕業である。
更にお兄様の元で働いてる大臣達も死にそうな表情で働いている。分身達が作った物に関する法律や、急に増えた予算の仕分けに改革に伴う膨大な仕事を熟しているのだ。
「魔導炉でも輸出する? 」
「金が無いと泣きつかれてるのに、魔導炉を売りに出してみろ連中血の涙を流し始めるよ」
だよね~ついでにお父様がうっかり魔導炉を王都に設置してる事話して魔法王国から使者が私の身柄引き渡し要求してたらしいし。
最も事前連絡も無し&3時に来たので対応は分身が行った。決闘の結果私の魔導具が破壊されたけど、犯人の分身は逃走した後、何処に居るのか分からない。
ついでに私は聖女と呼ばれてるから身柄引き渡せって皇国からも使者が来たけど、敬虔なモフモフ教徒になって帰っていった。大陸中央にモフモフの教えを広める崇高な役目を彼は引き受けたのだ。
まあ、お父様がうっかり漏らしたのは家庭用魔導具の販売に国民が魔力どうすんねんって聞いた結果だ。どうせすぐに発覚するので問題ない。隠し通すより魔力使用料を国が取れるので国はウハウハ。国民は便利な魔導具が安く買えるし、使えるでウハウハの関係だ。第一中央に配慮とかする必要ないしね。
結果として魔法王国は常套手段である魔導具の輸出禁止令をアーランドと、その同盟国に出したが、アーランドも同盟国も好きにすればって鼻で笑ってるらしい。
事実アーランドはここ数年魔法王国から第三国を経由して魔導具を買うというルートを完全に閉じてるのでノーダメージだ。私製は魔法王国より安価で大量に作れるので不要な国である。
「じゃあどうする? 」
お兄様は少し考えるとため息を吐いた。
「どうしようもないな。アリスのように私まで冒険者をやったら官僚達が倒れるからな……既に何人か倒れているが。
こればっかりは仕方ない事さ。焦らずゆっくりとやっていくよ。どうせ税収は右肩上がりだからな。短期的に改革しすぎると余計な歪みも生まれるからな………ところでアリス。もう少し政務の負担を……待て逃げないでくれ! 」
私は自分の分の書類整理を終わらせるとダッシュで部屋から出る。部屋を出る時に宰相さんとすれ違った。
「殿下追加の書類にございます」
予想通りだ。このタイミングで執務室に近づくのは宰相さんくらいだ。それも大量の書類を持ってだ。執務室に残ってると私の仕事も増やされそうなので、今日の執務は終わりである。
執務室からお兄様の悲鳴が聞こえるが手助けはしない。だって宰相さんの視界に入ると仕事持ってこられるし。
私は自室に戻ると、分身達の研究成果を確認する。分身は私と繋がりのない自立型なので、基本的に何を作ったのかは報告書を出すことを厳命してるのだ。
「ふ~ん。何でA-10モドキまで作ってるのかねぇ。現場からの要請か。もしかしたら、他に転生者でも居るのかな? 実験部隊に異世界人居ないし。
他にも面白そうな物を作ってる」
どうも実験部隊から追加の開発要請も幾つか来てるね。
それと問題も幾つかある。まず狙撃部隊の育成が殆ど進んでいない。突撃大好きの脳筋部隊になってるようだ。指揮官にしっかり教育するように依頼しないと。
その関係上で結構な数の狙撃銃が余ってるのだとか。まあ不要だったらお兄様と協議してエルフに流そう。狩猟用にも転用できるし、エルフは狩猟民族だ。きっと役立ててくれる。
砲撃部隊と戦車部隊の育成はまあまあかな。戦闘機と爆撃機のパイロットの育成も進んでいる。但し一名何度も訓練機を落す問題児が居るのだとか……ってこの人が追加開発の要請出してるやつじゃん。
まあ、実験部隊だから数年間じっくり運用して経験と情報を収集して陸空の軍に広まるだろう。こう言うのは直ぐに変わるわけじゃないしね。銃も未だに信用しない人も居るし。
大体銃弾を跳ね返す人が多すぎなのが問題だ。お父様なんて7.72㎜弾の直撃を闘気だけで弾くし。腰に効きそうだから撃ってくれって言いだしてるぞ。
なので剣などを装備した騎士団も今後は残すのが王国の方針だ。寧ろ魔導具で武装を固めて今以上の精鋭化を行うらしい。嫌だよ砲弾が降り注ぐ戦場を普通に前進してくる騎士団とか怖すぎ。
「姫様、オストランドでの騒動も終わったそうです」
アリシアさんがノックの後に入ってくるとあの後の事を報告してくれた。
「まずウザル男爵と隠し子は修道院に送られるそうです。ウザル家はマリア夫人の叔父が家を継ぐそうです。マリア夫人は王国政府で面倒を見るそうですが、事実上の引き抜きでしょう。彼女自体はそれなりに有能そうですから。
それとガイエル公爵家は当主を次男に譲り、長男と元当主は隠居させられました」
まあ暫くマリア夫人も監視されるんだろうな。それでほとぼりが冷めたら役職でも持つのだろう。
それとガイエル公爵家の当主交代は次男が国王派に居るのでそっちを当てたようだ。つまり長男は駄目な貴族だったのだろう。次男よ頑張るが良い。失態が大きいので貴族社会ではさぞ肩身が狭いだろうが。
因みにあの私の偽物はガイエル公爵家の令嬢だったそうだ。信用と体格の関係上、私に扮することが出来るのがあの子しか居なかったそうだ。下手な者を使うと、そこから王国に発覚するので苦渋の決断なのだろう。最もヘリオスモドキは剛戦の異名を持つ元Aランク冒険者だったので負けるとは思ってなかったのだろう。ナメプの代償は大きい。
アリシアさんモドキはガイエル公爵家の暗部の人だったようだ。そして2人仲良く鉱山労働が決定している。
私に扮していたガイエル公爵家の令嬢も修道院に送られたらしい。最もこっちは普通の修道院だ。取り調べの結果、良く分かっていたない状況だったらしく、何で決闘になったのか分からず泣いていたのだとか。流石に無罪は無理なのでシスターになったらしい。まあシスターでも結婚出来る程、この世界のアーランド正教は緩いので問題ない。そう、オストランドもアーランド式の宗教に変わったのだ。
「続いて第5王子も連帯責任を問われ、春前に修道院に送られる模様です。流石に側妃も擁護出来ず、側妃自身も実家に送り返されました」
まあ第5王子がアホな派閥を作った結果だから仕方ない。冒険者達も調子に乗ってたしね。王族の後ろ盾があるとそれほど増長するのだ。私も気を付けよう。
「あっけなかったね」
「まあガイエル公爵家は王家と仲が悪いとアーランドにまで噂が来てましたからね。権力を使って無理やり娘を側妃に押し付けた後も外縁である事から散々邪魔をしてきていたのだでしょう」
まあ政略結婚までは良かったが、そこから更に調子に乗って王家の不信を持たれたのが運のつきだ。
「ついてはオストランド王から邪魔者の排除が出来たので助かったと非公式のお言葉を貰えました」
私はベットに飛び込む。最近忙しかったから少し休んでも罰は無いだろう。
もう直ぐ冬も終わり春が来る。オストランドの学園も春から再び開校する。シャロンちゃんとケーナちゃんには全然会えなかったが、春からはまた会える。
お兄様も学園に行くので執務は減るだろう。今はそれすらさせないと邪魔をする大臣達とお兄様が軽い激闘を繰り広げてるけどね。どういう結末になるかは分からない。大臣側が勝ったらお兄様は留学取り消しだろう。
私? 普通に学園に通うよ。留学じゃなくて通学になったけどね。王族専用航空機もしっかり準備したさ。パイロット候補の魔獣も実験部隊で現在勉強中だしね。
そして私は少しだけ温かみを増した日差しを窓から浴びながら昼寝に入った。
冬が終わり春が来た時、動乱の1年が始まることも知らずに今は休むのだった。
今章はこれで終わりです。
3月2日修正しました。




