169 救助(笑)
長らく更新できず申し訳ありませんでした。次はなるべく早く更新します。
さて、通報したので、後はゆっくりと救助を待つだけだ。私はテーブルと椅子を宝物庫から取り出すと、お茶会の準備をする。おやつは大量にあるし、紅茶も用意済みだ。そう3時なのだ。
「後はゆっくり待てば事は解決する」
「そうだね。何処に連絡したか知らないけど、外に知られたらあのおじさん破滅だよね」
他国の王女を身勝手な理由で拉致した事を見逃すほど王様は無能ではないはずだからね。無視すればアーランドも動かざるおえないし。
「あの、貴女は一体……」
「私はただの冒険者ですよ」
夫人に怪しまれる。確かにお茶会は不味かったか。まあ知られても困らない。面倒になればアーランドに帰るだけだ。結構魔物倒したからアーランド内の魔物を相手にするのもそろそろ許してくれるだろう。
最もアーランド内の魔物の領域は現在お父様率いるアーランド軍が快進撃を続けている。最近帝国がおとなしいから一気に生存圏を広げる戦略のようだ。
実際はハチの巣状になってる国内の魔物の領域を解放して国内開発し易いようにしているだけだが、おかげで鉄道も敷きやすい。お仕事? それならお兄様が宰相に捕まってるよ。
お兄様は政治が凄いからね。体制を一新する勢いで動いてる。反対派は涙目だろう。敵対するにも弱みとか色々握られてるし、私関連の利権も大部分をお兄様に任せてるから。飴と鞭でしっかり国政を行っている。お陰で私とお父様は動きやすい。
夫人も深くは追及しないようだ。
暫くお茶会を楽しんでいるとヘリオスから念話が届いた。
(主よ吾輩の巣についたのだが、収納袋が足りぬぞ)
その時、ヘリオスから念話が届いた。どうやら持って行った収納袋ではお宝が入りきらないようだ。どれだけ溜め込んでいるのだろうか。
(それだったら一度こっちに戻ってきて。ギルドカードを門番に見せれば王都に入れるから無理やり入ってこないでね。冒険者ギルドで待ち合わせで)
(我も暇だ)
(何処に要るの?)
(先ほどからずっと主の目の前に居るであろう! いい加減我を出してくれ!)
ちらりと壁を見るとクート君が顔を出していた。どうやら王都の崩れた外壁から侵入し、歩いてきたらしい。そしてウザル男爵邸の近くから穴を掘って助けにきたのだ。クート君の鋭い爪なら穴掘りも余裕……と言うか、穴掘り大好きらしく物凄い速度で掘っていたが、地の精霊の地下拡張に巻き込まれて壁の一部になっていた。
「まだ呼んでないのに勝手に来るからだよ。必要なら召喚で呼べるのに」
「最近我の扱いが雑だと思うのだ。ここは捕まった主を勇敢に救い出し、我の存在を主に示す好機の筈だったのだ……おのれ精霊風情が! 」
最近のペット枠にご不満があるようだ。
「仕方ない助けよう。アノンちゃん」
「りょうかーい」
私とアノンちゃんはクート君の髭を掴むと思いっきり引っ張る。
「あだだだだだ! 主よ髭はやめてくれ。抜ける抜ける」
クーンクーンと泣き叫ぶクート君。可哀想なので止めるが、私の手のひらにはクート君の髭があった。
≪クートの髭を手に入れた≫
私はその髭を容赦なくクート君の鼻に突っ込んだ。
クート君はたまらず首を振るが、体が動かせないせいで首の可動範囲は狭い。暫く私たちの暇つぶしを行う。
ついでにクート君が掘った脱出路は土の精霊に埋められているそうだ。
「……いい加減出して欲しい」
「縮めばいいじゃん」
「おお! 」
最初から子犬モードになれば出れるのに気が付いてないのが悪いのだ!
そして子犬モードになったクート君が穴から抜け出して暫くすると闇の精霊が戻ってきた。
――どうやら茶番も終わりのようだ――
「お迎えが来たようだよ」
「早かったね」
「そうですか」
夫人は拳を握りしめる。先祖代々から続く家名を汚した禿を許すつもりはない様だ。
剣戟の音や怒号がどんどん近づく。そして地上への扉が開いた。
「かくなる上は連中を盾に」
≪禿た男爵が現れた≫
「よくもウザル家の誇りを踏みにじりましたね! 」
男爵の顔を見た瞬間マリア夫人が一瞬で距離を詰め、腹に肘で一撃を決める。くの字に曲がる男爵に追撃の踵落としを決めた。護衛が反応する暇もない流れるようなコンボである。武闘派だったか。
私は腰のホルスターからリボルバーを抜くと剣を抜いた護衛の剣を撃ち、剣を弾く。その隙にアノンちゃんが闘気を纏わせた回し蹴りを顎に決めて勝利だ。
「お嬢ご無事でしたか! 」
「お嬢が見つかったぞ! 」
「お嬢。だから無茶は止めてくれっていつも言ってるじゃないですか」
「頼むから令嬢らしくしてくだせえ」
禿た男爵と愉快な仲間達を気絶させると、わらわらと騎士たちがやってきた。所々汚れているのは抵抗されたのだろう。
集まった騎士は皆涙目でアノンちゃんに詰め寄る。一応マリア夫人もしっかり保護しているし、抵抗した連中も縛り上げられてる。男爵をちょくちょく蹴ったり殴ったりしてるけど。
しかも目を覚めた男爵が喚くと「コイツい抵抗したよな? 」「俺もナイフを持ってたように見えたぜ」「これ持たせて武装してた事にしようぜ」と更に罪を着せて殴る蹴るの暴行を行う。それで良いのかオストランドよ。
「あはは……やっぱりこの人達が来たか」
「知り合い? 」
「家の門下生だよ……王都でまともな騎士って家の門下生が多いからね」
そのまともな門下生は目の前で罪状を追加してるんですが。まあ、抵抗してたのは事実っぽいからヘーキなのかなぁ。
それとアノンちゃんって騎士に人気なんだね。凄い心配されてるよ。まあ親が近衛騎士団の団長らしいからね。普通はもう少し地位を持った人がなるんだろうけど、シェフィルド家自体が変わり者らしい。
そのシェフィルド家の一人娘……ふむ、何故婚約者の話が出ないのだろうか。私はアノンちゃんを見る。
答えはアノンちゃんが変わり者過ぎる事だろう。
「姫様も人の事は言えませんよ」
まあ私も婚約者居ないしね。アーランドの王族は血の繋がりより強者との繋がりばかり求めるし、5侯のパワーバランス的に政略結婚も少ない。他種族の貴族は血統維持もあるから普人である王族と婚姻関係を求めないし、他と繋がると5侯の権力が落ちるのだ。
そう言う訳でアーランドの王族は王族でありながら割と自由に伴侶を選べる。私の場合はお父様とお兄様が暗躍してると睨んでいる。親馬鹿とシスコンが手を組んで貴族を泣かせてるのだろう。
「他にも姫様と結婚すると相手貴族の家が増長しますからね」
小言で話すアリシアさんも疲れた雰囲気を出している。少しばかり金と権力を持ちすぎたか。もう少しばら撒いて減らすべきだな。
ウザル邸から救助された私は王宮で保護するという提案を騎士達に告げられたが、丁重に断った。転移でアーランドに帰るからだ。
と言うか本気で逃げる私をオストランドが拘束するのは難しいよ。今回はあえて捕まっただけだし、逃げる気なら何時でも逃げれる。それと王宮には近寄らない方が良い気がする。孫姫か変態に遭遇すると私の直感が告げているのだ。
前者は別に構わないが、後者は面倒。絶対に問題を起こすだろう。さっさと帰るに限る。
アノンちゃんとマリア夫人は王宮に行くそうだ。
「じゃあ裁判までは私は姿を消してるね」
「分かったよ。日程が決まったら連絡するね」
手を振りながら私とアノンちゃんは分かれる。
「待っていたのである」
ギルドに行くとすでにヘリオスが居た。早すぎじゃない?
「王都近くまでは飛んできたのである。吾輩速度にも自信があるのである」
「誰にも見られなかった? 」
「できる限り上空を飛んできた故に見られてもワイバーンと区別出来ない筈であるぞ」
まあヘリオスなら数千m上空でも平気で飛べるか。鳴き声を上げなければ音も無く飛んでるので問題はないだろう。
「おい、このあたりでドラゴンの目撃情報があるぞ」
「わんにゃンくらぶより先に狩ろうぜ。急げ急げ」
ばっちり目撃されてるじゃん!
通りで騒がしい訳だよ。しかも放置すると私達に先をこされるとばかりに冒険者がギルドから出ていく。依頼は目撃情報だけだから、まだ討伐依頼も出てないが、ドラゴン系の素材はお宝だからね。それに格の高いドラゴンは見つけ次第即討伐だから問題ないとも言えるが……この国の冒険者じゃヘリオスに勝てるかどうか。
とりあえずヘリオスにはもう一度巣に戻ってお宝の回収作業を頼もう。ついでにもっと人里離れた所でドラゴンに戻らせて王都から離れていってる印象も与えよう。このままじゃ騒ぎになる。
さて、アリシアさんにはお宝の事は話していない。アホなヘリオスが男爵の言う事聞かないで暴れるから適当に逃がしたと考えている。そして膨大なお宝を私はヘリオスから献上された。
これどうするか……こっそり城の宝物庫に入れて、元々王国の隠し財産だった事にしよう。最近貴族議会が私の金を献上してるのは私の権力拡大だとかアホな事を言っているので、短期間での献上の繰り返しは連中を騒がせるだけだ。
だが、元々王国に隠し財産があるのなら問題ない。王国の予算数年分はありそうだし、これでアーランドも一息つけるだろう。城の警備用魔道具は私が作ったのだから問題なく宝物庫に侵入出来る……筈だ。
「さあアーランドに帰ろう」




