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172 そう上手く誤魔化せない②

 ギルバートがアリスティアの部屋に入るとアリスティアは部屋の床で積み木をしていた。

 それは美しい大聖堂のような建物であった。どうやったら積み木で作れるのか全く分からなかったが細かい積み木も使い精密に作られていた。

ギルバートはアリスティアから事情を聞き出そうとする。しかしアリスティアはめんどくさそうにな顔でのらりくらりと言い逃れを続ける。

 状況証拠では黒だ。しかし物証は無い。


(積み木をしていたのは本当だろうが、それは宝物庫に侵入した後なのか前なのか言っていないな。嘘では無いのだろう……と言うか言い逃れ可愛いな。部屋に持って帰ってはいけないのだろうか)


 ギルバートはアリスティアに萌えていた。しかし情報を聞きださなければならない。しかしアリスティアはのらりくらりと言い逃れる。挙句状況が悪いと悟るとベットに潜り込んだ。

 背後の騎士達が息をのみ、音をたてずに後ずさる。普段から過労と不眠の疲れでアリスティアは数秒で夢の世界に旅立った。そうこの部屋は現在危険で溢れているのだ。寝てるアリスティアは暴君であり、無理に起こせば大災害を引き起こす。とばっちりを恐れた騎士は静かに部屋から逃れる。尋問を行うのはギルバートであり、被害を受けるのもギルバートであるべきだと考えたのだ。お前ら忠義は何処に捨てたのだ。

 一方ギルバートは最近中々見れないアリスティアの寝顔に暴走し、ベットに潜り込むとアリスティアに腕枕をしようとした結果、壁をぶち破って外に放り投げられた。ここは3階である。アリスティアへの尋問は危険につき終了となった。




「ぐ……可愛さに我を忘れたか。私も修業が足りないな」


 ギルバートは服についた汚れをパンパンと叩いて落とす。首をコキコキ鳴らしながら戻ってきた。怪我も無いようだ。この男も意外と頑丈であった。故に反省も無いのだが。


「どうしましょうか。流石に出所が怪しい物を使うのも……それに来年度の予算案は全て完成してますし」


 騎士がギルバートに尋ねる。盗品の可能性もある物だ。流石にアリスティアが物を盗むとは思えない(お菓子のつまみ食いは割とある)。

 しかし所在不明の財宝に手を出すのも如何なものか。そんな時、ギルバートの直感が働く


(アリシアが知らなくてもクートかヘリオスは事情を知っている可能性があるな)


 そうアリシアを警戒して隠し事をしていても使い魔は近くに居た可能性がある。未だにヘリオスの財宝だと気が付かないのはそういう話を聞いていないからだ。一切話に出なかったので宝を蓄えていなかったと考えていたのだ。実際宝を巣に溜め込まないドラゴンも割と存在する。

 因みに冒険者からは利益が減るので宝を溜め込まないドラゴンは嫌われている。ヘリオスもその類だと思っていたのだ。実際アホドラゴンなのでアリスティアも持っていないだろうと考えていたし、あってもヘリオス個人? 個竜? の物だから献上させるつもりもなかったのだが、実際はヘリオスは溜め込むが宝に関心がなくあっさりと手放したのだった。

 ギルバートは近くを歩いていたクートを捕まえる。


「アリスが宝を持ってきたのだろう? 何処で手に入れたのかな? 」


 クートは鼻で笑うと、後ろ足で土をかける仕草をすると、そのまま立ち去った。アリスティア以外にはかなり冷淡な態度を取るのだ。アリシアに駄犬と嫌われる所以である。


(なんだろう凄く切り殺したくなった)


 アリスティアに忠誠を誓ってるクートが余計な事を話す筈もない。ただギルバートの中でクートへのヘイトが溜まっただけだった。

 次はヘリオスだ。一見すると少年の執事見習いの恰好をしているヘリオスだが、中庭の木の枝の上で昼寝していた。


「殿下、奴に執事服を着せるのは我が国の名誉を傷つける行いかと思います。万が一他国の者に見られたら恥ずかしくて死にたくなります」


 木の下にいた執事が青筋を浮かべていた。執事見習いとヘリオスを見間違えて起こしに来ていたようだ。

 一見、執事服を着た少年にしか見えないヘリオス。それが木の枝の上で昼寝しているのだ。他国の者から見ればどういう教育をしているのだと思われるだろう。

 ギルバートも違う服を着させようと思いながらも、木を蹴ってヘリオスを落とす。


「む、吾輩も木から落ちたのである」


 枝から落ちたヘリオスは頭をポリポリと掻きながら起き上がる。頭から落ちていたがダメージはない。


「やあ、おはよう」


「!! 」


 ヘリオスの額に一筋の汗が流れる。ヘリオスもそれなりにアーランドに慣れてきた。故にギルバートの評判も知っていた。目の前の無害そうな男は悪辣な手を使うのだ。笑顔が怖かった。


「わ、吾輩は今日は盗み食いはしていないのである! 」


「今日は……ねぇ。まあ良いだろう。

 処でアリスが宝物庫に宝を入れたんだが、何処で手に入れたか知らないかい? アリスは疲れて眠ってしまったので聞きそびれたんだ」


 ギルバートはアリスティアから聞き逃したかのように話す。それはアリスティアが事実を隠蔽する気が無いと言っているようなものだ。事実とは違う。


「む、あれなら!

 何でも無いのである。吾輩と主は無関係である! 吾輩ちょっと用事が出来たのであるさらば! 」


 ヘリオスはアホなので速攻で罠にハマり事実を話そうとした。しかしヘリオスの視界にクートの姿が映った。中庭に面した小部屋からヘリオスを見ていたのだ。

 完ぺきに気配を消してるせいで他の誰もが気が付いていない。

 しかし、クートの目は語っていた「主に不利益な事を話せばコロス」と。クートはヘリオスのアホがうっかり話す事を察していたのだ。故に恐怖で縛る。

 結果怯えたヘリオスはギルバートや騎士の制止を振り切って逃げだした。暫くは捕まらないし、捕まえても決して口を開かないだろう。ドラゴンのプライドなど何処に行ったのかと言いたくなるような顔で逃げていった。

 クートはギルバートが振り返る前に鼻で笑って姿を消す。任務が終了したのでアリスティアの元に帰ったのだ。ついでに今度口の軽いドラゴンは調教しようと考えていたのは誰も知らない。クートとヘリオスの間には上下関係がすでに構築されていた。


「話す気は無さそうだね」


 ギルバートは執務室に戻るとため息を吐いた。


「話す気があれば、あのようなまどろっこしい手段はとらないでしょうな。

 ここは予算が増えたと喜びましょう。早速一部の宝を商人達や収集家に売り払いましょう」


「そうだな。ついでに各大臣を呼んでくれ。父上の苦労も水の泡だな」


 何の為に各方面と交渉し、一時的な予算減額を勝ち取ったのか。ドラコニアは泣いて良い。本人は普通に爆笑するだろうが。

 暫くすると大臣達が執務室に集まった。また無理難題か、貴族議会でも虐めるのかと渋い顔をしている大臣達にギルバートは笑顔で両手を広げて歓迎の意を伝える。その瞬間、一部の大臣が視線を逸らし残りが泣いて跪いた。


「殿下! これ以上は無理です勘弁してください! 」


 跪いた大臣は泣きながら土下座で頼み込んだ。ギルバートの笑顔に良い思い出がないのだ。なにを要求されるか分からないが、とりあえず命乞いから始まる交渉術である。

 視線を逸らした大臣は「自分は関係無い。悪い事もしていない」と何度も虚ろな瞳で呟いていた。


「なんだよ。まるで私が悪い事ばかりしているかのような扱いじゃないかい? 」


「「「でしたら笑顔はおやめください! 」」」


 拗ねながらもギルバートは予算を増やす事を各大臣に告げる。


「お、お待ちください。来年の予算案は既に完成しております」


「うん作りなおそうね」


「そんな~~」


 手間暇かけて作った予算案の作り直しに落胆する大臣達。


「第一予算が足りないから減らしたのではありませぬか。事前連絡は欲しいです」


「何故か宝物庫が宝で溢れてるんだよね。不思議じゃない? 」


「……その様な事をするお方はこの国では……」


「おっと証拠も無しにアリスを疑うのはよそうじゃないか」


 大臣達の頭の中にはアリスティアがドヤ顔でサムズアップしていた。


「とりあえず謎の現象で予算が増えた事にしよう。アリスは詳細を話す気はないしね。予算は通常の倍に増やす」


「……まあこれ以上減らされるよりは」


「そうですな……作り直すのも幾つか予算を追加する程度だろう。ここは運が良かったと思おう」


 理不尽だが、彼等的にも予算増額は嬉しかった。

 この日王国の財政は完全に健全化された。詳細は先祖の残した財宝を発掘したとだけ公表されたが、国民も貴族もそんな物が残っている筈がない事は公然の事実であり、アリスティアが関与してる事を察していたが黙認する事になった。

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