175 決闘日和①
今年最後の更新です。皆さん良いお年を
私の偽物はどうやら裁判所でウザル家とは既に和解してるとほざいてるそうだ。
和解はしないよ? 善良な農民を傷つけるような貴族は貴族じゃないからね。悪政を働く為政者は排除するべきなんだよ。私も王族だからそこら辺は厳しく教育されてるから慈悲はない。
王様は宰相さんを下がらせると、裁判所に向かうようだ。小物相手。しかも有罪確定の事件だから普通に裁判所に任せていたが、偽物が出た以上は容赦しないらしい。
「と言うかホロウと和解してもアノンちゃんの不当な拘束で有罪なんじゃ」
「家にも圧力来てるんだよね。最近襲撃者多くて困っちゃうよ」
アノンちゃんは面倒だとため息を吐く。
「それでアノンちゃんの家の方針は? 」
「とりあえず襲撃者はボコボコにして公爵家の屋敷の外壁に張り付けた。家の拷問に耐えれる奴を送るべきだったね。公爵家も有罪だって」
「当然じゃ! 」
襲撃者の質低すぎじゃない?
アノンちゃんの家は格上の公爵家相手でも容赦はしないらしい。堂々と告訴したそうだ。
「第一家に圧力って無理だし」
「一応相手公爵でしょ? 」
「それを気にする親父じゃない」
アノンちゃんのお父さん軍のお偉いさんで不正滅殺派だから逆効果なのだとか。
とりあえず私は冒険者ホロウになって偽物退治に行こう。
「それが一番手っ取り早いのじゃが……アリスティア殿とホロウの関連性を疑われる恐れがあるのじゃが」
「じゃあ私は増えれば良いのですよ。開け宝物庫の扉」
「じゃじん! 私二号! 」
宝物庫の中に居る分身体をここに置いておけばアリバイは完璧だよ。
2人に増えた私に王様も空いた口が閉じないらしい。物凄い驚いている。
「アリスって双子だっけ? 」
アノンちゃんは分身の周りをぐるぐる回ったりして確認する。
「エイボンに教わった。あと双子はいない。宝物庫内で研究させるのに便利なんだよ。繋がってないから勝手に動くけど」
エイボンが増えるのは歴史書にも書かれてるから仕方ない。変態大魔導士増殖事件と言う本に書かれているよ。あれは嫌な事件だった。エイボン増えると碌なことがない。分身を管理しきれていない私もやらかしてるらしいが。
王様もエイボンがアーランドに居る事は知ってるし、多分エイボン関連の事は、エイボンがオストランドに置いてきた魔導炉を調べる過程で把握してるのだろう。あっという間に納得した。
「私を使役するにはお菓子が必要」
「そこにシュークリームあるよ」
アノンちゃんがテーブルの上のシュークリームを指さすと、分身は瞬時に椅子に座り、シュークリームを食べ始めた。それは私のだ。分身の分際で食べていい物じゃない。アーランドに帰ったら地下労働決定だね。ペリカも柿ピーも無しで働かせよう。
「アリシアさんは」
「姫様についていきます」
とりあえず私達はアリシアさんの隠蔽魔法で隠れて王都に出る。
裁判所は王城の外にあるので王様はアノンちゃんとついでに一緒に居る体の私(分身)が裁判所に向かう為に馬車で向かう。途中で王都を歩いていた冒険者ホロウを目撃したので確保して来たという事にしよう。
冒険者ホロウと王女アリスティアが同時に存在すればアリバイは完璧だ。どうもオストランド内でもホロウの正体が私じゃないかって噂はあるらしい。盛大に稼いでいたので貴族の話題にもなってるのだとか。
なのでアリバイ工作ですよ。アーランド内なら私が増えるのは有名だけど、証拠は無い。無いから問題ない。証拠も無しに憶測だけで王族は疑えないのだ。悪戯し放題である。ぐふふ。
「また悪だくみしてますね」
アリシアさんが邪念を感知した。
「心を読むのはいけないと思うんだ」
その後王都で串焼きを食べながら歩いている冒険者が国王に同行を求められる珍事件が発生した。
馬車に揺られて数分で裁判所に着いた。見た目は機能性重視の為か地味である。
多分裁判所の偉い人が汗を流しながら王様と少し話すと、そのまま裁判が行われている部屋へと案内された。
「アホらしい」
裁判が行われる部屋に入った私は盛大に呆れるだけだった。
部屋の形状は日本の裁判所に近い。そして証言台には狐の仮面をつけたちびっこがウザル家とは既に和解しており、告訴を取り下げたいと言っている。そのちびっこを見た瞬間、私の中に怒りが沸き上がる。
なんだその仮面は! 髭の模様の位置もおかしいし、色もくすんでいる。第一全体のバランスもおかしいよ。
それにヘリオスもどきも居るが、ヘリオスに着せてる鎧はそこまで実用品じゃないもん! ヘリオスはアホだからカッコいい鎧を着せてるんだよ。そんな普通の鎧は着せてない!
後アリシアさんモドキは駄目駄目だ。尻尾が美しくないし、狐族の獣人だ。アリシアさんは妖狐族である。最もハーフだし、魔法で狐族だと誤魔化してるけど、尻尾の美しさが足りない。大事な事なので2度言った。
「ホロウって変な処で沸点低いよね」
「アノンちゃんや、アレはアホな子なんだよ」
分身が余計な事を言うので、地下労働でも最も忙しい魔導戦艦建造員になる事が私の中で確定した。
裁判所もホロウが和解した事に困惑してるようで、裁判官達もざわついている。当然だ。これは有罪が確定している裁判なのだ。無罪はあり得ない。
しかもホロウ側に和解するメリットがない。無条件の和解を主張してるようだ。
「鎮まれ! その冒険者ホロウは偽物じゃ! 」
「へ、陛下! 」
裁判官達が王様の登場に驚く。
「本人はここに居る。それはウザル側が用意した偽物じゃ」
「陛下……冒険者ホロウは正体が分かりません。どちらが本人かは……」
ウザル側の弁護士が汗を流しながら弁明する。こっちを偽物にしたいようだ。しかし勝ち目がない事を悟ってるようで死人のような顔をしている。多分無理やり弁護させられているのだろう。
「ふん。そんな事を証明するのは簡単じゃ。冒険者ホロウは戦闘も熟せるが、治療魔法も一流じゃ」
そう言うと、王様は懐から出したナイフで自分の腕を切る。
「儂の腕を治療してみろ。これほど深い傷は簡単には癒せまい」
ちょ! 王様潔すぎじゃん。私は慌てて治療魔法で傷跡も残さずに治す。その様子に周囲が更に騒めく。普通王様が自分を傷つける事はしないし、私の治療魔法で治るのが早いからだろう。
私はアーランドの騎士団と仲が良い。その関係上城で鍛錬してる騎士たちをよく治療魔法で治してるので経験豊富なのだ。更に余り知られていないが、治療魔法は人体の構造を熟知してる魔法使い程効果が高い。
お年寄りの治療魔法の使い手が優秀なのも経験上人体の構造を知っているからだ。なのに解剖学が進んでいない疑問。やはり倫理観が邪魔をしてるのだろう。私もネズミを解剖しようとしたら物凄い怒られたことがある。地球と同じか気になるじゃん。
「……ふう。そなたらに同じ事が出来るのか? 」
汗を流しながら治療の終わった王様が偽物に問いかける。と言うかさぁ血管思いっ切り切れてたんだけど。気合い入れ過ぎだよ老体は労わらなくちゃ。
「陛下! 御体に障るのでその様な事は我々に命じてください! 」
ほら護衛の騎士が涙目になってるじゃん。
だがウザル側は諦めていなかった。
「しかし陛下。治療魔法の使い手は少ないですが、居ない事もありませぬ。彼女が本人だと断言出来ません」
ウザル元男爵。既にこの男は爵位が無いので元だが、多分私を探してたんだろうね。見つかるわけがないけど。
でも面倒だ。だから直ぐに終わらせる。どうせ仮面の下は王様しか知らない。王様を疑う事を不敬だと断じるのも簡単だが、私の紛い物は許せん。リスペクト精神も無いのだ。
「では簡単な方法で決めましょう。私は腕にも自信がありますし、こう見えてBランク冒険者です。この3人を一人で倒して見せます」
私の発言にウザル元男爵がニヤリと笑う。間違いなく適当な仮面を作らせて怒らせる事を考えていたのだろう。ちびっこに脅威はないが、アリシアさんモドキとヘリオスモドキはそれなりの実力を感じる。
しかし甘い。獣人は私に勝利する事が出来ない決定的な理由がある。そしてヘリオスモドキはどうとでもなるレベルの強者だ。お父様程威圧感を感じないからね。
私は王様を見る。王様はため息を吐いた後に面白そうに肯いた。面倒事だが面白いと思ったのだろう。
「では冒険者ホロウの真偽は決闘で決める事とする」
別に王家の威信で私が本物だと強引に認めさせるのも良いけど、他の貴族から疑問を持たれるのは良くないしね。冒険者ホロウの実力は少し調べれば分かるはずだ。私は一切隠してないからね。1パーティーで大規模クラン並みに稼いでいるのだ。つまり実力で判断できる。
しかし3体1だ。クート君モドキのウルフも居るらしいが、所詮ウルフなので数には入れていない。
さてヘリオスモドキを瞬殺して、アリシアさんモドキにモフモフの暗黒面を見せつけた後にちびっこを倒そう。
ウルフは適当に処理。どうせ魔法に巻き込まれるだろう。




